表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/255

月下の二人・夜に舞う剣士

 試合が終わった後、闘技場に居たのはティンと浅美だけだった。

 だが、肝心の浅美はティンの腕の中で気絶している。体の約半分を焼いて。瞬く間に彼女は凍結魔法をかけられ、病院へと転送された。

 そして現在、ティンは瑞穂に引っ張られる様に病院へと向かっている。

 瑞穂は病院内に入るとすぐさま「結城浅美の友人です」と言って浅美の現状を問う。病院からは病室に送られたと返される。瑞穂は病室の場所を聞くと即座に踵を返してその部屋へと向かい。

「浅」

「浅美さんッ!」

 ティンが病室に駆け込むよりも早く、瑞穂が駆け込んだ。誰かが病室では静かにとか言ったが瑞穂は一切気にしない。いやしろよ。

 声に気づいて病室の奥に居る浅美が窓から視線を瑞穂に移した。

「病院じゃ静かにしなきゃダメだよ」

 結構元気だ。身体中包帯巻いていたり、所々火傷の痕が見えるが本人は結構丈夫だ。

 瑞穂は安堵したしたように床に座り込んだ。

「……あれ、ティンさんは何処?」

 浅美の声に導かれる様に瑞穂は周囲を見渡す。確かに手を引いて連れて来た彼女がいなかった。

 瑞穂は直ぐに携帯に電話をかけるが、彼女の荷物の中から呼び出し音が響く。瑞穂は荷物を開けるとそこにはティンの携帯と、彼女が貰った始めての給料の残りがあった。

「瑞穂さん、ここ病院」



 月明かりが照らす夜。喧しいと思うほど輝く月を背景にティンはとにかく走っていた。ただ我武者羅に、目的地も無く夜の森を走る。

(あたしのせいだ)

 ティンは必死の表情で夜の森をダンシングステップで駆け抜ける。

(あたしが、関わったからだ……関わりさえしなければ浅美も、あの街も、全部、全部……!)

 足を踏み外し、地面に倒れ込む。

「あたしが、悪いんだ。あたしが……くそぉ、何が誰かを守りたいだよ…‥何も守れてないじゃないか、何も! 何一つ!」

 ティンは泣くように叫んだ。それでも前へと歩く。どっちが前か知らないけど、もうあの二人に迷惑かけまいと。

 そんな時、夜の森に異物がある事に気がついた。目の前の地面に人影。思わずティンは見上げる。

「気が向いた時に夜道を歩くのは確かに乙な物だ。自分で勧めておいてなんだが」

 見上げた先、木の上に真っ黒な人間が立っている。

 黒く短い髪とそれに対して胸まで伸びたもみ上げ、黒い服に黒いスカートに黒い手袋に黒いニーハイソックスに黒いマントを身につけ、鳥の頭部を模った仮面を被っている。腰には水晶の様な光を漏らす剣が一本、女は月光に照らされて怪しく光っている。

「誰だ、お前」

「誰でも良いさ。どっちみち、お前を斬る人間とだけ覚えておけばいい」

 ティンは、明らかにあいつらとは違うと分かっているのに。それなのに。

(こいつもか)

 まるで、自分の邪魔するものは全て敵だとでも言いたげに睨む。

(こいつもか、こいつも……ッ!)

 ティンは剣を強く握りしめ、上を見据える。

 仮面の女はにやりと笑い、腰の剣を引き抜いて片手で構える。

「来い。久しぶりに楽しめそうだ」

 言うとティンは駆け出し、仮面剣士は木から下りてティンに斬りかかる。光り輝く二つの剣が激突し、火花を散らす。

 ティンは体重の乗った剣を受け止めながらそれを受け流して距離を取り、再び距離を詰める。

 仮面剣士は両手で剣を握り締め、ティンの迎撃に移る――が、瞬間ティンはが消え去り。

「そこッ!」

 真後ろに向けて剣を振るう。同時に鉄の激突音が夜の森に響き、鬼の様な形相をしたティンが居た。

「うあああああああああああああああああああッッッ!!」

 絶叫してティンは更に剣を振るう、振るい続ける。踏み込んで右肩口から、次に左脇腹、今度は右腰、更に頭部に振り下ろす、振るい続けるッ!

 それらの斬撃全て、金属音を響かせて仮面剣士は防ぎ続ける。

 と、攻撃の途中でふっとティンがまたしても消え去り、仮面消しの真後ろに出現し、背中に向けて剣を振るうも仮面剣士は振り返ると同時に攻撃を受け止めるッ!

 響く金属音、腰を落としたティンと、立った状態から剣を振り下ろす二人の剣が鉄の軋む音を立てるも、ティンがその均衡状態を崩して一旦距離を取ったかと思えば剣に光を宿し。

「ライトニングエッジ!」

 閃光となって仮面剣士に切りかかるッ!

