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路地裏のスター達

 女はすばやく路地裏に入ると素早く手紙を開封してその中身を流し読む。彼女にとってその手紙の内容は半分ほど興味がないらしく、ぐいぐい読んでいき一番最後とも言える箇所をゆっくりと読んでいく。

 そしてほんの数秒。

 僅かな時間だけ、彼女にとっては恐らく止まった刹那の様にも感じられる時間。その短い間に、全霊を注ぐように見つめている。

 そして、腰を抜かしたように地面に座り込んで、天を仰いで、空気を吐き出して。

「う、受かった~~」

 情けない声を出して、もう一度手紙のある部分を読む。そこに書いてあるのは幾つかの文章と、単純な彼女への評価を示す二文字。

 “合格”

 この二文字をだらけきった視線で彼女は見つめる。簡単なことだったと言うように。

「でもまだ一次試験、二次試験も合格目指して――」

 言いかけて、彼女の耳に何かが届いた。何の音か、思い出そうとして引っかかる。

「金属、音? え、これって刃と刃の激突音?」

 女性はそれを聞いて、単なる空耳だとまずは自分に言い聞かせる。だがしかし、確かに激しい刃と刃が交差する音が響いてくる。

 端的に言えば、まさに戦いの音だった。

 彼女はそれを悟って余計に危ないなと思いつつ路地裏から立ち去ろうとした、が途中で足を止める。何故なら、聞こえた声色が一つ気になったからだ。

「女の、声?」

 女性の、声。路地裏で響く女性の声と戦いの音。それが、彼女の何かを激しく揺さぶった。思わず、足を向けてしまうほどに。


(止めておけ)


 思ったが、思わずそちらへ向ってしまう。


(もうすぐ、二次試験が始まるんだぞ?)


 彼女は手にしていた手紙に目を落とす。見れば、とあるオーディションの合格通知だ。


(怪我でもして、落ちたら如何する)


 音がより激しく耳に届く位置へとやって来る。


(プロのダンサーに、大舞台で踊るダンサーになるんだろう?)


 そうだ、と彼女は心内で返す。その為にこうして今まで生きてきた。今更小さいことで躓きたくはない。


(だけど)


 だが彼女は前を向いて、帽子をより目深に被り。


(自分を優先して何もかも捨てる、そんな選択だけは)


 傲慢だけども、それが偽らざる自分の真実。良いではないか、偽善でも。


(ダンスも選ぶ、自分のしたいこともする、それの何が悪いッ!)


 決心と共に、彼女は颯爽と叫んだ。


「待ちなッ!」



 ティンの目の前に唐突に現れた自称踊り子は、周囲の仮面の面子に向けて。

「ったく、男がぞろぞろと女の子を囲んでナンパにしちゃやり過ぎじゃねえの?」

「……排除せよ」

「ちっ、聞く耳無しかよ」

 女性はズボンのポケットに手を突っ込みながらティンと背中合わせに周囲を見る。

「気をつけて、こいつら機械だよ!」

「機械だぁ? はん、あんた一体何処のヒロイン様だよ。で、そんな可愛らしいヒロイン様を守ってくれる王子様やナイト様は何処に?」

 ティンは完全に巻き込まれた彼女に状況を軽く説明すると呆れた声が返ってくる。しかし、そのコメントにティンも呆れる。

「いや、いないよそんなの」

「ええー、こんな可愛い子がヒロインやってんのに世の男供は何やってんだなさけない」

「……いたら良いね、そう言うの」

 言われて今までの経緯を思い出すに、ティンはそんな傍で守ってくれる王子様的な人は一切居ないことに気がついた。そう思うと妙に寂しいことに気がつき、何で自分の周囲の野郎どもはと嘆く。

