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閃光の剣舞

 刹那の間に数え切れないほどの光が刃となってティンの体に向って飛翔する。角度からして360度全方位からの攻撃、常人であればあまりの絶望感に発狂しても問題無いとさえ言えてしまいそうな攻撃にティンは。

「もう、見飽きて来たな」

 と、眠たげな瞳でそれらの動きを捉えていた。

 優子は知らない。ティンの頭はただただ計算することにのみ特化した頭脳を持つことを。だが彼女はそれを知ったところでだから如何したと言うのだろうが、実際のところティンからすると。

「くそ、何で」

 無数の閃光が雨となって降り注ぐその世界に、ティンは剣を一度振って舞う事であっさりとかわしていく。足元から飛び出す剣でさえ踏んで逃げられる始末。

 光で作られた刃には峰と呼ばれる部分も腹と呼ばれる部分も存在せず、触れただけで高熱のエネルギー体によって焼き切れるはずなのだが、おそらく光で作った足場であろうか。

「だが、それで終わるとでも思ったか!」

 優子は、光の剣を一本掴みとって元々の愛剣と共に駆け出し閃光の嵐を捌いていくティンに接近して切りかかって切り結ぶ。

「お前、一体どんな化け物だ!?」

 切り結んだ、その光景を目にした優子はまず驚いたのは閃光の嵐を避けながら優子に反応するティンだ。

 何せ、無数に降り注ぐ閃光の雨の中で360度から飛び出る剣を蹴り飛ばして斬り捌いてその上で一瞬の合間を縫って、切り返して更に切り込んで更には飛んで来る光の剣にも反応して優子と切り結んで――そんな攻防を刹那の間に繰り広げている。

 頭が、いや何かが狂っている。此処に来て、ティンは一度たりとも攻撃を受けていない。受けてないのだ、掠る所か服に触れてさえいない。

 優位性はこちらが上のはず、この空間内では四方八方から光剣を発生するはず。なのにティンはそれを蹴って舞ってそれら全てを見事にかわしきって行く。

 その異様な光景。全方位の攻撃をまるでそこに居るのは幻影だとでも言うかのような鮮やかな回避舞踏、如何考えても正気の沙汰ではない。

「くそ、こいつっ!?」

 優子は毒づきながら切り結んでいく。だがそれでも怯む事無く更に踏み込んでティンとの距離をつめる。

「幾らなんでも、宙を舞う剣と」

 閃光で舞うティンに向けて双剣を繰り出して、無数に飛び交う剣と共に攻撃を加えた瞬間。


「油断しすぎだ」


 氷牙ははっきりと。


「幾らなんでも、状況に頼りすぎてる」


 彼女の、――を宣言する。


 優子は状況を理解するのに、一呼吸を要した。目を落とせば胸に剣が突き刺さっている。光の剣による防御はと見るが、貫かれて砕かれている。

「ああ。そうか、負けか」

「そうだね。負けだね」

 ティンは剣を抜き、天剣の術式が崩れ落ちた。

「はい、ティンの勝ちぃ~」

「……あんた、今の状況全部分かってたでしょ」

「ああ、優子の敗因は術式張って勝ったと思ってるとこだな。つっても全方位から攻撃されても全く意味が無かったあんたに驚くなって方も無理だがな」

 ぽりぽりと後頭部をかきながら氷牙は立ち上がる。

「で、次はあんた?」

「止めとくよ。俺がもしも勝ったら優子から何言われるかわかんねえし」

「……随分な自信だね」

「だって、あんたのやり方見たし、寝た割れてると割れてないとじゃやり易さが違うぜ?」

 そういう彼の言葉にティンは確かにと同意して。

「じゃあ、後お願い」



「お、ティンじゃねーか! 如何したんだよこんなところで」

「あれ、エグネイどうしたの?」

 ティンは何時か来た街にまた来ていた。そこでばったりとエグネイと再会、状況はそんなところ。今記憶を頼りにかつて滞在した道場へと向っている。

「で、お前何処に行くんだ?」

「エグネイは?」

「帰り途中」

「お使い? 多くない?」

「今私が居る道場の先生、昔軍人で寿除隊したらしくてね。元部下や元上官やら知り合いが多くて、元冒険者の私ばっかに用事を押し付けるんだよ……まあ、先生の言う行き先の場所に行った事あるの私だけってのもあるけどな」

