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鋼鉄仮面の裏

 頭上に発生した竜巻が闘技場の戦場に叩きつけられ、巨大な爆風が渦を巻いて砂塵を巻き上げてティンを蹂躙する。

 エーヴィアはこの状況を目を見開いて驚き、思わず席を立つ勢いだ。

「おい、これは如何言う事だ……何故、あの騎士はBランク級の魔法を」

「何でって、使えるからだろうが」

「使えるって、あれは大気中の空気を集めて風を作る。そこそこ多くの魔力も要るしある程度の修練だって必要とする。剣士が気軽に撃てる魔法じゃ」

「うちのメタナンは文武両道だからなぁ、こんなど田舎の騎士で終わらせるには勿体無いくらいだ」

 デレックス国王はそ知らぬ顔でそんな事を言い、エーヴィアは苦々しい顔でもう一度椅子に座りなおす。

 そして戦場の上に陣取るメタナンは奇妙な違和感を感じていた。

「……何処に、いる?」

 竜巻を生み出したものの、その手に伝うものに、風に通した触角にティンの反応が何処にも存在しない。これはどう言う事か。サイクロンを撃ち込んだと言うのに、それで生み出した風に何の反応も無い。

 風を生み出してから約数秒、メタナンはやっと他の風に意識を向け始めると同時にティンの反応を掴む。そこは。

「む」

「そこかああああああああああああっっ!」

 まさか、とメタナンはとっさに思う。そう、ティンは足下を光の壁で覆う事で竜巻を蹴って移動していたのだ。

「風を、蹴って……いや違うな」

 竜巻の動きに抗わず、その動きに合わせて舞い踊るように空を翔け、遂にはメタナンの元へと躍り出る。

「風の中を、舞い踊ることで乗ったのか!」

 納得と同時にティンの剣が振り下ろされ、再びメタナンとティンの剣が交差する。

「私を相手に空での戦いを挑むか、よかろう!」

「うる、さいな!」

 ティンとメタナンの剣が空中で交差して火花を散らし刃と刃が互いに交じり合う。空中を舞台に、ティンは足場を光を物質化させることで固定化させて空中に立ってはいるが通常の地面のように滑ることは出来ない。

 彼女が使用しているこの魔法は、実を言えばあくまで光を物質化して足場を形成するだけのものであり、ぶっちゃけ言えば魔法ですらない領域の技術を使っている。

 よって、風の魔法で浮力を得ているメタナンと違い自由自在に空中を動くことなど出来ない。そんなティンに向けてメタナンは遠方から無数の風の刃を繰り出し、それを見たティンは即座に光を蹴って宙に跳び迫る風刃を飛び乗って飛び移ってメタナンへと突撃する。

 再び二人はお互いの剣を切りかわし、ティンは跳び舞うかのように空中から次々に斬撃を送り込むもメタナンの剣戟がティンの剣を見事に弾き落とす。

 ティンはその事実に舌を巻く。

 彼女の振るう剣は正しく鮮やかかつ繊細、芸術と呼ぶべき、いやそうとしか呼べないほどに美しい剣舞だ。絵を描くが如く見る者を魅せる剣術、剣技。

 だがしかし、相対するメタナンの剣術はどうか。はっきり言って彼の剣戟はそれも正しく芸術かつ優美。空中にて繰り出される剣戟は見た目の華奢な体躯に似合い過ぎるほどに美しくそして、ティンに迫るほどに鋭く繊細だ。

「く、そ……」

「ほう、中々だ……だが!」

 ティンは今まで、自分と同じ分野の剣術で競り合ったことはあっても負けた事は無かった。事実、自分の剣術に追いつけるのは今も昔も幼馴染ただ一人、その筈だった。だが、目の前にいるこの男は。

「ハリケーンスラストォッ!」

 空中に描かれる剣舞の最中、メタナンは烈風を纏った刺突を繰り出してティンにわざと防がせて無理やり地面へと引き戻す。螺旋に渦巻く風の刃が募って正に削岩機が如くティンを削り取るように地面に叩きつけ、ティンは瞬時に自身の脳内である計算式を展開する。

 落下速度の計算、物理衝撃の計算、受身から物理衝撃拡散の計算、それらを瞬時に行い地面に降りて如何に立ち回れば最もダメージが少ないかを時間が止まったと錯覚するほどに構築し。

 直に光の物質化を行い強引に力を受け流して地に降りると同時に力の流れから脱して舞い踊って衝撃を逃がして体勢を立て直し。

「逃がさん!」

 竜巻となったメタナンが逃げるティンへと更に追いすがるも距離が互いに詰められると同時にティンは両手で剣の柄を握り締めて腰を落として垂直に切り上げつつ跳び上がって。

「シャトルライッ!?」

 距離を詰めたと同時に繰り出される飛翔切りを同じく跳躍切りで斬り交わして先程のコンボを崩しに掛かるが。

「だが甘いッ!」

 メタナンは上昇の途中で自身をマントで包み消え去る。ティンは即座にその行方を探り、跳び上がった先で左肩上方を切り上げて真後ろにメタナンがその姿を現し。

「やはりそこかァッ!?」

「何ッ!?」

 しかし、予想を外した筈なのにティンの瞳はただただ分かっていたと言わんばかりに既知に塗れた瞳でティンは膝裏に光の物質化を細い棒のような形で具現化させて、まるで鉄棒に膝をかけているかのように光の棒でぐるりと回転してそのまま自分を地面目掛けて投げつけてそのまま地面へと降り立つとすぐに足を地に着け。

