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家族とは何か

 昔の夢を見た。

『あらこんにちは』

 その夢は、今思えば思うほど不思議な夢だった。まるで、未来から挨拶をされるような気分だったから。何故なら、目の前の大人はまるで、未来から自分がやって来た様な、と思うほどに自分に似ていたと思う。

『貴方、何処の子?』

 自分によく似た長いブロンドの髪、人ならざる者と思わせる黄金のようなライトイエローの瞳、公園で遊んでたらよく知らない人に声をかけられてびっくりしたが、何より自分にそっくりな人間が現れたことに驚いたのだ。

 だからティンはそれに答えようとして――。

「何て、答えた?」

 そこで起きた。目が覚めた。何時だったろうか、そんな記憶に巡り会ったのは。

「……未来、予測か。だから、未来の自分か……」

 自嘲気味に言って、なんだか今になって沸いた疑問を抱く。当然ともいえる疑問が。

「――待った、未来から来た自分だって? それ誰だ?」

 そう、未来から来た自分とであった――と言えばロマンチックで、夢みたいな話だがそれが空想であり夢物語であった、ならばだ。だがこれは現実、そう実際に起きた過去の記憶。つまりそれは――。

「実際に、出会った人間だ。ってことは、現実に居る? まさか、時間をさかのぼったあたしが――で、それは何年後? そもそもどうやって時間を越えた? おい、待て、待て待て、自分に(・ ・ ・)似てる(・ ・ ・)人間(・ ・)、だって?」

 待て、思い出してみろ。世の中探せば、そう言う(・ ・ ・ ・)人間がいた(・ ・ ・ ・)ような(・ ・ ・)気がする。そう、世の中最も自分に似てる、似ていてもおかしくないいや似ている方が自然の人間、それは――。

「家、族……? じゃあ、ぁ……嫌だ止めろ考えろを止めろ何でこんなこと考えるんだ速い速過ぎる止めろおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 思わず、頭を抱えて叫んだ。瞳孔が開いて呼吸が乱れる。つまり、つまり、彼女が会ったと言う、自分そっくりな人間と言うのは――ティンの、母親、と言う可能性が高い。それも、異常なレベルで。あの時代で、4、5歳の時にあった、自分そっくりな大人の女性。それは完璧に。

