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舞台上の踊り子達

 ティンは周囲の仮面の連中を薙ぎ払い、空を見るがそこには夕暮れと夜空が混ざったような空が広がるのみで、黄龍の姿は後も形も見えない。ティンは舌をうち、周囲を見渡したところで。

「ああもうだーめだーめ! なってないティンあんたなってないよ!」

 急にフレシアが目の前に現れてティンの肩を掴む。

「え、え、何、何が?」

「あんたねえ! いい、よっく聞きなさい。厳しい顔、怖い顔、悲しい顔はノーンノーン! 笑顔、あたしら舞台上のスターは常に笑顔で居なきゃ!」

 言いながらフレシアは険しい表情や悲しそうな表情を見せ、最後に笑顔を作る。

「あんたさあ、自分が舞台の上の踊り子って分かってる? あたしたちはこの人生と言う名の舞台の上に立つスターだよ? 演技派女優ってのも良いけど、ずーっとそんな剃刀みたいな鋭い表情してんじゃお客さんは逃げちゃうよ?」

「お、お客ってそんなの何処に」

「いるじゃん、そこ!」

 フレシアは指ではなく脚で指し示す、いや蹴り示す。

「いや、あいつらは襲撃者だしこっちの命狙ってるし」

「いいじゃん、あんなのでも居るのといないのとじゃ全然違う!」

 笑顔で言ってまた粗相を働く仮面たちを蹴り飛ばす。

「例えどんな舞台でも、精一杯の、そして全力の踊りをする。確かにティンの踊りは全部切り裂くような鋭い剣舞、見ているこっちまで切り刻まれているかのような鋭すぎる舞踏だよ」

「え、そ、そんなのが分かるの!?」

 ティンは生まれて始めて自分の舞がコメントされた事に戸惑い、驚く。

「だけど、それであんた何もかも切り裂いたら何も残んないんだよ?」

「そ、そんなに? そんなに、あたしの踊りは」

「とても、空しい。ただ斬るだけの舞、斬るだけ為に鍛えた舞……確かに間違ってないのかも、だけどあんたの舞は見ていて痛々しいほどに悲しいんだよ、上手いだけじゃないから尚のこと」

 フレシアは言いながら舞うように仮面達に蹴りを叩き込んでいく。

「あたしだって、物騒な世の中で舞を蹴りに応用して使ってるけど、あんたのはまさにま逆。斬る為に舞っている、近寄るもの全て切り捨てると言わんばかりに……だから、笑うんだよ!」

「うわっ!?」

 言うとフレシアはティンの手を引いて突如社交ダンスのようなステップを踏み始める。

「だから、笑顔で踊ろうよ! 笑顔が一番、笑う角には福来る、だから兎に角笑え、笑うんだよ!」

「な、それ」

 フレシアはティンと背中合わせに踊り、また寄って来た仮面達を斬り裁き蹴り飛ばす。そしてふたりは一気に駆け出して蹴り飛ばして斬り散らして、音楽に合わせて舞い踊る。

 二人は合わせ鏡のように舞い踊るとまた背中合わせに重なり合う。その間、二人は笑顔だ。

 そしてフレシアはビルの壁を蹴って飛び上がっていき、ティンは逆に地を駆け、まず目に付いた仮面Aをばらさず斬りつけて中央に送り、続いて2・3歩のステップで次の仮面Bの脚を切り裂いて蹴り飛ばし、次に背後に寄って来た仮面Cの腕を落として蹴り飛ばし、更に舞い踊ることで距離をつめて他の3機を送り込んだ場所へと叩き込み、結果周囲の仮面達を中央にまとめ。

「くらえ! 六輪の花散らす一撃!」

 空から身を捻りながらその脚を。


「必殺、六花堕天脚ッ!」


 六の花散らすかのように、天空からの蹴りを叩き込んで仮面達の体を一気に打ち砕くとティンとフレシアは手を叩きあう。

「やれば出来るじゃん!」

「ま、まあね」

「そんじゃま、あたしの脚じゃぶっ飛ばせても中々倒せないし、後はあんたに任せるよ。にしてもさっむいね~もう12月だっけ? 結構厚着してるのに、まるで氷付けにされてるかのように……」

 言って、フレシアははっとなる。何故、今自分は白い吐息を吐いているのかと。そう、確かに季節は冬ではあるがさっきまで白い息なんて吐いていなかったことに気付き、周囲を見渡して更に足下を見る。

