ライセンスランクA
「え、くらす、めーと?」
「何それ、美味しいの」
火憐の台詞を聞いたティンとリフェノの感想は唯一つ、そんな言葉は知らないだった。確かに、学校と言うものを知らない人間からすれば未知に溢れた単語だ。それを説明せよと振られた火憐は困った表情で。
「あー何て言えばいいんだこれ」
「んなもん、分かり易く言えばいいんだよ。あれだ、ちっちゃい頃から一緒に勉強した間柄。中坊んころからだから、12から18まで大体同じ教室……いや部屋で勉強した仲」
と、結野の説明にティンは理解したがリフェノは理解が行かなかった。はてなマークを頭上に乱舞させる彼女を放置し。
「あ、つまり幼馴染だ」
「いや流石に幼馴染は遠い」
「確かになぁ」
結野と火憐はただ一人訳分からんとしている約一名を放置して頷きあった。
「あ、じゃあ」
そして、ティンはたった一つの無慈悲かつ純然とした動かぬ真実に達する。
「結野ちゃんがちっちゃいのを、約6年間リアルに見てきたってことか」
「おう、事実だが手前――ちゃん付けで呼ぶな、ぶちのめすぞ年下」
「ああ、事実だがお前……そうはっきり言うなよ、こいつにだって守りたい矜持の一つやって殴るなおい殴るな」
三者三様の反応を此処に見せていた。そして火憐は結野に殴られ、凌ぐ。
「んで、お前は一体何してたんだ結野。いや本気で、年下誑かしてまで」
「疲れたから、ロリっ子化粧してロリっ子演技して泊まってるホテルにつれて来て貰っただけだよ」
「ようし分かった、保護者として怒るのはあたしの役目か?」
「ほぉう? この化粧と見た目で泣き真似したらどうなるか分かるよね保護者ぁ?」
笑顔でぽきぽきと指を鳴らす火憐に目薬を手ににやりと笑う結野。
「いやお前、実年齢を考えろよ。あたしと同い年ってことは二十歳過ぎたどころか現在年齢21だろうが」
「女は何時だって名女優になれるんだよ」
誇るように嘯く結野を見て火憐は呆れ気味に溜息を吐くと今度はリフェノとティンに視線を向けて。
「んで、お前らなんでこんなのにひっかかったん?」
「ああ、ちょっと依頼の関係でね」
「依頼? ああ冒サポの? ああ、だから冒サポから出てきたのか」
「そこまで見てたのかこいつ」
結野の呟きにリフェノが突っ込んだ。しかしティンはガン無視して。
「でさ、一寸聞きたいんだけど火憐や結野? って冒険者ライセンスいくつ?」
「あたし? あたしはBだけど、結野は?」
「ああ、あたし? Aだけど」
言いつつ、結野は懐からライセンスカードを取り出しつつ確認する。別に、決して、彼女達の体の部位のサイズではおっとなんでもない。それにそうなると火憐はAいやこれ以上は蛇足か。
「え、まじA? お前、Aランクとかどうやったんだよ」
「簡単だよ、ライセンス取得から最低二年以上経ってから平均年間依頼完了数100こえで貰えるよ」
「うっそマジ? っつか平均年間以来完了数100こえって地味にもんどくせえな……ん? え、つまりお前ってそれこなしたってこと?」
「うん」
火憐の言葉に結野はあっさりと頷き返した。対し火憐は信じられんと。
「あ、あの物臭で有名な、結野が……細かい作業を自ら進んで!? ありえねえぞおい、この世の破滅か!?」
「手前から見りゃあたしゃどんだけ面倒くさがりなんだよ!? ってかあたしは昔からするべき努力はしてる方だけど?」
怒り、すぐにそれを通り越して結野は呆れ返った様子で返す。しかし火憐は火憐でうしろがみをかきつつ。
「そうかぁ? ああ、そういやそうだっけ。お前、異様なくらい面倒くさい術式も本気であっさり組み上げたしな。お前やる時はやるんだよな、大人気ない勢いで」
「大人気ないはよけーだタコ。んでガキどもてめーら何でランクがかんけーあんだ? このお姉さんに相談してみろ」
と大人っぽく絶壁の胸を張る結野。しかし彼女たちからすれば自分達のお腹あたりまでしかない背丈の少女にお姉さんぶられても。
「ちびじゃあ、なあ」
無遠慮にリフェノが呟いた。意味は少しずれてるが、正直ティンも同意見である。見た目的に小さいどころか幼い少女に何をどう相談せよと。
しかしそうして悩んでいると結野はニコッと笑って。
「おいガキ、てめえらいつまでも身長うんたらかんたらほざいたら……マジ潰すぞこのクソガキども」
そんなセリフを天使のような声音でいった。軽く吹き出して笑いそうだったティンたちに火憐は。
「あー言っとく。結野があえて分かりやすいっつか突っ込みやすいボケかました時は扱いに気を付けろ。大体が面倒くなって相手にボコる理由を与える時だから」
「もー火憐ネタバレ禁止だよー?」
などと言う微笑ましいのかよくわからんトークと言うか漫才が展開される。実際に結野は火憐の腰辺りに拳を叩き込んでるが、見た目の通り中学生か小学生かと言う見た目の彼女の拳などむしろ癒やされると思うほどで。
リフェノは軽く笑い飛ばす勢いで。
「こんなガキにどんなことが出来」
「うぜえ」
直後、リフェノの顔面の前で鋼鉄の拳が停止する。見れば鋼鉄人形が見事なファイティングポーズでリフェノの顔面にストレート寸止めを決めていた。
これを起こした本人であろう結野はニコニコと。
「で、言いたいことは?」
「……え、うそまじ」
