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ラストスパート

 一行は闘技場の控え室へと集められていた。敗北したメタナンは控え室の椅子の上におかれ部下と思わしき者達が付き添っている。

 やがてかの騎士は目を覚まし、メタナンに代わりの仮面を差し出しながら。

「お気付きになられましたか」

「ああ……すまないなお前達」

 身を起こすと同時に仮面を受け取るとメタナンは慣れた手付きで仮面を身に付けると椅子から立ち上がってティンたちに向き直る。

「見事な剣の技、感服いたしました」

「いや、別にそんなもんじゃないと思うけど……寧ろ、剣については多分あんたのほうが上だと思うけど」

「それこそご謙遜を、負けたのは私です。どうでしたか、陛下達」

 とメタナンは此処に来た両国の首脳陣へと視線を送り。

「ま、最後は如何だったかはしらねえがぶっちゃけメタナンの方が強かったような」

「身体強化でやっと追い越したからなあ……加速せずに戦ったらどうなっていたか。と言うか、そちらは手を抜いて戦っていたようにも見受けられたが」

「確かに、終始様子見ではありましたがその油断をつかれたのは私の落ち度です。彼女は最初から全開で私に斬りかかって来たのですから」

 そこで一度きるとメタナンはティンに向き直ると。

「ところで一つ聞きたい。そなたの剣は何処で習った?」

「何処でって、どう言う事?」

 問いに、ティンは質問で返した。失礼な態度ではあったが、当人としては完全なる我流剣術に何故ルーツを問われるのか少し不思議だったからにほか無い。

「そなたの剣、基礎的な部分に山凪宗治郎氏のものと思える部分が存在していた。あれは、本で読んだとかそう言う次元ではないと思えたのでな……」

「ほ、本!? と言うか山凪宗治郎!? え、えっと、何で? あたし、山凪宗治郎の技とか使った覚えが無いんだけど……」

「いや、切り結んだ私ならば分かる。貴方の剣術はかつて映像記録に残っていた宗治郎氏のものに似ている部分がありました。剣聖と謳われた宗治郎氏の弟子を名乗り、彼の技を模倣するものは非常に多くその技はとても稚拙だ……しかし、貴方のは全く違う」

 メタナンはティンを真っ直ぐ見ながら断言する。

「本を読んで映像だけ見て学んだ紛い物では到底届かぬ、本人から学んだのでは、とさえ思えるほどのものがあった。貴方はかつて何処かで宗治郎氏本人と会い、直接剣を学んだのでは?」

「いや、会ったと言うか……これ言っていいのかな」

 呟きながらティンは側にいるエーヴィアにちらりと目を見やる。するとエーヴィアはエーヴィアで。

「なあシャガー。その剣聖とか言う“やまなぎそうじろう”とは誰だ? 聞いたことが無いぞ」

「陛下、それを口にしては場合によっては世間知らずとされますのであまり言わないほうが宜しいかと思いますよ」

 などとひそひそと話し込んでいる。記憶を掘り返せば彼女の前で自分の今までの軌跡や育て親について女王陛下に話した事など一度たりとも無かったと言う事実を思い出す。

 よって、ティンは丁度いい機会だと思って。

「あの、実はあたしの育て親なんだ。山凪孤児院兼剣術道場って知ってる?」

「……なるほど。かの御仁はそんなことをなさっていたのか」

 メタナンの言葉にデレックス国王も感慨深そうに繋げる。

「救国の英雄にして生ける伝説、山凪宗治郎の下で育った剣士か……あれだけ強くて当然か」

「知ってるの?」

「この世界でかの剣聖を知らぬものなど、それこそよっぽどの世間知らずか赤子くらいでしょう。この国もかつてはかの剣聖によって救われた事もあるのですよ。しかし、貴方は剣聖の下で育ったのですね」

「うん、まあね。あたしも知ったのはつい最近だった」

「そうだったのか……なるほど、通りで貴方の振るう剣には宗治郎氏の面影があるわけだ」

 そう言うとメタナン一歩下がり、デレックスを前に立たせた。それに倣ってティンも下がってエーヴィアを前に立たせる。かの女王はとても何か言いたそうだったがエーヴィアは渋々と言った様子でデレックスと向き合う。

「では、我々はこれにて。確りとした同盟の締結は凱旋祭の後に」

「ああ、そうだな。凱旋祭の日までもうそんなに無いしそうするか。分かったぜ、次に会うときこっちも書状を用意しとくよ」

「お願いします。名残惜しいですが、それでは」

「おうよ、メタナン」

「はっ!」

 デレックスの言葉に反応し、メタナンは携帯電話を取り出して何処かへと連絡し。

「飛行機の用意が出来ました。空港までご案内します」



「ティン、貴様の育て親は剣聖だったのか」

「ええ。言いませんでしたね、思えば。と言うか宗治郎を知らなかったんですね」

「知らん。と言うか何故知ってると思ってたんだ」

「ラルシア経由」

 夕日に照らされる黄昏時の中、移動する車の中でエーヴィアは大きな溜息を吐いた。

「ラルシアはああ見えて秘密主義だぞ」

「言われればそうでしたね。盲点でした」

「お前な、全く……」

 やがて車はプーデクス王国の空港に辿り着き、エーヴィア一行は車から降りて空港内部へと入っていくと途中でエーヴィアは懐から。

「ティン、お前のパスポートだ。持っておけ」

「何故陛下が持っているんですか?」

「ああ、お前にも必要だと思って作っておいた。安心しろ、お前がぼーっと王城内で暮らしている間に作らせたものだし戸籍関連もイヴァーライル王国で作ったからオールクリアだ」

