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前へと突き進む意思。人はそれを――

 遥かなる時空の彼方より、神の座と呼ばれた空より憎悪と絶望と渇望と羨望に塗れた慟哭が響き渡る。

 全て凍れ。

 全部凍れ。

 森羅万象余す事無く、皆凍れ。

 凍れ、凍れ、凍れ。凍り付け。

 動くな、動くな、動くな、何も動くな。わたしは動きたい、でも凍る、止まっていく、嫌だ嫌だ嫌だ、私は動けお前らが凍れ! 凍れ! 氷れ! 氷れ! 氷れ!



「氷れえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!」



「っ、あの子……」

 その絶叫は、契約者である瑞穂の脳髄へと響き渡る。そしてその声の主であるミズホが瑞穂の下へと舞い降りる。

 彼女は今地上遥か上空に陣取っている。空間氷結の術式を持って足場を構築しており、側には有栖も控えている。

「おい瑞穂、一体何が起きた!?」

「分からない」

「わたしの……世界がぁ」

 瑞穂は戻って来た精霊の言葉に黙って耳を傾け。

「わたしの、わたしだけの世界が、世界がぁ」

「どうやって、壊れたの?」

「分かんないよぉっ! 何だか、何だか、何かがわたしの世界に切り込みをいれてぇ」

 泣きじゃくるミズホの言葉に瑞穂はぴんと来たらしく、更に。

「斬り、込み? 他には?」

「他にぃ……? あ、そう言えば誰かの糸が消えた気が……」

「ま、さか」

 これらが導き出した瑞穂の答え、それは。

「リフェノ!? あいつが、此処にいる!?」

「瑞穂、何処へ行く!?」

 瑞穂は氷霊ミズホを取り込むと空中術式に繋がっている螺旋階段から下へと降りていく。

「リフェノ、くそあいつがいた!」

「あいつだと!? どう言う事だ、神威による万象凍結は神の座が見えてなければ抵抗できないんじゃないのか!?」

「厳密には、神の座を認識してる奴か神域に到達するほどの精神の持ち主だ! リフェノってのは巷で最近剣聖とかって騒がれてる剣士だ! そいつは確か魔導師殺しって言われてる!」

 螺旋階段を下りながら付いて降りて来る有栖に解説を続ける。

「それが、何で神の法を?」


「そもそも神の法を操る術式の元ネタは、人の持つ何かに対する格付けから来るんだ。例えば自分よりも上の存在がいるとか、自分よりも下の存在がいるとか。神の法はそうやって生み出された人々の持つ自分より上位の存在、神の存在を信じることによって成り立っている! それこそが、無属性の精霊神ワールドが支配するタートルードの背中、神の座と呼ばれる存在!」


「でもそれらは通常、神は触れちゃいけないって言う常識に阻まれて弾かれる。だから私の魔法で世界を騙してあの子を神の座へと送っている。だけど、リフェノはリフェノで例外中の例外、空間を断ち切ることで魔法を無効化できる!」


「何であいつが神の法を抜け出せたのか、憶測でしか無いけどあいつはそれを完全にやってのけ、その上で空間を断ち切ったんだ! あの子が流してる法はあくまでもこの世界のみの話、空間に切り込みを入れられたことによって他の次元の世界から常識を流し込まれ、その膨大な量の常識に押し流されたんだと思う!」


