表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/255

長い長い、小さなフラグ

「あれ、ティンさんどうしたの?」

 そんなこの場の空気にはそぐわない気の抜けた声が響いた。見れば瑞穂がそこにいた、のだが今度はその気の抜けた声に合わない気合の入った拳が触手に突き刺さり、拉げて爆散する。

 声には全く持って気合が篭ってないが瑞穂の拳にはその分と言う程の気が込められており、触手が一気に潰れて爆散する。

「……おーい」

「1367回ぶん殴って分かったけど、こいつら物理には弱い。所詮ベースは植物ってことだね、斬撃には強いみたいだけど錬氣には弱いみたいだね……確か魔力と錬氣は相性が悪いんだっけ?」

 ティンの呼びかけを無視するように呟いた瑞穂の問いかけに対して返しは何とレーザーだ。

「無事か瑞穂!」

「瑞穂さん!」

 レーザーを纏いながらこの空間にやって来たのは何と雪奈と有栖だ。有栖達は無数のレーザーを森中に展開しながら核がいるこの間に入ってくる。しかし、何故レーザーなのか。

「ねえ、瑞穂。林檎たちは火をばら撒くし、何でこの人達レーザーなんて」

「え、説明聞いてないの? 或いは気付いてないの?」

 言われて、ティンは漸く答えにいたる。つまり、この連中が弱点なのは光。そう、光なのだ。では、何の光が苦手なのか?

「問題は、如何光に弱いのか。何故光が弱いのか?」

「光とはそもそも、粒子と波だ。光の持つ波と粒子が駄目なのか、そもそも光が駄目なのか」

 林檎と火憐は不意に答える。それは、何故燃やすのか。火憐は光り輝くサーベルで触手を切り払い。

「前者なら簡単だ、光の粒子と波を用意してやりゃいい。人類はそれ用意するだけの技術を持ち合わせている。だからそれ位なら軽い、だが」

「後者だとすれば、少し厄介だ。光とは人間が視覚する色だ。それを感知できる以上、此処にも光はある。となると」

 そう、となれば。必然と答えはこうなる。

「もっと強烈な光が必要となる。そう、闇を否定するほどの強烈な」

「光の成分が駄目なら、その成分を叩きつけるのみ。光そのものが駄目なのは、光によって体の構成要素が削除されるからだ」

 すなわち、林檎と火憐は声を揃えて。

「こいつらの肉体は、闇そのものだから、光に弱いんだ」

 パチンと、音と共に炎が触手達を包み込む。そう、火の光が。

「この灯で、文字通り焼け溶けていく」

「だから、炎なのか! 燃やすんじゃない、火の光で焼く為に! その為の油!」

「正解、燃え難いと言うのなら答えは単純。だったら可燃物にしてしまえばいい、油塗れにでもしてな!」

 徐々に、少しずつではあるものの触手が火の光によって溶け落ちていく。そこへ更に有栖と雪奈が操るレーザーが乱舞する。

 ティンは次に見るのはこのレーザーだ。一体全体これは何なのか、と考えてティンは彼女達の周囲で輝く鉄と氷を見てその正体に感づいた。そう、光が反射していることに。つまり、あの氷と鉄が光っている、その光源は。

「日の、光? え、え、ちょま、まさかぁ!?」

「うん、外の光を引っ張ってきた」

 瑞穂はあっさり答える。即ち、これは外の光を金属片と氷の鏡で光を反射させあうように導いてるのだ。それはさながらカメラ内のフィルムのように。万華鏡の中身のように。

 反射した日光が森中に張り巡らされた鏡によって更に反射し、光が(レンズ)から(レンズ)へ――。

「真っ黒に焼け落ちろ!」

「光と消えろ!」

 四方八方に展開された鏡から反射した光が中央の核を一気に撃ち抜いた。光が一点に集中し、核周囲の触手が一気に焼け溶け落ちていく。

 だが、核は突如地面から闇を爆発させる様に噴出していく。そして、周囲の壁として存在していた触手が徐々に解けていき、中から現れるのは。

「GYYYSHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 植物の、毒々しい花が此処に顕現する。闇を纏い、周囲の光すら飲み込んでいく瘴気がこの空間に噴出していく。

