迷惑な乱入者
瑞穂は浅美に直ぐ「いきなり全弾乱射するなら銃は禁止」と怒られ、次から剣による攻撃へと変わった。
だがしかし。
「ターゲット、ロック!」
機械の翼と白鳥が持つ様な純白の大翼を背にし、カオス・スパイラルとアル・ヴィクションを一つに重ねて切っ先を上空から敵二人へと定める。
同時に二本の剣は真っ白な光を纏い、やがて渦を巻いて暴れ出す。
「いっけぇ! 虚空光天撃ッ!」
暴れ出した渦は破裂する様に飛び出し、一つの光線となって敵二人へと突き刺さり爆発する。
ティンは目の前で起きた爆風に思わずに目を覆って、立ち止まる。風が収まるとそこには対戦相手のコンビがのびていた。
「勝者ティンエェェェンドゥ浅美ィィィッ!」
と同時に地震が起きたと思いそうな歓声が上がる。
まあ、こんな風にほぼ浅美無双状態となるのである。一方的な蹂躙である事には何も変わりがなかった。
次の試合も概ね酷い内容である。
「てぁッたぁッせぃッ!」
ティンが敵コンビの一人を剣戟で攫うと舞っているかのような華麗な動きで切り刻んで行く。コンボに締めに相手を切り飛ばして距離を開け――ダンシングステップで距離を詰めてまた攻撃を始める。
何このコンボ。
ティンの剣戟から逃れようと相手も必死でもがいて打点をずらしたり軸をずらしてコンボ抜けを図るも、ティンのダンシングステップで全部元に戻されると言う酷い鬼畜である。
「毅然とッ!」
相手を高く切り上げ、剣を高々とか掲げる。剣は光り輝き、ティンは身を捻って地に向かって落ちて行く相手に向かって肩から突っ込み。
「煌めけぇぇーッ!」
一気に薙ぎ払うッ!
ちなみに浅美は纏めて片付けようとしたが、ティンが先に一人持って行ったので仕方なくもう一人を空の旅に持ち込んで切り刻むと言う鬼畜行為をしていた。落とさないって素晴らしい。
その後、瑞穂はティンに試合の感想を語る。
「あんな事も出来たんだ。いつもは一撃なのに」
「ん? んー寧ろあれがあたしのスタイルだよ。一撃で終わらせるの師範代の教えかな?」
ティンはかいた汗を拭きながら答える。服装は街に入った時と打って変わって騎士服だ。
「次で準々決勝だっけ。早いねー」
「本当にね。ぱぱーっと終わるもんだね」
「初見殺しを仕掛けりゃ普通はそうなるよ、うん」
瑞穂の言っている事は確かに合っている。誰が思うか、試合開始直後に銃弾乱射による弾幕結界、次はビーム系魔法で一掃、その次は二人で相手を一方的に斬り付け続けるなんて事して来ると。思うとしたらそいつは預言者か彼女達の知り合いくらいである。見事過ぎるほどの対処法の無い初見殺しだ。
ちなみに初見殺しと言うのは特殊な挙動等で相手に有効な対処法を見出す前に倒す事。別名分からん殺し。あれだ、『い、いま起こった事をありのまま話すぜ! 相手が動いたと思ったら何も出来ずに負けた』と言うものである。
まあ戻そう。
と言う感じに準々決勝スタートである。さて何秒で終わるのか、何行で終わるのか、そもそも何文字で終了するのか、期待と恐怖が高まる思いではあるが果たしてとか書いてる内にティンがクリティカルスラッシュで一撃、浅美が混沌の魔剣で一気に薙ぎ払って終わりました。何だこのチート集団は。誰か止める奴はいないのかよおい。
「まあ、ティンさんは兎も角浅美さんは結構な反則だからねえ。ちょっと前までは火力が絶対的に足りなかったのに混沌の魔剣持ってから変わったなぁ。
どっちにしても相当なイレギュラーが無い限り優勝は軽いね」
と観客席の片隅でこそこそ観戦してた瑞穂は語った。こそこそしてる理由? 男だらけだから。
さって、準決勝。ついにベスト四に進出した彼女達は。
「暁光の輝き、いっけぇぇぇーッッ!」
ティンはダンシングステップで一気に間合いを詰めると剣を輝かせながら身を捻って真横に円を描く斬撃を繰り出し、二人の男達を薙ぎ払うッ!