「な、なんじゃこりゃ!?」

「足下が凍り付いて……固定された!?」

 ティンとフレシアの脚が氷付けとなっていて何時の間にか動けなくなっている。この事実に気付いて周りの敵を確認するが仮面達も氷付けになって動けなくなっている。そこに、空中に一つの巨大な影が飛び上がる。


「我此処に放つは光神偽りし五連の槍――!」


 呪文のような言葉を口ずさみ、巨大な板を背負ったような何かは細長い棒を突き出して彼女は宙を舞い滑るように四箇所に狙いを定めていく。

 夕焼けと夜空交じり合う光がその影を照らし出す。それは巨大な盾と槍を構えた蒼髪のメイド、マリンだ。


「貫き穿て、氷の魔槍ッ!」


 マリンは宙より四箇所に槍から放つ氷の一撃を放ち。そして空中で踏み込んだのように槍を逆手に持ち構えて。


「秘儀ッ! ブリューナクッ!」


 地面に目掛けて、容赦なく投げつける。地面に降り立った槍は全ての氷を打ち砕き、人間は無傷で、機械は無情にも砕け散っていく。

 マリンはそのままスケート選手のような滑りで地面に戻るとマリンは槍を掴み取ると構えなおして二人の前に庇う様に立った。

「申し訳ございません。少々ゴミ掃除に手間取りまして」

「ご、ゴミ掃除って、そんなにチラシが」

「いえ、54の妙齢の女性に対して不意を打って誘拐しようと企む不埒な輩です。ゴミと呼ぶには十分かと存じます」

 ティンは少し頭を抱えたくなった。幾らなんでも彼女に危害を加えてくるとは思わなかったが、向こうも向こうで勝手に処理してたようだ。

「して、そこの女性はどちら様で。見た事あるきがしますが」

「ああ、そういえば誰あんた?」

「ん? フレシア・ルッテース。ルッテース一座のたった一人の踊り子にして看板娘。と言うかそんな話していていいの?」

「構いません。メイドとしての仕事は全て完了しております」

 言いながらマリンはガンと槍の柄で地面を叩くと更に彼方此方で何かが砕け散っていく音が響いていく。

「敵性戦力の殲滅を確認。ゴミ掃除は問題なく完了しております」

「す、すっごいな、さいきんのめいどはたたかえるんだ」

 フレシアはこの状況に軽く声が震えていた。確かに、唐突に出会った機械に命を狙われた少女に槍を持ったメイドさん、この状況に驚くなと言うのは流石に無理というものだ。

「そう言えばその盾は何? やったら大きいけど」

「これはラージシールドです。人によってはビッグシールドとも言いますね」

 マリンは説明しながら立っていながらも自分の体をすっぽり覆うほどの大きな盾を持ち上げてみせる。

「こんな大きいのよく持てるね〜」

「軽量化の術式でガッチガチに固めているのでそこまでは。いざ重量が欲しければ盾を中心に氷漬けにしますので」

「と言うか、マリンさんって戦えたんだね」

「これでもディレーヌ様の子分ですので、いざと言う時主を守るのも私達の仕事です……そう、昔から。ディレーヌ様が公爵館に来た時から、ずっと」

 まるで昔を懐かしむかのように、マリンはそんな事を呟いた。しかし、そこにフレシアは。

「ねえあんたらさ、一体何者なん?」

 そんな事を聞いた。ある意味尤もな質問だ、何せ騎士のような格好をしてる上にメイドまで引き連れて更に機械集団に命まで狙われていると来たもんだ。

「あーええっと、あたし達は」

「我々はイヴァーライル王国の使者です。今度お祭りをするので宣伝をしております」

 聞いたフレシアは一瞬呆然とするとすぐに。

「い、イヴァーライル!? 今イヴァーライルって言った!?」



「ただいま親方!」

「おう戻ったかフレシア! オーディションの一次試験はどうだった?」

 一行はフレシアに手引きにより旅芸人一座が移動に使ってる改造トラックへとやって来ていた。中身は舞台ようと居住区スペースになっているようで、演奏をしていたもの達が中で楽器の手入れなどを行っている。

