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かつて呪われた国

 ティンは老紳士に言われたとおりに持って来た騎士服を着終えるとその瞬間誰かが部屋に入って来る音が響く。

 見れば外に待機してたであろうメイドが部屋に入ってきた。そして有無も言わさず「失礼します」とだけ言うとティンを囲み。

「え、ちょ、何!?」

 ティンを抑えるとその髪にスプレーで水をかけ、髪を梳き始める。行き成りの事でティンも驚いて唖然と自分を身体を弄られて行く。気が付くと寝癖やらで何やらで荒れに荒れていた金髪はあっと言う間に黄金の如くの輝きを産み出す。

 ティンが戸惑っている間にメイドたちはささーっと消えてしまった。ティンはハテナマークを撒き散らして外を出ると別のメイドが待ち構えており。

「こちらでございます」

 と言われるがまま案内される。廊下の内容は簡単に言うと洋風の城内だ。まさしく、こういう場所にこそ今ティンが着ている騎士服が合うのであろう。

「食事は如何されますか?」

「肉!」

 ティンは慌てて口をつむぐ。何時ものノリでつい自分の好みを口にしてしまい、周囲を見渡して怒られるのではないかとおろおろするが。

「となると肉料理なのは洋風でございますね。かしこまりました」

 と前のメイドは静かに返す。と、そんな風に話してると。

「こちらが食堂になります」

 言われるがままにティンは食堂の中へと入る。

 中は洋風の豪華な王城の食堂と言う感じである。長いテーブルにかけられた長くて真っ白なテーブルクロス、天井にはシャンデリアなどの装飾もされており、ティンにとってはテレビの中でしか見た事がない光景が広がっている。そして、その中に居たのはさっきの老紳士に赤い髪のメイド、そして金髪で長い髪の女と同じく金髪で短い髪の女。そして短髪の方が。

「とっとと座れよ」

 言うとトーストを齧る。長い金髪の女は無言のまま食事を続ける。

 長い金髪、と言っても浅美ではない。浅美が可憐な野に咲く花ならこっちは丁寧に育てられた美しい花だ。同じ金髪ロングでも此処まで違うと少し吃驚だ。

 ティンは男性使用人が静かに椅子を引いたのでそこに座り込む。すると目の前に焼かれたトーストとベーコンエッグとレタスが盛られた皿がティンの目の前に出される。

 その隣にはナイフとフォーク。ティンはそれを見て「うぅ……」と唸った。理由は一つ、一話を読むのだ。そう、ティンはテーブルマナーを教わった事がない。ナイフとフォークを出されてもどうしようもない。

「何だお前、ナイフとフォークを使った事ないのか? おい」

「はい」

 とティンの後ろから両の手が出て来てティンの手を掴む。後ろを見れば先程まで金髪ショートの後ろに立っていた赤い髪メイドがいつの間にかそこに居る。そこでやっと金髪ショートの後ろで待機していた赤髪メイドが消えている事に気がついた。

 と、驚くティンをスルーし。

「フォークとナイフの持ち方はこうでございます」

 と、ティンにその持ち方を手を取って教えて行く。

「ベーコンエッグなどの切り方はこう」

 言いながら今度は使い方の指導もしていく。

 ティンも彼女に導かれる様に何とかナイフとフォークを使って食事をしていく。

「そういやお前、肉食いたいんだったか?」

 と金髪ショートはコーヒーを啜りつつ指を鳴らす。すると男性使用人が無音で現れ。

「こいつにハムステーキを食わせてやれ」

「かしこまりました」

「え、良いの?」

 ティンはやっとの事トーストにベーコンエッグを乗せると顔を上げる。

「別にいいさ。私は喧しいのは嫌いだが退屈も嫌いでな。来る者拒まず、去る者追わず、客人には最大限にして最低限の持て成しを、ってな。

 つーことだ、気にせず喰えよ。自己紹介はその後だ」

「はぁ……」

 言うと金髪ショートはコップを置くと別にトーストを持ち、ビンの蓋を開けてトーストに塗りたくり、それを齧った。

 ティンもベーコンエッグの乗ったトーストを齧ろうとすると金髪ロングが。

「野菜も食べなさい」

 と言って来る。ティンは言われるがままレタスを載せ、ついでにケチャップもぶちまけて齧った。口に広がるベーコンエッグとレタスとケチャップの味わいにトーストの食感。朝食としては上出来である。

