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女王と交渉

「お待ち下さい陛下、私は反対です!」

 エーヴィアの宣言に呆気に取られる者たちが多い中、シャガーだけが手も挙げずにいすから立ち上がって叫びあげる。

「何故だ、シャガー卿」

「陛下は先程凱旋祭を知らぬと申しましたが、では凱旋祭に必要なものが何なのか御存知ですか?」

「これから調べる。確か建国祝いの祭りだったな、じゃあ建国記念日で確か……そうだ昔、各国の視察だとかで何か馬車に乗せられて一週間くらい国中を行って回ったな。私はその時、親が本を読んでても良いって言うからずっと本を読みながら色んな国を巡ったな……じゃあ、時期といいあれが凱旋祭か。建国記念日から一週間……12月21日から12月28日間でイヴァーライル王国領全部を回る大きな祭りってことか」

「その通りでございます。では陛下、お一つ伺いますがどうやって凱旋門五つをそろえるのですか?」

「シャガー卿、凱旋門以前にこの国には本来あるべき公国が三つもありませんぞ。凱旋祭をするのに向うべき国が無いのは本末転倒ではありませんか?」

 シャガーの言葉に応えるかのようにミルガまでも反対意見を述べるが。

「ではデルレオンとイヴァーライルだけで行えばよい。何も昔のやり方そのままなぞる必要性は無いしな」

「どちらにせよ、凱旋門は」

「無いなら作る。今日は11月の17日、凱旋祭開催の建国記念日までまだ30日以上、今日から動けば十分に間に合う、いや間に合わせる」

「陛下! ではイヴァーライルとデルレオンの間だけを、凱旋パレードを行うと!? 正気ですか、外に広がる荒地を、まだ何処に潜んでいるか分からぬ化け物どもを放置してまでそのような派手なことをなさると!?」

 エーヴィアの言葉にシャガーは激しく食い下がり、ミルガも。

「シャガー殿の意見に同じですな。塗装もされてない道路をどうされるおつもりで? それもどうにかすると? 大学に集めた魔導師だけでどうにかなると、本気で御思いか?」

「どうにかする。何、祭りまでまだ30日以上あるしそれまでに」

「陛下、勘違いをなされては困ります。40日未満しか無いのですぞ!?  そんな日程で、凱旋門と道路、どうやって作ると言うのですか! 簡単に仰いますが昨日今日出来るものではないのですぞ!?」

「では貴公はどうするのだと言う! この国に今必要なのは実のある実績か? 違うだろう、そもそもそれこそ一朝一夕で出来るものではないだろうが!」

 エーヴィアの言葉にシャガーは一瞬気圧されるも再び。

「では、この現状で無理やり凱旋祭を行うのは良いでしょう。ではその為の資金は如何なされるおつもりか!?」

「それもどうにかする」

「具体案は? 此処まできて案も無いのでは話にもなりませんぞ」

「言っただろう? 此処に集まった冒険者達を使って商売をする。祭りの資金くらいはある程度荒稼ぎする。足りないなら方々に頭を下げてでもそろえる予定だ」

「陛下……そこまでお考えとは。では言っただけの事が出来るかどうか見せてもらいましょうか」

 言うだけはいった、とでも言うようにシャガーは大人しく椅子に座った。

「では、他に意見はあるか?」

 エーヴィアの言葉に誰も反応は無く、それを見て。

「ではこれにてイヴァーライル国家会議を終わりとする」



「あの、シャガーさん」

 ティンは会議が終了した後、立ち去るシャガーに声をかける。

「これはティン殿。大学の件では随分活躍したそうで」

「ちょっと、聞きたいことがあるんですけど」

「おや、この私にですか? 何の御用でしょう?」

 シャガーはティンの問いに紳士的に対応し、ゆったりと振り向く。

「会議中の貴方の言動に違和感を感じた」

「違和感、ですかな? 例えばどんな」

「……なんで、女王様に反論したの?」

 言われたシャガーは顎鬚を一撫ですると。

「ほっほ、これはこれは。面白いことを言う御仁だ。なぜ私が陛下に反論してはおかしいのですかな?」

「だって、貴方たち、陛下には頭が上がらないはず。王位を引き継いで王になっただけでも、この国に指導者が居座っている状況が出来上がっているだけで貴方達は満足のはず……例えば、都市連合にのまれずに済む、とか」

「……面白い事を考えなさりますな。確かに、陛下が居ればこの国は国としての体裁を保ち、この様な状態でも国を運営出来る。ええ、それも全て陛下が居れば、でございます……ですが、だから陛下の我侭を流せと言うのはまるで筋が違う」

 微笑むシャガーは両肩を竦ませると。

「陛下が玉座に居るだけでこの国は安定している、が逆に言えば陛下が居るだけで安定しているのであって、居るだけを止められたら困るのですよ」

「……なら、逆にあんな反論の仕方もおかしい」

「ほう、何がでございましょうか」

 ティンは、自分が自分じゃなくなる感覚を必死に噛み砕きながら疑問を口にする。身に纏う疑問に対し、答えが溢れ返って仕方が無い。故に問う。

「……何で、陛下が正統王位後継者じゃないことを楯に押さえつけないの? リク王子がこの国に滞在しているのは知っている筈。なら、陛下が正統王位後継者じゃないことを楯にすれば、思い通りにも出来たはず……何でそれを指摘せず、陛下の無茶な案を素通しさせたの?」