「そんな簡単なことで神の法を破れるのか!?」

 瑞穂の解説に有栖は疑問を投げる。二人は天高くへと伸びる螺旋階段を滑り用に地上へと向かって降りていく。

「うん、所詮神の法だなんだって言っても要約すりゃ強力な催眠だもの。そこに常識っていう極上の催眠を流し込めば終わりだよ」

「夢も希望もないのか」

「この世の全ては物理化学という4つの文字で解説可能だよ、天地開闢すらも割り出せるこの世に創造主なんて何処にもない」

「世の宗教団体達が切れそうな台詞だ」

 有栖のため息交じりの突っ込みも瑞穂は一切気にせず駆け下りていく。

「兎に角状況の把握だ、あの子の世界が砕かれた以上同じ事をしても意味は無いだろう」




 一方、時間凍結空間の崩壊は火憐達にも影響が出ていた。何せ唐突に訪れた時間凍結がいきなり砕けたのだ。そして堰き止められていた時間が動き出したことにより。

 頭から切り裂かれた痛みに狂い悶えて気絶する山賊団長、炎に焼かれて苦しみだす残りの山賊達。

 最後にその状況を茫然と眺めているザント達、そしてなぜか一瞬にして山賊団長の近くへと移動した火憐達へと目を移し。

「い、いったい、こりゃどういうことだ」

「いやまあなんつーか……説明し難いながちで」

「まー横から眺めていてもまるでわけわかわめだしね」

 火憐は困った様子で頭をかき、結野も火憐の言葉に頷く。

「取り敢えずこのままここにいてもしゃーねーし行くぞー」

「お、おう……」

 返事をするザントは何処か気怠げだ。恐らく急に時間凍結を喰らった上にいきなり時間凍結が砕けたことによって今まで止められていた血流や心臓が行き成り、術式の加護もなく解除されて動き出したのだろう。

 ならばこの顔色が悪いのも頷ける。あの時間凍結の地獄を展開した神様の許可を受けている火憐達は兎も角、そもそも許可を受けてすらいない彼らが強力な時間凍結の牢獄に送り込まれて平気な訳がない。

「おいしっかりしろ! 此処にいてもしゃーないし、さっさと移動するぞ!」

「わ、分かった……おい、お前ら気を確り持て!」

 ザントに言われ、うしろで同じ様に時間凍結の呪縛を受けていたチンピラ二人もふらふらな状態で立ち上がって先行く一行についていく。

 火憐達一行は後ろから響き渡る悲鳴を無視して喰らい洞窟の中を走っていく。

「にしても、此処は一体何なんだ?」

「確か、昔の要塞の残骸だかなんだかを根城してるって聞いたが」

「いや、一寸待て」

 そこで林檎が一行に停止を呼びかけ、近くの壁に手を当てて薄目にする。恐らくこの周囲一体をサーチを行っているのだろう。

「如何した林檎」

「この先に行くと、大量の熱源反応がある。恐らく人間だ」

「え、人間? 大量? どゆことなん?」

 林檎の言葉にメイリフがザントに振り返って問うが当人は息切れ気味になりながらも。

「そう言えばこの先は食堂になってたな……悪い、何故だか血の巡りが悪くてな」

「食堂、だと? 今いる山賊はあそこに全員集まってたんじゃないのか?」

「いや、そもそも表に出てたのは哨戒の連中だけで多くの連中は休んでたぞ。寧ろ、団欒の時間中にさっきみたいな妙な魔法攻撃を受けて向こうもてんやわんやになっている筈だ」

「なるほど。じゃあ戻るか?」

 火憐は言って今まで来た道を振り返る。薄暗い道だったがもう一度捜せば分かれ道が見つかる、かもと火憐は考えたが。

「止めた方がいい、今ので控えていた連中も起こされて警戒態勢に入ってるはずだ。そうなると下手すりゃ挟み撃ちだ」

「なら、やることは一つだね」

 そこまで聞いた結野は溜息混じりに、覚悟と決意を秘めた瞳でこれから向う先を見て。

「このまま突っ切る」

「しかねえな、しゃーない」

 結野の言葉に火憐は同意して二人並んで駆け出して前へと進む。そして広い空間に出ると同時に二人はぴたっと立ち止まって目をぱちくりとしぱしぱする。

 理由は単純に、山賊のおじさんお兄さん達と目がばっちり合ったからだ。

「あーえーっと」

「し、しーとぅーれーい?」

 勢いよく外に出た二人はばつが悪そうに一歩二歩下がって。

「いたぞ!」

「侵入者だ!」

「ふん捕まえろ!」

 叫んで彼女達を追いかける山賊達、そして一際足の遅い結野に魔の手が、覆い被さろうとした瞬間。


「へぶぅっ!?」


 鋼鉄の拳が男の顔面を打ち抜いていた。

 