 そして静かに音を立ててティンの目の前に分厚いハムステーキが盛られた皿が出される。ティンは手に持っていたトーストを元の皿の上に置くとハムステーキの方を切り取り、口に運んだ。丁度よい肉厚に、焼き上げられたハムの味わいが実に香ばしい。

「お代わり欲しかったら言えよ、そんぐらいなら幾らでも用意出来るから」

 そう言うと金髪ショートの人はトーストの一欠片を口の中へと放り込んだ。ティンは半分くらい聞き流して覚えたばかりのナイフとフォークを駆使してハムステーキを食べている。ついでに思い出した様にトーストの方も食べる食べる。

 と、ティンがトーストも食べ終わり、ハムステーキの最後の一欠片も食べ終えると。

「じゃ、始めるか」

 と金髪ショートが切り出す。

「私はエーヴィア・デルレオン。この国、イヴァーライル王国の女王だ。ついでに言うと、このデルレオン公国の公爵城の城主でもある。デルレオン公爵っつーのは私の父、つまり娘の私は立場上公女……で良いのか?」

「いえ、女王陛下は立派な公爵です。戴冠式の前にきちんとその処理も行っています」

 金髪ショート――まあこの書き方をしていては地の文が殺されそうなので書き方を変更し――エーヴィアは隣の金髪ロングに聞き直すとそっちはそっちで素っ気無い返答をする。

 対して女王は答えに満足すると。

「そういうこった。この城は生憎と王城じゃない。が、幼少から住み慣れた城でな。基本は此処で寝泊まりしている。イヴァーライル本国王城はまだ改装中らしいしな」

「は、はぁ」

「まあ、噂は聞いてると思うがうちの国はイヴァーライル本国丸ごと呪われていた事があってな、そのおかげで今この国は相当に寂れている。呪い自体は数年前に浄化されたから良いんだが……まあ、どうでもいいか。

 まあそんな訳で、私がこの国のトップなわけだが……お前が此処に着た経緯はそこに居る女」

 とエーヴィアが隣に座る金髪ロングの女を指さす。すると彼女は静かに席を立ち。

「はじめまして、ラルシア・ノルメイアでございます。この国で客員剣士兼女王の補佐をさせていただいております。国境付近で倒れていた貴方を此処まで連れ込み、寝床へと運ばせて頂きました」

「あ、ありがとうございます」

 と、ラルシアは見る人を癒すとても柔らかい笑顔で言った。その表情からはとても優しいそうで人当たりが良さそうな人柄を窺わせる。そんな風に思わせるような笑顔であった。

 そんな彼女を見てティンは頭を下げてお礼を言った。対して彼女は笑顔を崩さず「いえいえ、大した事なんてしていませんわ」と優しく返す。

(ラルシアさん、すごくいい人みたい。世の中、浅美みたいな人って結構いるんだ……)

「そんな訳で、一応部外者ってこともあるし武器は私が預かっている。暫くなら無料で宿も貸すし飯も食わせてやるよ」

「え、じゃああたし何かするんですか?」

 ティンは不安げにエーヴィアに質問をする。

「あー特に無いな。あるにしても私の暇つぶしの相手になってくれりゃそれで良いよ。んじゃ、説明は以上。城内は好きに探索して良いぞ。ただし、壊すなよ」

 エーヴィアはそう言うと席を立ち、食堂を去る。続いてラルシアも食堂を立ち去って行くのだった。

 そしてティンと一部の使用人達だけが残される。ティンは目の前の皿は空になったが、まだ残されたままである。さて、これからどうするかとティンは腕を組んだ考え始めた。

「んー……と……あ、ハムステーキお代わり!」

 考えた結果、ティンは取りあえず食べる事にした。ほら、好きに食って良いって言うし。



 ティンは食事を終えると食堂を出る。首を動かし、周囲の様子を観察する。そこは王城内の豪華な廊下、という感じだ。流石に国王が住んでいるだけあり甲冑の置物が廊下の端に並んでいるのを見ると色々と壮観である。

