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浅美の仲間達

 ティンはリフィナから貰うだけ術式を貰い、説明を終えるとすぐさま来た道を戻っていく。そして扉を開くと何も無い、と言うかあったのだろう瓦礫だらけの部屋があり、その部屋を越えるとなんと。

「皐! に、ナンパヤローか」

 皐と関哉が息も絶え絶えに座り込んでいた。二人はティンを見つけると。

「おい……手前何処にいた」

「いえ……と言うか、何処に出たんですか……」

 完全にぐったりとした様子でティンに文句をぶつけてくるこの二人。そこでティンは。

「もしかして、ずっとあのダンジョンを巡ってたの?」

「巡ってたっつか……迷った、つか」

「一体……あれは何処に通じてるんですか? ゴーレムを斬って斬って、切り倒しきれずに、一瞬逃げるか迷った瞬間に、ゴーレムに飲み込まれましたが」

「ああ、それで入り口に押し戻されたんだ」

 ティンは思わず『何であれを相手しようと思ったんだこいつら』と思ったが、高確率で自ら挑んだのは皐で、多分関哉は無理やり付き合わされたのだろう。思えば、リフィナは神殿に入った時点で侵入者を把握していたのかもしれない。

「で、お前は抜けられたのか?」

「一応」

「じゃ、出ようぜ。ゴーレムがわらわら出てくるようなダンジョンに何時までも居られるか」

 言って関哉は立ち上がって尻を叩き、皐も溜息を吐くと立ち上がった。大してティンは試しにリフィナから貰った術式を一つ発動する。

『聞こえる?』

『あいよ、通信良好ーっつかこんだけ近いんだから当然でしょうが』

 

 貰った術式、その一。簡単に言えば、光を使った通信術式だ。

 話したい相手に片割れの術式を渡し、術を発動して遠くの人と光の通信で会話するもの、とのこと。使える場所は星の光が届く場所のみと言われている。

 これは音波を光に変換させ、通話を行っており、その通信の仲介を行っているのは何と宇宙で光り輝いている星の光だと言うのだから驚きだ。

 開発者曰く。

「星の光は太陽の光に負けてるだけでずっとそこに存在し続けてるの。この術式は、その星の光を仲介地点として発動してるから、理論上星の光が届きさえすれば何処でも使えるよ」

 つまり室内では使えない、と思いきや。

「更に、この術式は改良を加えて光を連鎖させて室内でも星の光への道を作って通信できるの! まあ、音は悪くなるけど、外まで通じる光さえあれば例え室内だろうと通信できる優れもの! 凄いでしょ!?」

 つまり、光が外まで連鎖すれば問題なく使えるとのこと。そしてティンは。

「ケータイでよくない?」

 光線で脳みそを撃ち抜かれた。


 と、そんなこんなで一行はダンジョンを脱出、そしてティンは二人と別れてイヴァーライル王国のデルレオン公国へと逆に戻っていった。そこで。

「……あれ?」

 多くの荷物を抱えた女騎士を見かける。その姿に疑問を覚えた、何処であったのかと。少し考えて思い出したのは。

「あんた、浅美の仲間、だっけ?」

 そう、浅美と一緒に来た面子の一人だと、ティンは思い出す。

「んー? あー、えー、すいません、どちら様で?」

「あ、そっか。荷物いっぱいだもんね」

 と、目の前が僅か見えていない女騎士の荷物をある程度請け負うことで二人の会話が始まる。

「それでは改めまして。始めまして。私はフロース……あ、貴方! 同業者だったんですか!?」

「ど、同業!?」

 ティンは行き成りの問いかけに非常に驚いた。荷物を持ち歩きながらゆえに落としそうになるが、必死に持つ直す。しかし急に同業と言う言葉で括られたのだから当然だろう。しかし、何の同業なのか。

「貴方、聖騎士でしょ? セントラル・パラディンで聖なる誓いを立てた」

「え、何で……あ!」

「ほら、貴方と同じ紋章が私にも」

 言われ、ティンはフロースの首もとの留め金が自分と同じ紋章の刻まれた物だと気付く。つまり。

「あ、あんた、同じ聖騎士!?」

「ふふ、そうなの。私は人呼んで飛龍の聖騎士パラディン・オブ・ドラグーン。騎士になってから一度も聖徒に戻ってないから、入れ違いになったのかな」

「ど、どうも」

 そんな感じで二人は荷物を厨房へと運んでいく。そこでティンは始めて自分の持っている荷物に気付き。

「あ、これ食材なんだ」

「うん。女王様が言ってたでしょ? 宿泊料を取るって。私達は特にお金稼ぎの当てもなし、こうやってお城のお手伝いしか出来ないから」

「へえ……って、待て」

 そんな感じに談話しつつティンは厨房に足を踏み入れるが、そこで漸く事態を理解する。そう、“浅美達”が城の手伝いをする以上、この上ない人材としてある人物が、ある場所に配置される。

 それは誰かと言えば、端的に。


 浅美が、厨房に配置される。


 その意味をティンは即座に理解し、そして目の前の状況を見る。そして、悟った。ついでに自分の理解の遅さを呪う。いや、もっと早く気付こうぜ自分。

 何故なら。



 厨房は、既に修羅殿堂の地獄と化している。



 結城浅美という、一人の鉄人がそこに聳えるだけで。



「わあ」

 ティンは目にする。浅美が一人、黙々と料理していく様を。金に糸目をつけない豪快な調理、並んでいく様々なジャンルの料理達。時間的にお昼が近いことを考えれば城中の人間が食す料理を担う気なのだろう。