 見れば、男と結野の間に鋼鉄の人形が立っている。ただ悠然と、後ろにいる小さな女を守護するように。

「結野!?」

 火憐は結野が付いてきていないことに気付くとすぐに振り返ると結野と山賊達の間に立つ鋼鉄の人を見る。

「そい、つはまさか」

 鋼の守護者を見て思い出すのは結野がそもそも何が得意であったのか、だ。そんな火憐をよそに結野は。

「やれやれ」

 肩をすくめてゆっくりと振り返り、指をぱちんと弾いて。

「オゥラァッ!」

 結野の小さい拳に応じて打ち出される無数の拳、数人の山賊達はそれだけで薙ぎ払われる。

「しゃーない、相手してやるよ。行くよ火憐!」

「あ、ああ……相も変わらずっつうか卒業した時よりも磨きかかってね? お前のゴーレム作り」

 結野はあくまで火憐の後ろに、そして鋼鉄人形は誰よりも前に立つ。そこへ斧が槍が矢が飛び交いその攻撃が降り注ぐも。

「オラ、オラァッ!」

 またもや結野の掛け声と小さい拳の突き出しに応じて蹴りと拳でその攻撃を弾き返し逆に更に敵を薙ぎ払っていく。

「ほう、あれはゴーレムなのか?」

 そんな結野の真横から声と迸る電光一閃、ゴーレムごと巻き込んだ電光は更により多くの山賊達を攻撃していく。そして結野は、あのゴーレムが導体であり、帯電することも知っている。故に。

「おっしゃ、電気が残っている内にいっけええええええええええええええッッ!」

 更に鋼鉄人形を奥へ奥へと進める。しかしそれを見てメイリフと林檎は結野に。

「おい、行かせすぎだぞ!? 少し下がらせろ!」

「あれお前の魔力で動かしてるんだろ!? なら支配領域超えたら大変じゃ!」

「え? 支配? 制御? してないけど」

 二人の問いに結野はあっさりと返す。実際、言われてから林檎とメイリフはあのゴーレムと結野に魔力的な繋がりが無い事に気がついた。ではあのゴーレムはどうやって火憐と連携して前衛をこなしているのか。

「あれ、近くにいる特定魔力を持つ奴が近くにいる奴と連携して兎に角殴り飛ばせって命令を突っ込んだだけだよ」

「え、おい待て!? つまり、あれ自動操縦なの!?」

「そうだけど、どかした?」

 結野はあっさり言うと近くに寄ってきた山賊達相手に更なる鋼鉄人形を指を弾くことで召喚し、即座に対応して殴り飛ばす。

「いやいや!? どかしたじゃない! 自立で動く魔法人形!? なにそれ前代未聞だよ!?」

「前代未聞って……そんなでも無いよ? これだって単なる多重術式の応用だよ。筋肉の動きを模倣するように重力磁力制御を動かす術式作って突っ込んでんの。あたしの友達にそういう動きをする為の魔力制御、そしてそうやって動かす為の計算得意な人がいてね」


「それ、絶対うちのパーティリーダーこと氷結瑞穂さんだ」


 林檎とメイリフはその術式製作に携わったというか、当人達的には絶対90%以上開発した女の名を口する。結野は少し驚き。

「あれ知ってんの? あたしと氷結さんの関係」

「火憐から元同級生ってのは聞いてる。つうか、その術式君だのほぼ瑞穂だろ。そんな作るだけで頭いかれそうなもん普通の人間が」

「作るだけでって……そんなん、作る為の公式に構築するのに重要な基礎術式も全部この世にある、それを全て組み合わせて計算して作った人形に埋め込むだけの作業で人がイカれるとか流石に馬鹿にし過ぎじゃね?」

 結野は言い切り、もう一度指をぱちんと弾くするともう二体ほどの鋼鉄人形が生み出されて同じ様に徒手空拳を持って戦場へと向っていく。

「瑞穂が計算していたんじゃないのか?」

「複雑なものだけね。基本的な単純計算は全部自分でやった、おかげで随分楽になった」

 結野は踊り出すように前へ出ながら更にゴーレムの群れを展開する。そのまま周囲へとばら撒いていく。それによって生まれる戦術効果は唯一つ。

「目には目、数には数、まあ数くらい幾らでも潰せる。此処は地中だ、幾らでもゴーレムを作れる」

「ま、魔力消費は」

「は? 中身ろくに詰まってない鉄人形を作るのにそんな魔力つかわねえよ?」

 後を追う林檎の言葉に結野は軽く返す。言うと結野の一挙一動に応じて周囲へと魔力が流し込まれ、岩石の巨人が次々に生み出されては周囲の山賊を殴り蹴り投げ飛ばして突き進む。

