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冒険者サポートセンター

「あーくそ、今日は本当についてねえなぁ……ん、如何したよお前」

「いや、これ何?」

「これって」

 リフェノの言葉にティンは掲示板を指差す。釣られて掲示板に目を向けて。

「依頼だよ、依頼。これもクソもあるか」

「いや、その……依頼って何?」

「は? え、お前そんな事も知らないのか? 冒サポ利用したことねえのか?」

 戸惑うティンに溜息をつくとリフェノは掲示板を指して。

「これはまあ、街中っつか、各所、えーっと、せーふきかん? そう言う所から来た依頼が貼ってあるんだよ」

「依頼って言うのは?」

「依頼は依頼、あーしてくれとかこーしてくれって奴で、やると金貰える」

 言ってリフェノは掲示板に付いている依頼書を一つ取るとティンに渡して。

「これが、依頼? えーっと、何々……下記の住所に、荷物を届けて下さい。報酬は1500enで通行費込み、以下依頼主の一言。“おばーちゃんの好きなようかんです。早く届けてあげて下さい”と……これが依頼?」

「おう、そいつは民間の依頼。受け取って、あそこの受付で荷物受け取って届けるだけって言う奴」

「へえ。この住所に持っていくだけで1500enか……これって安い?」

「めっちゃ安い」

 ばっさり、そんな風にリフェノはぶった切った。ティンははて、と思って。

「ただ荷物受け取って」

「その住所、ちょっと調べりゃ分かるけど此処から四駅離れた所から更に歩くぞ。通行費も考慮すると四駅で片道200en、その上不慣れな奴は人に聞くことにもなるし、タクシーとか使えば余裕で依頼金超えるし、そもそも此処に来るまでの消費も入れりゃ割に合うどころか損しかねえよ」

「ひええ~……」

 そんなリフェノの解説にティンは思わず。

「お前、意外と頭が回るんだな」

「あ、あのな……一応これでも冒険者歴はそこそこなんだぞ!」

 失礼な返しにリフェノは怒鳴り返し、ティンは掲示板に依頼書を戻す。

「で、あんたは何時もどんな依頼を受けてるの?」

「近くの洞窟に潜って、鉱石を取ってくるって奴。依頼主が魔導師の研究家ってやつで値段の相場が分かってないから意外と金払いが良いんだよ」

「つまり、何時もやってるお得な依頼が無い、と……じゃあ、他の依頼をやれば?」

「他の依頼かー」

 と言ってリフェノは掲示板をぐるりと見渡す。しかしティンは周囲を見渡してリフェノの横腹を膝で突き。

「早く決めろよ、後ろが大変なことになってるぞ」

「え、それが?」

 後ろでは結構な人数の冒険家達が人だかりを作って掲示板で依頼を探している。ティンはこの状況でのんびり依頼を探している彼女の態度に流石の彼女も空気を読んで急かすが。

「別に気にすんなよ、そんくらい。ここらの冒険家が同じ場所を何時までも占領するなんて日常だよ」

「そ、そうなんだ。へえ……じゃあ気にしなくていいの?」

「おう。むかつくなら無理やり退かせばいいんだし」

「あ、つまりこのまま居ると結局喧嘩になる、と」

 ティンはぽんと手を叩いて納得をして状況を飲み込む、そしてつまるところが。

「じゃあ早く決めろよ!」

「いやだってさ、これって奴が特に無いんだもん。こまるよな、それ」

 うーんと掲示板のど真ん中で腕組み悩むリフェノに対し、ティンは周囲の冒険者達を見るが彼らは彼らで一切気にせずほいほいと依頼書を毟り取って行く。それを見ていてティンは結構平気と分かったがそれでもせかされてる感じに。

「もう、じゃあこれね!」

 と、痺れを切らしたティンが適当に依頼書とリフェノを引っ張って人だかりから脱出して受付へと向っていく。

「おいこら待てよおい! それどんな依頼かちゃんと見たのかよ!?」

「あ、そか。えーっと……近くの山に住み着いた山賊を退治して欲しい、報酬は受付にて。ただし、なるべく捕縛対象は生かして捕らえてくること。死亡の場合は報酬ランクダウンの可能性アリ、気をつけること……か」

「山賊退治、ね……あーっ、何それたるい」

 ティンが手にした依頼書を読み上げると同時にリフェノは大きく落胆する。

「えっと、割に合わないの?」

「場合によっちゃ、普通に稼ぐの馬鹿みたいになるほど稼げる。それはあれだ、いわゆるお尋ね者集団退治って奴だから生け捕って警察にでも突き出せば報奨金が手に入るって奴。よくあるあれ、ウォンテッド」

「あ、なるほど……ん? 規模は2000人だって」

「へえ、その程へ? え、あ、う、お、おう」

 リフェノが軽く流そうとした瞬間、腰に下げた太刀に目を向けると途端に落ち着いた様子を見せて考え込む。

「いや、幾らうち等が神威を持っているからって二人でそんな大勢じゃきついってレベルじゃないと思うぞ。一人で1000人ぶった切るって幾らなんでも無茶すぎる。此処はもうチョイ人を集めよう」