 一心不乱に、踊るかのように一人で大きな厨房を右往左往する浅美の姿。

 それは全てが緻密に計算し尽くされた料理人の聖域。誰もそこには近づくことも、そして言うことも出来ない。例えば部屋の隅っこで下準備してる元城の料理人達とか。

「浅美ちゃーん、不足気味だった食材買って来たよー」

 旅仲間とかの例外を除く。浅美は無言ですすっと各所を指差して各鍋の中身の味見を行っていく。だが、その聖域を侵す愚か者、否挑戦者が一人。

「ふむ、問題ない」

「あらまあ美味しい。こんな料理食べたの久しぶりですわ」

 訂正、二人だった。そこに居たのはルメアにラルシアで、ぶつぶつ言いながら浅美の手料理を小皿に移して食べていた。

「おいそこ、何してるんだよ」

「味見ですわ」

「この城の料理人を引っ込ませるほどの腕があるかどうかを見るくらい良いでしょう……しかし、これは」

 言って、ラルシアは急に考え込む。ルメアはそんなラルシアを完全無視して食事を楽しんでるようだ。ティンもティンで、浅美の料理の腕前を思い出す。

 初めて会った時に奢って貰ったステーキ、旅の途中で幾つも作ってもらった料理の数々は確かにどれも美味で、記憶に残る一品ばかりだ。しかし、この二人は一体何をそんなに真剣に味わっているのだろうか。

 やがて二人はメモ帳を取り出すと何かを書き込み、そして。

「浅美さん」

 忙しく料理に没頭する浅美を呼び出す。そして当人も急な呼び出しに。

「何?」

 今忙しいんだ邪魔すんな、そう言いたげな目線を調理の途中に送ってくる。そんなこんなで浅美の手が届かなくなった箇所に城の料理人が割り込んでいく。

「はいこれ」

 そう言って二人は何かを渡した。さっき書いていた手紙、と言うかメモ。それを呼んだ浅美は流石に疑問符を顔に浮かべ始める。そして、まずはラルシアのほうを読み上げた。

「ラルク・シエル、入学推薦状?」

「ラルク・シエル? もしかして、あの料理の名門校ラルク・シエルのこと?」

 浅美の手伝いをしていたフロースは横から浅美の読んでいたメモの片方を読み上げながらそう加える。そして浅美はルメアのほうも読み上げ。

「こっちは、クラブ・アーテイストの就職案内だ」

「え、あのアーテイスト? 世界中の有名料理人が集うって言う」

 そんな会話を続けていると、ラルシアとルメアは準備運動と言わんばかりに紅茶を飲み干し。


「貴方、馬鹿ですか?」


 同時に、一字一句違えずにお互いをののしり。


「何で料理学校なのですか!?」

「何故に行き成り現場へ送り出そうと言うのですか!?」


 ラルシアとルメアは指差しあってそう言い合った。

「彼女には教養が全くありません! 聞けば学校もない村の出だと言うではありませんか! そんな状態で現場に送り込んで如何しますか!」

「教養もクソもへったくれもない、そんな人間を学校に入れたところで意味はありません! 味を見れば分かります、彼女の料理は全て旅によって世界中の料理と出会い、自作の料理を他人に振舞うことによって得たもの、そんな人間を学校に送って如何しますか!」

「いや、まずは浅美の意見を聞いてみようよ」

 とティンが聞くとギンッと二人は浅美のほうへと振り向き。

「で、浅美さんッ!」

「はい?」

「取り合えずその手紙を見せれば軽いテストで入学させて貰えますが、まあ貴方なら問題ないでしょう」

「お待ちなさい!」

 と、ラルシアの解説に横から割り込んでルメアが。

「その手紙を店の人間に見せれば直に貴方を雇い入れてくれますわ、ですのでもしもその気があれば、旅が終わった後にでも是非に」

「それでしたらそちらの学校はほぼ年齢の上限はありませんので、もし旅に飽きたら是非とも」

「いえこちらを是非に……ッ!」

 と、押し合うルメアとラルシアを浅美は鳥っぽい鳴真似をして流した。

「お前ら何がしたいんだ」

 溜息を吐いてティンは厨房を出て行った。そして更にティンは一応報告のために女王の下へと向うが、その途中で次の浅美の仲間と遭遇する。

「そこの人は何をやってるの?」

「あ、貴方も怪我人ですか?」

 向う途中で中庭に辿り着き、そこにはやたらと人が集まっている。主にこの城の兵士たち一向、にしてはやたらと人が多い。如何見ても此処の兵にしては数が異常に多く、と言うかここの兵士とはちょっと違う鎧を身に付けた者も多く存在している。

 そんな人たちがとある少女の下に集まっていた。確か彼女は。

「えっと、あんた、そこで何をしてるの?」

「え、あ、はい。怪我人の治療をしています、私達はお金を稼ぐ方法があまりないので、こう言う方法しか」

「治療? 治療道具は何処にも見当たらないけど?」

「あ、私は昔から治癒魔法の研究をしていまして、それで怪我した兵士の治療をと」

「へえ、治癒魔法! すっごいね、何か生まれて初めて魔法らしい魔法を聞いた気がする!」

 この世界において治癒術はほぼ存在せず、魔法で治療する方法は人間の再生力を促す魔法の薬を生み出すくらいなため、このように直接魔法で人を癒すと言うものが一切合財存在しないのだ。

 んじゃまた。

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