黄昏の十字神剣
惑星の成層圏まじかで小さな魔法陣が展開され、そこから鋼鉄の塊が落とされる。落ちた鋼鉄の塊は惑星の引力に導かれて惑星の中心へと、下へと落ちていく。
それは不思議な事に真っ直ぐに落ちていく。その結果、大気によって摩擦がおき発火して溶けて削れてサイズが徐々に小さくなっていく。即ち、隕石ならぬ隕鉄が迷う事無く地上へと落ちていき、やがてイヴァーライル王国のアンヴェルダン領に墜落。
地上からは途方もない彼方から、重力に引っ張られて、鋼鉄が振ってきた。結果、墜落場所となる魔獣の森へと直撃し、見事に魔獣の森を吹き飛ばし、荒野を生み出した。
ボコッ、とそんな音を立てて少し盛り上がっていた土のドームが砕け、その中から銀髪ショートの女性が出て来て周囲を見て一言。
「なあご先祖様、この荒野を作ったのは何なのか教えてくれ」
「重力制御魔法によって繰り出された隕石落下による衝撃です」
そう言って、メイリフの懐から人魂みたいなものが出て来て。
「何て言うと思いますか?」
「だと思った」
そういい、子孫である筈のメイリフはその答えを聞いて大きな溜息をついて。
「じゃあ何?」
「隕石の齎した強烈な光と物理衝撃波によって地面ごと抉られ薙ぎ払われ、闇の魔力のパイプを失うことで光に焼かれて消え去った、のが正しいです」
「はああ~、まじか!」
メイリフは頭を抱えながら大きな溜息を吐いた。実際、仕方ないとも言えるだろう。
彼女は無断とはいえ、勝利を求めて行動を起こした。そう、隕石落下と言うそこそこ大規模な魔法を。別に隕石の原理と仕組みさえ知っていれば、隕石を起こす魔法事態は簡単だ。今回メイリフがやったよううに、大気圏ギリギリから大岩を生成し、魔法で制御しながら目的地に落とせばいいのだから。
しかし、それが齎す威力は絶大だ。当然、質量や落下位置などの威力計算は必須、場合によっては周囲の政府機関との使用相談も必要だし何より勝手に使えばどれほどの被害が出るか未知数だ。
それでもメイリフはしれっとやってのけた。その結果はごらんの有様――即ち目の前に広がる荒野である。
地面が少し減っているが、間違いようも無くこの魔獣の森に隕石が突き刺さった後である。しかし、メイリフは。
「隕石を持ってしても、これが限界って頭おかしくね?」
「これ、とは言いますがきっちり地面をえぐって軽くクレーターが出来ていますよ?」
頭をがりがりかきながらメイリフはこの光景を見てぼやく。溜息をもう一度吐くと。
「マジかよ、隕石でこのていどかぁ? あたしはアンヴェルダンけすきだったんだぞ?」
さらっと恐ろしげな計画を暴露するメイリフ。如何考えても正気とは思えないが、もっと正気を疑うものが彼女の真後ろに聳え立つ。
それは、魔獣の森の核。そう、メイリフが消し飛ばそうと画策し隕石落としすら実行したものが、目の前に鎮座している。
「なあもおおおおおう! 物理法則さん何処で油売ってるの!? 仕事してよ本当に!? 隕石落として無傷って頭おかしくね!?」
「いやほんとう、頭おかしいよなこの連中」
次々に土のドームから火憐や林檎が出て来て様子を確認する。そして、背後の核を見て。
「……なあ、隕石くらってこれってどうなん?」
「頭がいかれそうで怖い」
火憐の言葉にメイリフは泣きそうな声で返す。そして防御術式を崩した兵士達も核だけが残っている状況を見てその士気が一気に下がっていく。
「闇のオーラが濃い、日の光すら遮っている……これはどうのしようも」
それを見て、有栖もあきらめの色を声に宿して呟く。瑞穂もこの状況を見てすぐさま隣に控えるアイスとミズホに。
「アイス、あれをどうにか出来る!?」
「申し訳ございません、無理です。魔力の抵抗力が高すぎて私の氷が利いていません」
「ミズホ! 時間停止は!?」
「無理だよ~時間止めても止めても動いてくるし、ちょっと一回概念レベルで時間止めたいかも」
二つの精霊の答えに瑞穂は苦い顔を返し、核を見上げる。何せ瑞穂の切り札とも言える精霊達が無理と答えている以上、恐らくこれ以上彼女に有効な手立ては存在しない。あるとしても、一つ問題がある。
瑞穂は痛みを訴える表情でよろよろと立ち上がるティンを見る。彼女は左肩口、そこに当てた金属に手を当てている。その様子を見る限り、恐らく傷口が開いたのだろう。