「ほえぇ……これ本物かな?」

 と、その内の近くに歩み寄る。よくみれば埃が被ってるのか、色が少しくすんでいた。

 ティンは触っても大丈夫かなーと指を近づけたりでも駄目だよねーと指を離してしていると。

「触っても平気ですよ」

 と後ろから声がかかる。吃驚して振り返れば大理石製の廊下の床を磨くメイドの姿がティンの目に映る。それではと触ろうとした瞬間。

「失礼します!」

 と押し退けられる。次の瞬間には三人のメイドが甲冑にスプレーを吹き付け、一気に磨いていく。洗剤で磨くと次はバケツから雑巾を取り出し水拭きをしていく。最後にメイド達のポケットに突っ込んである雑巾で空拭き。そして。

「それでは!」

 と絶妙なコンビネーションで次の甲冑を磨いていく。ティンは立ち上がると場所を移す。

 廊下を適当に歩くと今度は中庭に出た。案内板には“第二中庭”と書かれている。そこでは兵士達が声をあげて素振りをしていた。ティンはそれを見て。

(せいが出るなー)

 と、思ってたりしながら中庭を通る。

 ティンは再び適当に廊下を歩き、絵画が並んだ廊下、図書室、牢屋、武器庫、兵士の寄宿舎、客室に浴場などなど。様々な場所を渡って歩いて行く。

 やがて大きな椅子が三つも並んでいるやけに広い部屋へと辿り着く。所謂、玉座の間だ。

「ほえー、ひっろー……」

 とティンは感想を述べる。大きな三つの椅子もそうだが、奥の巨大な扉も凄い。あれは城門であろうか?

 とか思っていたら今度はとんでもない場面に出くわした。と言うか、出会った。今、ティンの目に、いや正確には部屋の中央に一人のメイドがいる。いや、今玉座の間を掃除中なのかメイドやら男性使用人やらが沢山いるが。しかしだからか、中央に立つ彼女が否応に目立つ。そう、それは先程ティンにナイフとフォークの使い方を手を取って教えた赤い髪のメイドだ。今、彼女はエアカスタネットでもやる様に手を叩き、大きな声で。

「さあ早く動いた動いた! テキパキ! テキパキやるんだよ!」

 と周囲の使用人達に声を送る。彼らは答える事なく絨毯の埃を取り除き、或いは巻くってその下を磨き、壁を磨いていく。

 しかしその様子にティンは呆気にとられる。間違えようもなく彼女は食堂で自分にナイフとフォークの使い方を手を取り指導したメイドなのであろうが、あの時とはあまりにも別人過ぎた。清楚な感じも静かな雰囲気もそこにはなく、何処か気品にあふれ、凛としたメイドが立っている。

「あたしらの仕事はやっても無くらならい、増えるだけ! 代わりは幾らでも居るんだから余計なフォローはいらない! 見落としたら後の誰かがやると思って次の仕事に移る!

