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作戦会議

 結野達三人は荷物届けの依頼を終えてもう一度冒サポに戻る前に、結野の提案によって一行は武器屋へと向っており、その途中で公園のベンチに座り込んで自分のバッグに何かをごろごろと詰め込んでいる。

「何をしてるの?」

「もう一個の金稼ぎだよっと……ふぅ、んなもんか」

 汗をぬぐうと結野はベンチから立ち、バッグを持って武器屋へと入っていく。

「お金稼ぎって言ってたけど、結局ここで何をするの?」

「ああ簡単簡単、武器屋は鉄を買ってくれるんだよ」

「鉄?」

 その言葉の意味がよく分からんと返す二人をおいて結野は武器屋のカウンターまで行くと台座を置いて乗っかり、武器屋の店長に大量に何かを入れたバッグを出して。

「これをお願い」

「あいよ、ちょいと待ってな」

 やり取りを行い、店長はバッグを持って店の奥へと入っていく。やがて店の置くからがらがらと金属がぶつかって落ちる音が響き、店長が戻ってきて。

「しめて3万enだな、嬢ちゃんか? いい鉄作るね」

「あいよ、3万か……もうちょい頂戴よ」

「ってもなぁ……鉄ばっかでもきついんだよ。今度は鉄以外のもんを持って来てくれ。不足してるもんは店の入り口のボードを見てくれや」

「しゃーないなぁ、んじゃ行くよ」

 取引の後、結野は台座から降りるとティン達を連れて店を出て冒サポへと戻っていく。

「ねえ、今の何? 何を売ったの?」

「鉄だよ鉄、魔法で作った鉄売ったの。魔法で作ろうが、ちゃんと魔術的処理を施した鉄なら鍛治師兼任の武器屋でいい値段になるんだよ」

 二人はその言葉に一瞬呆気に取られ、同時に。


「え、えええええええっ!?」


「うそ、魔法って売れるの!?」

「いいの!? 魔法で出来たもん売っていいの!?」

 驚き、結野に問い詰める。確かに、これが事実ならば魔法で相当な荒稼ぎだって出来るだろう。ティン的にはとんでもない新事実なのでどうしても確認が欲しいと問い。

「いいんだよ? と言うか、この世界の経済の上位に来てるのは大体魔法が使える奴だし。魔法は魔法で生んだものも売れるし魔法で出来ることも売れる。地属性魔導師がかつて錬金術師って呼ばれてたその所以だね、こうやって金属類を自由に生み出してうっぱらえるってのは」

「す、凄い!」

「じゃ、じゃああたしの風も売れるのか!?」

「光ももしかしたら」

「どうやって物質化して売るんだ、んなもん」

 結野から齎された新事実に驚き、己の可能性を模索するもすぐさま結野に切られる二人。事実、風も光も如何足掻いても商品としては地に劣るのでしょうがない。

 突っ込まれた二人は生まれ持った魔力属性と言う名の絶対的才能差をかみ締めて口裏を合わせ。

「これって不公平じゃね……?」

「こっちからすりゃ好きに飛び回れて松明要らずなお前等が羨ましいわちくしょう」

 その言葉に結野は隠す事無く思いっきり舌を打った。

「つうか風はそれこそ人材としては引く手数多だろうが。風ってだけで空中浮遊は自由自在だから運送会社からよく採用されるし、目が無くても風に触角を通して索敵も出来るし、風に乗って音の回収し放題の匂いの回収やりたい放題と十分チートじゃん」

「え、風って、そんなに便利? 目が見えなくても平気だけどでも運送って荷物運びだろ? 風より地属性の方が便利じゃね?」

「冷静に考えろ」

 溜息交じりに結野の突込みがまた炸裂する。

「目が見えなくても平気って時点で十分におかしいだろうが。それが出来る属性が他にあると思ってんのか? 闇でもなければ無理だよ」

「え、闇と風にしか出来ないの、それ?」

 ティンは口にして考えてみる。何故闇と風は視力が無くても大丈夫なのか。

 風はある程度理解できた。空気の動く流れである風に触角を通して感覚で物との距離を掴み、風に響く音を拾う事であらゆる物の動きを掴み取る。確かにこれらがある以上風は視力を必要とせず、それ以上の感覚で物を掴み取れるだろう。

