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鳥を回収

「にしても、お前のおかげで助かったよティン」

「はあ、何がですか?」

 ティンとエーヴィアは繁華街の中を歩いていく。交渉は既に済んでおり、どれもスムーズに完了していた。

「いや、殆どの交渉相手がお前の父親と顔見知りだったろ。おかげさまで予想よりも手短に交渉出来た……これは本当に嬉しい誤算だったよ。こうして帰りに買い物が出来る程度にはな」

「はぁ、どうもです」

 エーヴィアの言葉にティンも空返事を返しながら繁華街の中を歩いていく。やがて二人はある店の前で足を止める。それは。

「此処ってランジェリーショップですか?」

「……なあ、ティン」

「はい、何でしょう」

 ぼんやりと。自然な流れを装って、しかし如何見ても不自然な流れで。

「勝負下着って、どんなのがいいんだろ」

「……エーヴィア陛下」

 エーヴィアの言葉に、ティンは衝撃を受ける。だがティンはそれでもその問いかけに対し、まずは彼女の顔をじっくりと見つめ。

「あの」

 真摯に隣に立つ女王をまっすぐ見て、ただ一言。彼女の中で思った言葉を、その口で形にする。そう、それは。



「――勝負下着って、何ですか?」


「何でもない気にするな」


 そもそも彼女に、勝負下着と言う言葉の概念そのものが存在していなかった。


「陛下、勝負下着って? 普通の下着じゃ駄目なんですか?」

「煩い黙れ気にするな忘れろ」

「そもそも勝負する下着って何ですか? エロイ下着つけてどっちが似合うか競うんですか?」

 あながち間違っても居ない指摘をするが、エーヴィアの表情は徐々に徐々に赤く染まって震え始め。

「あーっ! ティンさんだー!」

 突然、二人の耳にそんな声が聞こえてきた。互いに顔を見合わせ、ティンは唐突にどこかで聞いた声だと思って周囲を見渡すと。

「やっと見つけたよっ!」

 見覚えのある、長い金髪がそこに居て。その髪の持ち主を自然に口にする。

「あ、浅美!?」

「もう、本当に手を焼かせるんだからっ!」

 へし、っと浅美がティンの首根っこを掴むとどこかへと連れて行こうとし。

「ああっ!」

 更にティンが聞き覚えのある声が聞こえてくる。振り向けば、そこには瑞穂たち一行が居て。

「あーっ! 瑞穂さんまで居る! 見て見て瑞穂さん! ティンさん見つけた」

「何やってんだこの馬鹿鳥!」

 言って今度は浅美が瑞穂に首根っこをふん掴まれて持ち上げられる。

「あれーなんでーっ?」

「お前病院で寝てる筈なのに何やってんだ!?」

 と言う瑞穂の台詞を聞いてティンはそー言えばと瑞穂がかつて言っていた台詞を思い出す。だが。

「でもあれから大体2・3ヶ月経ったし良いんじゃ?」

「こいつ、この数ヶ月どっかでうろうろしてた。情報屋で聞いたよ、お前あちこち放浪してただろう! それも病院で無理やり傷を治して!」

「だーってー!」

「ティン、説明しろ」

「断ります」

 女王の言葉をティンは容赦なく切り裂いた。



「と言うことでお前ら、一つ言っておく」

 元の女王の姿に戻ったエーヴィアはデルレオン公爵館にて、この国に滞在することになった冒険者たち一同に向けて容赦も遠慮も無い、と言うか当たり前すぎる言葉を解き放つ。

「……今後、これ以上この城に居座るなら宿泊料を取るぞ」

「ちなみに、水道代やら光熱費など諸々を含め、一人一泊1000enとさせて頂きます。文句がある方はどうぞ女王陛下へ」

「そこのラルシアに言え。漏れなくこいつが」

「女王陛下が、叩き出します」

 と言う感じにラルシアとエーヴィアのクレーマー対応者の押し付け合いが始まり、最終的にはエーヴィアが思いついたように。

「じゃあティン、お前がやれ」

「じゃあティンさんをぶちのめせば宿泊料タダだね」

「ああ、そう来るか」

「何だこの茶番」

 ティンがしめた。そして一人喧嘩売る気満々な暴力女が一人この場に残り。

「いやだからぶちのめしても変わらないって!」

「大丈夫だティン。負けたらお前から請求するぞ」

「何も大丈夫じゃない!?」

「大丈夫、借金に闇金、手っ取り早くお金を作る方法なんてこの世にごろごろありますわ」

「お前らもう黙れよ!」

 そんな感じに真面目にボケるラルシアとエーヴィアにティンがまとめて突っ込みを入れて、しめにこういう光景に馴染みのある面子が。