 ほらそこ! いつまでも同じ所でもたつかない! はいそこ! 人のフォローより自分の仕事! ああもうそこ! 手際が悪い、貸せ!」

 と叫んでメイドの一人からモップを奪い取ると素早く床を擦りながら前へと進み、身を返して磨きながら戻って来るとモップを元使ってたメイドに押し付け。

「もっと腰を入れて磨け!」

「は、はいっ!」

「ったく……こらそこ! まだ掃いてないだろうが! しっかり確認しろ! ん、おや御客人ではないですか」

 と、そこで彼女はティンに気付いた。そこで周囲でせわしなく働く人々を放置して彼女の元へと歩み寄る。

「すいません。今日は大掃除の日でして、見ての通り大忙しなんですよ。あ、あたしはこの城のメイド長を務めているルジュ・レッドールヴと申します」

 とはきはき喋る割には礼儀正しい仕草でティンにお辞儀をする。

「此処って玉座の間、ですか?」

「はい、そうですよ。暫く掃除してなかったのでこの期に一気に大掃除してしまおうと。ところで玉座の間にどんな御用入りで? あ、玉座をご見学します?」

「え、良いの?」

「構いませんよ。皆大掃除中だし、流石にあたし無しで動けないような連中は此処には置いてませんし」

 と言うとティンを玉座まで案内を始める。と言ってもすぐそこにあるので案内も何もないのだが。

 遠目に見ても迫力満点の玉座が近付くと更に迫力が増す。正に王が座るに相応しい椅子とも呼べるだろう。

「これが、玉座……」

「座ってみっか?」

 ティンとルジュは揃って「はいな?」と声のする方へと視線を動かすと、そこにはこの城の城主にして女王陛下であるエーヴィアが立っていた。ルジュは慌てて頭を下げ。

「い、いつ間においでになられたんですか!?」

「今さっき。で、どうするティン。座ってみるか?」

「えと、良いん、ですか? あれ、あたしの名前言ったっけ?」

「ああ、鞘に付いてたぞ。ティンって。後、別に良いよ。座られた瞬間制圧ーとかそんな事が起きるわけないし」

 と言われ、ティンは恐る恐る玉座に腰を落とす。そこから見えるのは、とてもいい眺めであった。

「お、お、おおおッ!」

 と思わず叫びだしてしまう。眼下で尚も働き続けるメイド達。一際高い所に置かれているその玉座は、部屋を一望出来る為色々と良い眺めである。

 ティンは堪能し終えると腰を上げて立ち上がる。

「もう良いのか?」

 とティンの返事を聞く前にエーヴィアは玉座に座り込んだ。その様は非常に似合ってると言うか、しっくり来ると言うか、長い間そこで過ごしたとさえ言えるようだ。

「しっかし、この城此処まで改装したが良いのかねぇ」

「良いと思いますよ、陛下。陛下がお住みになられているのですから、此処が王城でも良いくらいです」

「……まさか、母さんはそれを見越して公爵城に玉座を置けなんて事を言い出したのか?」

 等とティンにはちんぷんかんぷんな会話が展開される。何だか空気化してたティンは部屋から出て行った。

 次の廊下を進むと今度は“第一中庭”と書かれたプレートの中庭に出る。中央には簡単な教会堂のような物が建っている。その側に小さな部屋があった。

(中庭の管理人小屋かな?)

 ティンはそんなことを思いながら部屋に近づく。扉のプレートに『ラルシアの仕事部屋』と書かれていた。

 ラルシア。記憶が合っていればさっき紹介された女性だ。ティンをこの城まで運んだ人。ならばきちんと挨拶しようとティンはドアノブに手をかけ、ドアを開けようと。

「ノ!」

 と、声が響く。続いて。

「ック!」

 更に声が響き。

「を!」

 間を置かずに。

「し!」

 おまけに。

「ろ!」

 と、凛とした声が間を置かずに響き渡る。声から察するに、発言者は間違えようも無くラルシア・ノルメイア本人である。言葉をつなげると。

(ノクをしろ? いや、ノックをしろ? んー突然入ったから驚いたのかな?)

 と言う事でティンは改めてノックをする。すると暫くして「どうぞ」と言う声が聞こえたので中に入ってみる。

「お邪魔しまーす……」

 部屋の様子はさながら事務室である。置かれた大き目の机、そこに築かれた紙の塔、その中央にラルシアが携帯電話を弄りながら椅子にふんぞり返るように座っている。

「ぼさっとするな、そこの貧乏人」

「……え?」

 ティンは我が耳を疑った。今この女は何と。

「とっとと座れと言っている、社会のゴミ」

 地の文さえまともに書かせないほどの速さで彼女はティンに座る様に促す。ちなみにこの発言はずっと携帯電話を弄りながら行っている。

「……あのう」

「何ですか冒険者気取りのゴミ虫が。人が座れと言っているのが聞けないのですか? それともその耳は飾りかしら? それなりに良い耳鼻科を紹介してあげましょうか? 尤も、貧乏人風情に診察を受けられるような場所ではありませんがね。ああ、勿論(わたくし)はびた一文払う気は無いので。紹介しただけでも感謝して欲しいくらいですわ」

 ティンはあまりの罵倒の掃射に驚くしかなかった。と言うか誰だ、こいつを優しそうとか人当たりが良さそうとか言ったのは。

 とラルシアは携帯を閉じて音も無く机の上に放り投げる。

「……えーと、貴方どちら様……?」

「ラルシア・ノルメイアお嬢様ですが、何か? 本気で耳が悪いの? それとも記憶障害? 脳外科でも紹介しましょうか? ああ、でも貴方みたいな貧乏人風情に払える訳ありませんわね」

 ティンはいよいよ頭が痛くなる。思わず「あれーこんな人だっけー」とかぼやいてしまう。すると。

「ああ、さっきのあれ? あんなの演技に決まっているでしょう? 世の中、あんな気の良い人が居る訳が無いでしょう? 貴方本当に頭大丈夫? 脳みそはある? 障害持ちかしら?」