 闇は一体何故か。

「闇はね、目を閉じていても影に触覚を通すことでその濃さ薄さで物の動きが読めるんだ。世界の半分は闇だ、光があれば闇が出来る。光は細かいものをその輝きで消してしまうけど、闇は光の届かない箇所を感じ取るから、目が無くても……そもそも、目は光を感じ取る器官だからね。真の闇に、目は不要なんだよ」

「……そう、なんだ」

 結野から伝えられた答えは、ティンとしては何だか奇妙な気持ちにさせ、問いを投げる。なぜそこまで物知りなのか。

「結野って物知りだなぁ、何処でそんなに知ったの?」

「そりゃ、これは高校で習うからね。魔法について言えば」

 帰ってきた答えは至極単純だ。全て学び舎で教わったことであると。ティンからすれば正に未知の領域。

「高校って、結野は学校に通ってたの?」

「いや、さっきクラスメートって……あそっか、クラスメートの意味が分からなければ元学生かどうかも分からんか」

「がっこーってそんな小難しいことまで教えてくれんだ、すげー」

 リフェノも結野の話によって学校と言うものに興味を引かれたようだ。

「まあ、何を教えてくれるかは教える先生にもよるよ。あたしの場合は教えてくれた闇の先生がこうねちっこい人で、いつも他の属性が使える人を妬んでは自分の属性を自慢ばっかしてたな、うん」

「それ、人に何かを教える立場としてどうなんだ……」

 ティンは言いながら少し想像する。自分に何かを教える人がそんなねちっこく他人を妬んでは自分の自慢ばかりに走る人だとしたら。

 しかしそんな人間の教え子であった結野は。

「いや? 例えが上手いし話も上手で教師としてはいい人だったよ? ただあれだね、生徒も自己紹介聞いて闇以外は基本『ふん、下等色が』とか呟くのはげんなりするね。あれさえ無けりゃいい先生でモテたものを、残念」

「そんなに面白い人だったの?」

「うん、冒険家になって一番為になる授業した先生はって聞かれたら迷わず闇属性の人って答えるね」

「安堂先生って言ってやれよ、そんなに気に入ってんなら」

 そんな結野に火憐が突っ込んだ。話しながら歩いていた一行は気付けば冒サポに戻っており、そこには同じく戻って来たであろう火憐がいて。

「あんどー先生だっけ?」

「そうだよ、決め台詞が『我が崇高なる闇の前にひれ伏すがいい』な根暗な奴だろ? なら安堂先生だ。で、一応作戦なんだが」

 火憐は顎でしゃくりながら歩き出し、一行も着いて行くが結野だけは地面を二度叩き。

「取り合えず二手に分かれるとさ。本当なら面と向き合って話したいんだが瑞穂がなぁ」

「氷結さんがどうしたの? まあ大体想像付くけどさ」

 すると石が寄り集まって人形となり、その上に乗っかると人形は一行の後を追って歩き出す。

「ああ、うん。一人で散歩していてな……ほらあいつ極度の方向音痴だろ?」

「知ってるよ。一人で放置すると真逆の方向に歩き出すもんね。で、回収に行かないの?」

「おまえさぁ、半日もかけて街の正反対方向に向った女をどうやって回収するんだ?」

 結野は肩を竦めて溜息をついた。

「じゃあ一先ず二手に分かれるのはいいけど、細かい動きは如何するの?」

「とりあえず林檎が話を聞いてるから詳しい話しは林檎に聞いてくれ」

「うん、何で此処にいない人間に任せたの?」

 ティンは何故に当事者じゃなくて話をまた聞き下だけの人間に任せたのかを問うが火憐は火憐で華麗にスルーを決め込んだ。しかし、約二名からはこんな意見まである。

「ところでその林檎って誰?」

「此処にいない所かあたしそいつ知らないんだが」

 結野とリフェノはそう返したが、火憐からの返答は。

「大丈夫だ、あたしは知ってる」

「何一つとして大丈夫じゃないよね、それ」

 ティンも突っ込みを入れるが、火憐は華麗に流した。



 その日の夜、火憐をパーティリーダーに据えた一行は指定された山賊の根城の一角と目される砦に向っていた。

 何故、夜なのかと言えばそう言う指定が着てるからとしか言いようが無い。林檎から齎された情報によれば『既に警察隊もそちらに向っており、夜襲をかけて欲しい』とのことだったそうだ。