「勝者、ティン&浅美ィィィッ! 強い強い強ぉぉぉいッ! 彼女達を止める奴はいないのか!?」
ちょっと視点を変えよう。闘技場の一角、観客席にて。
黒い髪の女が二人、つまらなそうに闘技場の試合を見守っている。
片方は黒い髪を肩に掛かるか掛からないかくらいまで伸ばしつつ、もみ上げの部分だけを伸ばした感じの髪型に白黒の中華服を着た女。腕と足を組んで座っている
もう片方は黒い髪を腰まで伸ばし、両耳に星型のピアスを付け、黄色のパーカーの下に白いシャツ、黒いスカートに黒いタイツと上半身と下半身の色合いが真逆な女。ちなみに長髪の方はやたらと胸が大きいからか、周囲の男達からの視線をちらちら集めている。
本人はそんな視線を無視しているのか、そもそも気付いていないのか、抱えたポップコーンを食べながら足を組んで座っている。
「止められるさ」
「ん、優子ちゃん随分自信たっぷりだね」
短髪の女――優子と言うらしい。彼女は腕を組みながら吐き捨てる様に言い放つ。それはつまり、ティン達の連勝記録を止められると言う意味だろうか。
返す長髪女はペロペロと自分の指をなめる。
「あれくらいどうってことはない。程度の低い大会に出て良い気になってるだけだ。だがまあ、楽しめそうではあるな」
「ふーん。じゃあ仮面でも付けて乱入する?」
「安心しろ、そんな真似をすれば瞬く間に捕まるぞ。と言うか、結界をどうする気だ?」
「えーっと、優子ちゃんの家の力で」
「大企業の社長令嬢に出来るのは精々ゲストとして飛び入りするくらいだ……ろくに帰らん娘に、そんな無茶をしてくれる親とは到底思えん」
「じゃあ終わった後に喧嘩売るの?」
長髪女はポップコーンの袋を逆さにして口に流しこもうとする。
「そんな闇撃ちみたいな真似が出来るか。挑むなら後日に堂々と売るさ。ところでエグレイ、お前を切った奴はあの騎士服の女か?」
「そう! そうなんだよ! あいつと来たら折角買ったばかりのタイツを真っ二つにしてくれて! また買いに行く羽目になったんだよ!? ったく此間の暴漢と良い、最近人の服を壊すのが流行ってるのかっつーの! この前はお気に入りのコートを破かれるし!」
長髪女――エグネイは足を組み変えて不満の声を上げる。どうやら先日ティンと戦った謎の双剣士は彼女らしい。
「お前の魔力管理が悪い。そもそも、魔道防具を破壊されて平気な顔をしている時点で破って下さいと頼んでいる様なものだぞ、露出狂」
「むぐっ」
言われたエグレイは食べてるポップコーンを詰まらせたのか胸を叩き始め、傍に置いてあるコークと書かれたペットボトルを一気飲みし始める。
優子は腕を組んだままつまらなそうに立ち上がると踵を返す。
近くにいた男どもがどよッとしたのはきっと試合を見ていたからに違いない。ほら、結構白熱してるしさ。決して“巨乳露出狂女”と言う単語に反応した訳ではないと信じたい。
「だっ、誰が露出狂だッ! って、あれ優子ちゃんもう帰るの?」
「結果は見えた。下見に来た時点では大した無い連中ばかりと思って見送ったが……まあ参加出来ない以上こんな所に居ても時間の無駄だ」
言うだけ言うとさっさと観客席から離れて行った。後に続いてエグレイも立ち上がると追っていく。
そんなこんなで場は既に決勝戦。ティンと浅美は決勝戦の相手と睨み合う。勝利の女神はどちらの微笑むのだろうか、と言うか相手何秒持つんだろうか? 数人もう勝負の行方が見えたのか帰っていく人達も見える。開き直って何秒で終わるか賭け始める連中まで現れる始末。
「ふむ、あの時の少女達か……貴様らの内誰かを誘うべきだったか、いやもう遅いか」
何と対戦相手は浅美達を不服と申した甲冑男だった。何と言う偶然。
さあ、今こそ運命の決勝始ま――。
「圧力場ッッ!」
闘技場の真上から押しかかる重圧、それに伴う爆風。闘技場の上部に展開されていた結界さえもぶち破り、そいつらはやってきた。
「お、お前らッ!」
幾度となくティンを狙って来た謎の仮面の男達だ。数は二人。だが、何時もの奴とは仮面が違う。牙とか付いて厨二病度が上がっている。
「玄武か!」
ティンは堂々と腕を組んでいる男を指して叫ぶ。
「如何にも。我こそは四天王が一人、玄武」
「旦那、勝手に自己紹介しちゃアウトでしょうよ」
と、軽い調子で隣の男が声を上げる。
