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戦の前に準備

「いやいや、あの氷結さんがそんなこと……うわ言いそうだ!?」

「んじゃ瑞穂に一寸電話するわー」

 そう言って火憐は携帯電話を取り出して瑞穂にかけ始める。対する結野はがっくしと肩を落として溜息を吐き。

「っぁ~~ったり~~……」

「あ、分かった。二つ返事でOKだとさ」

「マジかよ!?」

 にっこりと笑う火憐に対して疲れ切った表情から更に驚いた表情を見せて来る。それに対して火憐は得意げに。

「落ち着け結野、うちらを誰だと思ってる。大人すらも呆れる問題児だろうが」

「高校卒業してもそのフレーズ持ち出すなよ!? うちら歳幾つだと思ってんだよ」

「お前が言うな!? その台詞は本気でお前が言うなよ!? お前こそ自分の歳言ってみろよ! 21が19の人間に何して何させたよ!?」

「それは言うな」

 結野は何度目かになるのか分からない溜息を吐いてようやっと体を持ち上げると。

「もういいよ、しゃーない。んじゃその依頼受けるぞ。良いながきども!」

「ガキって……あたしら?」

「お前な……三つ二つ違うくらいでガキ呼ばわりすんじゃねーよ。19も21もそんなにかわんねーじゃねーか」

「そう言う台詞は酒の一つでも飲めるようになってから言いやがれ未成年共」

 吐き捨てるように言うと結野は踵を返して歩き始める。

「おらいくぞ、まずはAランクライセンスを借りて来るぞ」

「え、それ借りれるの?」

「ま、冒サポ的にはアウトってか非推奨だね。出来なくは無いよ、っつうか出来なきゃ代表者にライセンス渡してとかできねえよ」

 そう言って結野は顎でしゃくって後ろの三人に無言で付いてくるように促す。そして一行は街のとある酒場の真後ろへとやって来る。

「んじゃ、この中にいる奴からライセンス借りるぞーお前ら……んじゃ火憐とティンが来い」

「いや何故」

「おい、あたしは如何しろと」

 結野は化粧箱を取り出して鏡片手に化粧直しを始めていた。そしてライセンス借用の人選について二人は疑問しかなく。

「多すぎてもめんどいんだよ。一先ずうちらは三人パーティであたしが一番年下の設定で行くから適当にアドリブよろな~」

「あいよ、了解」

「いや、分からんし。アドリブって如何しろと」

「だからあたしは如何しろと」

 火憐は快く返事をし、ティンは戸惑い、無視されたリフェノはイラっとした表情で返す。対する結野は化粧を終えてケータイ型お着替え君を弄って着る服を選んでいる。

「そこら辺で待ってろ。んじゃ一寸見てなって」

 服を選びなおし、化粧と組み合わさってさっきまでと同じかそれ以上に幼く見える姿の結野がそこにいた。

「……け、化粧で見た目って、と言うか幼くなれるんだね」

「何、大抵の女は一寸化粧すりゃ4、5歳は誤魔化せるもんだ」

 言って結野は森の中へと潜っていき、やがて5分ほど経ってから大通りにとてとてと言った様子で長い銀髪の幼い少女が小走りで酒場に入っていくのが見えた。あまりに堂の入った演技に思わずティンはあんな小さい子までと思ったが。

「何呆けてんだ、結野が酒場に入ったから行くぞ」

「え、あさっきの銀髪の子って結野か」

「お前な……結野の髪が銀色で長いの見てただろうが。そんなんだとまたあいつに騙されるぞ」

「いやぁ、あんなちっちゃい子の演技を決められちゃ正直騙されるって」

 ティンは乾いた笑みを浮かべながら火憐に続いて酒場に入っていく。そこには先に入った結野が幼さ全開できょろきょろと辺りを見渡している。油断してると本当に小さい子が紛れ込んだように見えて思わず頬を綻ばせてしまいそうで恐ろしい。

 しかしそんな感想を持つのは何もティンだけではない。不安そうな素振りを見せる結野に周囲の者達も注目し始め、やがて髭をもっさりと生やした冒険者が結野の前に現れ、彼女と目線を合わせると。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん。此処に怖~い奴らがいっぱいいる所なんだぜ?」