 言ってエグネイはため息を吐いた。ティンはティンでまずはと言わんばかりにチラシの束をエグネイに差し出しながら。

「大変そうだね」

「ほんとだよ。で、お前は?」

「あたしは……意味の無い? 訳のわからない用事」

「ああ……お前なら仕方ないか」

「喧嘩売ってんの?」

 エグネイはティンが差し出したチラシを押し返し、ティンが睨み返す。

「で。お前は結局誰に会いに来たんだ?」

「護堂って人……あ、いたいた」

 ティンは何時か何処かで見かけた集団を見掛け。

「すいませーん、護堂さーん!」

「……む、貴様確か、ティンか。ほう、久しいな」

「なあ、ティン。この爺さん誰?」

「このお方を何方と心得るか! かの東方剣術四天王が一つ、蒼末家が当主、蒼末護堂氏であるのだぞ!?」

 それを聞いて、エグネイとティンの反応は薄かった。そしてその理由は単純に、彼女達は剣術四天王の知り合いが多いのでそう言われても特に、としかいえない。

「で、この爺さんにどんな用事?」

「あ、うんこれ」

 そう言って取り出すはあのチラシ。

「これは、何じゃ?」

「イヴァーライル王国で凱旋祭やるから、そのお知らせ」

「え、嘘!? 凱旋祭するの!?」

 言ったのは記者の女で、護堂は逆に反応が薄く彼女はずずいっとティンに押し迫り。

「え、あ、はい」

「え、え、え、ちょうそマジで!? 何処情報!?」

「あ、あの、あたし、今イヴァーライル王国の傭兵で、その、今凱旋祭の宣伝を」

「えちょ、マジで!? うっひょおおおおおおおう! 何それ大ニュースじゃない! ぃよっしゃすっぱ抜き成功ひゃっはああああああああああ!」

 女記者はそう言うとメモ帳を取り出し。

「どんな内容!? 規模は!? どんなお祭りにするの!?」

「い、いやそこまではって、えっと、あんた興味あるの?」

「もっちろんよ! イヴァーライル王国伝統行事にして今や歴史の中に埋もれていくだけだったお祭りがついに復活なのよ!? 燃えない方がおかしいっしょこれ!」

「……はぁ」

 よく分からん、と言った感じの旨を表情で伝えるが、女雑誌記者には届かないようでそのまま熱っぽく語り始める。そんな彼女を無視して護堂は。

「ふぅむ。凱旋祭か……懐かしい名前じゃのう」

「そうなんですか?」

「な、お前が丁寧語、だと!?」

「いや黙ってろお前」

 驚くエグネイをティンは横目で睨み、護堂に向き直る。

「凱旋祭……わしが未熟であった頃に一度、行ったのう。懐かしい」

「へえ。どんな祭りなんですか?」

 ティンの問いに護堂は苦い表情で。

「ぬ……その、よく覚えておらぬのだ。友と気ままに世界中を放浪していた頃の話じゃ、昔気紛れに立ち寄った国が派手なお祭りをしていての。その時、なんだ……わしは屋台の肉を食い漁っていての、何やら背後で派手なパレードをしていたな、位にしか思ってなくての」

「……串焼き? 焼き鳥とか?」

「覚えておらぬのだ、すまんの。肉があるとしか思ってなくての」

「ところでさ、ティン。この爺さん一体何もんなんだ? 優子ちゃんと同じ剣術してんのーなんだろ?」

「……え、知らないの? 蒼末護堂」

 エグネイはその言葉を口で繰り返すが、そこでようやく女記者が。

「ええっと、貴方ティンさんでしたっけ!? 山凪宗治郎様のお弟子様でしたよね!」

「あ、うん。よく知ってるね、前は知らないんじゃなかったの?」

「勉強してきました、それで今貴方広報担当してるんですよね? あのすいませんもっと情報くれませんか、そして王国への偉い方にアポとって取材させてください! うおっしゃ世に名だたる一流雑誌をすっぱぬいてうちの二流雑誌が特ダネゲットいやっはあああああああああああああっ!!」

 などと言う風に相方の男性を放置して一人ひゃっほーとはしゃいでいる彼女を傍目にティンは。

「二流って、自分で言うんだ……」

「もち! いやだって売り上げも十分二流ですし、にわかの雑誌通の人たちが買っていくものです。如何ですティンさん、週刊冒険者いいですよー毎週毎週護堂さんのコラム乗ってますよー?」

「で、この爺さん強いの?」

「……護堂さん、こいつ締めていいですよ?」

「よかろう」

 ティンは軽く言ったつもりだったが、返答も軽かった。一歩間をおいて。

「はい?」


 数秒後。


「ではこれより、蒼末護堂VSエグネイの勝負を行います!」

 女記者は握り壊さんほどの勢いで録音テープを握り締めながらそんな風に司会を行っていく。

「ふむ、二刀流か」

「行くぞ爺さん、女だから油断してっと痛い目を見るぞ」

「ほう、それは怖い怖い」

 言ってくっくっと笑うとエグネイが肩を竦めて。

「おい、始めてくれ」

「では、試合開始ッ!」

 5秒後、トラックに轢き逃げでもされたかのように蹂躙されて地面に埋め込まれたエグネイの姿がそこに。

 さすがエグネイさん、描写すらされない。

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