 その様子に、人々は顔をしかめ――いや、そっちではなかった。

「……悪、趣味な」

 林檎は、その全容を見て忌々しげに呟く。

 その巨大な樹木に咲く巨大な毒々しい花。次々に現れる、人の骨。枝の飾りと言わんばかりに装飾されたそれは今までこの森が犠牲として来た人々なのだろうか、それともこの森が誇りとすべき撃墜の星であろうか。

 それだけであれば良かった。しかし、林檎の、人々の視線は下に集まる。

 人の、死骸の、山。人間の、血肉が溶けて落ちた物の塊が樹木の根元に山と築かれている。だが、耳をすませてみればもっと醜悪な光景となる。

 声が、聞こえる。

 そう、声が聞こえるのだ。人の死にかけている怨嗟の声が。つまり、この怪物は取り込んだ人間を、殺した人間、いや敢えて殺さずにとっておいたソレを即座に消化せずゆっくりと少しずつ養分として吸収し。

「おのれ……」

 その中に戦友の顔でも見たか、イヴァーライル兵の一人が怒りの表情で銃口をうえの怪物に向けて。

「食らえええええッッ化け物がああああああああああああああああッッ!」

 引き金を絞り、光の魔力を銃弾として乱射する。それに続き次々と憎悪の声と共にイヴァーライル兵の一斉射撃が始まった。ものの、その銃撃自体が闇に飲み込まれて消え失せる。

 あまりにも無常な結果に兵士達の気力が一気に落ちるが。

「んじゃま」

 それでも尚、立ち向かう光の剣士が一人。

「行くか!」

 ティンは剣に光の魔力を走らせて、魔獣の核へと飛び込むように駆けて行く。それを見た後続の部隊も銃を構えて。

「彼女に続け! 核を囲み、一斉射撃! 残った者は作戦通りに道の整備だ、急げ!」

 指示を出し、ティンの跳ぶ道を援護するように弾幕が展開される。

 ティンはその道を背景に触手達を次々と切り落としながら前へと跳んで行き核の本体へと切り裂くが。

「利かない!? 闇が濃過ぎるのか!」

 叫び、ティンは触手の隙間を潜り抜けて切り落として地に降り立つと術式を剣に乗せて魔力を練りこみ。

「シャイニング、ウェーブ!」

 光の波動を解き放ち、闇のオーラそのものに叩き込む。が、何度も激突する音と闇と光が霧散する衝撃が発生し、やがて光は弾けて消えた。

「く、これも駄目か!」

「いや、当たり前だろ……」

「あんな手抜き魔法で如何にかなると思うお前がおかしいわ」

 林檎と火憐が後ろで即座に突っ込む。ティンはそれに対し。

「え、全力だけど」

「今のが全力とか貴様魔法舐めてるだろ」

「そうか、お前そういや魔力不感応障害者か。じゃあしょうがないな、林檎。こいつは魔力の使い方が分からないらしい」

 ティンは二人のコメントを聞いて一先ず保留にし、もう一度切り込みに向う。

 触手に乗り移り、群がる触手を切り落として前に進むと突如触手の先が花となり開き、そこから闇のビームが放たれ。

「うわっと!?」

 ティンは踊るような動きでそれを避け、更にそれの回避を狙って闇のビームが飛び交うが今度はその触手に狙いを定めビームをかわすと同時に切り落として、ティンはもう一度地面に降り立つ。