 お嬢様、流石に暴言が過ぎます。書く身になって下さいませ等と言う作者の願いなど無視して暴言の限りを飛ばすお嬢様。ティンさん、いい加減切れても良いと思うよ? 当の本人はあまりの鮮やかな暴言の嵐に呆気に取られて呆然と立っていた。

 ちなみにそんな気の良い人は探せば居ると言う事をティンは既に知っているのです。

「え、っと……その……あ、あたしを此処に連れて来てくれてどうも」

「ああ、そのこと。別に気にせずとも良いわ? 国内で身元不明ののたれ死にが出られて変な噂が立つくらいならただ飯の方が遥かに安いと言うものですわ。こちらにも見殺しにするよりも遥かに良いメリットがあっただけの話。それに女王陛下も暇潰しの相手を探していたようですしね。

 それよりもお前は何時まで突っ立っているの。とっとと座れこの社会の屑」

 言われてティンはやっと部屋に足を踏み入れ、適当な椅子に腰を下ろした。

「それと、あたしはティンって言う名前があるんだけど」

「へえ、苗字は?」

「……はい?」

「ですから、苗字。家の名はと聞いているのです」

 ラルシアは暇そうに自分の髪を弄りながら書類を読み進めて行く。

「無いよ。あたし孤児だし。孤児院の名前が苗字かな?」

「はっ、親無し。親無しの貧乏と来ましたか。どうせ金が無くなった無責任な親に捨てられたのでしょう?」

 ティンは思わず押し黙る。確かに自分を救う為とは言えお金を全て失って自分を捨てた事実には変わりは無い。

(確かにその通りだし、別に親を擁護する気も無いけど……何かなぁ)

「ほら黙った。事実なのでしょう、親無し」

「いや、うんそうだけどさ……そう言うのを好き好んで言うってあんた結構性格悪いね」

 ティンは苦い顔をしてラルシアに言葉を投げてみる。対して彼女は不機嫌そうに。

「はあ? 言わせてる貴方が悪いのでしょう? 割り込みもせず聞き手に徹し人に問うだけ、ならば何を言われても平謝りするか黙り込むのが貴方の仕事。文句があるのなら言って御覧なさい」

「いや矛盾してない、それ」

「言い通せば矛盾も正義。それがこの世の理と言うもの。貴方がそれを指摘するのはそれこそ矛盾と言うものですわ」

 と、ティンからすると訳の分らん理論を展開される。この部屋に入ったこと自体を既に後悔しているが此処で引き下がれば余計に罵倒されてしまうのだろうと思うとそれも嫌になると言うか億劫だとティンは思い、仕方なくも付き合うこと選んだ。

「まあいいよ。別にあたしが孤児なのは親が捨てたせいだしね」

「あら、両親を憎んでいるのかしら?」

「べっつに。どうでもいいよ。あたしは孤児院で楽しく暮らしてたし……今はちょっと離れてるけど、この境遇だって嫌いって訳でもないし」

「親が如何でも良いと言うことには同意ね。残念ではあるけど、わたくしはその意見について貴方と共感出来ると言わざるを得ない」

「そうそう、あたしとしては寧ろ捨ててくれたから今ラルシアと話せてるってことでしょ? なら寧ろ感謝さえ出来るけど……面倒も置いてってくれたしなぁ」

 ティンは言って溜息をつく。でも、少し思うことがあった。

(でも、確かに喜べることかも。おかげで色々整理付いたかもしれないし……ラルシアに会えて良かったかも)

「……は、はあ? 気っ色悪いこと言わないで下さいます? 全く、これだから能天気の貧乏人は。頭に花壇でも作っているんですか? ただでさえ少ないお金をそんな事に使ってどうするの、この貧乏人が」

「でもこの口の悪さは無いなぁ……」

 ティンはまた溜息を付いた。と、隣の部屋からノックが聞こえ「入りなさい」とラルシアが言うと今朝ティンを起こした老紳士がお盆を片手にそこにいた。

「お茶をお持ちいたしました」

「ええ、ありがとう」

 と、ラルシアが返事する間に老紳士はラルシアの前に紅茶を置いた。そしてティンの方に向き直ると頭を垂れ。

「自己紹介が遅くなって申し訳ございません。わたくしはノルメイア家の執事を勤めているデュークと言うものでございます。お嬢様が生まれた頃よりお側でお仕えさせていただいております。

