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闘技大会に出てみようか

 ティン一行は必要な物を買い終え、アカコガネシティから都市間街道へと出た。

 と、その時。

「指名手配書?」

 浅美が街の出入り口に置いてある掲示板を見る。

「何々? 歩道暴走族だって。乗用車とバイクに乗っているって」

「へえ~、乗用車なんてあるんだ。表の世界なのに」

 オーラウェアを着込んだティンが物珍しそうに返す。さて、ここで表の世界について軽く解説しよう。

 この世界は大きく分けて二つある。人の手により完全に開拓され、細部まで地理が判明している東大陸“表の世界”。大陸の十分の六が秘境の地とされている西大陸“裏の世界”だ。

 表と言われる大きな理由、それは人々の生活の発展が主に表の世界で行われていった事が大きい。治安が比較的よく、都市間で大きな繋がりがある。

 では裏と言われる大きな理由は逆に秘境の地や不明瞭な部分が多く、治安が悪く、廃墟となった街が多いのが大きな理由だ。特に前人未到の土地が多いのが裏の世界たる所以である。

「違うよ、ティンさん。此処“裏の世界”と呼ばれる西大陸だよ」

「え、瑞穂それ本当? だってこんなに治安が良いし、裏の世界は基本国家が多いんじゃ」

 ティンさんや、君は大陸移動したのを忘れたのかい?

 瑞穂は溜息を付きながら。

「街もあるよ、ちゃんと。治安が良いかは知らないけど。でもシティと付いていて、ちゃんと都市間同盟に加入している様だし。

 それより行こう。街道付近で野宿になるよ」

「あ、うん」

「……ねえ、この写真。写りがすっごく悪いけど、瑞穂さんに似てない?」

 瑞穂が街の外に出た時、浅美がそんな事を言い出す。

 ティンはどれどれと写真を覗く。

 写真の内容は物凄く、酷い。もうぼやけにぼやけ、モザイクがかかっていると言っても良い。しかも砂嵐の様にブレも入りまくっている。だが、見えた。特徴のある、猫耳のような前髪が。気のせいにも見えるレベルではあるけど。

「……言われてみれば。でも髪は蒼っぽいよ?」

「うーん、瑞穂さんがあっちのミズホさんを放置するとは思えないし……そっくりさんかな?」

「二人とも、早く行くよ」

「あ、うん」

 瑞穂に催促され、二人は街を出る。

 その後、掲示板に騎士警察のマークが付いた制服を身に着けた黒く長い髪の女性が歩み寄り。

「あ、あったあった。それにしても、いきなりこの手配書を撤去しろだなんて……何かあったのかし……あら?」

 女警察は街を出て行く冒険者三人組――つまりティン達。特に瑞穂を見つめる。そしてブレまくりのモザイク手配書をよく見、再度瑞穂の後姿を拝見し。

「……同一人物かしら? ま、街の外に出られちゃ冒険者である以上どうしようもないけど」

 そう言って踵を返す。



 二人は街道をとことこと歩く。地図はティンが持っている。

「此処をまっすぐ行って、分かれ道を左に行くとケモスタームシティだって」

「右は?」

 聞いたのは瑞穂。彼女が持つべきと思われる地図は何故か取り上げられている。

「ランドリア王国地方だって。暫く森が続くけど、森の中に大きな街があるって」

「じゃあケモスタームシティに行こう。ランドリア王国地方の森の中、化け物が出るって言うし」

「分かった」

 そんなこんなで一行は歩く。

 数時間後、案の定彼女達は野宿をする事となった。

「ティンさんそっち!」

 浅美の声が森の中に響く。ティンは抜剣し、何時も通りに上段へ構える。

 そこへ猪が草むらが飛び出し、ティンは踏み込み腰を落とし――刀身を猪の上顎と下顎の間に入れこんで切り捌くッ!