 たった一人で構成されていく鋼鉄と岩石の軍勢に彼らは抵抗のすべもなく蹴散らされていく。最初こそは林檎も魔法による援護をしていたが出番を無くした事によって周囲を見渡して警戒に当たっている。

 メイリフは結野の実力を察して速攻でサボっていた。

「う、うそ……だろ」

「わーすげー」

 結野の側から生み出されていくゴーレムの軍勢を見て林檎はこの状況が完全に変わった事を理解する。結野は既に要塞と化して兵士の生産場となり、小数で蹴散らすゲリラ的な戦いではなく数を持って正面から敵を圧し潰しあう戦争となっていた。

 最早この場において働いているのは前衛の火憐と生産者の結野のみだ。そして結野は前へと駆け出して火憐と肩を並べ。

「火憐、司令官は!?」

「まだ見えない! いや、待った!」

 火憐はそこで奥で叫ぶ男を。

「落ち着け手前ら! ゴーレムの動きは確かに統率が取れてるし体術も中々の物だが目的は単調だ! 気を失った奴に目もくれてない、一部の連中は戦線から離脱して増援をつれて来い! 今日はあの人達が」

 そこまで言っていた男は途中で指示を飛ばさなくなる。理由は一人最前線へと飛び出た結野が。


「重力波動砲」


 突き出した指、生み出す鉄芯、そこに繋げる磁石、それらを覆うために作る螺旋を描く鋼鉄の刃、その内側に組み込まれた磁石、それによって迷いなく磁力と磁力が引き合い、ブレのない回転が始まる。

 指の先、鉄芯に注がれる重力波、構築されたドリルが螺旋を描き。

 宙へ跳び、指揮官の男へと狙いをつけて。


「全ては、この為に!」


 放たれたドリルが男の脳天目掛けて射出される。迷いなく撃ち出されたドリルに男は持っていた斧で受け止め、防ぐもドリルと鋼鉄によって生み出された激しく火花が舞う。

 突き進むドリルを受け止めて、やっとの思いで男はドリルを受け流して弾き飛ばすが、その瞬間に男の顔は余計に引きつった。

 何故か。

 見上げたそこに、鋼鉄の人形が眼前に迫っていて――。


「オラァッ!」


 顔面に拳が突き刺さり、間髪入れずに腹に拳が埋め込まれ。


「オラ、オラッ!」


 そして、鋼鉄の嵐が男を蹂躙する。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーッッ!」


 男を挽肉にしかねないほどの鋼鉄の嵐。パンチ一発一発が重力で強化された10万t級、それをとことん殴りつける。それもその筈、結野がこの鋼鉄人形に取り付けた命令は唯一つ。

 目の前の男を100発殴れ。

 これのみである。よって人形は結野から命じられた通りに100発殴り、更にインプットされた命令を忠実にこなす為、右腕を回転させ。

「ダメ押しの」

 結野は小さな拳を振り上げて叫んだ。

「コークスクリューパァンチッ!」

 ドリルのように回転する拳が男を打ち抜き、錐揉み回転させながら山賊達の群れへと叩き込んだ。



 一方ティンは瑞穂を探して彼方此方を走り回っていた。

 当然、怒り心頭であった彼女は時間凍結の地獄が崩れ落ちたことなど把握していない。いや、或いはそれも含めてなのだろうか。

「くそ、あいつ何処にいる?」

 やがてティンは話し声が聞こえてくる。一体何なのかと聞き耳を立て。

「では、漆黒の氷姫の存在は確認出来なかったのか?」

「はっ! しかし、情報では間違いなくこちらにいる筈です。しかし、本当に彼女は姫連合の」

「それ以上は言うな。我らは上から言われた役目をこなせばいいのだ」

 何の話だ、とティンはこっそりと話をしている者達の姿を視認する。そこで目にするのは白と黒の軍服を纏ったように見える者達だ。それを見たティンは何処かで見た事があるなと思う。