「んじゃ、俺も自己紹介いっとくか。四天王が一人、白虎。それが、お前に死を与える存在の名だよ、黄昏の神剣士」
「お前、何で此処に!?」
「聞けば、闘技大会と言うではないか。こう言うものにはサプライズと言うものが必要であろう?」
玄武は腕を広げる。ティンも周囲に目を移せば、帰ろうとした人々がなんだなんだと元の席に戻っていく。
ちなみにティン達が実際に戦う筈だった相手はさっきの攻撃で吹き飛んで気絶中。
「な、なぁぁぁんとぉぉぉぉぉぉッ! いきなりの乱入ぅぅぅ者ぁッ! これは吃驚な中々にイカしたサプラァァァァァァイズッ! 一体誰の差し金だぁぁぁッ!?」
「見たまえ、ギャラリーも好評だ。此処は一つ、我々と踊ってもらおうか」
「お前の死出の旅路を飾るに相応しい剣舞って奴をな」
「勝手にやってろ!」
「いい加減しつこい!」
ティンと浅美は同時に剣を構え、大して男達も拳を構える。
「試合、開始ぃぃぃッッ!」
審判の声に合わせ、男達とティン達は動く。
「おおっとぉッ! 混沌の双剣士は俺が相手するぜぇッ!」
白虎は手を突き出して黒い衝撃波を打ち出して浅美とティンを分けようとし――ティンが、白虎の方へと距離を詰めるッ!
「チッ、まあいい手前如きに俺を倒せるかよ!?」
「油断はするな、その娘はやるぞ」
ティンは一歩踏み込み下段から白虎に斬りかかり。
「はっ、ただ剣を変えただけで何がかわ」
変わるのか、と言い掛けて白虎は地面めがけて衝撃波を地面に打ち込み、距離を取る。
「――ッハ! あっぶねぇなぁおい! こいつ」
だがティンにとってその程度の距離、上の台詞を言ってる間に詰める事は、余裕。すぐさま肉薄し、再び剣を握り直して下段から振り上げ。
「っつ、的確に俺の急所を打ち込みやがるだと!?」
それでも白虎は衝撃波を生み出して逃げる――直ぐにティンはそれを詰めるが。
続いて玄武と浅美はと言うと、浅美が音速に近い速度の連続攻撃を繰り出している。
「かったいッ!」
「それこそがこの玄武の少ない特技だッ!」
金属を鈍く響かせて玄武の交差した腕と浅美の黄金の剣が激突するッ!
「随分、軽い剣だ」
「煩いッ!」
浅美は玄武を蹴りつけて距離を取り――スカートのポケットから羽根を取り出し、機械の翼に貼り付ける。
広げられる機械の二翼と純白の大翼。
魔法で生み出される機械は無機物の証明にして、不純物が無い事の証。あらゆる思いも淘汰され、純粋に風の様に世界を巡る事だけを詰めた神にも届く天空を馳せる翼。名を――“天空神の凰翼”と言う。
浅美は白い羽根を撒き散らして敵と対峙する。
「それが、神に愛されし証明か」
右手には女神の騎士剣を、左手に混沌の魔剣を握り締め、駆ける。
玄武は光にさえ届き、光さえも凌駕する速さの浅美に先読みで蹴りを仕掛ける――が、直撃の直前で浅美は空間転移でその真後ろへと移動し、斬撃を叩き込んで空へと打ち上げる。
更に追い討ちをかける様に浅美は空へと舞い上がり、攻撃を仕掛け――。
「ぬぅんッ!」
四天王の名を持つ者としての誇りゆえか、玄武はそれでも攻撃を仕掛ける。結局、全部浅美の転移魔法で逃げられているけど。
地上でスタイリッシュ鬼ごっこが展開されている中、天空は天空で一方的な蹂躙が始まっている。
「くぅッ! 拳が届かぬとはこれほどに厄介とはッ!」
玄武は一見我武者羅に蹴りと拳を打ちだすが、実際には先読みから来る直感で攻撃を置いてあるだけである。全部空間接続魔法で逃げているが。
「動きは単調。だが、途中で急に軌道が変わる。一体、何だこれは!?」
浅美はただ無言に空を蹂躙する様に天を駆け、剣を振るう。
その様子を見て誰かが言った、まるで天使の様だと。でも誰かが否定する。それは。
「天使は、あんな風に空を蹂躙する様に飛びはしない。あそこまで行くともう隼とかだよ」
と、観客席の隅でカタカタ震えながら瑞穂が口にする。周囲に男はいないが観客席の中央には男だらけである。
そんな時、地上の方で少し動きが変わった。男が逃げる事を止めティンと向き合う。
白虎は両手を突き出し、力を放つ。
「くらいなぁッ! 双重圧力場ッ!」
男を追うティンの左右に巨大な黒い衝撃波が生み出されるッ! ティンはすぐさま軌道を上に、動くと見せてまだ衝撃波で埋まっていない真正面から突っ切ったッ!