「と言う、如何聞いても罠だよねそれ」

「安心しろティン、林檎もそう思ってる」

 草を掻き分け完全に潜入する気満々な一行は黙々と暗い森の中を進む。

「でもこの四人な理由は? 昼間に会った面子だし」

「しゃーないだろうが。全員バラバラに行動してて纏まってるのがうちらだったんだから」

「お前ら、協調性無いな」

 結野は呆れ気味に突っ込むが火憐も。

「だからしょうがないだろうって言ってんだろ! あたしも先行して突っ込むとかやりたくねえよ!」

「誰だ、そこにいるのは!」

 火憐は大きな声を出すと近くにいた男達の持っていた懐中電灯に照らされる四人。リフェノは色々心配そうな表情で。

「おい、速攻で見つかったぞ」

「情報通りだ、こいつらだな? 連中の言ってた冒険者達は」

「しかも情報もろばれ出し」

 本気で大丈夫なのかと、リフェノは物凄く言いたそうな表情をするが当の火憐は寧ろ嬉々として

「ようし予定通りだ!」

「何処がだ!? こんなにも早く見つかってる上に何か沢山こっちに向ってるぞ!?」

「え、聞いてないの? 言ってないけど、とっとと言ってとっとと見つかるのがうちらの作戦だけど」

 言った直後、男達の頭上から炎が降り注ぎ爆炎が舞う。その影響でこの付近の砦が大騒ぎに明かりが彼方此方からつき始め。

「え、これ誰が?」

「林檎じゃね? だってこいつら懐中電灯でうちらを照らしたってことはそこに光が見える訳だしそこ目掛けて撃ったんじゃね?」

「ああ、だから先行させたんかい。あいっ変わらずだなぁ」

 ティンは突っ込み、ふとある考えが浮かぶ。元々ティンの持つ超能力は基本的に究極的な杞憂に近い。

 もしもこんなことがあるかも、と言う無限にも及ぶであろう未来を細かく計算して磨り潰していくのが彼女の能力だ。まず思考するは一番ありえなさそうなこと。

 例えば隕石が降ってくるとか、実は警察が大規模魔法の準備をしていて一網打尽を考えているだとか、そう言う荒唐無稽なしかし否定しきれない未来から予測して潰していく。そうすると、徐々に徐々に現実味を帯びた未来に近付くのだ。

 その内、ありそうであり得る未来に思い至った。



 もし、この状況で。黄龍が着たら、と。



 あり得ない訳ではない。奴らはどんな時でも現れる。が、その状況は基本ティンが一人になった時だ。幾らなんでもこの状況で。

 多くの山賊たちがてんやわんやのこの状況で。

「くそ、この女共!」

「兄貴やっちまいましょうぜ!」

「おうよ、そこの金髪の城ちゃんは中々の上玉だ。傷はつけんなよ!」

「銀髪のがきは?」

「一応捕まえとけ、そう言う趣味の奴もいるだろう。他は適当に八つ裂きだ!」

 スキンヘッドの男の掛け声に応じて取り巻き達が臨戦態勢に入った火憐たちに襲い掛かる。

 この状況で奴らが襲って来たとしても他の人間を巻き込む恐れがあるのだ。やつらも恐らくそこまではしないだろうし利も少ない。そう思っていた。


 だからだろうか。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」


 突如、スキンヘッドの腹を突き抜けてティンの頭を叩き割ろうとした黄龍に反応できたのは。そんな未来が、既に彼女の中で既知となっていたからか。


「おま、え」


 声が漏れる。徐々に、既知が、未知が、折り重なって混沌とし。


「お前えええええええええええええええええええええッッ!?」


 血塗れの黄龍と、その返り血で同じく血に濡れた黄龍とティンは月光の下に切り結んだ。

んじゃ次回。

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