「はっ、その髭面で言う台詞かよ!」

「ちげえねえ!」

 そんな野次に酒場の男達は一気に笑い上げ男は舌打ちながら周囲を見渡し。

「うるせえな……ったく」

「あっ、あのっ」

 物が悪そうに後頭部をかく冒険者に結野が滑り込むように声を出す。

「わたし、実はその、冒険者さんにお願いがあるんでしゅっ!」

「……うわぁ」

 噛んだ。それに盛大に、バッチし少し悶えている。顔も確り赤い。それを見た酒場の人達はほっこりしたようだ。しかし一瞬釣られそうだったが本性を思い出しつつ見ていたティンは頬が引きつる。

「舌噛んじゃった……」

「おいおい大丈夫かいお嬢ちゃん?」

「は、はい。すみません……あの、わたしその、パーティでライセンランクAのカードを此処で借りて来てくれって言われて」

「ランクAのカード? おい、確かお前ランクAだったろ?」

 結野の言葉を聞いた冒険家は後ろの席で酒を飲んでいた男に声をかける。更に男は近くにいる者まで。

「お前もランクAだろ? お嬢ちゃん、カードは幾つあればいいんだ?」

「あ、その5枚です」

 言うと直に冒険家達から5枚分のランクAのライセンスカードが渡され、刹那に入り口付近で待機してたティン達に結野が来いという様に視線を送る。

「おいお前」

 それに気付いた火憐は呆れた様子で酒場に入り。

「一人で先に行くなっていつも言ってるだろうが」」

「あ、おねえちゃん! ご、ごめんなさい」

「い、いいじゃんいいじゃん、この子は何時も頑張ってるんだし、ね、ねぇ?」

 唐突に始まった演技に引っ張られてティンも混ざってみるが火憐がこっそりと。

「声が硬い。演技に自信がないなら喋るな、それっぽくしてるだけでいい」

「は、はい」

 と言われ、ティン一歩下がって火憐と結野に全て任せることとする。

「おねえちゃん、カード借りたよ」

「そうか、一人で出来たな、偉い偉い。悪いね、うちの子が世話になった」

「いやいやいいってことよ。頑張る小さい子は応援するのが大人の役目ってな」

「単にお前がロリコンってだけじゃねえの?」

「うるせえ!」

 入る茶々に怒鳴り返し、再び酒場に笑いが満ちる。

「あの、これ返すときは」

「ああ、そこにいるマスターにでも渡してくれ。俺は暫くこの街にいるからよ」

「はい、ありがとうございます!」

「んじゃ、行くぞ」

 火憐に言われて結野とティンは酒場を出る。そして周囲に人がいないのを確認するとこっそり森の中へと入り、結野は直に顔の化粧を落としに入った。

「取り合えずライセンスカードは揃ったな、んじゃ次は冒サポに行くぞ」

「えっと、結野。舌大丈夫? 思いっ切り噛んだ様に見えるけど」

 酒場で痛そうに蹲って悶えていた姿を思い出したティンは心配気に結野へと声をかけるが当人はなんのことは無いと。

「演技だよんなの。なれりゃだれだって出来る」

「お前、本気で俳優かなんかか。もう役者か声優にでもなれよ」

「やだよめんどい」

 言うと結野は酒場に入る前とは違う化粧を始め、すぐに終えて服も取り替えた。さっきまでの化粧が見た目を幼くさせる化粧なら、こっちは寧ろ年齢を上げる化粧か。確かに服装も動きやすそうなものに変えて顔も弄れば見事に大人っぽさを纏う少女に早変わり。

「お化粧ってすげー」

「手前も歳食って化粧を覚えりゃ分かるよ。おらさっさと冒サポに行くぞ、この後準備もあんだからな」

 一行は化粧の終えた結野に急かされる形で冒サポへと向かっていくこととなる。そして辿り着くと時間はお昼を過ぎており、そのせいか受付には既に亜麻色の髪の受付嬢から違う人が受付に座っていて。