 対して仮面剣士は空を斬る様に剣を振るい――と剣が再び激突するッ! 飛び散る火花ッ、響く鉄の激突音ッ! ティンはそれを見て直ぐに下がると今度は木々の中に紛れて消える。森中に響く木々や草花を掻き分け突き進む音。仮面剣士は周囲を見渡し、相手の気配を探る。

「仕方ない、少し本気になってやろう」

 仮面剣士は目の部分に左の指を置き、目の部分が光り始める。

「術式起動、見透しの魔眼……ッ!」

 ゆっくりと周囲を見渡す。見透しの魔眼とは、光の魔力の浄化の力により視界を遮るもの全てを透過して見通す魔眼だ。更に身体と目を光に近付く為に自分以外に映るモノは全て半分の速さになり、自身の動きは他者からほぼ二倍の速さに見えるのだ。

 そう、今彼女にはティンが何処に居るのか、探る。すると見定めるよりも先にティンが森から飛び出すが。

「遅いッ!」

 金属音を響かせ、さっきよりも速く重い剣がティンの剣を弾くッ! 空中で踏ん張ることさえ出来ないティンはそのまま剣を握り締めたまま吹き飛ばされるも木を蹴り付けるように復帰し、仮面剣士に尚も斬りかかるッ!

 仮面剣士は木のを足場にして斬りかかるティンに対してただ冷静に剣を構えて淡々とティンよりも速く斬り捌く。狙うは無防備な左の脇腹ッ!

 左の脇腹に剣は直撃し、ティンはその剣を握り締めるとそのまま相手を斬り付けるッ! が、速度がほぼ二倍に、写る速度が半分に落ちてる攻撃など通りはせず、ほぼ二倍の速度でティンを蹴り付け――ティンの剣が、仮面剣士の上げた脚に直撃する。

「何ぃッ!?」

「うあああああああああああああああああああッッ!」

 睨み続けながらティンは確りと踏み込んで脚に突き刺した剣をそのまま切り上げて仮面剣士の胸を経由して左の肩口へと切り裂いていくッ!

「ぐああああああああああッッ!」

 仮面剣士は大きく仰け反った。まるで、心臓の弱い部分を的確に切裂かれたような鋭い痛みが体中を駆け巡るッ!

 ティンは仮面剣士の剣を遠くに投げ捨て、更に斬りかかるッ! 右の首筋に、左の脇腹、股下、右脇腹、刺突、蹴り飛ばしてダンシングステップで距離を詰めて右腰から左肩口に右脇腹へ左首筋にと次々に切刻んで行くッ!

 止めに頭部にスマッシュ攻撃を叩き込むと仮面剣士はティンを蹴り付けて改めて距離を取り、ふっと影を残して消え去り、怒りの形相を露わにしたままティンは仮面剣士を探す。

「予想以上にやるな」

 声に気付いて振向けば仮面剣士が立っている。ティンは剣に魔力を集中させ。

「シャインソードッ!」

 踊る様な足捌きで仮面剣士の距離を詰め、光り輝く剣を上から振り下ろすッ!

「話しさえ聞かないか、重症だな。何がお前をそこまで駆り立てる?」

 仮面剣士は瞬く間に先程と同じ位置に立つ。つまり、そこは木の上。再び仮面剣士がティンを見下ろす。

 ティンは未だに仮面剣士を睨み続ける。

(確か、さっきこいつ何も守れないとか言ってたな。あの大会の決勝戦で油断して仲間でもやられたか? それで八つ当たりか? 全く迷惑な……いや、八つ当たりなんてもんじゃないぞ、これは。明確な殺意と憎悪と激怒をこちらへ向けて来る。普通八つ当たりと言うとただのストレス発散の様なもので、どうしても攻撃が適当になる。怒りで我をわすれ、単調な力押しになりがちだ。

 だがこれはどうだ? 明確な敵意を剥き出しにして来るぞ? まるで、仲間でも殺されたかのように)

 ティンは眉間に余計に深い皺を刻んでいる。歯を軋ませ、敵を睨み続ける。

「だが、まあ良い。それもこれで終りだ……本気を見せてやるよ、術式起動」

 仮面剣士がすぅっと前に腕を伸ばす。それを横に回す。すると光輝く剣が宙に大量展開される。仮面剣士の周囲に展開される剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣ッ!

「光輝の天剣……ッ! 行くぞッ!」

 宙に浮く剣を一本左手で掴み取ると眼下に居るティンの元に飛び降りると同時に二つの剣をクロスさせて振り下ろすッ!

 ティンは対して飛び上がってそれを迎撃し、二本の光剣と一本の光剣が宙で激突し――続いて五本の光の剣がティンの身体を貫くッ!