 一体何処で、と思うより早く。

「誰だ!」

 ティンはゆっくりと振り返り声をかけてきた者を見る。先ほど話していた者達と全く同じ格好をしている。そこでティンはやっと彼らの正体に思い至った。

「騎士、警察隊」

「ほう、我らの事を知っているか。その格好、見た所冒険者のようだな」

「如何致しましょう」

「構わん」

 言って、男は剣を引き抜きティンへと切っ先を向ける。

「どうせ取るに足らぬ冒険者だ。切り捨てる」

「宜しいのですか? こんな冒険者、捨て置いても何か問題があるとは」

「何を言っている」

 後ろで進言する女性警官を鼻で笑うと。

「この所、暇で仕方ないのだ。多少人を斬っていないと有事の時に困るだろう?」

「分かりました、では引き続き」

 男性警官の言葉を聞いた女警官は肩を竦めて振り返るが、途中で言葉が止まった。理由は唯一つ、彼女の首筋に白い刀身が置かれたからだ。

「え」

 それが最後の言葉だった。

 ティンは話しかけてきた男女ペアを瞬く間に切り捨て、一先ずこの場を脱することを考えたが。

「ほう、やってくれたな」

「公務執行妨害に、傷害罪の適応を確認」

「この辺りは無法地帯なのですが」

「ならば好都合だ……無法地帯をうろつく者にろくな者はいない。我らの正義に則り、裁きを下して野郎ではないか」

 ぞろぞろと、騎士警察隊がティンを取り囲む。

「どういう事? あんたら、確か警察だよね。警察が一般市民に手をあげて」

「一般市民? 誰がだ? 貴様はただの薄汚い冒険者だろうが! 騎士のような格好をしおって、困るんだよなぁ貴様のような勘違いをした者が勝手に正義の味方面して警察の誇りを地に落とす……許せん!」

 男は抜剣するとティンに剣の切っ先を向ける。

「聞けば、姫連合の一人氷結瑞穂氏を誑かして我らに濡れ衣を着せようなどと企んでいるとのこと。そう、これは我らの正統な怒りだ!」

「……市民の平和と安心を守るの正義の味方が、聞いて呆れる」

 ティンはかつて闇の武器市場に居た警察を思い出す。思えば、彼らは大勢の盗人を見逃していた代わりに本当の悪を取り締まる仕事をしていた。であれば、彼らに比べればあの二人の方が何倍も尊いと思える。

 しかし、ティンはこの状況を分析し一つの答えに至る。

(あ、これ逃げられない)

 洞窟の中、戦場は限られている。しかも周囲は敵だらけ、しかも武器は近接系のみにならず魔導師に銃使いまでいる。幾らなんでもティン一人でこれを相手にするのは流石に問題しかない。

「本当、たった一人相手に私怨よくもまあ」

 そう思うと本当にティンは呆れた溜息しか出てこない。

「結界術式の展開、これで逃げられん。直には終わらせん、じっくりと嬲者にしてくれる!」

「それが市民を守る警察のすることか!」

 覚悟を決めて敵性勢力を全滅させる算段を構築し。



「スライディング、ブレイカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」



 真上から降ってくる絶叫、そして魔術を構築していた者達は目を見開いて結界に起きた異常を見る。

「ま、魔力の制御が利かない!?」

「こ、このままでは結界が」

 罅割れ消失する結界。そして結界を破壊し、この戦場へと降り立つ一人の女。それを見てティンは警察隊一同は度肝を抜かされる。

 さらさらと宙を舞う黒い髪、白と紺の服装、手にした氷のメイス。ティンの側に悠然と立つ者。みなぎる魔力と気力を両手の拳をぶつけ合わせ、波動を持って彼女は。


「魔力、気力、全ッ、開ッ!」


 体中から弾ける魔力光――それは、究極の破壊者。

 ――それは貪欲なほど前へと突き進む、旧世界の秩序を一掃し新たな世界へと至る意思。

 誰もが追い求める、偉大なる財産。人はそれを――勇気と呼んだ。


「氷結、瑞穂」

 

 そして輝かしいほどの勇気を掲げ、勇気ありしと認められし者にのみ送られる称号。

 世界を救う者ではなく、ただそのあり方のみで証明する呼び名。それこそを。


「漆黒の、氷姫!」

「魔王を打ち倒した、勇者」

「上級騎士警察隊。私はオマエ達を――」


 瑞穂はかの騎士警察隊に向け、唯一つの意思を指差し宣言する。


「破壊する!」


 此処に、漆黒の破壊者と黄昏の聖騎士による演舞が始まる。

 いや、そんな物騒なもんを勇気と呼んだ覚えはない。

 んじゃまた。

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