ティン、以前彼女の前で瑞穂の切り札を使ったその結果を確りと記憶している。出来れば検証に更なる検証を重ねた上で、どうしてあんな状態になったのが知りたいところだが今はそんな事をしている余裕など存在しない。
そして、ティン。彼女は左肩の傷口を押さえ込み、そこから流れる血を見る。
「傷口が、開いたか……くそっ」
ティンは舌を打って核を見る。そして、核の根元の部分から孵化した化け物がぞろぞろと沸いて出てくる。
「おのれ、化け物が……」
「いったい、どうすれば……」
その魔獣も本来なら日の光に当てられて消し飛ぶはずだが、核の放つ闇のオーラの範囲が広がっており、行動範囲が広がっていっている。恐らく、森が吹き飛んだことにより核の力をより強力に放つようになったようだ。
ともすれば、森の中よりも状況は悪化しているかも知れず。
「んだーもぉう! これじゃ隕石落としたねえじゃんかー!」
メイリフは、頭を抱えて叫びだして。
「いや、そんなことは無いぞメイリフ」
ザッ、と足音が背後より響き、後ろを振り返ればそこに居たのは。
「女王、陛下!? 何故此処に!?」
「メイリフが森を消し飛ばしてくれたからな、おかげで安全に動けるようになった……おい、ティンは何処だ」
兵士の言葉に、エーヴィアは返してティンを探す。彼女の問いに兵士はよろよろと立ち上がるティンを指差す。
エーヴィアはティンを視認すると彼女の側に歩み寄り。
「おいティン、動けるか?」
「なん、とか」
「そうか……ならば」
とエーヴィアはティンに向けて、手を突き出して、ティンの背中を突き刺す。周囲の驚きを置き去りにしてエーヴィアはティンの耳にそっと。
「気を抜け、私を受け入れろ」
言われて、ティンは少し気持ちを落ち着かせ、自分の中にある何かを自由に動かされている奇妙な感覚にとらわれる。
この感じ、どこかで味わったような気がする。ティンはそう思いながらその感覚に身を委ねる。そして、ティンの体中に刻まれた術式に魔力が注ぎ込まれ、術式が起動する。そう、それが放つ光は黄昏。
此処に光臨せしは神々の終焉を謳いし十字神剣、その名を。
「来い、ラグナロック!」
エーヴィアの手引きの元、かの神剣は此処に光臨す。
「たっ、体内魔力逆支配、代理召喚だと!?」
「まさか、その為にティンを!?」
林檎や火憐達の驚きを置き去りにし、ティンは一歩動いて核の裏側に回りこむ。直後、闇のオーラごと核が両断される。
闇を血飛沫のように撒き散らして黄昏の輝きが核を貫き、その体を二つに分けるものの闇が離れた体を無理やり一つに戻し。
「ダァッブル! エクス、カリバー!」
更に極光の大剣二本が核の体に突き刺さり、更に闇を削り取る。
続くティンの剣戟が核の闇をその体ごと引き裂き、その闇を払う。エーヴィアの双剣が極光の光となり、核の体をその生み出した子分ごと光の彼方へと消し飛ばす。
「奥義、クラウ・ソラス!」
エーヴィアの振るう剣が彼女の叫びに応じて纏う光が膨れ上がって周囲の闇を、魔獣の子を次々に薙ぎ払う。一度振れば拡散するレーザー、もう一度振れば周囲に光弾の弾幕をばら撒きく。
ティンとの戦いでは一切役には立たなかったものの、光の膨張と収縮を駆使するエクスカリバーから発生した光の魔法剣技、クラウ・ソラスの前に逃れる術は一切存在しない。
「でええええっりゃあああああああああっっ!!」
エーヴィアが次々と魔獣の子を光と薙ぎ払っている間、ティンは核に一人で切り込んでいく。纏う闇を丸ごと切り裂き、次に核の本体を何ども、何度も、縦横無尽と切り刻んで消し飛ばす。
全ての闇を黄昏が飲み込み、削り取り、引き裂く。
ティンは輝く黄昏の十字神剣を縦に振りおろして薙ぎ払い、斬り返し、袈裟切り、切り上げからの一歩下がり、エーヴィアと背を合わせあう。
「行くぞティン!」
「はい!」
エーヴィアはティンと自分の周囲に光り輝く剣を出現させ、エーヴィアとティンはそれらを握り締めると次々とその剣で魔獣の子を、魔獣の核そのものを切り刻んで消し飛ばしていく。
そんな光景を見て、瑞穂達は一言呟いた。
「飯に、すっか」
自分達の出番は恐らくもう無いだろう、そう直感したが故の行動であった。
