表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/255

不思議なメイドさん

「わたしは、昔イヴァーライル王国のデルレオン公国の孤児院に引き取られました」

 教会の孤児院を出ると、マリンは淡々と語りだす。まるで、どうでもいいことだと言わんばかりに。

「理由は良く覚えていません。当時1、2歳ですし、もう50年以上も昔の話です。わたしは親を亡くし、孤児院に預けられていました」

 移動しながらマリンは語り続け、唐突に振り返って水穂達を見る。

「所で貴方達は、孤児補助制度と言うものをご存知で?」

「いや、知らないけど」

「私は知っています。たしか、孤児院に預けられた孤児が多ければ多いほど都市間連合から補助金が多く貰える、と言う制度でしたよね?」

「そうです」

 水穂の言葉にマリンは頷き、ティンはへえと聞き入っている。

「普通、都市間連合におけるその制度は定期的に視察員が見にきたり周囲からの目があるのでこう言う都市内ではあまり起きませんが……デルレオン公国の孤児院は首都の外れにあり、何より当時デルレオンに公爵……国の管理を行うものが居ませんでした」

「え、じゃあ誰が国の管理を」

「国王様です。誰も管理していないので、国王様による代理政治が行われており、一応爵位を与えられていた者が国に居たのですが……しかし、あくまでも代理。はっきり言って公国としてはほとんど機能していませんでした。

 では、そんな状況で大人達はある、とんでもない事を考え出しました」

「とんでもない、こと?」

 ティンはマリンの言葉をオウム返しのように返し。

「見ている人間も居ない、管理している上もあってないもの。つまり大人達はこう考えた」

 と一度斬って、マリンはとても甘い誘惑を、そして決して思いついても口にしてはならない言葉を、口にする。



「貰える補助金、子供達の為に使わなくてもばれないよね?」



 まさに、悪魔みたいな囁き。

「あの、まさかそれって」

「その様な発想をした大人達の行動は早かったそうです。第四次世界大戦中であったのも功を奏し、イヴァーライルが戦争によって儲かっていたのも手伝い、孤児集めは捗り、孤児院に多くの補助金が入ってきました。そのお金は全て大人達の欲望を満たす為だけに使われたのです。

 事務所に防音壁を置いたり、娯楽関連の物を買ったり、高級な料理を注文したり、そのお金が子供達の為に使われることは、最後までありませんでした」

 マリンの言葉に、二人は何も言えず。

「そして放置された子供たちは酷い有様でした。暴力は流石にありませんでしたが、しかしそれでも声の大きい子供が実質的な孤児院のリーダーで、何かあってもそんな子供たちが言った適当な嘘を大人達はいい加減に対処していったのです。

 あれは、地獄としか言いようがありません。

 見た目は小奇麗でも、中身はぼろぼろの小屋で、行動力のある子供が王様と言う場所で、言いたいことは言えず言わせず、大人が一見静かにさせているだけでそこは、単なる孤児を詰めただけの箱庭みたいなものでした。王様に逆らえば一日中トイレやベッドに押し込まれて何もさせられず、反抗すれば大人達によって粛清される……あそこは、そんな所でした」

「ひ、酷い……大人は、そんな子達に何かは」

「何も」

 口を覆う水穂は、マリンに問うが切り裂くような言葉が飛び。

「大人達は時折酔っ払って子供達を威したりしましたが、決して手を出すことだけはありませんでした。当然と言えば当然ですね」

「よく、国にバレませんでしたね」

「だって、お金の使われた跡は分かっても何に使ったか不明なんですから分かりようもありません」

「で、でも、大きくなったら」

「さあ……卒業した子供はどうなるのかなんて、誰も知りませんでした。聞いた話だと新兵として最前線に送られたとか、冒険者に売られたとか、タブーでしたよ? 言えば大人達の手によって公開処刑です」

 そこまで聞いていたティンは奥歯を軋ませて。

「その連中、子供を何だと思って」

「金の卵を産み鶏とでも思ってたのでは? 文字通り、いれば居るほど多くの資金を齎してくれるのですから」

「……そいつら、今は」

「さあ……呪いで全員死んだか、或いはどこかに飛ばされたか。私は14歳の頃にデルレオン公爵様が現れて引き取られたので」

 その言葉にティンは呆気に取られた。何せ自分が聞いていたよりももっと簡単な結末がやってきたからだ。そこでマリンは思い出したように。

「あ、所で」

「え、えっと、何でしょう」

 言うとマリンはティンも見たことがあるようなバッグから、分厚いチラシの束を取り出して。

「はい、どうぞ」

「……は、は?」

「チラシを、と。今度イヴァーライルでお祭りがあるので是非」

 空気が、流れた。それも異常なくらい強引に。水穂は思わず流れに乗って受け取ってしまい。

「あ。どうも……って、え!? これ凱旋祭のお知らせですか!?」

「知ってるの?」

「し、知ってるも何も私子供の頃行った事がありますよ、凱旋祭!」

「え、そうなの? と言うかマリンさん、バッグ何時の間に……」

 ティンは呆れ気味にマリンの手元のバッグを見る。

「あ、はい。ティンさんではおそらく時間が掛かると思ったので勝手に」

「そ、そう」

「しかし、懐かしいですね……凱旋祭。最後に行ったのは17・8年前ですか? そう言えばあの時のパレードに乗っていた小さな女の子が居ましたね……金髪のかわいらしいこが。思えば、あの子が在りし日のエーヴィア女王だったのかも知れませんね」