 ――お前も苦労してんだなぁ……。


 と言う生暖かい視線を送って。

「そこ、無関係そうな表情をするな!」

「と言うことだから、最大一週間待つ。それまでに今後は納金するように、以上」

 言うだけ言うとエーヴィアは玉座の間から退室して行ったが、ティンだけ首根っこを掴みあげて引きずっていく。ティンもティンで『もういいや』と言う空気が既に流れており。

「そういえば陛下、今日は随分と起床が遅かったですね。いつもよりも1時間も遅かったとか」

「別にいいだろ、それの程度。私だって寝坊くらいする」

「それは構いませんが、陛下が昨日着ていた衣類下着を含め全てが現在洗濯場に出ていませんがどうされたので? 一日も着ていたのですから、洗いませんと」

「何が言いたい。言いたい事があるならはっきりと言え」

「昨日、いえ今朝方までは火之志様と何をなさっていたので? まあまあお若いのに行き成りコスプレしかも一日来ていたスーツでとは恐れ入り」

 爆音と地震が同時に起こる。ティンが様子を伺うとラルシアが居たと思われる場所は穴が出来ていた。エーヴィアが抜剣しているのを見ると、どうやら無造作に剣を地面に叩きつけたらしい。

 それを見てティンは『メイドさん大変だな』などと適当に思っており、そこに居たであろうラルシアは直前で跳んで避けたようでティンの目の前に下りてくる。

「別に良いではありませんか陛下。陛下と火之志様の噂は全く無いのに恋人だと公言されて皆不安がっているのです。それくらいの軽口はご容赦頂たいですわ」

「何も言うなとも言ってないし文句も無い。王族ならそれくらい当然だしな、良くあることだと流している――ただ黙って聞いているだけだと思うなてめえ」

「いえ、それを人は文句があると言うのですが」

「これは照れ隠しだ」

「一緒じゃねえか」

 ラルシアとティンの呟きが重なった。

「まあいいや。後ラルシア、お前シャガーから聞い」

「あはいもしもしまあこれはいつもお世話になってえ今ですかはいお暇ですそれでは今すぐそちらに参りますわあ陛下私仕事があるのでこれにて!」

「別にいいが私はこういう細かいこと忘れない性格だから覚えておけ」

 エーヴィアの言葉を聞いたラルシアは急に携帯電話を取り出すと一気に捲し立ててダッシュして逃げ去り、最後には転移魔法でこの場から消えた。多分、エーヴィアの最後の言葉はばっちり聞いていただろうから暫く帰ってこないだろう、とティンは思い。

「で、お前に仕事だ」

「はいはーい。下着買ってくれば」

 一時間後。

「てめえ、今時間がねえんだ巻き入れたいの分かってんのかよ」

「なら斬らないで下さいよメンドクサイな」

 ラルシアのように軽口を叩いて見たティンは速攻でエーヴィアに斬られて気絶して仕事を請け負っている。ちなみに今のでタイミングと速度はインプットしたのでもう二度とエーヴィアの剣は食らわないな、とティンは適当に思っていた。

 場所は変わって国王の執務室。エーヴィアはティンに向け。

「一先ず仕事は宣伝だ。世界中歩き回って凱旋祭のこと言って来い」

「……え、それだけ?」

「ああ、それだけだ。他にやって欲しい事があれば随時お前を呼び出す。だから追跡術式と転移術式で届かない場所に行かずに宣伝をしろ」

「それって、やらせる事が無いから適当に待機しろってことですか?」

「手前仕事なめてるだろ」

 女王のどすの利いた睨みが帰ってきた。

「ビラも渡すからそれも配れ。お前には世界中歩き回って色々やれ、顔広いんだからそれくらい出来るだろ」

「……あ、無茶振りか、こう言うのって」

「違うわたこ。氷結瑞穂から聞いた限り、お前世界中に知り合い作ったんだろ? そのつてで配って来い。まずこれだな」

 そう言ってエーヴィアは鞄を一つ取り出す。それを指差して。

「こいつの中身が一定値以下の重さになるまで配って来い。配れきれなかったら分かってるな」

「わかりたくないえいえ分かっていますわかっていますよ」

 ティンの言葉に対してエーヴィアが指を鳴らし始めたのでティンはあわてて頷いた。そう言った敬意を経てティンはため息混じりにその鞄を受け取った。



 そして、ティンはとある場所に立っている。

「剣路剣術道場、か……皐がもといた剣術道場」

 ティンは何処か感慨深げに呟いた。そして呼び鈴を鳴らす、が誰も出てこない。10分待ったが、待てども待てども誰も出てこない。ティンは時間をかけても仕方ないと思い、扉を開けて中に入ると。