ティンはエーヴィアと共に周囲に待機する光の剣を次々と掴み、魔獣の体へと突き刺していく。そして魔獣はその根元に闇のオーラを纏い瘴気を持ってバリアを張っている。
が、ティンからすればそれが何だと言わんばかりにラグナロックで次々に切り裂いていき、更には十字の斬撃を核に叩き込む。溶け掛けていた人の死体までもその眩い黄昏の輝きで薙ぎ払い、更にそのまま本体を二つに両断する。
闇をはなち、闇が触手となり切り離された肉体を元に戻そうと引っ張るもティンは更に身を翻してその本体に突き刺して上へと駆け上がって今度は縦に両断、続いてエーヴィアが。
「ダァッブル、エクスッカリバアアアアアアアアアアッッ!」
極光の大剣が二振り、闇を払うように核の本体に切りかかる。そしてティンはラグナロックに光を灯してそれを叩き込んで。
「清浄の輝きを!」
切り込み、更に光の槍を投げつけて切り裂き、何度も同じ攻撃を繰り出しエーヴィアも極光の聖剣を展開し、それを濃縮させて。
「一撃必滅、シングル・エクスカリバー・バーストォォォォォォッ!!」
核に突き刺し、一気に切り抜き、光の爆発が核の内部から巻き起こり、ティンはその最中に内部へ突撃してそのまま真上に突き上げて核の内部から外へと飛び上がり。
「此処に齎す!」
輝く黄昏を解き放ち、魔獣の核の動きを封じ込め。
「黄昏の輝きに」
さらに足場としていた光の力場を蹴って核の肉体を一気に貫き、反転してラグナロックを投げつける。
そしてティンは手をかざしてラグナロックを手元に引き寄せて。
「貴様に終焉を与えん!」
エーヴィアがやったように、無数の光弾を撃ちだして触手を撃ち落とし、ティンはラグナロックに魔力を注ぎ込む。脳裏に閃くかの技を顕現するため、ティンは前を見据えてラグナロックに導かれるように剣を構え、そして術式をなぞる。
そう、それこそ神々の終焉、黄昏の集大成。今ここに成すは神すら屠る神話の再現。
「神技ッ!」
ティンにのみ許された、究極の奥義にして神威、それをここに解き放たんと今駆け出して跳び上がり。
「ラグナロォォォクッッ!」
十字に切り裂き抜け、術式が展開され、そこから放たれる光弾が一気に核を撃ち貫き、十字の形に炸裂し、黄昏色に輝く。
その輝きは、正に希望をもたらす光。兵士達はその様を見て誰もが戦いの昂揚を忘れて呆然と見ている。やがて誰かがふと口にした。
「勝……った?」
呟きによって誰もがその光をよく見る。その光の輝きで兵達は戦いの様子を途中から全く見ることができなかった。
しかし、あの魔獣の核には光が弱点。その弱点とも言える光が核を包み込んでいるのだ。そしてその光が徐々に薄れる中、かの魔獣の核はどこに居らず、意識を失ったティンを抱き抱えるエーヴィアの姿がそこに。
「エーヴィア女王陛下が魔獣の核を討ち取ったぞおおおおおおおおッッ!!」
その時、メイリフが空気を読んだように叫び上げ、エーヴィアは不機嫌そうに睨むと応えるように剣を振り上げた。
此処に、イヴァーライル王国は真の意味で解放されたのだった。
はいども、今回はエクスカリバーのバーゲンでしたが普通の人から見ると総じて(何あれ頭おかしい)という感想がきます。
本来エクスカリバーは極上の魔力消費と引き換えに最高の攻撃力を得る魔法です。その消費魔力は半端なく高く、使えるだけで自慢出来て尊敬され魔道師として最高峰の称号も与えられ、各国や政府機関などから雇いたいと引く手数多になるほどです。
どんな概要? という人に説明すると。
超、馬鹿でっかい、光の剣を作るだけです。
以上です。説明するとえ、これだけっていうほど簡単ですが再現するのに使う魔力の消費がはっきり言って頭おかしいの一言。
何せ具体例をあげると『人の持てる限界魔法力を100%とする場合、消費魔力は約90%越え』という感じです。全体mpのじゃないです、限界値から90%以上です。
ただその分威力範囲は最上級。見た目をわかる人に説明すると。
天翔◯翼剣、断空光◯剣、トランザムライザ◯、ブラスティングゾ◯ン、シャイニングフィンガ◯ソード、アルマゲドンブレ○ドなどなど。
これをティンは切り札として使用します。エーヴィア陛下はこれを通常技として使う上に発生技すら作ります。いや、うん、本当に何もかもがおかしい。
んじゃ、また次回。