リフェノは僅かに気持ちの悪い汗を流して現状を確認する。視認した速度的に決して対応出来ない速度でもない。しかし完全に不意をつかれた形で眼前に繰り出された拳が目の前にある以上、避ける事は難しいし反撃さえ出来ない。
よってリフェノに出来るのはただ両手を挙げて敗北を認める以外になく。
「いや、うん。参った、これは流石にどうしようもない」
「あ、そ。つまんねーの」
パチンと指を弾くとぼろぼろと鋼鉄人形は崩れ落ちる。
「で、ランクAが必要な理由って何だよ」
「ああ、うん。実は依頼の関係でランクAを6人集めて来いってのがあってね。あ、一応リフェノがランクA+何だけどあたしがFだから後5人必要なんだよ」
「……へえ」
「そんなめんどいのがあんのか。なんつうか、っぽいなそう聞くと」
火憐は興味深そうに頷くに対して結野は訳知り顔で反応していた。
「それあれでしょ近くの山賊を叩いて来いって奴?」
「え、何で知ってんの?」
「止めといた方がいい、面倒なことになる」
ティンの問いに結野はきっぱりと断言する。その訳とは。
「面倒って、どういうこと?」
「そうだね……なんて説明すりゃいいのやら。まず、その依頼は罠なんだ」
「罠?」
結野の解説に火憐、リフェノ、ティンが同時に同じ言葉を口にする。
「そう。その依頼は簡単に言えば警察から来た依頼でね、やっても何も得はないよ」
「警察って騎士警察? でも政府機関お達しなら」
「逆だよ火憐、その依頼で倒せって言う山賊、裏で警察と通じてるから」
さらっと結野は爆弾発言を投下する。冷静に考えれば公言していいことではないと思われるが結野は一切気にせず。
「何て言うかね、大賊時代って知ってる?」
「知ってる」
反射的にティンが答えた。かつてラルシアから聞き、昔座学で習った二、三世代前の時代だ。確か、盗賊や海賊などの賊と呼ばれる者達が世界中に幅を利かせていた時代。
「その名残でね、大賊時代の時に警察と裏で繋がっている組織なんだよ。だから基本的に消滅したりはせず、定期的に政府機関の指示を受けて目に余る組織に山賊を送り込んだりしてるんだよ。でも、法を乱す存在をのさばらせるなんて警察の名折れだしね。一応、偵察代わりに冒サポへ依頼出してるんだよ」
「……ちょい、待て。何だそれっつうか随分腐ってないか警察」
「あれ、でもそれ此処で暴露していいのか?」
リフェノは首を捻って疑問を口にする。実際、それが事実としてもそこまで知っている彼女、更にそれを公言するのは色々と問題があると思うが。
「あ、問題ないない。と言うか、寧ろAランク取れるほどの冒険家なら大体知っている話だし、何かあれば冒サポが守ってくれるしね」
「冒サポが守ってくれるって結野、お前……幾らなんでも冒サポだって守ってくれないだろ」
「え、何で?」
呆れ気味に返す火憐に結野は逆に問い返す。
「何でってお前、冒サポってただの政府機関の」
「違うよ。冒サポは世界各地の企業と裏で繋がっているから、政府とも繋がってるけどいざって時は政府に逆らってもある程度平気なんだよ。あそこはあくまで元々ギルドなんだし、後ろ盾もカーメルイアにノルメイア、ライフォールに光栄他多数と政府との縁を切っても平気どころか立場的には敢えて政府機関と協力体制とってやってる立場だしね……寧ろ冒サポ的には体面を取り繕ってやってる立場だから、依頼として張ってやってるってとこ」
「……まじで? え、嘘、冒サポってそんなに権力的に強い立場だったのか」
結野の言葉に火憐は目を丸くし結野は更に。
「当たり前じゃん、冒サポは元々そう言う面倒な事から冒険者達を守る為に出来たんだから。基本的に、と言うかそもそも冒サポは政府機関と連携せずに巨大化し、その有用性を認めた政府機関が一緒にやって行こうってお願いしたのが今に至るんだから」
「でも、何でそんな依頼を義理ってだけで依頼として出してるんだ? 受けるやついたら如何すんだよ」
「だから、全員ランクA指定なんだよ。ライセンスランクAを取れる奴なら大体この話を知ってるから、そこの餓鬼みたいに知らなくてもA取ってたって奴がいても6人もいりゃ知ってる奴に当たるでしょ?」
「つまり」
そこまで聞いていたティンは話を纏めて。
「この依頼は警察が出した一種の罠で、特に実入りがない依頼と言う」
「ついでに言うと、これは一種のプロパガンダなんだよ。あれだ、世に蔓延る悪の山賊に立ち向かう冒険家達。しかし歴戦の冒険家達さえも返り討ちにする荒くれ者を退治するのは正義の警察、って感じでね」
「受けた冒険家をコケ下ろすのも目的ってか。どんだけ腐ってんだ、警察」
「その上、その山賊は警察と繋がってましたーって言う完璧なマッチポンプだしね。関わる方が間違っているレベルだね」
結野の語りが終わると火憐、ティン、リフェノは考え込む。
「どうする? まだ受ける?」
「うーん、そうなると受けたくないなぁ……」
「……いや、いいなそれ」
諦め、と言うか白けムードの中火憐は一人だけにやりと笑うと。
「面白い、逆にそれ潰してみると如何なんだろうか」
「いや、火憐。人の話、聞いていた? これ変に手を出すと大変と言うか面倒なことになるってば。氷結さんも嫌って」
「悪いが結野、それはない」
火憐は自信たっぷりに返す。その態度に疑問を持ったティンは。
「なんでまた?」
「あいつの裏はこのあたしだ。あいつなら言うと思うよ? それ、叩き潰してみるのもいいなってな」
んじゃまたねー。