「ちぃぃぃッ! だがなぁッ!」
ティンの攻撃を受ける直前、白虎は真下に向けて衝撃波を放って真上へと飛ぶ。ティンは剣を振るうも一瞬遅く、掠っただけで剣は空を切る。
「くそッ!」
ティンは悪態づいて上を見た。そこでは浅美と玄武が空中で読み合いによる攻防戦が繰り広げられている。
浅美は暴風の中を音よりも速く光にも届く速度で玄武の周囲を動き回る。この世界に何度も入った彼女だから多少の物はよく見えた。浅美が攻撃を仕掛けようとするとそのナイスなタイミングに蹴りや拳が置かれており、急な方向転換を行っても絶妙な時間差で攻撃の回避が間に合わず、異空間に逃げ込んで出口を変えると言う離れ業で攻撃を当てているが。
「かったい……ッ!」
そう、一撃が軽い。剣の切れ味は悪くはないがそんなに筋力がある訳ではない浅美が片手で振るえるくらいの重さなのだ。幾ら相手の動きが殆ど止まっている状態に見えるからとは言え攻撃が通り難いのなら幾ら攻撃速度が速くてもきつい。
その内浅美の元に白虎が浮き上がって来る。
「圧力場ッ!」
「アカシックレディスト!」
吐き出される衝撃波ッ! 浅美は迫る衝撃波をかわす事無く黄金の騎士剣で薙ぎ払うが直後に蹴りが背に直撃し、浅美は羽根を撒き散らして墜ちていく。
「浅美ッ!」
地上でずっと見てたティンが叫ぶが浅美はすぐに体勢を戻すと大きく翼を羽ばたかせて風を上空二人に叩きつける。
強風を送り込まれた二人は防御するが直ぐに煽られて吹き飛ばされ、二人の周囲には大量の白い羽根が舞っている。
「な、なんだこいつは!?」
「む、気をつけろこれは」
浅美はポケットから銃を取り出すと真上に向けて引き金を引く。銃声を響かせて銃口より鉛玉が打ち出され、そして――宙に舞う羽根に直撃する。
直後、風の爆風が巻き起こり、連続して風が大爆発を引き起こすッ!
「な、何」
「魔力りゅーし。高レベル魔法を発動した時に出る魔力のカス。錬られた魔力が多ければ多いほど撒き散らすりゅーしの数も濃さも凄くなる。
わたしの場合、この翼を展開した時にあれだけ濃いものが出来る。それを刺激すれば」
「……ああなる、と」
ティンは上で尚も断続的に起こり続ける風の爆発を見ている、が。爆発は一気に黒い衝撃波によって弾き飛ばされたッ!
「双剣士ぃぃぃッッ! 手前は俺がぁぁぁッ!」
現れるは白虎ッ! 白虎の産み出す衝撃波が産み出される強烈な爆風をはじき出して浅美に向かって落ちて来る。
「浅美、あの玄武とか言う奴はあたしがやるから、あんたはあっちの白虎とか言うのを!」
「え、でも」
「いいからッ!」
ティンは言うだけ言うと空中に踏み出し、音を立てて空中を登っていく。そんなティンの足元は光り輝いている。
「もう!」
浅美は言うと白虎の方へと向かっていく。
「ほう、いい度胸だ小娘。よほどに死にたいと見える」
「五月蝿いッ!」
ティンは光に踏み込み、玄武に突きを繰り出す。目の前で出された突きはあっさりとかわされ、玄武は空中なのに落ちながらカウンターで拳を打ち出すが。
「ふッ!」
物が、あっさりと斬られる音が響く。ティンが振り下ろされる玄武の左腕を肩口から切り裂いた音だ。
「え」
「ぬぅッ! 肩の部分を切裂いただとッ!?」
ティンは思わず一瞬動きを止めた。本当ならそこから拳をかわして胸辺りを切り裂く筈だった。だが実際の結果はごらん有様、見事に玄武の左腕を切裂く。
「フッ!」
玄武はそれでも空中から落ちつつもティンに右から蹴りを放つがティンはペアで踊る様な動きでそれを避けるとそこから斬撃に繋げるッ!