「と、そこの太刀に突っ込まれたの?」

 少し呆れた表情でティンはリフェノの腰に下げられてる太刀を指差し口にした。

「言うなよ、それ」

「じゃあ取り合えずこれ受付に出してくるよ」

「ほいよ」

 とティンが受付に向うと亜麻色髪のはね毛が妙に動く受付嬢が笑顔で。

「こんにちは、冒険者サポートセンターへようこそ! どのようなご用件でしょうか?」

「これ」

「あ、依頼の受領ですね? では冒険者ライセンスを渡して下さい」

 ティンは依頼書を渡して一緒に冒険者ライセンスも同時に取り出す。

「えーっと、月初めの更新がまだですね。同時にやっておきますので時間を取らせてもらいますね……ん? この依頼ですか?」

「あ、はい」

 受付嬢はティンの持ってきた依頼書を見て持って来たティンの後ろを見渡して。

「この依頼……確か政府機関から指定があって、最低でもライセンスランクA以上の人間が6人以上のパーティでかつ、その山賊グループの潜伏していると目されている箇所へ攻め込むのですが……お一人、ですか?」

「え? あ、その、後で来るので」

 予想外の答え、と言うか依頼を受けること自体が生まれて始めて故にティンは軽く嘘を付いてみるが、受付嬢はニコッと笑い返すと。

「そうなんですか、では全員分のライセンスを渡して下さい」

「え」

 そんな返しにティンは再び凍りつく。そこへ追い討ちをかけるように受付嬢がティンのライセンスを取ると。

「ところで、お持ちのライセンスとデータベースにはお客様のランクが最低のFとあるのですが?」

「え、え」

 まさかのFランク指定にティンも吃驚だった。しかし、冷静になって考えてみれば冒険者サポートセンターを利用するのは全く無かったので評価されてないのはある意味当然と言えば当然な話であって。

「これではこの依頼は受ける事が出来ません。ランク不足ですし、他の方のライセンスは?」

「え、えーっと……」

「いや、お前あんだけ自信満々に受付に向っといてどんだけ時間食ってんだよ」

 と、そこで顔を出したのはリフェノだ。

「あ、リフェノ。これね」

「こちらの依頼書を受けるには最低ライセンスランクA以上、かつ6人以上のパーティで無ければ受領出来ません。そちらの、ティンさまではランク不足です」

「じゃあこれならいい?」

 と言ってリフェノも懐からライセンスを受付嬢に提出し、彼女は受け取ったライセンスをカードリーダーに通すと。

「はい、そちらのリフェノ様のランクはA+ですね」

「これなら受けられるだろ」

「はい、では他の方のライセンスのご提示をお願いします」

 笑顔による返しにリフェノもまた凍った。そしてすぐさま凍結の呪縛を打ち破ると。

「いや待った。何、他の方のって」

「ですので、この依頼はランクA以上かつい6人以上のパーティのみしか受けられません」

「じゃあちょっと待ってくれ! すぐ呼んで来る!」

 受付嬢の言葉にリフェノは慌てた様子で返すが、返された彼女は困った様子で。

「え、これから集めるのであればこの依頼は破棄と言う事になりますが」

「そこはまあ、融通利かせてくれよ!」

「では本日の17時半までにライセンスを持ってきて下さい、次の方どうぞ」

 そう言って受付嬢はティン達から後ろに並んだ人達に意識を向けて、ティンとリフェノは列からずれる。

「どーすんだよ、後5人。しかもあたしは仲間外れだし」

「知るかよ。冒サポ利用してないほうが悪いし、こういう時は後から付いてきて山分けすりゃ良いんだよ」

「ま、それでも良いけどさ。つては?」

「ねえよんなもん。お前は?」

「無い」

 言い合って互いに溜息を付き合い、一度冒サポの外へと出る。するとティンの目にある少女が映った。

 歳は12歳頃か、どうやら迷子らしく目に涙を貯めた様子で途方にくれた様子で彼方此方に首を振っている。その姿を見てかつての在りし日の己の姿を思い出したのかティンは思わず。

