魔道士集め
朝、朝食を摂ったあとティンは一度玉座の間を覗き込みに行った。そこでは何やらお祭り状態で、そこへ目を引かれる。何かと思って近づいて見ると。
「そうそう、こんな感じこんな感じ! ああ、思い出すわ懐かしいあたしの青春!」
「昔を思い出すなぁ……あの時はよかったなあ」
「おお、これこれ! これが無くちゃイヴァーライル王立大学じゃねえよな!」
「そうそう、あのサークルの人がこれが可愛くってさぁ。今はどっかで白骨死体に」
「なってないよ! 失礼な奴だね、昔はあんなに言い寄って来たって言うのに」
「そんな大デブになってるなら思い出のまま沈んでくれてたらいいのに……」
何やらワイワイガヤガヤと騒いでいる一団が。女王がみれば恐らく文句を言い出すだろう光景にティンは近づいて見る。
「何やってるの?」
「おや、騎士さんか」
一人がティンに気付くと同時に道を開けた。そこにはテーブルが一つ、上には何かの絵図が広がっている。
「何これ」
「大学の資料さ」
「この国で魔法大学を覚えてる連中なんて俺達だけだからさ、皆で思い出して大学を作ろうって話になってよ」
「ってわけで意見を寄せ合って出来たのがこいつさ」
そう言って机の上にある絵図を指差す。そこで後ろから誰かが何かを持ってくる。
「ほいほい、出来たよー」
「おお、ついに出来たのか!?」
「どれどれ見せてくれよ」
そう言って奥からもう一人がやって来て絵図の上にもう一つの紙を置いた。それは建物の設計図。
「これが大学の設計図だ」
「おおっ、懐かしいね!」
「当然、これこそ歴史と伝統あるイヴァーライル王国王立魔法大学さ!」
持って来た人は胸を張って言い切った。ティンはそれを見ても特にピンとは来なかったが、周囲は凄く盛り上がってるその温度差に違和感を覚えた。
「ティン様、少々宜しいでしょうか?」
「ん、仕事?」
そこへメイドがティンに話しかけられ、一団から抜け出す。メイドはぺこりと頭を下げてティンに箱を差し出す。
「こちらが転移術式と書類を纏めた物です。詳細はこちらを参照下さい」
「分かった。じゃあ行って来るね」
「行ってらっしゃいませ」
そう言ってメイドはもう一度頭を下げるとティンは光に包まれて消えていった。
草原に光の柱が降り立ち、ティンが現れた。周囲を確認すると人の集落が目に入ってくる。そこが目的地なのかとティンはそちらへと向かって行く。村の中は今まで彼女が立ち寄ったものと特に変わりなく、静かな様子だ。ティンは一先ずと言った感じで宿屋に向かい、途中で書類に目を通す。
(此処で一人回収、女性っと)
そう思うと書類をしまって宿屋を覗く。その内装は以前と見たものと何一つ変わってない事に少し驚いた。作った人が同じなのか偶然なのか、違いと言えばカウンターに立っている人間くらいか。
「なんだい、泊まりか?」
「あー、いえ。イヴァーライルなんですけど……」
「おー聞いてる聞いてる、あんたか。んじゃ、ほい」
そう言って宿屋のおじさんはすっと手を突き出す。それを見てティンは。
「えっと、何?」
「金。引き取り料」
言われてティンは資金が居る理由と言うものに漸く気付いた。なるほどと思ってティンは荷物から資金を探してふと疑問。
「お幾らですか?」
「迷惑代しめて……こんぐらいだな」
そう言っておじさんはメモに数字を書いて引き渡す。ティンはカバンの中から指定された金額を差し出すと代わりと言わんばかりに電話をかける。
「おはよー……御座います」
「全く、今時の若い娘が宿屋に寄生とか世も末なこった」
「あー、えー……んーと……魔導師の、募集でしたっけ? 宜しくふあっあー……」
寝惚け眼を擦りながら降りてきた女性は大きな欠伸をしながらティンに挨拶をする。
「ず、随分大きい欠伸だね」
「あー、今何時……?」
「10時半だけど」
「あー……うー……3時間は寝たのか……顔洗って……ロードワーク……」
「あいや一緒に来てって。ほらちゃんと起きてって!」
ティンは言いながら女魔導師の頬を何度も叩き、女魔導師はそんなティンを振りほどくとフラフラとトイレに向かった。
「寝ないでよー! もー一緒にきてって言ってるでしょう!?」
「……かくー……」
「寝、る、なああああああああああ!」
ガクンガクンとティンは両肩を掴んで彼女を揺らすが特に効果があるようには見えず、もう一度頬を叩こうとするとフラフラと立ち上がってトイレに入り込んだ。
暫くするとずぶ濡れの顔をぬっと突き出し。
「一先ず、出ましょう。おじさん、今まで有難う御座いました」
そう言ってぺこりと頭を下げた。先程までの眠気眼とは打って変わったキリッとした表情にティンが思わず感心する。
(へー、こういう顔も出来るんだ……いや、寧ろこれが素顔かな)
ティンは顔をあげた彼女をよく見る。山吹色のセミロングの髪、冒険者と言った感じの丈夫そうなコート姿、平凡だが砂埃まみれの体から清楚なイメージさえ湧き出る女性、という印象だ。
ティンと女魔道士は一緒に外に出るとコートの裾で濡れた顔を吹き始める。
「すいません。昨日……と言うか数時間前まで魔法の研究をしてたので……あの、移動は徒歩ですか?」
「ううん、眠そうだから一旦ホテルに送るよ」
「お願いします……」
んじゃ、また。