「ぐ、う、ぅ、ぅぅ……ッ!」

 ティンは、自身の才能を心底呪った。答えを探し出す事に特化したこの超能力。問題を放り込めば、即座に無数の答えを瞬時に叩き出すこの超能力を。

「瑞穂……瑞穂が、仲間を見つけて心底喜んだ理由、分かったよ」

 涙を流して、ティンは頭を抱えた。瑞穂がオーバーリアクションを起こした理由が、痛いほどに分かるからだ。彼女の絶望が、孤独が、骨を砕くほど分かるからだ。

「要らないよ……こんな能力(ちから)……あたし要らないよ……」



 昼、ティンは朝の嫌な気分を引きずり、忘れるように仕事をしてホテルのロビーで休んでいた。早朝に会いたかったが、出かけてたらしい。

「おっす、お前今日も仕事か?」

 そんな時、火憐と有栖が一緒にやって来る。

「今日もか。せいが出るね」

「ああ……うん。瑞穂は何処?」

「瑞穂? あいつはまだ探索中、何か興味を引かれたらしい。ああなったあいつはそう簡単に戻ってこんぞ」

 言われてティンは力なく俯いた。それを見て火憐は。

「んだお前、瑞穂にあいたかったのか? 珍しいな」

「ええと、瑞穂に会いたいと言う希望はそんなに珍しいのか、火憐?」

「珍しいだろ、変人奇人に会いたいだなんて」

「まあ、確かにあれは筋金入りの変人奇人だが……」

 二人は溜息混じりに呟いた。どうやら、瑞穂と言う人間について呆れ気味に語っているらしい。

「そーいやお前、彼氏とはあの後どうなん?」

「どうって……どうって、ほどじゃないが」

「いや、デートとかしないのか?」

 問われた有栖は一気に顔を真っ赤に染めて。

「ままっ、待てっ、なぜそうなる!?」

「いやだって、あれから付き合ってるんだろ?」

「いやその、確かにそうだがええっと」

 有栖があたふたとしているとティンが。

「付き合ってる人が居るの?」

「いや、当人の中じゃ既に結婚決まってもう何年後には籍を入れる予定だそうだ、この脳内ピンクは」

「気が早すぎない?」

 火憐の言葉にティンが呆れ気味に答えている。更に火憐は有栖に振り返れ。

「もう子供の人数まで考えてるんだよな?」

「決まっている訳ないだろう!? そういうのはきちんと話し合って家族計画してからだなあ!」

「つまり結婚は既に考えてると。若い人はお盛んでいいねー」

「凄いねー……子供を不幸にはしないでね」

 ティンは項垂れ気味にそう呟いた。それを聞いた有栖は彼女の事情を察したのか。

「もっ、勿論だ。君達と言う子供がいると知っている以上は、決して自分の子供だけは不幸にはさせないさ」

「そうじゃなくてさ……自分の幸せじゃなくて、子供の幸せを考えてよ。誰かがどうとか、どうでもいいから」

「そ、そうだな……ど、どう、だろう……あいつは結婚後絶対自分の仕事を優先するだろうし、私にもしたい事があるし……」

「止めればいいじゃん」

「だ、だが、それでは本末転倒だし、で、でもそれだと子育てが疎かにえーとえーと……」

 と、有栖はホテルロビーの片隅でふらふらと考え始める。それを見て火憐は」

「お前……そもそも今付き合ってることに集中しろよ。結婚するとかまだまだ先だろうが」

「ぐっ、大体、思えばそこに居る人間がそもそも親との不仲が原因でぐれてるしな。将来子供がこうなると思うと」

「――黙れよ、手前」

 腹のそこから響くような、ドスが篭ったと言うか、今まで聴いたことが無いほどに冷えた言葉が出て来た。火憐がこんな声を出したのにティンは驚く。確かに彼女のこんな声を聞くのは初めてと言うわけではないが、此処まで重く冷えた言葉なんて、聞いたことが無かったからだ。

「……何だお前。その反応から見るに未だ仲が悪いのかお前。もういい加減大人なんだから、少しは親と仲良くしたらどうだ?」

「うるせえよ、手前に言われたくない」

「こいつ、親とずっと不仲なんだよ。よく知らんが、凄く子供っぽい理由らしい」

 有栖の指摘に火憐は舌を打って目線を逸らした。今まで見たこと無いほど弱弱しい、複雑な彼女を見たことが無かった。それ以上に。

「おやって、どういうこと?」

「彼女のフルネームは燃焼、燃焼火憐。彼女の両親は、魔法界でも有名な研究者なんだ。母親が某大学の教授をしていて様々な学校の講師をしており、父親は某研究所の所属している研究員で博士号を持っている。ゆえに彼女の母を指して燃焼教授、父を指して燃焼博士と呼ぶんだ」

「え、じゃあ火憐って凄い人の」

「すごかねえよ、代々揃いも揃って頭狂った研究者ってだけだ。あたしもそのうちの人間ってだけだよ」

 火憐は吐き捨てるように語っている。この話題は嫌いと言うより、憎悪していると言わんばかりに。いつもの様子からは一切想像出来ない彼女の絵がそこに出来ていた。

「大体、あたしは親なんかどうでもいいんだよ。あんな連中、手前の好き勝手やってるだけだろうが」

「お前はな……大体」

「そうだよ」

 有栖の言葉に、ティンが口を挟んだ。

「親なんて……どうでもいい。そうだ、それで良いんだ……」

「お、おい、ティン?」

 震えながらに、思い込ませるように、染み込ませるように言い聞かせるように。

「そうだ……親がどんなやつだなんて関係ない、どうせ最低な奴だそうに決まってる、人を捨てたんだ、あたしを捨てたんだ、あいになんか、来る訳が――ナイッッ!!」

「え、えーと……それあたしの親じゃなくて、お前の親、か……?」

 火憐は突然喚き散らすティンに逆に驚いて元の表情に戻ってティンを見ている。

「そうだよ……最低で、外道で、人でなしだ、そうだ、そうに決まってる、子供を捨てる親なんて……ッ!」

「え、と、そうとも、限らないんじゃ」

「そんな訳がない! 今までそうだった、孤児院に来る奴らは皆そうだった、どいつもこいつも、自分の都合で子供捨てて子供迎えに来て、そんな奴らとおなじ……そうだ、同じだ……」

 ティンはふらふらと歩くと誰かにぶつかった。

「……此処、公共の場。煩いのは感心しない」

 見上げれば、瑞穂がそこに居て。そこで、ティンの意識がぷっつりと途絶えた。

 では、また。

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