「こいつら、ビームとか聞いてない!」

「核が露出して、魔力まで使うようになったのか! こいつは本格的に面倒だ!」

 ティンの言葉にメイリフが答え、そして核の中央に聳える花が実となり、パクパクと口を動かす。

「――ミニクキ、モノドモヨ」

 声が、草や木々を風で揺らしたような音ではあるものの、確かな声が言葉となって人々の耳に届く。

「ワレノ、カテト、ナレ」

「こいつっ!」

「食い殺した人間から養分ごと知識でも拾ったのか……うわ、きんも」

「言ってる余裕はねえぞメイリフ!」

 闇を纏い、数少ない光をも侵食する魔獣の核。更にはその中央部、そこにはぼこぼこと何かおぞましく毒々しい形をした球が生み出されていく。

 ティンはその球を見て、思わず卵みたいだと思った瞬間に彼女の頭脳が急に回転を早めた。そう、女王から聞いた言葉……騎士の一人が捕まって魔獣の苗床にされたと言う話。

 言われてみれば、魔獣の卵を生み出してる部分。よく見てみれば人間の、より正確に言えば女の体では無いだろうか。

 そこまで思ったティンは。

「――速攻で、粉微塵にしてやる」

 呟いて状況を見る。核の活動が本格化し、闇のビームによってイヴァーライル軍にも大きな被害が出始めている。

 何よりも中心部の核には彼らの持っている武器ではダメージが通らず、触手を打ち抜くのが精一杯のようだ。更には卵が孵化を始め、それによって新たな魔獣が生み出されてきている。

 ティンはもう一度右手で頭に触れ、術式を起動させて自身の体を光子化させて核目掛けて跳びこんだ。

 宙を舞うように、無数に群がるビームの弾幕を砲台ごと切り伏せてティンは魔獣の核へといたりその闇を自身の持つ光で対抗するが、闇のオーラを剣で切った瞬間に激しい閃光が飛び散った。

「闇が、濃過ぎるのか!?」

 ティンの持てる、そして出せる光でこの闇を斬るには質量が足りない。

 確信するも今のティンにはラグナロックを呼ぶ以外に手立てが無い。だがしかし、かの神剣は齎す被害が大き過ぎるが故に制限されている。安易に呼ぶことは出来ない。

 では如何するか? 闇に対抗するにはティン一人の光では圧倒的に不利にも程がある。何せ彼女に操れる光にも限界があるのだ、がそこでティンもう一つの希望を思い出す。それは。

「エーヴィア、女王なら?」

 かの女王は自分と同等クラスの魔力を保有するそうだ。では、彼女を此処へ招くことが出来れば? しかし問題はどうやってだ。此処が魔獣の核であり中心部であることを如何知らせてどうやって危険な魔獣の森の道中を連れて行くのだという。

 しかし、それを連想させるように思い出すは信号弾。もしやあれが女王陛下を此処へ呼び寄せるために策であろうか。魔獣の核の位置を外部に教え、遠距離魔法か何かで攻撃するためか。

 どちらであろうと、信号弾を見るに自分がすることは特に変わらないことをティンは察する。そして己が真に果たすべき役割とは即ち。

光子加速(フォトン・ブースト)

 一人で核に挑むことではなく。

5倍速(フィフスアクセル)ッ!」

 部隊の被害を少しでも抑えること。それを理解した彼女は闇に突き立てた剣を抜くと通常時の五倍の速度で魔獣の触手を斬り捌いて行く。

 触手にうたれ、或いはビームに撒かれて吹き飛んでいたものは一瞬で触手が消し飛んだことに違和感を覚え、それをやってのけたのがティンと知ると感嘆の声が上がる。

 魔獣の核の中心部は恐らく濃厚な闇のオーラを纏っている為簡単に手出しは出来ない。だが、ビーム砲台となっている部分はそう言う訳ではなく寧ろ纏った闇のオーラを放っているからだろうか、簡単に切り落とせる。

 しかし、生やした触手を生やした先から次々に消し飛ばされるのは流石に面白くは無いらしく。

「ミニクキ、モノヨ、ワガカテト、ナレ!」

 触手の狙いは、やがて5倍の速度で動き回るティンとなっていた。飛び交うビームを避けながら次々に触手を切り落としあわよくばと核自体にも斬り付けるがやはり光火は見込めない。