「はい、言いたいことはそこじゃない」

 エーヴィアは特に凄いことじゃないと言いたげにティンにパスポートを押し付けるとティンはにこやかにいいたいことがそこではないと返す。だがこれ以上の追求は恐らく無理と判断して黙りこんだ。

「さて、それじゃあティン。此処からは飛行機で一旦近くの街へと移動し、そこからまあ来るまで帰国する予定だ」

「直接イヴァーライルへは行かないんですか?」

「行けないんだよ。イヴァーライルには空港が無いし、隣の港町にも空港が無いから森を抜けた先にあるケモスタームシティの空港まで移動する必要がある。そこから後は車だな。一応連絡つけて迎えは寄越してあるからその辺については問題ない……でだ、ティン」

 と言ってエーヴィアは既にティンとしては見慣れてきた例のバッグを取り出すと。

「ラストスパートだ。凱旋祭直前までチラシを配って来い」

「マジですか。此処に来て宣伝ですか。ちなみに此処で?」

「此処でする必要は無い、だから次の空港からだ。分かったならさっさと飛行機に乗るぞ。いい加減疲れた」

「まあ、もう夕方ですしね」

 ティンは決して頭から納得と言うことはしなかったが、取り合えず事情と言うものを飲み込んで一行と同じ飛行機へと乗り込んだ。

「ティン殿は飛行機は初めてですか?」

「そう言えばそうですね……ヘリや飛空魔法で移動したことはありますがこれは初めてですね」

「ほほう、ティン殿はそれほど空の旅に縁があるのですね」

 飛行機へと乗り込み、ティン達一行は指定の椅子へと移動する。その際、シャガーはティンの言葉を興味深げに返す。

「しかし、あまり興味がないご様子だ。こう言う旅客機に乗るのは初めてでしょうに」

「ええ、確かにそうですがあたしももう19ですよ? いい加減こんなので一々反応しませんよ」

「ですが御覧なされ。23のいい年の女性があのように興味津々と彼方此方を見ておりますよ?」

 シャガーは含み笑いつつ指定席に座るとエーヴィアへ手を向ける。言われたティンは確かに見た目は仏頂面なものの、指定された席を前に座ろうともせず飛行機の内部と言うものを物珍しそうに見渡す金髪長身スタイル抜群の美女がそこに。

 そしてかの美女ことエーヴィア女王はやっと自分に注目が集まっていることに気がついたようで。

「何だ、人のことをじろじろと」

「いえいえ、陛下は本当に愛らしい方だと。貴方様に愛される殿御はさぞや幸福でしょうな」

「言っている意味が分からん。と言うか大体23の女をふんづかまえて可愛いとか正気かシャガー、いい加減年か? 人を幼子みたいに言うな」

 その幼子のような反応をする23歳は何処の誰ですか、とティンは決して口にせず心だけで思い瞳に宿らせて女王を見つめる。その視線にも気がついたようで。

「何だ、ティン。その目は」

「いえ、何でも」

 言ってティンはただ黙って指定席に座り、エーヴィアも続いて座り込んだ。やがて飛行機が動き出すとエーヴィアは感動した様子で外を見てティンは心底つまらなそうに夕日を、いや黄昏を見つめていた。

 飛行機は空を飛び、雲をつきぬけて黄昏から夜の闇を切り裂いていく。そんな絵面を見ていたエーヴィアは。

「凄いなティン。飛行機と言うものは、本で幾らか読んで知ってはいたが実物は違うな」

「はあ、そうですか」

 表情こそは無表情を貫き、声も何とかと言った様子で平静を保っている様であった。しかし逆に言えば無表情を貫かねば年端も行かぬ少女のように頬を綻ばせ、声を抑えなければはしゃぎ立てる娘のような声を出してしまうからに他ならない。

 だがそれに答えるティンの声音は酷く落ち着いていて、と言うよりも興味が完全に失せているものだ。

「何だ、随分素っ気無いな」

「いえ、特には」

 それが素っ気無いと言う、とエーヴィアは心内で返して完全に気が抜けてまどの外へと目を向ける。

 やがて飛行機は目的の空港へと着陸し、一行は飛行機を降りてホテルへと向かい一晩泊まるとティンを残して二人はイヴァーライルからの迎えの車に乗り込んでいった。残されたティンはさて如何するかと思案すると行き成り人と接触事故を起こしかける。

「っと、ごめんごめん」

「あいやこっちもよく前見てなかったし悪いね」

 みれば前が見えなく程大きな紙袋を抱え込んでいる様子。そんな人間を前にしてぶつかりかけたティンは謝るために頭を下げ、そして相手の顔を視認しようとして向こうも同じことをしようと大きな紙袋から逸らしてこちらを見て。

「……え?」

「……は?」

 互いに見合って、硬直する。何故ならお互いにその顔は完全に既知であったからだ。二人は互いに見詰め合ってその名を探りあい。

「あんた、リフェノ?」

「あんた、ティン?」

 口にしたかつて神威を持って神剣の神楽を演じていた対戦相手のその名を口にして。

「って、何でここに!?」

「あ? あたしが何処で何して様が勝手だろうが……ぁむ」

 言ってリフェノは手にしていた肉まんを口にする。ティンはホテルで一応朝食は取ってはいたがそれでも美味そうに大口を開けてもっぐもっぐと食べているシーンを見ているとどうしても欲しくなると言うもので。

「んだよ、物欲しそうに見てもやらねえぞ?」

「いや要らん、自分で買うから何処で買ったか教えてよ」

 ティンの返しにリフェノは後ろを指差したが、その先に肉まんが買える所なんて何処にも見えなかった。

 んじゃまた。

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