光輝の星姫
真暗な空間に浮かぶ光の玉、それだけで異様な光景とも言えるだろう。その異様な空間を目にした三人は呆然と見て、だが関哉はそれでもと。
「なあ、今あの光から何か感じるか?」
「いえ、申し訳ありませんが何も感じません……一体、あの空間は何なのでしょうか」
皐は怪訝な顔を浮かべながらそう返す。関哉はため息を吐くと。
「しゃーない、地雷を踏み抜くことになるがこのまま進むしかねーな」
「まあ、流石に光属性の星姫にそこまで酷い精神に影響を与える術式を構築出来るとは思いません……ですよね、ティンさん?」
「何故あたしに聞く」
ティンはため息混じりに今までの記憶をいい加減に掘り起こし、あっさりよその答えが。
「確か、光には無い。闇にはあったっていうけど」
「そういや、そうだっけか。そんじゃ、行くぞ!」
言って関哉を先頭に一向は謎の空間へと足を踏み込む。
その瞬間、神殿内は一変する。
「おい、こいつは、一体どういうことだ?」
その有様に関哉は言葉を漏らす。何故なら、薄暗く、何処か埃っぽい神殿が真っ白な大理石に埋め尽くされた、白い石柱の立ち並ぶ荘厳な神殿へと変わっている。
この光景を目にした関哉は冷や汗を流し、後ろのティンに向けて。
「なあ……この神殿、どうなってる?」
「あ、あたしに聞くなよ!?」
「ティ、ティン、さん……あの、私たち、何処から来たんですか?」
皐の声で後ろを振り向くとそこには長い長い通路がそこにあって。
「……マジ、か?」
「……どうする、これ」
三人は顔を合わせるが、そしてその答えも単純だった。
「行くしか、ありません」
「だよ、なあ」
かくして一向は神殿の中を歩み進み、そして直にその足を止めた。理由は単純、彼らの目の前に現れたのは。
「なあ、あれ」
「モンスター、ですか?」
石ブロックだけで固められた人形が歩いて一行の前に現れる。関哉は呆れ気味に指を刺して立ち止まり、皐は狂気を宿した瞳でそれを見つめながら刀の柄を握りこみ、ティンは。
「……なる」
呟いて、剣を抜き構えて、そしてティンは構えを解いた。何故かと言えば彼女にはこの石人形――分かり易く、ゴーレムと言うべきか――を倒しきる事は不可能と判断したゆえに。
皐も、呆気に取られて思わず柄から手を離す。
関哉はその光景にぐるりと首を回して周囲を見渡して、状況を理解する。そして分かったことはただ一つ。
「数、多くね?」
ゴーレムが、雪崩方式に増えていく。と言うか物陰から石柱からあらゆる場所からぽんぽんとゴーレムが沸いてくるではないか。
「……逃げ、れる?」
ティンはぼそっと、言ってみた。そして返事はと言うと。
「無理、言わないで下さい。後ろを見れば分かるでしょう」
そういう皐の背後からもゴーレムがわらわらと湧き出して来て、一体が一向に襲い掛かり。
「おおおおおおおおぅらあああああああああああああッッ!」
関哉がとっさに抜き放った大剣の一刀が迫るゴーレムの体を胴から粉砕していた。しかし、まるでそれ自体が合図だったと言うかのようにゴーレムたちは一気に襲い掛かり。
「クェイクッ!」
関哉は地面を強打して衝撃波を生み出し、前方のゴーレム集団を一気になぎ払うと。
「じっとしてたって仕方ねえ、一気に走り抜けるぞ!」
「ど、何処へ!?」
「兎に角前だ、ティンぼさっとするなッ!」
言うな否や、関哉は前へ向いて大剣を振り回してゴーレム集団を一気になぎ払っていく。ティンも皐もその後ろへと追いすがるものの。
「な、ちょ!?」
ティンは駆け出す直前で跳躍し、それに遅れて皐も地面の異変を感じて跳躍する。元居た足下を見るとゴーレムが出現していて、もっと遅れてたらと思うと全く笑えず。
「ちっ、皐、ってこの!」
そんな彼女達の援護に向おうと振り返る関哉だが、そんな彼の周囲には聳え立つゴーレムの群れがわらわらと。
「幾らなんでも多すぎね!?」
重力波を纏った一閃で一気に薙ぎ払うが、薙ぎ払った先々で次々と出現するゴーレムに関哉は舌を打ち、その後ろに皐が下りてくる。
「関哉さん、これは少し不味くはありませんか!? 敵の数が異常です!」
「全くだ、おまけに地面からも生えやがる……ってティンは何処だ!?」
「そう言えば、ってそんなこと気に出来る状況ですか!? 兎に角真っ直ぐ正面突破するしかありません!」
「だよ、なああああああああああああああああッ!」
関哉は重力を纏い、そのまま肩を突き出して重力の衝撃を自分に背中に叩きつけ、それによる推進力で一直線にゴーレムを薙ぎ払って突き進んでいく。その背後に皐が着いていき。