 気付けば森中から伸びてると思えた触手は徐々にその基本総数が削れて行き。

「核からの攻撃の手が、薄くなった?」

「今だ! 動ける者はこの機を逃すな!」

 大打撃を受けていたイヴァーライル軍も即座に守りの陣形から攻めの陣形へと切り替えていく。

「……ティンさん、左腕、動かない筈だよね?」

 近くの触手を殴り飛ばした瑞穂は不意にそう呟いた。そんな瑞穂を他所に、事態は急変する。

『おいティン、聞こえるか!?』

 ティンの頭にいきなり女王の焦り気味な声が響く。一体何なのかと思って。

「陛下、如何しました?」

『今すぐ音声通信術式を音声拡散モードに切り替えろ!』

 言われてティンは攻撃を止めて地面に降り立つと頭の術式を取り出して弄る。そして、エーヴィア女王からとんでもない台詞が出た。

『全部体に通達! 即座に魔獣の森中心部から脱出せよ! 繰り返す、即座に魔獣の森中心部から脱出せよ!』

「へ、陛下!? 一体何が」

『現在その区域に向って小規模の隕石が落ちて行ってる! 全員そこから避難、もしくは防御術式を展開しろ、急げ!』

 言われ、ティンは慌てて術式を仕舞い込むと魔獣の核を踏みつけて上に向かい――いや、もう全てが遅いと認識する。

 何故ならもう既に、森から見上げるだけで隕石が視認できるほどまで隕石が落ちてきているのだ。これを遅いと言わずして如何する。

「瑞穂、あれ如何にか」

「ああ、しなくていいよ」

 気楽そうに、メイリフがそういった。

「何でそんな悠長な」

「だって、これ。あたしの仕業だし」

「……おい手前どういうことだ?」

「ああ、やっぱり。そんな気はした」

 火憐はメイリフに詰め寄り、瑞穂は納得と頷く。その訳は。

「メイリフさんよくやってたもんね、大気圏ギリギリに岩石生成の術式投げ上げて擬似的な隕石作るの」

「そうそ、さっすが瑞穂分かってルゥ!」

「おい待てそれやったの何時、そうか出てきた時か! 万歳のポーズを取って出てきた時か!」

 ティンはふと、メイリフが森から出てきたとき万歳するように何かを上に投げるようなポーズを取っていたことを思い出す。しかしそれがまさか本当に何か、術式を投げていたとはさすが思っていなかった。

 だがしかし、この状況はまずい。ティンは今現在イヴァーライル軍の援護で忙しく、軍もどうやら守りの陣形に戻して対魔法防御術式を展開するようだ。しかし、ティンが核への攻撃の手を緩めれば奴らの攻撃も加わるためそうそうティンも避難出来ない。

「古より伝わりし契約の名の下に、我は汝に呼びかけん」

 最悪ティンは隕石に巻き込まれるかとも思った時、瑞穂の凛とした声が響く。見れば瑞穂は陣を描いて詠唱している。

「汝、我が意、我が声に応えるならばこの呼びかけに応じ此処に来れ! 我は汝の半身、汝と共に在るもの!」

(はいよ、オッケー)

「召喚! 来い、氷霊ミズホ!」

 瑞穂の呼びかけに応じるように描いた魔法陣から青い髪のミズホが現れる。ティンは驚くが瑞穂はそれすら凌駕して。

「古き契約の下、我は汝との契りを執行するものなり! 我は汝と交わせし契約を結びし者、我は汝との契約に守る者! 我が意我が声に応じるならば此処に来れ!」

(いいでしょう。我は汝との契約に基づき、参りましょう)

「来れ氷雪の化神、氷神・アイス!」

 疑問を持ち、驚く仲間を凍てつかすかの如く、瑞穂は二つの精霊を同時に召喚する。すこし額に汗を滲ませながらも瑞穂は前を見据えて。

「アイス、触手を叩き潰して!」

「承知」

「ミズホ、兎に角みんなを守る様に時を止めて!」

「お安い御用!」

 アイスは次々に触手を凍らせ氷雪を撒いて触手を刈り取っていき、ミズホは味方に攻撃する触手の時間を凍結させていく。

「ティンさん、一旦退避! 一先ず後は精霊たちに任せよう!」

「自分はやらないという言い方に瑞穂らしさを感じるよ」

 瑞穂の言葉にティンは呆れながら上を見上げ。



 そしてイヴァーライル王国領アンヴェルダン公国の魔獣の巣に、その日隕石が丁度中心部に墜落する。

 多分、初めて会合したティンと氷霊ミズホ。結構色んな作品に出てるのにね。それじゃ次回。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