「……ふむ。なるほど。確かに、それは不可解ですな。陛下の案は確かに無茶だ、誰が見てもあんな僅かな日程で如何足掻いても凱旋祭など行えぬ。強引にさせ、下手を打てばこの国が傾きかねない」

 答えるシャガーの声は何処か芝居かかっていて、演技くさい。

「その可能性がある以上、我らは保守派として陛下の案は決して通す訳には行かぬ。何としてでも、そうリク王子を楯にしてでも……おお、確かに理に適っている。ですが、陛下はこの国に未来が多くないのを承知で王冠を戴き、玉座に座ったのをお忘れではないだろうか。下手を打てば、それこそ陛下が王を辞めかねない。そんな真似が我らに出来る、とでも?」

「でも、変だ。なら、貴方達はもっと慎重に諭すべきで、あんな大きな声で食って掛かる必要は無いはず。確かに、無茶な案だとは思うけど本当に無茶な案なの? そもそも、無茶なことを言い出すならこの国を国として動かしていく方がよっぽど無茶に聞こえるけど」

「ハハハ、確かに確かに。よくよく考えれば、この国を経営して行く事こそが無茶の塊。私としたことが、少々日和ましたかな?」

 ティンの指摘と問いに帰ってきたのは、何とも間が抜けた笑い声。シャガーは軽く笑うと笑顔のままティンに背を向けて。

「では、私はこれで。本来ならば本国の王城で金の計算をするのが仕事ですので」

「……どうも、お疲れ様です」

「いつまで油を売っている」

 シャガーの挨拶に、ティンはもやもやを消しきれずにそれでも挨拶を返すと後ろからエーヴィアの声が響いて。

 後ろに振り返り、ティンは絶句する。

 そこには、女王なんて居なかった。そこにはおろしたてのスーツを身に纏ったバリッバリのキャリアウーマンが立っていたのだ。黄土色のストッキングに、紺のタイトスカートで上着のジャケット、脇には幾つかの書類が抱え込まれており何処かの社長といわれても遜色ない。

 そしてその姿をしている女性の正体だが、ショートの金髪にライトブルーな瞳、いつも身に付けている羽根つきのカチューシャでやっとエーヴィアであると分かる。

 簡単に言えば。

 ただでさえ身長180のモデル体系でスタイル抜群な上にムッチムチなボディラインを強調するスーツを纏った女王陛下がそこに居た。メガネとか物凄く似合いそうな冷たい目線のオプション完備で。

「……エーヴィア、女王?」

「車を用意しろ、ティンお前も来い」

「いやあのまず突込みが先では」

「後にしろ、今猛烈に忙しい」

 言って、ティンの首根っこを掴んでエーヴィアは数人の魔術師と共に外へと向った。



 車内にて。

「説明は省く。これから直接幾つかの会社と交渉しに行く。お前は護衛としてついて来い」

「あの、事後説明ってひどくありません?」

「私が正義だ、それで飲み込め」

「うわあ、横暴だ、独裁政権だー」

「黙れ雇われ傭兵。何の為に貴様をあの会議に呼んだのか悟れ」

「説明省くために態々引っ張り出す方も方だと言って良いんですか?」

「ついたぞ、降りろ」

「聞けよ」

 エーヴィアとティンは漫才のような会話を行い、とある会社の前で車から降りる。そしてエーヴィアの後に続いて社内へと入り込み、社長室へとあっさりと辿り着いて。

「叔父上、いらっしゃいますか? 朝電話を入れたエーヴィアです」

「……ああ、入れ」

「……叔父?」

 ドアをノックしながら、ぶしつけとも言える態度でエーヴィアはそんな事を言って、ドアを開けて潜って行く。中には随分若い男性が奥の椅子に座って待っていたようで。

「ふん、来たか……ご丁寧に護衛まで付けて、随分と慎重じゃないか」

「私は女王です。何かあってからでは遅いのですよ、叔父上」

 一国の女王である筈のエーヴィアに対して男はやたらと高圧的に話し、対する彼女も一切気にした様子も見せずに部屋の中央に置かれたソファに近寄る。

「座っても」

「……勝手に座れ。お前、母に礼儀の一つでも学ばなかったのか?」

「此処にいるのは部外者一名を除けば身内のみ……多少は無礼講と行きましょう、叔父上」

 叔父の言葉に応じてエーヴィアはソファに座り込み、叔父もそれを見て社長意思から立ち上がってエーヴィアの向かい側に座った。

「で、何の話だ」

「単刀直入に言います、我が国で店を出してみませんか?」

 と、前置きも何も無くエーヴィアは要求を言い切った。その言葉を聴いて叔父は鼻で笑い。

「話にならん。誰が呪われた国で店を出すんだ」

「もう、呪いは無いと言う話は行き届いているはずですが」

「だとしてもだ。悪評極まる王国に店を出すなど、金を溝に捨てるようなものだ。誰がするものか」

「……どうしてもですか」

「くどいぞ、エーヴィア。姪だからとはいって優遇されると思ったら大間違いだ」

 まるで門前払い。完全に一国の主を見下した物言いと視線をぶつける叔父に対して、エーヴィアは。

「そうですか。残念です」

 ソファから立ち上がり。

「所詮」

 予定調和とでも言いたげに。

「その程度ですか、叔父上」

 冷たい視線を送り返した。

ではまた。

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