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凱旋

 気付けば、ティンはデルレオン公国に戻っていた。理由はなんと驚きの、エーヴィア女王の居城がそこだかららしい。近くまではイヴァーライル王国の魔道師団が転移術式で戻してくれるそうで、王城内に軍用車などが集められ、デルレオン公国軍丸ごと一気に転移する。

 転移が終わり、ティンは軍用移送車から外を覗いて始めに見たのは、大きな門だった。まだ工事中の網やら何やらがかけられているが立派で大きな門だ。

「凱旋、門?」

 ティンが呟き、そして街の住民達がぞろぞろと出て来て道の端端に並んでいく。一体何なんだと思うと住民達が。

「女王陛下の帰還だ!」

「女王陛下!」

「女王陛下!」

「魔獣の巣を駆逐に成功したそうだ!」

「女王陛下、万歳! エーヴィア陛下、万歳!」

 そんな声が聞こえるや否や、次々に湧き上がる歓声に万歳三唱、果てには。

「英雄達の凱旋だ!」

「流石はイヴァーライルを守る最強の盾! デルレオン公国騎士団!」

「イヴァーライルに栄光あれ! デルレオンに栄光あれ!」

「デルレオン万歳! デルレオン神殿騎士団万歳!」

 吹き荒れる紙吹雪に、喜びに満ちた人々の声。更には凱旋門の上からもなにやら聞き覚えのある声から聞き覚えの無い歌が聞こえてくる。

「英雄たちよ! あんた達の戻る凱旋門を作れて、俺達は最高だ!」

 そんな声に導かれ、ティンは凱旋門の上のほうを見てみる。そこに見える、門の上で謳っているのは何とルジュだ。一体全体彼女は何を歌っているのかといえば。


「わーれーらーイッヴァーライルのたてーにしーてー、さーいきょーのほーこー! こーのーみーにかーえーてーーもーおーうをまーもるっ、のだー!」


 よく、分からなかったのでティンは車内の人間に。

「ルジュさん歌ってるのって何?」

「あれは確か、デルレオンの軍歌だな。多分凱歌のつもりなんじゃないかな? 確か、あれは凱旋時にも歌うそうだし」

「マジで。と言うか軍歌なんてあったんだ」

 そんな感じに一行はデルレオン公国公爵館へと戻っていき、そのまま解散となった。

「あーつかっれたー」

 エーヴィアは解散させるとほぼいつもの指定席とも呼べる玉座にどっかりと座りこみ、そこへマリンが歩み寄る。

「女王陛下、お疲れ様です」

「全くだ、凱旋パレードをやるなら事前に言え。魔法で帰らずにゆっくりと帰りながら兵達の体裁を整えたと言うのに」

「いいえ、あのような格好がよいのです。正に戦い勝利を収めた者達に相応しい衣装ではないでしょうか?」

「泥と血と汗に塗れた姿がか?」

 マリンはその答えににこやかな笑顔で頷き、そこにルジュとディレーヌもやって来て。

「おかえりエーヴィアちゃん、留守中実家は確りお母さんが守っておいたからね」

「あのな、母さん。あんたは前公爵夫人を名乗っているが曲がりなりにも事実上の此処の公爵はあんただからな? 留守を守るのは当たり前だろうが」

「もう、お母さんになんて言葉遣い。お疲れの一言は無いの?」

「そっちこそ、国の一大事を片付けた国王に言うことはないのか? デルレオン公爵卿?」

 お互いに言うだけ言うと肩を竦め合い、この場において沈黙し続けている者に目を向ける。それ即ち。

「でだ、お前に早速仕事だティン」

「あ、やっとあたしですか。連れて来られたのにガン無視なので如何すればいいのか分からなかったです」

「おい、マリン例の奴を」

 そう言うとマリンはティン的に物凄く見覚えのある鞄を手渡される。ティンは微妙な顔でその中身を見る。何と中身は紙の束であり、一枚取ってみれば懐かしの凱旋祭のチラシだ。

「……あの、陛下」

「んじゃ、宣伝よろしく」

「いやあの!? まだ宣伝をしなきゃいけないんですか!?」

「ったりめーだばかたれ。凱旋祭のことは世界中に広める必要があるからな」

 ティンの突っ込みは空しくあっさりと流され。

「あの、陛下、あたしそこまでコネがある訳でも」

「そうか、頑張れ」

「あの、ですから頑張っても無理だとって聞けよーおーい」

 ティンの言葉は途中から無視され、エーヴィアは退室していく。ティンもティンで呆れるように肩を竦めると鞄にチラシを押し込みなおした。そしてふとした疑問が浮かび。

「マリンさん、他の人達は?」

「と、申しますと?」

「ほら、烈也とか 女王陛下の彼氏さんとか、どうしたの? 何であの戦いに居なかったの?」

「それは……みなさん実は此処で療養中なのです」

「りょ、療養中!? い、一体何が起きたの?」

 マリンは少し目を伏せると代わりにルジュがやって来て。

「ティンさんが出張中に魔獣の巣の外側の攻略戦があってね、そんときに烈也さんと火之志さんが怪我と言うか、体を酷使し過ぎてね。それで一応二人とも此処で休んでるんだよ」