 そこへ宙を舞うメタナンは容赦なく襲い掛かり、滑空飛行から己の腰の横へと自身の剣を置いて胴抜きの構えを取り。

「One」

 ティンはターンのステップを取り。

「Two」

 剣を一回転、握る手を緩く軽く。

「Three」

 一歩踏み出し、メタナンと向き合い。

「Get Ready」

「ぅらぁッ!」

 完全に剣の射程に入った瞬間、銃弾が放たれるかのごとくメタナンの胴抜きが炸裂し。


 ――刹那、ティンが消え失せる。


「なにッ!?」

 音速に至っていた、風を操り大気の邪魔を無くした完全なる音速に至りそれさえ超越せしめる一刀。しかしティンはそれさえ既に知っていたと言わんばかりの瞳で見つめながら見事に消え失せたのだ。

 剣を振りぬくと言う見るものによっては少々間の抜けた動作を持ってメタナンは地面に降り立ち、直後風でティンの位置を察知してその過程で飛来する剣を感じ取る。

 ティンはスケートのように姿勢を低くしてすべり回りメタナンの背後を取ると同時に持っていた剣を投げつけティンもまた同時に駆け出す。

 メタナンは振り返ると同時にその剣を弾くと同時、彼はその仮面の裏で目を見開く。何故ならティンは即座に加速魔法を用いて移動し、空中で弾かれた剣を掴み取ると。

「トリックオブトリック、取った!」

 叫びながらメタナンの無防備な後頭部を切り裂き、ティンは地に降り立って距離を取る。しかし当のメタナンは一歩前に進んで蹲っていた。どうやら咄嗟に身を屈めて今の攻撃を避けたようだった。しかし、そのおかげで彼の後頭部にあった仮面の留め金が切り裂かれてベルトがだらりと落ちる。

 メタナンはその状態で少しの間だけ立ちすくんでいたが、とうとうそのままではいけないと思ったのか。

「おのれ……」

 その鉄仮面を地に落とし、ぷるぷると震えながらその顔を見せる。その、顔を見た瞬間。



「ま、負け、た……?」



 ティンは思わず呟いて、負けを認めた。いや、本当に色んな意味で負けを認めざるを得なかった。

 何故か。それは。

「えと、あんた……その、面は、女、なの? いや声は」

「ええい五月蝿いッ! 私は女などではない!」

 遂に剥かれたその姿は、なんと言うか。その素顔は、まるで――女と言うか、可愛らしい少女のような素顔がそこにあった。それも、ティンが見た瞬間に自身の負けを認めるほどの。

 怒りを表すその顔でさえ、幼い少年のように中性的な童顔を持ってしては何処か迫力さえない所か寧ろ可愛らしいとさえ思わせる。確か年齢的に彼は青年……見た目的には完全に少年か或いは愛くるしい美少女がそこにいた。

 王族用の観戦席にて。

「え、あれ、え、おい、どういうことだ!?」

「だあああああはっはっは! あの女、メタナンの仮面を切りやがった!」

 また席から立ち上がり、エーヴィアは腹を抱えて笑うデレックスに更に詰め寄り。

「だから、あの騎士は一体」

「ん、ああ。あいつはあの通り、すっげえ童顔でな。まるで女みたいだろ? そこらの女よりは可愛い顔してるだろ?」

「いや、まあ確かにあれで男なのが勿体無いと言うかある意味正しいいや違う!」

 エーヴィアは表情を次々に変えていくと最終的には疲労の色を見せた。

「まあ確かにあれで男なのがある意味正解かもな……おもしれえし」

「いや、まあ……面白いが」

 最終的に溜息を吐いてエーヴィアは椅子に戻る座る。

 果たして試合の方はと言うと、ティンもティンでしばしどうすればいいのかと立ち尽くしていたが。

「風よ!」

「ってえ、あ!」

 メタナンの叫び応じて風が刃となってティンに炸裂し、咄嗟に回避して頭に手を置いて。

光子加速(フォトンブースト)二倍速(ダブルアクセル)!」

「この魔力の流れ、見切りの魔眼か!」

 二倍速で動くティンに対してメタナンはそれでも瞬時に対応して踏み込んでティンと刃を交わす。しかしティンは即座に。

(二倍速じゃ駄目だ――なら、もっとギアを上げれば!)