 森中に命が消える声が響き、地面に肉塊が落ちた。

「一匹ゲット! もう一匹狩る?」

 ティンは血糊の付いた剣を払う。するとスルリと血糊は剣から落ちて地面を赤く彩る。

 続いて草むらから浅美が飛び出し、顔面が真っ二つになった元猪に走り寄ると更に背負った剣を抜いて解体を始める。楽しそうに。

「……うげぇ……」

 ティンはこのグロ状況に慣れていなかった。血を見る事が少ないこの世界の住民故、元猪の真っ赤な血はちょっと刺激が強い様である。

 後から出て来た瑞穂がティンの肩に手を置いて慰める。

「ティンさんティンさん、浅美さんは大体こうだから気にしちゃ駄目だよ」

「そうなの?」

「あの子、野性的だから」

「じゃあ早速鍋にしよう。野菜はどれくらい入れるー?」

 声に振り向いてみた。血塗れで笑顔の浅美が立っている。

「グロいよ」

 ティンは突っ込んだ。思わず突っ込まざるを得なかった。

 浅美は鍋に水を入れ、昆布などで出汁を取って鍋を作っていく。

「ティンさん、テントはるから手伝って」

「はーい」

「後、浅美さんはちゃんと身体洗ってね。体中血塗れだよ」

「解体したんだから血塗れで当然だよ?」

「そうじゃねえよ」

 瑞穂はこの噛み合わなさに安心を覚える自分の正気を疑わざるをえなかった。



 翌日、一行は無事にケモスタームシティにへと辿り着く。

「なんか騒がしいね」

 浅美は街の周囲を見渡す。やたらと武器を所持したいかつい連中ががやがやと騒がしくしている。

 非常にむさい。若者から筋肉ムッキムキのおっさんまで選り取り見取り。見ろよ、瑞穂さんったら恐怖のあまり街に入って来ようとしないぜ。

「……瑞穂」

「ほっとくと良いよ。瑞穂さん男の人駄目だから。でも何があるんだろ」

「なんだ、あんたら知らずに来たんか?」

 いきなり声がかかった。浅美とティンは声のする方へ首を動かせば、何か全身甲冑に身を包んだ男が。

「今日この街の闘技場でタッグバトルトーナメントの大会をやるんだよ。ケモスタームシティ誕生日記念タッグバトルトーナメント。

 んで、パートナー探してこんな感じってこった……」

 と言って男は二人を注視する。上から下まで嘗め回すように――え、全身甲冑なのに分るのかって? だってゆっくり兜が上から下に下がっていくし――見つめ、一言。

「無いな」

「何が?」

 ティンはきょとんと返すが、浅美は意味を理解したのかむっとした表情を見せる。

「あいや、こっちの話だ。お前さんらも出るんかい?」

「優勝賞金は幾ら?」

 浅美が聞いた。すると男はうーんと唸り。

「さあな……結構高額らしいぜ? 去年は五百万enとかだったらしい。今年もすげえんじゃねえかってあちこちでパートナーを吟味してるようだしな。

 っと、もう直ぐエントリーの締め切りだ。んじゃあな」

 甲冑男はそういって立ち去ると人込みに紛れ込んだ。恐らくタッグの相手を探し始めたのだろう。

「ティンさん、わたし達も出よう!」

「良いけど、何で?」

「高額賞金! あの人思いっきり馬鹿にしてた!」

「うん、片方すっごい個人的な意見だね」

 浅美は思いっきりなめれられたことに腹が立ったらしい。

 そこにぬっと瑞穂が顔を出し。

「取りあえず、大会の情報を集めた方が良いね」

「ああ、もう出て来るんだ」

「ほら、行くよ」

 瑞穂はティンの言葉を空気の様に流して歩き出す。

 そんなこんなで一行は街の案内板を探し、そこから闘技場の場所を確認して向かった。