「そんなのどうでもいいよ! それよりもさ」

「ばきゃやろう! お前の夢がどうでもいいわけねえだろう! ん? お客人?」

 と、親方はそんな怒鳴り声をあげながら続いてやって来たティンたちに気がつくと佇まいを直した。

「お客さんですかい? 今日はもう公演は終わってますがどんな御用で?」

「あーその」

「我等はイヴァーライル王国の者達です。本日はこちらのフレシア様のお誘いによりやってまいりました。あ、これどうぞ」

 マリンは短く言うとチラシを取り出して渡した。

「ああどうも……って、イヴァーライル王国!? お、おい、イヴァーライル王国っていや」

 言いながら親方が振り向いた先、そこにはボンゴの前に座り込んで楽器の調子を見ている男を見て、次にリュートを弄っている男を見る。

 ボンゴを弄っていた男はまるで挨拶でもするように軽く叩いた。

「あの人は?」

「ああ、ジョージのとっつぁんは口下手でね。返事はいつもボンゴなんだよ」

「ボンゴ?」

「ほら、あの人が叩いている楽器。あれがボンゴって言うのさ」

 次に宜しくと言う様にフルートの音色が響く。

「あの人は?」

「ドギンのおやっさんは違うとこの出身でしょ!」

 フレシアの指摘にドギンはごめんごめん、とでも言うように笛の音を鳴らす。次にリュートを弄ってた男は丁寧にお辞儀をすると。

「あっしはジン。イヴァーライル王国領アンヴェルダン公国出身のしがないリュート弾きでさぁ。そんでイヴァーライル王国で何があるって?」

「これはご丁寧に。私はイヴァーライル王国領デルレオン公国公爵夫人ディレーヌ様の子分、マリンでございます。此度はイヴァーライル伝統のお祭り、凱旋祭の宣伝のために方々を旅しております」

 言った瞬間、トラック内の空気が微妙に変わった。その空気は。

「凱旋祭……そいつぁ、マジですか?」

 探るようにジンは問い返す。見ればジョージも呆然と固まっている。

「はい、マジですが何か」

 マリンの言葉に対する返事は、涙だった。

「え、え、如何したの行き成り!?」

「え……? あれ、何で、涙? どうして、急に」

 ジンは目尻を触れると、漸く自分が涙を流してることに気付いたのか背を見せた。

「凱旋、祭」

 ジョージも呟くとボンゴを叩くように、音も出さずに撫でた。その様子の変わりようにティンは思わず親方に尋ねる。

「どうしたの、この人達?」

「こいつらはイヴァーライル出身でな。昔はよく言ってたよ、いつか凱旋祭で演奏したいってよ……まあ呪いで沈んで無理だって嘆いてたが」

「……ねえ、親方さん。一つ聞いていい?」

 ティンはそんな事を言いながら親方に声をかけ。

「ん? 何だ?」

「フレシアに、いつも笑うって教えたのって親方だよね? もしかして、誰かの受け売り?」

 もしかしたら、とティンは思って聞いた。少し引っかかる疑問、彼女の頭脳がその疑問に答えを出したからこそ、答え合わせをしたくて。

「おうともよ! 俺は昔、かの剣聖・山凪宗治郎に助けられたことがあってだなあ」

「やっぱり、じーさまだ!」

 ティンは予想があっていたことに驚きを隠しきれずに思わず声を張り上げてしまった。

「ど、どうしたんだ、あんた」

「あ、えっと、あたし、山凪ティンって言って、山凪孤児院の人間で」

「や、山凪孤児院だ!? そ、そんなもん、ってか山凪ってまさか……」

 そこまで言うと親方は一度考え込み、周囲に向けて。

「そうだな……おい、おめえら何時までもしょぼくれてんじゃねえぞ! これからルッテース一座はイヴァーライル王国凱旋祭に参加する! 行くぞ野郎共!」

 親方の宣言により一座の面子が準備を始める。まずはトラック移動の準備にと楽器や機材を片して固定している。

「嬢ちゃん、チラシ配って回るんだろ? 俺達でやっておくよ」

「え、いいの?」

「おうともよ、このルッテースの名に懸けて凱旋祭の知らせを世界中に広めてやるぜ!」

「あ、ありがとうございます!」

 ティンが頭を下げるとマリンも続いて頭を下げた。それフレシアは親方の隣に立つと軽く笑い飛ばす。

「良いって良いって、そんぐらいお安い御用さ! あたしらは」

「楽しい音楽、陽気なボンゴに華麗なフルートの音色!」

「優美なるリュートに自慢の曲芸、そしてそれらを彩る美しい舞!」


「ようこそ、我らルッテース一座へ!」


「もう夜、公演はありませんが」


「お客人を精一杯持て成させて貰います!」


「どうぞ、心行くまで楽しんでいってください!」

 二人は言いながら華麗なるパフォーマンスと共に、ティンとマリンを歓迎する。

そんじゃまた。

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