 しかし、実際のとこそういう人間がいないのはティン自身にも問題があるのだが。

 そして女性はポケットから手を出して、出した手から果物を生み出すとそれを齧り、それを真上に投げ。


「レディィィィスエェェェェェェェンッ! ジェントルメェェェェェェェェェェェェンッ!」


 更に、まるで舞台の上の主役のように叫んだ。


「皆様、今宵この舞台にお集まり頂き、真に恐縮! ではこれより始まるダンスをどうぞ心よりご堪能ください!」


 魔法を編みながらの華麗なる前座に仮面達は警戒して動けなかった。それを知ってか知らずか、彼女は。


「今宵の舞台の主役を勤めますは私ことフレシア・ルッテース、そして――」


 そこでフレシアはティンにこっそりと。

「あんた、名前は?」

「え、えっと、ティン」


「本日のゲスト、ティン! 我ら二人のダンス、どうぞ心行くまでご堪能下さいませッ!」

「ええい、邪魔をするなッ!」

 叫ぶ黄龍はブレードを展開してフレシアに襲い掛かる。ティンはこのままでは彼女が危ないと思い、踏み込んだ瞬間。

「なお」

 ガインッ、と言う鈍い音が響く。何かと思ってみれば、フレシアの足が、黄龍の斬撃を蹴りつけている。器用に加えられた力が黄龍の一刀を見事に押さえ込んでいる。

「踊り子へ手を出すのはご法度ですので、そんなお客さんには教育的指導を加えますので」

 刹那、フレシアの足が撓ったと思ったら黄龍と彼女の足が一瞬で消える。直後、激しい物音がティンの耳に届き、黄龍がビルの壁に叩きつけられていた。

「なっ」

「ご容赦のほどを」

 ティンですら呆気に取られるほどの素早く打ち込まれた、蹴りだ。それもその筈、彼女は踊り子。軸となるその足の強靭さはティンがよく、よく分かっている。

 何故なら自分の体の根本的な作り方は全て、踊り子から発生しているのだから。そしてフレシアは更にポケットから何かを取り出して手早く操作を行う。

「おんがく君!?」

「さあ、行こうティンッ!」

 そう言ってフレシアはティンの手を引いて、おんがく君を投げ捨てると。

「此処はあたし達だけの舞台、今まさにステージの幕は上がった! ならやることはただ一つ!」

 そう言ってティンをまわし、自分もステップを踏んでターンをして宣言。

「踊ろう!」

そう言ってティンと背中を合わせるとそのまま仮面の奴らを蹴り飛ばす。ティンは剣を構え直して立ち上がって来た黄龍と対峙し。

「おのれ、もはや容赦はせん!」

「煩い、何度でもぶった切ってやるよ!」

 流れるアップテンポな曲をバックにティンも頭に触れることで術式を起動させて高速移動しながら黄龍と切り結ぶ。

 そして弾き、二人は距離をとった直後に再び距離を詰めあい、斬り合い黄龍は宙へと舞い上がっていく。更にそこから上から切りかかり、更に背後から足下、右肩左脇腹へと斬撃を加えティンは全てそれを斬り捌いて行く。

「どうだ、見切れまい!」

 この高速戦闘による剣戟はほぼ黄龍の一方的な猛攻に終始しており、一見してティンはただ一方に斬られているだけで防戦にのみ徹している。

 流石にこの状態を維持するのはどうかと思い、ティンは更に一瞬もう一度頭に触れることで魔力を流し。

光子加速(フォトンブースト)四倍速(スクエアアクセル)ッ!)

 更に速度を上げるが、さっきよりも動きが見えるようになっただけで全く動きについていけては居ない。

「はははっ! 多少速度を上げようが、オレには一切意味は無い!」

 黄龍は勝ち誇ったようにティンへと切りかかる。

「貴様がオレに勝てる要因なぞ一切ない! 速度のアドバンテージ、そして機械であるオレだからこそ、貴様より持っている絶対的優位を持っている!」

 叫びながらティンに向けてわざと余計易い攻撃を繰り出し、わざと避けさせ。

「そう、機械だからこそ持つこの頭脳! この未来を予言するかのような動きはまるで貴様の剣が勝手に外れ」

 その回避運動にあわせて素早く剣を戻し、動いている途中のティンへと切り込み。

「オレの剣が貴様の体に吸い込まれていくように」

 切りかかって、黄龍の右腕が吹き飛んだ。

「――は?」

「遅い」

 ティンは、獲物を射抜くかのような視線を黄龍へと叩きつけ、地面に降り立ったティンは通常時の四倍速で黄龍に剣を振るい、黄龍は身体機能を全力駆使して後退するがティンと黄龍の間に彼の右足が宙を舞う。

「な、なにぃ!? な、何故だ!?」

「機械だかなんだか知らないけど、随分とお粗末な予言だね」

「く、くぅっ! おのれぇ!」

 彼は知らない。ティンの持つ頭脳は、そこらの機械謎より圧倒的に優れているものであると言うことを。特に、計算やこと未来を読むことに関しては恐らく、比べれば黄龍の方がポンコツに見えるだろう。

 だが黄龍は尚も挑もうとするが他の者達が押さえ込み、ティンの前に立ち塞がる。

「な、どういうつもりだ貴様達!?」

「逃げろ、黄龍! 我等はただの鉄くず、代わりなら幾らでも作れる! だが、F・オリハルコンを母体としている御機体はこの世界では復元不可能だ!」

「だが貴様らをこれ以上犠牲には出来ん」

「繰り返す! 御機に代わりは無い、今は逃げて機体の修復に専念せよ!」

 部下の必死な叫びに、直後に繰り出されるティンの斬撃によって一気に首がはねられる。それを見て黄龍は宙へと飛び上がり。

「おいこら手前!」

「……この勝負預けるぞ!」

 そう言って、黄龍は戦場離脱をした。

 んじゃ、また。

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