 闘技場入り口。人が死体の肉を漁るカラスの様に闘技場の入り口に詰まっている。皆出場者らしい。

「まだタッグを組む相手を募ってるみたい」

「……何でだろ?」

「一人旅をする人が多いんだね、きっと」

 浅美とティンは遠目にそんなことを話してた。瑞穂は近くの木陰でガタガタ震えながら見守っている。

「……ねえ、瑞穂について何時まで無視すればいいんだろうか」

「あー。別にあの集団の中に放り込んで反応見てもいいんだけど……瑞穂さん大暴れであの人達一掃っていう結果しか出ないよ?」

「瑞穂がすっごく震え始めたんだけど……と言うか無言で嫌々首振る人間始めてみた」

「でもそんなことすると出場停止貰うかもだし」

「それもそっか。じゃあどうするの?」

「一先ず優勝賞金の確認だね。チラシはどこ?」

 ぬっと二人の後ろに瑞穂が立っている。表情は至って普通だが足はがくがく震えている。ティンはその根性に呆れるべきか褒めるべきか悩んでいると。

「うーん、情報は無いなぁ。何と言うか、前回高額賞金ってことで今回は隠してるっぽいよ」

「もしかして賞金額は今年も凄いかもしれない、と言う意識を植え付けて客寄せをしていると。せこいね。

 まあ大成功してるところ見ると結構向こうの作戦勝ちっぽいけど。で、試合時間は何時から何時まで? 今日中ってことは無いよね?」

 瑞穂は更に情報収集を行っている浅美に問いかける。当の本人は目を瞑って唸っている。

「え……っと、時間制限付きで一ラウンド制。ドローは両者失格で制限時間は九十九秒だって。今日中に終わらせるっぽいよ」

「意外とスタンダードだね。取り敢えず浅美さんとティンさんで出なよ。私は無理だから」

「男性恐怖症だから?」

 ティンが大人げなく突っ込んだ。少しは遠慮しようぜ。

「そうじゃないよ。タッグバトル制だからだよ」

 ティンと浅美ははて、と首を傾げる。瑞穂は呆れながら解説を始める。

「いい? タッグバトルにおいて重要なのは二人のコンビネーションだよ……っと、まずはエントリーしようか」

「いや、まず瑞穂がダメな理由って? 後衛って瑞穂だよね?」

「ああそれは知ってるんだ。簡単に言っておくとね、重要なのは前衛後衛よりもコンビネーションだから」

 瑞穂に言われるがまま、二人は闘技場の入り口に割り込んだ。まあそんなことをすれば当然怒られ……なかった。どうやらタッグパートナー探しに夢中でまだエントリーをしているコンビは少なかった。迷惑。

「で、どうしたの? 前衛と後衛のコンビが最良だって聞いたけど」

「うん。でもね、タッグプレイには二通りあるんだよ。コンビプレイとスイッチプレイがあるんだよ」

「コンビとスイッチ? 何それ?」

 と言う事で今回の瑞穂さんの解説コーナー始まり始まりぃ。

「コンビと言うのは連携、つまりお互いの動きに合わせて攻撃を仕掛けていく攻撃。一般的にタッグバトルの基本戦術はこれだって言われてるけど、大きな問題がある」

「問題?」

「他者の動きに合わせて動くから当然二人のシンクロ率が兎に角要求される。いきなり出会った人とかだと口頭でもろくな動きが出来ないからね。目を合わせるだけで連携攻撃が出来るのが理想であり最善。出来れば一言でどう動けばいいのか分るといい」

 とそこで浅美が手を挙げ。

「じゃあわたしと瑞穂さんが一番じゃないの? ティンさんよりももっと確実だと思うよ?」

「……一つ言っておくよ浅美さん。確かに私達合体技出せるほど付き合い長いしタッグも出来るよ?