玄武は空中から落ちているのにティンの攻撃を左の足でガードッ!
ティンは素早く足場を消して自由落下を始め、直ぐにまた足場を作って素早く地面へと降りていく。
「すばしっこいな」
玄武は呟く。空中から勢いを付けてティン目掛けて蹴り付けるもティンは蹴りに対して斬り付けて蹴りを受け流し玄武の体を斬りつけるッ!
「くっ、ずらされた!」
「危うく、右足を取られる所だったぞ」
ティンと玄武は対峙する。白虎と浅美はお互いの硬直状態が続いている。
「まあいいや、今度こそぶった切る!」
「……ティン、と申したか。今の名は」
「え?」
「貴殿のこと、少々侮っていた様だ。その代償が左腕と言うのならやむを得ぬ。だが、それも問題はない。此処で屠ろう」
「やってみろ!」
ティンは剣を上段に構えて叫ぶと駆け出し、一気に距離を詰めて剣を振るい、玄武はそれを左脚から放つ蹴りで捌くッ! 金属音を響かせティンは更に返す刃で更に斬りかかると右足の回し蹴りで剣を弾かれ、更に玄武の拳が飛ぶがティンはバレエの様な動きで背を低くし足元へと剣を振るい、対して玄武は素早く足を浮かせて斬撃を飛び越してティンがそこに軌道を一気に変えて剣を跳ね上げるッ!
上へと向けられた斬線は宙に浮く玄武を迷い無く切上げた、がッ! ぬるぽ言うなよ?
「ずらされたッ!」
「ぬぅぅぅッ!」
ティンの斬撃は思いっきりずらされたが、それでクリーンヒットしている。だが、彼女のクリティカルスラッシュではなく普通の斬撃となり金属音を不快に響かせるだけ。
「くぅッ! 我が鋼の体にこうも傷を負わせるとは」
「違うよ、鋼の体だから傷つきやすいんだ」
玄武の言葉にティンは冷静に返す。
「硬い物は、逆にどうしても斬り込みを入れ易い部分が出来る。むやみやたらに頑丈に作った金属より、柔軟な物の方がよっぽど斬り難い」
「ほほう、中々に鋭い指摘だ。剣術のプロらしい意見、痛み入る」
玄武は片腕だけで拳を構え、ティンは剣を上段に構える。
そしてお互いに駆けだし、玄武は左のから蹴りを。ティンは上段から右の腰に剣を置き、斬り交わして位置を交換しそして――玄武の身体に、剣が突き刺さっていた。
「な、にッ……!?」
続いて玄武の真後ろに存在する空間の穴から浅美が這いずり出るように現れるッ!
「だ、旦那ぁッ!」
浅美と交戦中だった白虎は声を張り上げて浅美の下に向かうも次の瞬間には玄武も浅美も消えていた。
何処へ行った? いや、答えなんて既に分かり切っている。上、上空、ぶち開けられて修復された結界ギリギリのところ。
「ふっ、双剣士が相手とは。いいだろう、全力で」
浅美は飛行中にふっと消えさると玄武の真後ろから出現すると同時に斬撃を与えては消え去り、突如出現しては斬って消え、出て来ては斬って消え、出ては斬って消え、出ては斬って消えを何度も繰り返し、繰り返すほどに徐々に消失と出現の間隔が短くなり、三百六十度全方位から超高速の連続切りを与えて行くッ!