「なッ、にぃぃぃ……ッ!」

 ティンは痛みに耐えているのか、余計に怒りを燃やしているのか余計に歯を軋ませて仮面剣士を睨み付ける。

「嫌われた物だ、なッ!」

 仮面剣士は言いながら着地と同時に左の剣で攻撃を仕掛け、ティンはそれをかわすもそれでも多くの剣が突き刺さり、更に右の剣から斬撃と光の剣が襲い掛かるもティンはそれを剣で斬り捌き、火花を散らしてその身に五、六本の光の剣を突き刺してそれでも仰け反ることさえせずに仮面剣士に斬りかかり。

「お返しだッ!」

 ティンの右脇腹に、左の剣が突き刺さる。それでも怯む事無く仮面剣士の胸に剣を食い込ませるッ!

 鼻と口で荒い息を吐き出し続ける。一切も気後れはしていないが、相当に堪えている様だ。それは仮面剣士も同じ。喘ぎ、荒い息を吐きつつも仮面剣士はティンを蹴り飛ばして、距離を開ける。

 ティンはそれでも咆哮を上げて踏み込むが無数の剣が暴風の様に突き刺さるッ! さしものティンは少し仰け反り、そこに容赦も情けも無い剣がティンに襲い掛かるッ!

「剣華」

 まさしくそれは剣の華。花咲き散る様に絵が出される無数の剣線が、ティンの身体を蹂躙し、光の剣が飛び交いよりティンを襲い掛かるッ!

 切り払われる様に吹き飛ぶティン。それでも。

「あたしは……ただ……」

 まだ負けたくないと、項垂れた上半身を支えて地面を踏み締める。そしてッ!

「なら、いい加減終わらせてやるッ!」

(ただ、大事な人を……守り……)

 仮面剣士は尚も踏み込み、ティンに二つの剣を振るう。

「斬華ッ!」

 ティンを飲み込むは剣戟の花吹雪、無数の斬撃がティンを更に切り刻み、幾重もの光の剣がティンの身体を突き刺し切裂いて行くッ!

 そして、ティンを一度打ち上げ、二つの剣を一つにし。

「天昇ぉぉぉッッ!」

 それを振り下ろすッ! がティンも己の握り締めた剣に編み出させる限りの魔力を振り絞り、出来うる限りの光を剣にねじ込みッ!

「オォォォラァァァァァァブレードォォォォォォッッ!」

 眩いほどのオーラを纏った剣を振り下ろし、月夜に二つの光が木々を揺らすほどの衝撃波を産み出すッ!

 目も眩みそうになるほどの凄まじい光の激突。それは輝く様な音を撒き散らし、光の粒子を辺りにばら撒き、夜を昼間の様な明るさへと染め上げていくッ!

 そして――双方の剣はずれ、見事にお互いの身体を直撃するッ! 弾ける光の斬線、切り口か噴き出る光の魔力。

 仮面剣士は肩膝を付き、ティンは傷口を抑えながらもふらふらと前へと歩く。

「くっ、中々に、やるじゃないか。おい、名前を……もういない。せっかちなやつめ」



 ティンはぼろぼろで未だに輝く剣を握り締めたまま歩き続ける。息も絶え絶えで、今にも倒れそうなあ、倒れた。

 地面に口付ける様にティンは倒れこみ、尚も息を吐き続ける。朦朧とした意識の中地を叩く足音だけが聞こえた。

「じい、これを回収なさい。ええ、国内で野垂れ死なれては面倒ですわ」



 明るい光が瞼を刺激する。そんな眩い光に刺激され、ティンは目を覚ました。

 目を開けると、天井の中に天井があると言う不思議な空間。ホテルのベッドの様にふかふかな……いやそれよりも尚ふわふわで非常に居心地の悪さと安心感を与えるベッドの上に居る。

「お目覚めでございますか?」

 と、声をかけられたので身体を起こすと紳士服を着た初老の男が服を片手に持っている。どこかで見た服、それは。

「失礼ながら、貴方様の服装を脱がせて頂きました。ついでに汚れを洗い落とし、アイロンをかけさせてもらいました。このじいめのささやかなサービスと言うものでございます」

 ティンの騎士服だった。よく見てみれば自分の着ている服はやたらとフリルの付いた高級そうな寝巻きだったのだから更に吃驚。

「え、あの」

「主人達が食堂にてお待ちです。お着替えになられた後にいらしてください。食堂への道案内はドアの外で待機しているメイドにお尋ね下さい。後は彼女達がご案内するでしょう。

 それでは失礼させていただきます。ああそれと剣は城主がお預かりになっていますのでご了承の程を」

 言うだけ言うと男は部屋から礼儀正しく、音もなく退室する。ティンはベッドから出て漸くそれが噂に聞く天蓋付きのベッドだと知ったのだった。

 今日はこの位で。文字数少ないけど戦闘だけだから少ないのさ。

 んじゃあねー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