 でもね、私と浅美さんはそもそもタッグが出来る? 自慢じゃないけど、人に合わせるなんて私無理だよ?」

 本当に自慢じゃないよ。

「……どうしよう、わたしティンさんとコンビできそうも無い」

「いきなりかよ! 二人ともそんなに特殊なの?」

 ティンの言葉に応えて浅美と瑞穂はびっとお互いを指差し。

「この人魔導師の癖に真っ先に殴りに行く! 魔法は範囲広いの多い癖して近距離から中距離! 基本蹴る殴るぺしゃんこにする魔導師!」

「基本地上に居ない剣士、でもぶっちゃけ地上のほうが強いしと言うか一人で勝手にやらせておくべき人」

 そして二人仲良くさんはい。

「貴方には言われたくない」

 お後が宜しい様で。って宜しくは無い、一切ない。

「うん、協調性が無いのは理解した」

「色々待って」

「ティンさんかなり待って」

 二人は絶妙なコンビネーションでティンに突っ込んだ。

 その後二人が小一時間お互いティンにいかにどっちが協調性に欠けるか語り合ったがティンは話を進ませる事を選んだ。

「で、次は意外と知られてないけど知らず知らずに多くの人が使ってるタッグプレイ、それがスイッチプレイと言われる戦法だよ」

「ところでスイッチって何?」

 ティンは挙手して質問を行った。

「簡単に言うと切り替えのこと。一人が攻撃し終わった所にもう一人が攻撃を続けると言う簡単な戦法だよ。リレーだね」

「リレーってバトン渡す奴?」

「そう。走者が手にしたバトンを渡し続ける奴。一人が攻撃して、続ける様にもう一人が攻撃する。

 コンビプレイとは大きく違い、基本的に一対一には変わらないことと誰でもやり易いのが大きなポイントだね」

「なるほど」

 とティンが納得していると受付終了のアナウンスが鳴り響く。

 見れば殆どの男達がパートナーを選び終えたらしい。握手してたり作戦を決めてたり中には武器選びをしているコンビまでいる。

「おいあれ」

 とティン達に指を指すものが居る。正確には、瑞穂を。

「あれ漆黒の氷姫じゃねえか?」

「あ、マジだ! 姫だ!」

 ティンと浅美が瑞穂に視線を向けると、そこには誰もいなかった。

「ってあれええええええッッ!?」

「瑞穂さん逃げたね」

 一体いつ消えたと言うのだろうか、まあそんな事よりも試合である。

 まあ、なんだ。その、だね。言いたい事は一つ。非常にシンプルイズベスト。これ以上に無いほどシンプルな文章なんだ。たぶん、これだけでオープニングとエンディングをつなげられるほど。一種の禁止技さ。封印されし禁断の最終奥義、使えば発動者は死ぬと言っても過言じゃないほどだ。これから行う事はシンプルゆえに奥深く、そしてそれだけ恐ろしい極意。前置きが長いのはわずかな文字故、おそらくその言葉の意味が、その本当の恐ろしさが伝わり難いと思ったからだ。じゃあ、いい加減引き延ばしも長いし始めよう。その禁断の最終奥義。それは――。



 以下省略。



「ねえ、何か凄く突っ込みたいんだけど」

 ティンは開会式を終え、自分の試合の番だと言うのに訳のわからない事を言い出す。浅美は「じゃああの人達のお尻にでも剣を突っ込んでおきなよ」と返す。

 そんな雑談をしていると審判がやたらとテンション高そうに。

「試合開始ィィィッ!」

 と叫んだ。と同時にティンは舞う様なステップで前を行く。がッ。おいぬるぽとか言った奴何処だ。

 ティンの真横を炸裂音と共に何かが通り過ぎる。絶妙なコントロールでティンの体のすぐ近くを通ったのか、擦れる様な熱い感触まである。

 ティンは足を止めて振り返る。そこにあったのは、浅美――両手に拳銃を構えた。

「嘘!」

 ティンはテレビで見たドラマで二丁拳銃を使うシーンがあるのを思い出す。だが浅美は回転すると自分の真横に向けて発砲。

「はい?」

 ティンは彼女が何をしているのか分からなくなった。

 浅美はそんな彼女の視線なぞ気にせずに銃を乱射しまくる。踊る様に。あらぬ方向に。当然撃たれた銃弾は闘技場の壁、地面、観客席への結界に阻まれ、弾かれていく。一体彼女は何がしたいのか。

「背を向けるとは余裕じゃねえか!」

 その間に男Aが盾を構え小剣を握ってティンに切りかかって来る。ティン的には距離的に背を曝すくらい余裕ではあったが、振り向いた瞬間に男Aは吹っ飛んだ。何かに殴られた様に。

 続いて男Bが何か喋りながら投げナイフを構えるが、行き成り撃たれ様に吹き飛んだ。

 ティンはいよいよちんぷんかんぷんな状態となる。

 そんな彼女を置いて行くように男達は見えない何かに吹き飛ばされる。何に吹き飛ばされているのだろうか? 賢しい読者諸君なら既に……え、分かるけど理由が分からん? えーこんくらい余裕でしょー?

 まあ答えは、さっき浅美が乱射した銃弾である。ただの銃弾ではなく、風によって制御された銃弾だが。浅美が撃ち込んだ銃弾は既に威力が死に絶え、無駄玉として地面に転がる……筈だった。が、そこで風の魔法。極小の竜巻を起こす事により、死んだ弾丸を再び回転運動を加え、極小の爆風を弾丸の背後に加えることで再び使える弾丸として再利用しているのだ。

 結果、ドーム状の結界により、一種の室内となったこのバトルフィールド。この結界を利用して兆弾を生み出し、銃弾による包囲網を展開しているのであるッ!

 ちなみに浅美程の実力なら兆弾なんてことせずとも軌道を自由に曲げられる。これは浅美が銃弾は真っ直ぐ飛ぶものと思い込んでるから仕方ない。

 浅美は煙立つ銃口にふっと息を吹きかけ、ポッケに仕舞うと宣言した。

「おっしまい」

 同時、二人の男達の脳天に計十五発の弾丸が仲良く埋め込まれ、意識を放棄する。

「勝者、浅美選手&ティン選手ぅぅぅッ!」

 審判は喧しい歓声さえも凌ぐ声で試合終了の宣言を行う。

 ふと思う。この作品のいい所って何処だろうと。

 まあ迷った時はツッコミどころ満載の描写で逃げる!

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