「なあ、本当にイチゴアイス食ってねえの?」

「うるさい。どうでもいい。私が何を食ってもお前には関係ないだろ……」

「いや、でも、買って来たの俺だし、気に入らなかったんなら別の奴買って来るけど……って、あれお客さん?」

 ティンは黙って扉を閉めて振り返り、メモ帳を取り出して。

「よし、護堂さんとこに行こう。あの人インタビューの仕事してたしきっと宣伝に丁度」

「おいこら待て貴様ぁぁぁッッ!? 何しに来たんだ!?」

「いや、別に後日でいいし」

 気付けば優子はダッシュでティンの肩を掴んでおり、その背後には見覚えがあるような青年が一緒に居て。

「あれ、どっかで見たような……気のせいか」

「いや、彼氏と一緒っぽいしいいよ今度で」

「誰が彼氏だ、こいつは」

「俺、氷牙。こいつとは友達で、俺は友達んちで屯してただけだ。えっと、優子に何の用なんだ?」

 と、丁寧な自己紹介を行う氷牙にティンは少し驚くが。

「いや、一応、優子との決闘の約束を果たしに来ただけで」


 30分後。


「じゃあルールは特になし。道場ぶっ壊すな、ってくらいでいいな?」

 氷牙の言葉に両者は共に頷き、氷牙は道場の端に移動して手を挙げて。

「始め!」

 言って、氷牙が手を下ろした。

 直後、閃光と閃光が道場内を駆け巡る。光に近い速度となった二人が所狭しと剣を切り交わす。

「ほう、光の世界に入門するくらいにはなったのか」

「……そう」

 返すティンの言葉はとても薄い。と言うより優子からすれば。

「随分と余裕ぶっているな。前回よりも私の世界についてこれてるからか?」

 光の剣が交差して火花を散らす。その火花越しに見えるティンの空ろなライトイエローの瞳を覗き見て。

「その程度で、どうにかなるものだと思われているのか?」

 優子は一旦距離をとる。ティンがつめるには十分すぎる距離。だが、彼女にとってはそれだけの距離で十分すぎる。なぜならば。

「なめられたものだな――“光は刃となる”」

 光の世界に入ったこの剣戟。彼女の動きから察するに手に入れたのはつい数日前。ならば。

「“刃は天に咲く、閃光は刃で心は剣。天を彩るは輝きの刃”ッ!」

 優子を中心として彼女の頭上に描かれる魔法陣。空いた手の中に生み出されるは光の剣。

「さあ行くぞ――術式、“天輪に咲く光の剣陣”ッ!」

 無数の光が刃となり、優子を中心に展開されていく。そう、此処は彼女の為の戦場にして光剣の世界。一度踏み入れば切り刻まれることは必須。だがティンは。


「ああ」


 如何ってこと無い、そう言いたげに。


「既知感だ」


 そう言って光の剣陣に遠慮なく踏み込んだ。

 宙を舞う光の剣。優子が両手に掴む光の刃をティンは、まるで、初めから軌道を全て予め知っていたかのように。斬り裁いていく。

「な、にっ!?」

 流石の優子も驚くしかない。初めて繰り出す剣、これで戦うのは二度目、共に同じ戦場に立つのはこれで三度、己の全力を出し尽くしたとは言えないのに、それでも優子は意図も容易くティンが己の剣を踏み越えていく様を見せ付けられている。

「面白いッ!」

 だが、そうでなくてはとさえ優子は思った。何せ簡単に越えられるものならそもそも目にかけたりしない。故だからこそ、再戦を望んだ。そして僅かな期間でこれほどのものに仕上がったのであれば。

「それさえも、切り伏せてみせる!」

 言って、既知に塗れながら『お前の剣は知り尽くした』と告げてくる剣に優子は挑む。

 それでは次回。

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