闇の武器市場
ラルシアは紅茶を啜りながら太陽の下で働く村人達を眺めていた。
考えることは今行っている中で一、二を争うほどの商談と、ティンについてと、彼女に見せる自分の真実についてだ。特に最後の事業が最も重要で、之で今後の動きが決まっていくとも言えるレベルだから、かなり重要だった。
これによって今後、ティンを。
「あいつを、十二分に巻き込める」
それは、今後重要なファクターになると思う。
「あの女、洗えば洗うほど楽しい話がボロボロと……本当、頭が痛くなりますわ」
そう楽しそうに呟いて紅茶をテーブルに置いて、立ち上がった。そして腰のポシェットから赤く輝くハルバードを取り出して、畑に現れた不振人物目掛けて放り投げた。
畑の端で粉塵が巻き起こり何かの呻き声が響く。見渡せばいつか見た仮面の者達がそこに居て。ラルシアは手を大きく強く叩いて宣言する。
「はーい、皆さん。お茶にしましょう!」
その声に畑に入ってきた不審者に反応していた村人達は何事かとラルシアのほうへと向き直るが、無視してラルシアはそう言いながら前へと出ていく。
「だ、だけどラルシアさん」
「む、村に」
「ああお気になさらずお気になさらず。皆さん疲れたでしょう? 皆さん休憩にしましょう!」
ラルシアはもう数本武器を取り出すとそれを仮面の連中目掛けて投げ付ける。
「で、ですが」
「ああ、私の事はお気にせず。私は少々ゴミ掃除が残っているのでそれを済ませてから休みますわ」
言って、ラルシアの笑顔の圧力に負けた村人達は逃げるように休憩所に向かった。するとそこにはラルシア専属の執事が紅茶とケーキを用意していた。
「どうぞ皆さん、お疲れでしょう。後はお嬢様にお任せして」
「あ、あの、ラルシアさん、畑を踏み荒らさないで……」
「ああ、ご安心を。畑なら多少踏み荒らしても直ぐに戻しますので、はい」
「あ、いえ、寧ろ踏み荒らさずにしてくれると」
そんな村人の主張はさっとスルーされて村の畑では惨状が出来上がっていった。
取り出した斧で機械の体を叩ききり、槍で体を貫き、使い終わった武器はその辺に投げ捨てて追撃と共に武器の換装を行い続けながら次々と現れる仮面の連中を、それこそゴミでも片付けるようにさっと薙ぎ払っていく。
その動きは正しく華麗かつ大胆、文句の付けようもないほどに美しい――力押しだった。
細身な女性の肉体とは思えない怪力で千切っては投げ、千切っては投げ、文字通り千切っては投げ飛ばして金属片の粗大ゴミの山を築き上げていく。
そしてラルシアは丁度残った一体の四肢を打ち壊して首を掴み上げた。
(ふむ、この機械人形の素材……なんでしょう? ただの金属じゃない。こんな金属、この世界に存在しましたか?)
ラルシアはこれでも武器商人。武器を扱う商人としてこの奇怪な機械人形を潰しながら観察していたが、見れば見るほど不可思議な存在で疑問が増えるばかりで、何と言えばいいのか分からない。
と、そこまで考えてそれよりも大事なことが存在していたのを思い出して別のことを考え出し。
「おいこら待てラルシア」
「ふむ、新商品の性能はまずまず……」
呟き、頭の中で必要なデータだけをピックアップしなおして携帯電話を取り出し。
「私です」
『おや社長。試作品の調子はいかがですか?』
「ええ、貰った試作品の性能は好調ですわ。後で反省点と新しいセールスポイントを纏めた書類を持っていきますわ」
『ほおう、そう仰っていただけるとこちらも嬉しい限り。期待させて頂きますよ』
ラルシアは背後で突っ込んだ誰かを無視して携帯で報告を行い、目の前の機械人形の首を握りつぶさんと握力を更に加え、無視された方はラルシアを睨みながら。
「キ、サマ……」
『ん? 社長、妙な声が聞こえたのですが』
「雑音? ああ、協力者の声ですわ。ええ、丁度いいのが」
『丁度いい……もしや、例の彼女ですか? 大社長が最近気にし始めたと言う』
「例の彼女ではありませんわ」
『おやそうですか。ではレポート楽しみにしていますよ、社長』