 更に魔力を頭に送り込み、体を纏う光子による身体加速を更に加え。

光子加速(フォトンブースト)四倍速(スクエアアクセル)!」

「なっ、にぃぃッ!?」

 更に素早く、光子と一体化したティンは通常時の四倍速でメタナンに切りかかる。対するメタナンはその変化に、目を見開いて驚愕し、それでも彼女の剣舞にくい突いて見せた。

 だが、それは勿論デレックス国王も同じく。

「おい待てこら! どう言う事だこいつは!?」

「何がだ、デレックス陛下」

「あいつ、今何をした!? 何で、二倍速以上で動ける!?」

「動けるからだろうが。それ以上についてこちらも話せん」

 先ほどの立場は逆転し、デレックスの問いにエーヴィアは冷やかな返答を出す。しかし当然と言うかデレックスは一切納得しておらず。

「おかしいだろうが!? 見切りの魔眼は確か二倍速までが限界だった筈だろう!?」

「さあ……と言うより、あれは見切りの魔眼ではない筈だが」

 エーヴィアはそう言うと戦場に視線を戻す。

 今までより四倍速で動き剣を振るうティンに対し、メタナンは。

「しかし、高が四倍速」

 口にし、ティンに振るう剣に対して物怖じすることも引くことも無く毅然とその高速剣舞に見事くらい付く。

「タイミングを四倍速で合わせればいいだけの話だろう!」

 叫び、ティンの剣閃乱舞に少し遅れながらも切り交わしティンの織り成す縦横無尽に繰り広げられる斬撃を相殺し、それどころから拮抗さえしている。

 彼の口にしたことは確かに事実ではあるが、それを容易に実行せよと言われて実行できるものではない。それを簡単にやってのける実力に、ティンの脳は更にある答えを弾き出し。

「術式起動――」

 更に、より光に至り尚加速する為に更なる術式を連続で起動させる。魔力を送り込み、ティンの体が芯から構築が変更されていく。肉体が血肉と脂の塊から光へと、メタナンと切り結ぶ刹那にティンの体が変わっていく。

「随分と」

 しかし、未だ続いている剣と剣の交わりの最中に術式を起動させるなどメタナンが黙ってみている筈も無く。

「余裕だな!」

光子同調(フォトン・シンクロ)!」

 一瞬動きの鈍った、されども四倍速で動くティンに向けてメタナンは容赦なくその一刀を差込み、ティンはメタナンの剣を肩に受けながらも反撃の一刀を切り込んだ。

「な、にッ!? 貴様、肉体が!? いや、これはまさか!?」

 その光景を、自身の刃が体に食い込んだと言うのに臆せず切り込むその姿に思うところがあったのかメタナンは驚愕の表情から一気に冷めた視線に切り替え。

「体の一部を、光に変えたか……ならば」

「まだだ、光子加速(フォトンブースト)六倍速(シックスドアクセル)!」

 更に六倍速へと至り、メタナンは一歩下がりティンはなおも食い下がるがその瞬間にその目の前に再びマントが現れ。

「また目くらまし……えっ!?」

 マントを受けた瞬間、ティンの目の前が漆黒に包まれた。それと同時にティンの周囲そのものが暗闇の結界が展開される。

「な、何これ!? これは一体!?」

「闇を引き裂く銀河よ!」

 暗黒の空間にメタナンの声が何処からか響き渡り空間の中心に銀河の輝きが瞳の如く開かれ。

「怒涛の輝きを持って我が敵を切り裂かん!」

 直後、空間その物が両断され暗黒の結界そのものまでも。

「銀河、闇黒閃ッ!」

 一刀の下に全てが切り裂かれた。空間がずれ全てが消失してする。闇が晴れ、ティンが現れ。

「くっ、打点をずらされたか!」

「ぅ、ぁああああああああああああああッッ!」

 メタナンが振り向くと同時にその背中を通常時の六倍速で動く人間が撃ち抜くように蹴り飛ばす。

「これで」

 その刹那、宙に浮いたメタナンを追い駆け抜けて、持った剣を腰の横に置き。

「斬るッ!」

 迫るメタナンの体目掛けて剣を横薙ぎに一閃。正に一瞬の斬撃、故に“スラッシュモーメント”とも言うべきティンの秘儀が此処に放たれる。

 二人が交差し、地に立つメタナンは奇妙な感覚を持ってティンを見る。なぜならば、彼は今どこを斬られたのかが分からないからだ。まるで斬られたと言う感覚のみが消失しており、自身の身に何が起きたのかが理解出来ない。

 だからメタナンは首を動かしてこちらに背を向け続けるティンに声をかけようとして。

「無駄だ」

 逆に、声をかけられる。

「お前はもう、斬った」

 何を言っている、そう言おうとして自身の体に何が起きたのか、いや何をされたのかを悟った。と言うより、異変が起きた。

 首が、ずれる。まるで初めから首が取れていたかのように首がずれて、しかしその現象は認めぬと世界が宣言するように修正され。

 結果、メタナンは首がずれて落ちると言う不快感に襲われ気を失った。

じゃ、また。

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