重力による後押しでゴーレムの群れを一気に薙ぎ払い、一向はやがて大きな広間に入っていく。
「此処は、一体……」
「くそ、ティンの奴、完全に見失ったか……って」
そんな風に愚痴る彼らの前に更なる怪物が現れる。無数のゴーレムが一つに重なり、より巨大なゴーレムへと変化して。
「……これ、倒せと仰います?」
「関哉さん!」
皐の声によばれ、関哉が振り返ってみると入ってきた扉が完全に閉じており。
「えー……退路も無しですか?」
「ぼやいている暇はありません、来ますよ!」
溜息混じりに呟く関哉に、皐が囃し立てるが当の関哉は手にしている大剣を地面に突き立て、その一撃を軽く防ぐ。
「そんじゃま、一気にぶった切るとするか」
ティンは跳躍の後、天井に開いた穴に手をかけそのまま二階へと移動していく。
「やっぱり、此処はリフィナが作ったトラップダンジョンだ」
呟き、目の前に現れるゴーレムに一応剣を当てて見るが、まるで砂細工のようにあっさりと粉々になって砕けていった。
「確か、侵入者の進入意欲を挫くんだっけ、このダンジョン。取り合えず前に進めばいっか」
ティンは剣を握り、ゴーレムの頭上を飛び移ってそのままゴーレムをガン無視で移動を開始する。ゴーレムもただ黙って足場になるつもりは全く無いようで、手を伸ばすが当然その頃にはティンは既に移動を終えており、彼女が通った道の跡にはゴーレムの万歳が続く。
ティンはそんな勢いでほいほいとゴーレムを飛び越えていき、最後にボスっぽいゴーレムに出くわして。
「じゃ」
言って、あっさりと出かゴーレムの体を五等分に切り分けて崩し落とす。すると他のゴーレムも全て砂と崩れ落ち、そして気付けばティンの目の前には大きな扉が聳え立っている。
ティンは迷わずその扉を開け、その中へと入り――。
「これは……儀式術式?」
扉を潜り抜けたその先、まず目に入ったのは地面に描かれた大規模な魔法陣。そして見渡してみると今までの神殿ともまた違った作りをしている。
中央に描かれた魔法陣に部屋の端には様々な机とタンス、そして最初は今にも崩れそうだった神殿の壁は綺麗に修復されており、何処か埃っぽかった部屋の中も空気事態が入れ替えられてるかのように澄んでいる。
そして何より注目するべき点は頭上に聳えるステンドグラスだろう。恐らく元々吹き抜けだった天井に取り付けたのだろう。
最後に、部屋の奥。まるで、神殿の供え物として置かれたかのように台座の上にベッドを置き、そこに彼女が寝ていた。
茶色い髪を結い上げた、白いドレスのようなローブをまとう少女ことリフィナ・オーラステラが。
「おーい、リフィナー、起きろー」
「……」
「おい、起きろって」
「ずっと起きとるわ」
と言いながらリフィナはベッドから這い出るように起き上がる。
「ったく、人の腹ん中でよくもまあ暴れ回ってくれたもんねえ」
「ああ、魔法で作ったあの空間、リフィナの腹の中も同然なんだっけ……悪いね、まあちょっと用事があってね」
「用事? 何の」
「面倒ごと、って言ったら怒る?」
その言葉を聞いたリフィナは溜息を吐いて。
「良いよ、別に。で、どんなの?」
「いや、あのさ。イヴァーライルって知ってる?」
「……いいよ、分かった」
リフィナの唐突な言葉に、ティンは表層上で驚きながらその深層部分ではその意味を理解していた。つまり、彼女は以下の項目を予め知っていたと言うことだ。
イヴァーライル王国が復興の為に動き始めたこと。
その為に動いてるのが金髪の女傭兵――伝え聞いた出で立ちから、それがティンであると断定した。
以上の点を踏まえ、何故か彼女はそれを了承したらしい。理由は分からないが。
「えっと、何で?」
「そりゃ、まあ。こっちも色々あんだよ、でさじゃああんたに大量の術式をってあんたもうすでに色々持ってんじゃん」
「ああ、そういやそうだっけ。見せたほうが良い? カーメルイア商店の試作品なんだけどさ」
言ってティンはショルダーパックを取り出して中身の術式を幾つかリフィナに手渡した。
「……ふーん。随分、使い込んでるじゃん。んじゃ、私も幾らかあんたに術式を譲るよ」
そう言ってリフィナは一つの机を指差した。そこには幾つも魔道書の紙切れとも言うべき紙切れが幾つも散漫しており。
「あれ? 好きに持って行っていいの?」
「うん、適当な会社に売りつけようかと思って実験しようかと思ってたんだけど、それも押し付けようかどうかと思ってたから、いいよ」
「あ、人をモルモット呼ばわりしやがったこいつ」
「知るか良いからもって行け、この馬鹿」
言って、リフィナはベッドに机のほうを指差しながらもぐり直した。
んじゃ、また。