「あれどうしよ、あの人じゃないとうちらのこと分からないんじゃ」

「んなのいきゃ分かるよ行きゃ」

 結野はそう言うと掲示板に向かい、パパッと貼ってある複数の依頼を毟りとって行く。その中にあるものについてティンは既知感を覚えて。

「それってリフェノが言ってた損するやつだ」

「あ、ほんとだ。それやると逆にめんどーだから止めとけよ」

 ティンの言葉にリフェノは結野がとってきた依頼書を見て取ろうとするが、対する結野はため息を吐いて。

「お前ら馬鹿か」

「馬鹿ってどういうことだよ」

 リノフェから依頼書を取り返すと結野は呆れた目を向けつつ。

「お前らあれだろ、この依頼が特になんねえ奴だからっていいたいんだろ?」

「そうだよ」

 ティンは言ってリフェノの方へと向き直って確認を取る。リフェノはうんうんと頷いて同意するが。

「まあ確かにいえてる。街に入ってここに来るまで如何早く動いて、如何近くから来ようとも半日は掛かる。その上で片道200enの消費だ、確かに高い……だがそいつは一つこなした場合だ」

「一つをこなした場合……もしかして」

 結野が言いたいことにティンは何か気付き、答えと言わんばかりに結野は手にした依頼書を見せる。

「そうだ、この依頼書は全部近い住所でこなせるもんだ。こうすれば一度の交通費で9件もの依頼をこなせる。冒険家名乗るならこういうことも頭入れとけ。居るんだよなぁ、戦闘とか荒事ばっかになれてこういう細かいけど確りと儲かることも分からないでランクAを取る奴」

「リフェノ……依頼って複数同時に取れるの?」

 ティンはリフェノに問いかけると当人はライセンスカードを取り出して頭をかきつつ。

「そーいやそーだな……なるほど、勉強になりました先生」

「うむ、精進しろよー」

 言うと結野達は受付に並んでいる列に混ざる。すぐに受付窓口へと案内されると結野は鉄の台座を窓口前においてその上に乗った。それでもおでこにぶつかっていた高低差が胸元までが見える程度になる。

 それを見てティンは人間の神秘と理不尽を感じつつ見守り、結野は毅然とした態度で。

「すいません、さっき依頼を予約したティンと言うものなのですが」

「ティン様、でございますか?」

「或いはリフェノかもしれません。一寸調べて貰っていいですか?」

 受付嬢に頼み込み、すぐさま受付においてあるパソコンで調べ始める。

「あ、はい。確かに8:17分に予約が入っていますね。ではランクAのライセンスカードのご提示を」

「はいどうぞ」

 結野は言われた通りに自分の含めて六つのライセンスカードを見せ、ついでにもう一つの用紙を取り出して。

「パーティの申請書です」

「分かりました、暫くお待ち下さい」

 言って受付嬢はパソコンに向って作業を始める。その間にティンは結野に。

「ねえ、パーティ申請書なんて何時の間に用意したの?」

「移動中にな。それぐらい用意するのに訳ねえよ」

「はい、確かに受理しました。ではこちらが依頼主の連絡先となっております」

 受付嬢は作業を終えると用紙を結野達に渡し、受け取ると結野は更に持って来た依頼書を出して。

「ついでにこれも」

「はい、同時に9件受理ですね。では荷物をご用意致しますのであちらの注文窓口へと向って下さい」

「はい」

 返事をして台座から降りてそのまま魔力として吸収して列をずれていく。

「じゃ、あたしはこのまま依頼を受けるけど火憐やお前らは如何する?」

「あたしは……瑞穂と連絡とってくる。ティンと……リフェノ? は如何する?」

「あたしは結野に付いて行くよ。色々勉強になりそうだし」

「じゃあたしもティンと一緒に行く。なんか色々勉強になりそう、本当に」

「授業料取るぞガキども」

 結野の大人気ない台詞に火憐は呆れた表情見せて。

「うん、そんくらいロハでやれよ年上」

「嫌だよ同い年」

 結野が化粧して年齢誤魔化そうとするのには色々訳があります。作中で話したこと以外にも、実は結野の顔は結構大人な顔立ちなのです。よく言えば凛々しく愛らしさより美しさ、悪く言えば老け顔と言うかおばんくさいというか。

 背丈が低いわりに結野の身体はしっかりと年を食った跡があるため、化粧などで誤魔化す必要があるのです。

 んじゃまた次回。

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