 さて、ティン様は紅茶で宜しいでしょうか? お頼みとあらばコーヒに緑茶に烏龍茶もご用意出来てございます」

「え、えっと、紅茶で」

「かしこまりました」

 と言うとデュークはティンの前に小さなテーブルを用意するとカップに紅茶を注ぐ。

「砂糖とミルクもございますが」

「えと、その……紅茶初めてで」

「左様でございましたか。では角砂糖とミルクの詰まった容器を置いておきますので申し訳ありませんがティン様のお好みに合わせてお飲み下さい」

「は、はい」

 とティンのテーブルに角砂糖とミルクの容器が詰まった皿が置かれる。一先ずティンはよく分からないのでそのまま紅茶を飲むことにした。

「あ、美味し」

「それは良かったです。茶菓子にと思い、ホットケーキも焼いて来ました」

「エクセレント。上出来だわ」

 とラルシアが紅茶を啜りながら自分の執事を褒めた。デュークはと言うと無言で頭を下げると別室に向かい、直ぐにホットケーキを持ってくる。

 そしてティンと顔を合わせ。

「申し訳ございません。お嬢様は少々口が悪いかとは思いますが、何分最近は仕事が忙しく、軽い口を叩く友人が不足していたのでございます。お嬢様は従来の性格上、何と言いますか、軽く言い合えるご友人を所望しているのです」

(いやいや、少しじゃない少しじゃ)

 ティンはデュークの台詞に心で突っ込んだ。柔らかい笑顔で諭されるように言われてはティンも流石に突っ込む気が失せる。

 彼はそんなティンの心情を知っているのかいないのか、そのまま続けていく。

「しかし、それはお嬢様自身が見つけたがっており、我々従者にそれを求めてもいないし、我々が見繕ってもお嬢様はお喜びにはなられません。ですが、出来ればお嬢様のお言葉を軽く流してお付き合いして頂きたいと、わたくしは思っておるのです」

「は、はあ……あの、本人目の前にいるけど、言って良いの?」

「構いませんよ。否定もせず、肯定もしないということはお嬢様は肯定しているのでございます。ですからお気にせず」

「無駄口を叩く前にする事があるでしょう。ホットケーキが冷めてはエクセレントと呼べなくってよ」

 デュークは無言のままティンのテーブルの前にホットケーキを置くとそれを綺麗に切り取って小皿に分ける。

「バターとシロップはいかがなさいますか?」

「バターは何時もどおりでシロップ多めに。少し甘いのが取りたいわ」

「ではその様に。ティン様、バターとシロップはいかがなさいますか?」

「え、ええっと……普通で」

「かしこまりました」

 そう言うとデュークは二つの更に盛られた湯気の立つホットケーキにバターを乗せ、シロップをかけて行く。

「さあどうぞ、熱いのでお気をつけ下さい」

 言われてティンは取りあえずホットケーキをさっき教わった様にフォークで抑え、ナイフで切り取り、口に運ぶ。ちょっと熱かったが、紅茶で慣れていたので慌てるほどではない。

「ん、美味い!」

「ええ、そうね。何時もながら見事な味ですわ」

 とラルシアは紅茶を口に運ぶ。ティンもちょっとシロップが甘過ぎたかな? と思って紅茶を口に啜ってみるとあら不思議。口に残った脂っこい甘さが流されていったではないか。

「おお、これ紅茶に合う! 合うよ!」

「本当に。茶菓子とはよく言ったもの。甘いお菓子に甘さの無いお茶はまさに黄金のコンビね。パーフェクトよ、じい。何時もながら美味しい茶菓子をどうも」

「いえいえ。お褒めに預かり、光栄でございます」

 と二人がお茶を楽しんでいるとそれをぶち壊すように携帯が鳴り響き、ラルシアはパッとそれを取って。

「はい、ラルシア・ノルメイアでございます! はい、はい! ええ、何時もお世話になっています。いえいえとんでもない! 私こそお世話になりっぱなしで。はい、はい、はい勿論! あれでございますね? かしこまりました、直ぐに部下に資料をお送りしますので、はいそれでは」