「そ、そうなんだ。お見舞いは」

「止めた方がいい」

 ルジュは苦虫噛み潰すように言う。その様子にティンはどうやら相当重症のようだ。恐らく、ティンのように体がズタボロなのだと。

「そう、か。そうだよね、あんな戦いじゃお見舞いどころじゃ」



「だって、いま恋人達のランデブータイムだから病室に行くだけ胃がむかむかする」



「そっちかよ!?」



 ティンは思わず突っ込んだ。



 そんなこんなで彼女は出戻るようにイヴァーライル本国へと来ていた。主な理由としては、瑞穂達がイヴァーライル王城を中心としているからである。決して恋人達の甘い空気になど当てられるのが嫌だったなどではない。

 そんなこんなである意味熟練の冒険者である瑞穂達に付いて行く事を選んだのだが。

「で、瑞穂は?」

「ちょっと、今はよしたほうがいい」

 対応したのは火憐だ。彼女は相当に難しい表情をしている。眉間に皺を寄せた表情を見せる。

「一体どうして? 浅美をボコッてるから?」

「浅美なら昨日ボコってたし、それも大騒ぎの大立ち回りで時を止めてまで取っ組み合いやってたよ」

「何やってんのあいつら」

「知るかよ」

 お互いに見合って溜息をついた。

「で、実際は?」

「今後の予定で超能力全力駆使で構築中」

「止めろよ!? あれ結構精神的にくるよ!?」

「いやさー凱旋祭ってやるじゃん? あれってイヴァーライル伝統的な2000年以上もの長い長い歴史を持つお祭りだって知ってた?」

「え、そうなの?」

 ティンは火憐からある意味吃驚な話を聞き、目を丸くする。と言うより、こいつ何故今の今まで自分が手伝っているお祭りの内容を知らなかったのだろうか。軽い概要すら聞いていないとは色々衝撃的である。

「おう、イヴァーライル王国で一週間かけて行われる盛大な祭りだ。それが此処10年以上、っつかうちらが子供の頃からやらなくなったからな。それが頑張ってもう一回やるって言うじゃん?」

「うんうん」

「歴史的瞬間過ぎて我らが瑞穂さんはえらく感動し、全力協力することにし、今現在うちらは各地のダンジョンを巡ってトレジャーハントしてんだよ」

「で、超能力全開状態で予定構築?」

「おう、おかげで気味が悪いくらい順調に進んでるよ。まるで人生の攻略本でも手渡された様な気分だ。あいつの言うとおりにしてりゃ、本当に言うとおりにことが運ぶからな」

「いや、それガチで人生の攻略本だよ……取り合えず、適当な時間帯に休ませてあげないと多分オーバーロードで精神的に相当くるよ」

「そう思ったが、当人まるで言うことを聞かないんだよこれが……」

 火憐は言いながらぽりぽりと頭をかき始める。

「んで何のよう? 言った様に瑞穂は猛烈に忙しい上に下手したらぶん殴り飛ばされるけど」

「ああ、また世界中に言って宣伝して来いって言われて、瑞穂についていこうと思って」

「あ、無理。うちら行く先、基本ダンジョンだから碌な宣伝が出来ないと思うぞ」

「そかー分かった」

 ティンは、これ以上居ても何か奇妙な問題に巻き込まれるだけだと思って早々に退散することにした。

 しかし、イヴァーライル王国本城の廊下をとことこ歩くが、現状の問題は何一つ解決していない。彼女は確かに冒険者をしていたが、しかし旅になれるほどしていたと言う訳でもないのも事実だ。

 たった一人によるあての無い旅。不慣れ、と言う訳ではないが冒険慣れしていると言うほどでもない。行った事のない街まで、一人旅。此処で人を募ってパーティを組んで宣伝活動も悪くは無いのであろうが。

 と、思っていた所でティンはラルシアとばったり出会った。

「ラルシア、今出張?」

「ええ。それが何か?」

「護衛いる?」

「私に必要あるとでも?」

 ラルシアは何でもないとばかりに返すが側に控えていたデュークがティンの耳元にそっと。

「ですが、暇潰しの相手くらいは置いておいても構わないでしょう、と言う事です」

「相っ変わらずめんどくせーなあいつ」

 ティンは呆れ気味に呟くと優雅にたたずむラルシアに向けて。

「更に宣伝して来いって言われたんだけど」

「広告料」

「でもあたし 他に行ける街も無いから取り合えず適当な理由でくっついていこうかと思うんだけど、いい?」

「では広告料を」

「よし、傭兵として雇われようか、うんそれがいい」

 ぎりぎりと二人は睨み合いの鬩ぎ合いを続ける。当然二人は笑顔だが威圧感が物凄い。そんな空気を無視するように。

「では、此処はティン様はラルシアお嬢様の弟子として勉強の為、師に付いて来た……と言う感じで如何でしょうか?」

「そうですわね、それが良いでしょう。では授業料を」

「月の最後に払いでいいよね?」

「貴方、随分返しが上手くなりましたわねえ」

 ラルシアは僅かに眉をピクピクと動かしながらティンにそんな事を呟き。

「教えてくれる人が上手なもので。言質も取ったしそれでいいでしょ?」

「ええ。女王陛下から雇い金を貰ってそのまま私に押し付けようと言う腹でしょう?」

「さっすが、師匠は伊達じゃないね」

 そんなことを言い合いながら二人は廊下を歩いていく。

ではまた次回。

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