「ええ、では後ほど」
ラルシアは携帯をポケットに仕舞い込んでその場に落ちている斧を掴むと仮面を掘って斧の一撃を叩き込んで仮面を村の外へと叩き込み。
「おいお前、こんなに強いとか聞いてないんだけど」
後ろから呼ばれたラルシアは勝誇った笑みを浮かべて振り返った。
「おいお前、こんなに強いとか聞いてないんだけど」
ティンはラルシアの危機だと思って出来うる限りの速度で戻ってきたが、そこは確かに惨状が出来上がっており、一種の地獄が出来上がっていたのだが……それを構築していたのがラルシアだと知って逆に肩透かしを食らってがっくりと力が抜け落ちた。
「あら、私は新商品の調子を見ていただけですわ」
「いや、あの連中を一人で殲滅できる時点でおかしいから」
ラルシアはティンの訴えを知らんと返すように指を鳴らし、武器の各所に刻まれた術式が動き始め、散らばっていた武器が一斉に消え去る。
「お、おおっ!? いまのどうやっ」
「あれらはただの試作品ですわ。データを取り終えたら元の場所に戻るよう、転移術式を貼り付けてい居るのです」
ティンがなるほどーと納得していると上からやたらやかましい音が降りて来る。何だと思って見上げるとそこにはヘリが飛んでいて。
「はい?」
「で、本題なのですが」
そう言ってラルシアはティンの肩を掴み上げてヘリの梯子を掴んで足をかけるとそこからティンを投げ上げてヘリの中に入れ込み。
「って危ないだろうが!? と言うかどんなコントロール!?」
ティンの突っ込みも無視してラルシアはヘリに乗り込んでドアを閉めると減りが移動を始めた。ラルシアはヘリの椅子に座ってシートベルトを締め、頬杖をついて外を眺め始める。
ティンはそれを見て溜息をつきながら同じように椅子に座ると。
「と言うことで、私と一緒に行って欲しい場所があるのですが」
「事後承諾かよ手前」
「あら、違いますわ」
ティンは睨みつけながら責める言葉を送り、対してラルシアは心外だと返して。
「拒否権が無いだけです」
「ちがいは!?」
「事後承諾と言うのは、あとで良いか悪いかを問うからそう呼ぶと、ご存知?」
「最悪だこいつ!」
つまり、答えは聞いてないということである。お後はよろしく、無い。ヘリは安全運転かつ高速で動いていた。
「で、何処に行くんだよ」
「拒否権の無い人間に説明をする必要は」
「それ発言権が無いって言わない!?」
「あら、ぎゃーぎゃー騒ぐ権利を許しているからスルーしているんじゃないんですか」
「聞けよ人の話!」
ラルシアはそんな風に突っ込み続けるティンを無視し続け、やがてヘリは何処かのヘリポートに降りた。まずラルシアはヘリから降りるとティンも続いて降りる。だが、そこは。
「な、何これ、廃ビル?」
今までのヘリで移動したさきとは思えないほどのぼろいビルの上だった。ティンはどういうことなのかとラルシアを見るがラルシアは黙ってついて来いとジェスチャーで伝え、ティンは黙ってラルシアの後をついて行った。
ついて行った先、そこは正直未知の世界だった。周り中がコンクリートと鉄骨の世界。ビルの中だと思っていたら地面に降りていて、かと思っていたら地下にいて、緩やかな坂や下水道みたいな道を通っていき、自分が何処にいるのか分からなくなっていく。
確実に言える事は、ラルシアとは結びつかない事だけだった。ラルシアの見た目は、まず昔の騎士や貴族が来ているような服だ。貴公子ぜんとした服を女性用にしたような、女性用の軍服みたいな感じと言うか、そんなデザインの真っ白い服。
更には腰の上に留まるほど長い金髪に、裏の世界出身の血筋を示すようなライトブルーの瞳。
そう言った要素から連想できるラルシアのイメージは、金と白の高貴なイメージで、こんなジメジメとした薄暗い場所など彼女には全く似つかない。だと言うのに、ラルシアはまるで慣れた道だと言わんばかりにずんずんと道を突き進む。
やがて、そこから黒尽くめの怪しい人物が立っている通路に出た。それを見たらラルシアは懐から何かを取り出して。