「如何したの、お嬢ちゃん」

 思わず近寄って目線を彼女と合わせて話しかけた。

「ぐすっ……おねえちゃんは?」

「あたし、ティン。泣いてるみたいだけど、どうしたの? お父さんやお母さんは如何したの?」

「……わかんない」

「おうちは?」

「わかんない……」

 ティンとの問答で彼女は余計に泣きそうな表情を浮かべ、ティンはそんな彼女の頭を撫でて。

「じゃあおねえちゃんが一緒に探してあげるよ」

「お前なあ、今そんな事してる暇ないだろ」

「いいじゃん、小さい子が困ってるんだし」

「いや、小さいって……こんぐらいでかけりゃ自分で家くらい帰れるだろ」

 とリフェノと言い争っていると少女はまた泣き出し始めて。

「ああ御免御免、別にお姉ちゃん達は喧嘩してるんじゃないよ。大丈夫だから。ほら、泣いちゃったじゃんか」

「あのなぁ……で、お前本当に家わかんねえの?」

「はい……いっしょにたびをしていて……ぼうサポに入ってから」

「冒サポで逸れたのか……くそ、じゃあ下手するとホテルに戻ったかもしんねえな」

「あ、ホテルっ」

 そこで少女はリフェノのホテルという単語に大きく反応し。

「ホテルなら、ばしょ分かるですっ」

「そうなんだ、じゃあお姉ちゃんが連れて行ってあげるね。あたしティン、お嬢ちゃんは?」

「……ゆいの、です」

「ゆいのちゃんか、よし」

 言ってティンはしゃがみ込んでほぼ強引に少女を肩車して歩き出す。

「わ、わわっ」

「んじゃいこっか、方向どっち?」

「え、えっと、あっち」

 少女が指差した方向に三人は歩いていく。

「お父さんやお母さんとはいつもいっしょなの?」

「は、はいっ、いつもいっしょに、手をつないであちこちいきます」

「へえ、いいね、そう言うの」

「にしても、無責任な連中だなぁ。旅してるくせに自分の子供が消えたかどうかもわかんねえのかな」

 リフェノの何気ない言葉に少女が表情を暗くするの察知してティンは。

「だからそう言うこと言うのやめろよ。自分の親が言われたら如何思うんだよ」

「あたしの親は、絶対そんな事しないし」

「分かるのかよ」

「分かるよ――自分の命捨ててでも娘守ったんだから」

 リフェノの、誇るような当然とでも言うかのような様子で言い放った。

「ぅあごっ、ごめん、なさい……」

「あ、あーもう泣いちゃったじゃんかー」

 とうとう少女は泣き始め、ティンはリフェノのことを睨んだ。リフェノは何処吹く風と言った様子で返す。

「べっつにーんなことで泣く方が悪い」

「ったく……御免なー、こいつ悪ぶってる方がかっこいいとか勝手に勘違いしてる奴だから、気にしないで」

 と、ティンが宥めるとリフェノは心外だと言う様子で。

「なっ、誰がかっこつけだこら!」

「だってそうだろ、こんな小さい子なかしてお前幾つだよ」

「18だよ」

「いい歳しといてちっちゃい子なかして自分かっけーか、情けないのー」

 言ってリフェノを嘲笑い、リフェノはリフェノはでむっとした表情で。

「じゃあお前幾つだよ!」

「19だよ」

「一つしかかわんねえじゃねえか!」

「ぷっ」

 ついに、ティンの頭上でくすくすと笑い声が漏れ始めた。見上げればゆいのは口元を押さえて笑い始めている。

「ほらちっちゃい子に笑われてらー」

「うっせーっつかお前も笑ってんじゃねえよ!」

「ごっ、ごめんなさい」

 そんな感じに談笑してると、一行の前に一人の人物が立ちはだかる……と言うか、立っていた。朱髪のショートカットに軽装鎧の冒険者姿の女性、火憐だ。

 彼女は目を点にしてティンを、いや正確にはティンからずれた所に視線を向けるとぽつりと呟く。

「……お前、何してんの?」

「何って、見れば分かるでしょ? 迷子の案内だよ」

「いやお前じゃない」

 手早く、短く、呟くように火憐は口にし、じっとティン達からずれた所……即ち彼女の頭上付近を。

「えっと、どうしたの?」

「おい、ティン。お前、歳幾つだ?」

「え? 歳? 19だよ? でもなんで?」

 ティンは火憐からの急な質問に面食らい、一体どういうことなのかと問い返すが火憐はそれよりも呆れと非難の意思を込めた視線をゆいのに叩きつけて。

「なあ……お前。年下誑かして楽しいか? ()()

「……はい?」

 火憐の言葉に今度はリフェノとティンは目が点になる。

「な、何で、火憐、ゆいのちゃんのこと知って」

「っはぁぁ~~~……」

 続いて彼女の頭上でくたびれた溜息が漏れる。さらには。

「あんがと。もういいよ、お()さん」

「もういいって」

 言うと結野はティンから降りる。その表情はさっきまでの少女のような幼い表情から一気に15年くらいは老けたような表情になり。

「ったく、何で火憐が此処に」

「いや、この辺のホテルに居ただけだよ。っつか、お前本気で何してんだ」

「疲れたからアシの確保。別にいーじゃん、ちょっと化粧したくらいで実年齢見破れない連中が悪い」

「ね、ねえ火憐」

 砕けた様子で話し合う二人にティンが割り込む。

「こ、これ如何いう事?」

「どうって……何が? ああ、こいつか。こいつな、見た目こんなにちっこいが」

 火憐は一度切ると。

「こいつ、うちらのタメだから」

「ため?」

「簡単だよ――うちら」

 火憐と結野は今だ理解出来ていないティンとリフェノに具体的に分かり易く解説を行う。


「元同級生、っつかクラスメート」

んじゃまた。

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