 と、ラルシアはこの間、先程ティンを騙し切ったような素晴らしい笑顔で言い切った。見ていてさっきの調子を見れば気持ちが悪いほどである。

 さしものティンを唖然とそれを見ている。ラルシアは電話を切ると音も立てずに携帯を机に上に滑らせる。

「ふぅ、こっちは昼前の茶を楽しんでると言うのに、気の利かない連中だこと」

 といって再び椅子に深く座り込む。とまた携帯がなり始め。

「はいもしもし、ラルシア・ノルメイアでございます! はい、はい! ええ、こちらこそ何時もお世話に、え、今からで? 分りました。それでは少々お待ちを」

 とラルシアは電話を切ると舌を打った。

「野郎……いきなり無粋な真似を」

「直接交渉でございますか?」

「ええ。じい、直ぐに傭兵を見立てて。私は準備をして来ます」

「しかし、今からですと時間が」

「多少遅らせても平気ですわ、あんな奴ら……」

 と言い掛けてラルシアはホットケーキと紅茶を堪能しているティンを注視する。

「ねえ、貴方。確か剣を持ってたわね」

「ん、そうだけど」

「腕に覚えは?」

「えっと……そこそこ?」

「じい」

「かしこまりました」

 と、デュークは言うと同時に何処から取り出したのか、青白い剣を抱えている。

「外に出なさい。そして、剣を振って見なさい」

「え、なんで」

「つべこべ言わずに出ろこの貧乏人ッ!」

 と行き成り早口で捲し立て、ティンを部屋に追い出してデュークが持っていた剣――シルバーナイトソードを押し付けるように渡す。

 ティンは行き成りのことでよく分からず、渡された剣を引き抜くと――思わずよろけてしまった。

「貴方本当に剣士!?」

「だ、だってこの剣、何時も使ってるのよりちょっと重いんだもん!」

 そう言うと何時もは上段に構える剣を下段に構える。そして、試しに切下げ、切り上げ、薙ぎ払って切り返しにスマッシュッ! と、剣を適当に振り回すと重さに慣れたのかくるくると回して鞘に収めた。

「よし、ティン付いて来なさい!」

「へ、え、なに、どう言うこと!?」

「仕事ですわ。その剣は仕事の報酬の一つとして今は貸してやる。ほらッ!」

 とラルシアは素早く自分の財布から一万en札を二枚取り出してティンに押し付ける。

「前金よ。確りと働きなさい」

「え、え、でもさっきじょー王様は働かなくて良いって」

「ではホットケーキと紅茶の分よ。後、私のことは以後お嬢様、及びラルシアお嬢様と呼びなさい」

「な、何で」

「返事は“はい、分りました”復唱ッ!」

 とラルシアは少しドスの聞いた声で叫び、ティンは思わず。

「は、はい、わかりました」

「もっとはっきり言えッ!」

 とラルシアが怒鳴るのでティンはやけくそ気味に。

「はい、分りました!」

「後仕事中の私語を一切禁じます。質問の一切も禁じます。私の許可無く喋る事を一切禁じます。返事は!?」

「はい、分りました」

「宜しい。後剣は何時でも抜けるようになさい。寧ろ常時抜けるようにして置きなさい。何か変だと思ったら直ぐに剣を抜いても構いません」

「え、なんで」

「誰が口答えを許した、返事はッ!?」

 ラルシアからまるで何かが爆発したかのような声が響く。ティンは思わず「はい、分りました!」と返した。

「後、私が貴方の名を呼んだら……そうね“イエス、マイロード”と言って私に仇為す者を全て斬りなさい。良いわね?」

「はい、分りました。ラルシアお嬢様」

 ティンはよく分からんが渋々了承する。対するラルシアはその返答に満足すると魔法陣を展開し、その中にティンと一緒に入り込むと。

「転移」

 一瞬にして二人が消え去った。

 ども、やーです。やっと出せたよ、ラルシアお嬢様。ついに出せた。しかし、出て来て早々放送禁止ぎりぎりの暴言は止めて下さい。作者を殺す気ですか、彼女は。止めれば良いって、脳内にキャラを降臨と言うか憑依させて書いてる私としては無理。あれは私の意志じゃない、ラルシアお嬢様が勝手に喋っているんだ!

 それではどこかで。

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