「之を渡しておきます」
「何、之」
それは、カードだった。何かの会員証で、よく見たらティンの名前が刻んであって。
「此処から先に行く為の通行証ですわ」
言って、ラルシアは懐からカードを取り出して通路の一角に立っている男に見せる。男は僅かに頭を下げてラルシアに道を譲る。ティンもカードを見せて近づくが、確認する事もなく顎でしゃくる。恐らく『早く行け』と催促しているのだろう。
ティンはその反応に対してラルシアの後に追いついて歩き出す。
「で、何処に向かってるの?」
「ああそうそう、一つ行っておきますわ。みだりやたらにそのカードを出すのは止めなさい……下手すると逮捕されますわ」
さらっと。本当に、ただの世間話のような調子で、ラルシアはとんでもない爆弾発言を言い放った。言われたティンは一瞬、頭が止まるがすぐに。
「ちょ、一寸待てこらああああああああ!? お前今なんつっ」
「静かになさい。もし捕まっても直ぐに無関係だと判明して釈放されますわ。そのとき、場合によっては謝罪として謝礼金が貰えるかも知れません。ですので、もし金欠になったときは出来る限り偶然を装って警察に見せるといいですわ」
「待て待て待て待て! そもそも警察に捕まるようなものを何簡単に渡してんだこらぁっ!?」
「あ。そうそう、失くしても構いませんがもしも落とした物が誰かに渡って警察に届いて貴方が捕まった場合は面倒な手続きが色々発生しますので、くれぐれも失くさない様に」
「人の話をきけぇっ!?」
ティンの突込みを全無視して、ラルシアはがんがん前に突き進んでいく。やがて明るい出口に辿り着き、そこで満足そうに此処が自分の居場所だといわんばかりに笑いながらティンを手招きし。
「ようこそ――」
招かれたティンは高い場所からその街を見下ろす。
「闇の武器市場、ルクドへ」
とても楽しげに、ラルシアはそういった。
「……おいこら、今、なん、つった?」
ティンは、頭を抑えながらそう返す。ラルシアは笑いながら街へと続く階段を下りながら。
「闇の武器市場、ルクド。我々ノルメイアが会社を創設してからずっと守り続けた、本物がある……ノルメイアの魂が宿る市場です」
「魂?」
ラルシアの後に続き、ティンもそこへと降りていく。階段を下りた先、そこにはテントやら簡易式の建物が立ち並んでいて、まるで何時か見た騎士達の聖都のようだった。ただ違いがあるとすれば、その建物全てが店、それも武器屋であることくらいか。
「うわぁ、凄い……これの何処が武器の闇市場?」
「例えばあそこの商品」
ラルシアは指でとある店を示す。そこには銃器を売っている人が居て。
「あれを使っている国も軍隊もいませんわ」
「どうして?」
「だって、開発途中の試作品ですから」
「……なんでそれを売ってるの?」
「よこながいえ某所から仕入れたと言っていましたわね」
ラルシアは何かを言いかけてから急遽訂正する。ティンはやっとここの事情を飲み込んで。
「ああ、つまり皆泥棒とかの犯罪者」
言った直後、ティンは凍った。魔法で文字通り凍ったのではない、彼方此方から睨まれ店頭に並んでいた武器を突きつけなれ、銃口を一斉に向けられたが故だ。
流石に息を呑み、冷や汗がたれた。そこにラルシアが笑顔で振り返って。
「何を言うのですか。此処で商売しているのはみ~んな、ただ売りたいものを売りたいだけの純粋な商人だけですのよ? そんな盗人だなんて言いがかりは止して下さいな。それとも、貴方の機動力で之をどうにかできるとでも?」
(無茶言うな手前!)
ラルシアの白々しい台詞にティンは心内で返す。にこやかにラルシアはティンに歩み寄って肩に手を回す。そこからは得体の知れないほどの力がかかっていて、続いてドスの利いた声が。
「良いから黙って頷いとけよ。悪いようにはしないから」
と、耳元でささやかれる。全く持って、面倒なことに巻き込まれたと、ティンは本日何度目になるか分からない溜息をついた。
ではまた次回。感想ご意見、誤字脱字報告などあったらどうぞ感想欄へ。