 そう呟き、水穂は思い出に浸ると、ある意味当然の突込みを。

「ところでこのチラシ多過ぎで」

「では私たちはこれにて」

 そう言ってマリンはティンを引っ張ってすたこらさっさと立ち去っていく。

「い、幾らなんでも強引過ぎるんじゃ」

「殿下より教わった交渉術の一つです。ひとまず考えさせるな、これこそ至高かつ究極の交渉です」

「……交渉し」

「で、ティンさんは何処に行くので? まだこの街に留まるおつもりですか?」

 早速実践される相手に有無も言わせぬ交渉術。それにティンは諦めと共に溜息を吐くと。

「うーん、じゃあ次の街に行こうか? でも此処から近くて大きな街となると」

「では表の世界最大都市、タマムコガネシティに向いますか?」

「じゃあそこで」

「となると、あそこに行く必要がありますね。行きましょう」

 そう言ってマリンとティンはとある場所に直行する。そうそここそ、イッツアステイション。

「これが、人類文明の利器――D・E・N・S・Y・Aこと、電車です」

「それ言う必要あったの?」

 と、ティンたちは都市間列車の駅に来ていた。そしてマリンはあれこれと調べていくうちに普通の駅の改札には行かず。

「何処に行くの?」

「申し訳ありません、どうやら私はとんだ思い違いをしてしまっていました」

「思い違い?」

 と、マリンはづかづかと駅の奥へと向っていく。

「ええ、我々が使う人類文明の利器は電車ではなく」

 そう言って、辿り着いた場所を指差し。

「S・I・N・K・A・N・S・E・N――新幹線、二時間です」

「お、おう」

 ティンは、何とコメントすれば分からず、マリンが何時の間にか揃えた新幹線の切符を受け取り改札を潜って行く。

 そしてティンは新幹線の自由席へとマリンと共に座り込む。

「えっと」

「おや、ティンさんどうかしましたか?」

「あの、新幹線とか初めてなんだけど」

「まあそうでしょうね。大丈夫です、私も人を引率して新幹線に乗るのは初めてです」

「不安にしかならないね!?」

 ティンは突っ込みながらも、やがて新幹線は動き出す。そこでマリンから弁当を渡された。

「え、これは」

「すぐそこで買いました、お昼は子供達と遊んでいたようでしたのでどうぞ」

「あ、はい。こんなの何時の間に」

「メイドとしては当然です」

 と、マリンも自分の分を買っていたようで美味しそうに弁当を頬張り始める。

「でもお金は大丈夫ですか?」

「基本的にティンさんの行動にかかるお金の出何処は国庫ですので大丈夫です」

「いいのそれ!?」

「国がどうなるかどうかの瀬戸際ですので、無問題でしょう。よっぽど大金の掛かることさえしなければ陛下も長い目で見て安いと判断するでしょうし……この焼肉弁当美味しい」

 そんな感じのマリンを見てティンも自分の弁当を食べようとして、でっかい魚肉がおかずとなっている事に気付いた。ちらりと横を見る。そこには美味しそうな焼き肉が。

「あの、マリンさ」

「すいませんっ!」

 と、ティンが何かを言う前にマリンが黙らせるように手をあげて通る乗務員を呼び止めた。

「何か、お肉はありませんか!?」

「え、あ、はい。おつまみやお土産で宜しければ色々と」

「それ下さいッ! シュウマイで! あと飲み物をいくつか下さい」

 そう言って手早くマリンはシュウマイとついでに飲み物を買うとティンに渡す。

「これで良ければどうぞ」

「あ、はい……マリンさんって気が利くね」

「メイドですので。ですがメイドにだって出来ない事がありますよ、メイドだからって何でも出来る訳ではありません」

「はあ、そうですか」

 そう言ってティン達は新幹線の旅を満喫した。そして二時間後、一行はタマムコガネシティ中央区へと辿り着く。

「此処がタマムコガネシティか……」

「さて、チラシを配りに行きましょう」

 二人は新幹線から降りて駅から外に出る。

「でも何処で配ればいいんだろうか……この辺りに知り合いなんて居ないし」

「一先ず、うろついて見ましょう。駄目なら冒サポに行きましょう」

 と言うことで、二人は移動した。

 いい加減気づいている人もいるだろうと思うのでここに記す。

 実はこの世界における最新型の携帯電話とは……折り畳み式のガラケーなんだ。



 え、んなの描写見りゃわかる? 一々携帯電話使う度に折り畳む描写入ってりゃ嫌でも察する? えー。まあそう言う感じでこの世界にはまだスマフォと呼ぶべき携帯電話は存在しません。え、ガラケーなんて古いし出そうよって?

 そもそもこの話の原型が15年以上も昔から筆者が遊びで作り続けた世界ですが何か。むしろケータイ自体がこの世界的に最新技術ですが。

 そしてスマフォ的なモノが出る場合、多分企画エックス的なノリの話ができますよ。

 それではまた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