浅美は玄武を蹴り付けて距離を開け、二つの剣の柄の端を合わせて両剣の様にして回転させ、剣に風の渦を纏わせ。
「テンペストレイジ!」
叫ぶと同時に玄武の周囲を動く様に、竜巻の様に旋回して斬り刻み、巨大な竜巻を生み出して斬り抜けるッ! 更に、浅美の持つ二つの剣が輝きを増し、まずは女神の騎士剣が。
「アカシックスラッシャーッッ!」
青白い剣閃が竜巻を切り裂き、身体が引き裂かれる玄武が見え始める。続いて紫の輝きを放つ混沌の魔剣を。
「カオススマッシャァァァッッ!」
黒紫の斬線が竜巻を縦に切り裂く。その軌道は――さっき、ティンが切り付けた軌道。そこに黒紫の斬撃は叩き込まれ玄武は。
「白虎、我の事は気にせず撤退しろ――分が、悪い」
竜巻の中で巨大な爆発が巻き起こる。飛び散った破片も風に呑まれて消えて行った。
「旦那ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」
白虎は爆散する玄武を見て叫んだ。まるで、相手が死んだかのように。人間なら、死なない筈なのに。
玄武の死を嘆く様に白虎は声の続く限り叫んだ、叫び続けた。
「今度はお前だ!」
とティンが斬りかかると白虎は衝撃波を放つッ! ティンはそれを見て空中へと回避ッ!
「旦那……撤退なんて出来ねえッ! こいつ等を血祭りに上げ、旦那への手土産にしてくれるッ!」
「五月蝿い! とっとと斬られろ!」
「ティンさん!」
浅美が急旋回を行いつつティンの元へと向かい、ティンは着地と同時に白虎に向けて剣を投げ、白虎はそれを拳で弾く。
ティンは踊る様な足裁きで手ぶらで白虎に向かい。
「はっ、武器も無しにかよ! 死ねぇいッ!」
衝撃波を放とうとした瞬間、ティンはマントを翻す。その瞬間、一瞬眩い光が放たれたッ!
「ぐっ、何だこの光ッ!?」
「って、え!?」
ティンも吃驚だがそれ以上に食らった白虎が物凄く仰け反っている。それを見て好機と見たティンは素早く宙に浮かぶ剣を掴み取り、白虎の右腕を切り裂くッ!
「て、手前ッ!」
「これでも食らえぇぇぇッ!」
切裂かれて吹き飛んだ右腕から出来た隙間に、ティンは剣を振るう。対象は一つ、白虎の顔に張り付いた仮面。そこに斬線が走り、仮面に亀裂が入る。
「て、手前ッ!」
「虚空光天撃ッ!」
白虎の真後ろに光の爆発が起き、吹き飛ばされる。後ろから浅美が放った攻撃だ。
そして、ティンが剣を上段に、両手で構え。
「くぅらええええええッッ!」
剣が、仮面に突き刺さって白虎の頭を貫く。ピシリと、仮面はより大きな亀裂を刻み、やがて砕けて散った。
「――え」
ティンはその中身を見て驚いた。その中身は、黒かった。黒い物で埋まっていて光る双眸が見える。そう、それは――。
「機、械……?」
『自爆機構作動、五秒前。四』
「ッ、ティンさんッ!」
ティンはぼーっと立っていると浅美が抱き付くように押し出す、がティンは突き刺さった剣を手放さない為に浅美は白虎を蹴り飛ばして引き抜く。
そこで漸くティンは。
「あ、浅美、あいあいつ」
浅美は言葉を紡ぐ事無くティンを抱えて上空へと動こうとするが羽ばたこうとした瞬間、浅美の背から羽根が落ちると同時に翼が消え。
「こんな時に魔力ッ!」
『零』
瞬間、大爆発巻き起こる。浅美は直ぐに右に握り締めたアル・ヴィクションに青白い光を纏わせて爆発を薙ぎ払う。
だが、その一瞬前――爆発の炎が浅美の体の半分を包んでいた。
――旦那……わりぃ、俺もそっちに行くわ。待ってろ、青竜――
「我が主よ」
暗闇の中、誰かが言葉を紡ぐ。
「何故あやつらを行かせたのですか? 四天王が残り三人、行くなら僕も」
「いや、良いんだよ朱雀」
落ち着いた声が闇全体に染みるように響く。
「四天王なんて、幾らでもバージョンアップして作り直せるから。寧ろゴミを簡単に片付いて楽だろ?」
「……ならば、より僕も」
「いや? 君が任務を遂行してくれればバージョンアップを出さなくても良いんだよ? 精々僕の為に動いてくれ。どうせ、此処に居る連中は全部……使い捨てのゴミだから」
次回から、ティンのパーティ構成が変わります。
さて次はどんな出会いなのか? 浅美はこの後どうなるのか?
次回を待て!




