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初めてのアルバイト

 ティンは呆けた顔でレジに連れてかれていく。

 浅美はティンにレジ打ちを教えるべく嬉しそうにレジ打ちの操作を見せている。

(可愛い……あたしが、可愛い……うーむ……)

「で、こうして、こうすると、はい! 計算終了。後はお金貰うんだけど、お客さんから貰ったお金が多かった時、その分のおつりを出すよ」

(あたしが……可愛い……可愛い、かなぁ……? 華梨によく可愛くないって言われてるし……えーと確か世の中おせじって言うのもあるし……)

「んでね、此処押すと……ティンさん? 聞いてる?」

 未だに考え込んでるティンは浅美の言葉に気付かない。

(可愛い……でもあたし可愛いなんて言われたこと無いし……あの店長、人を見る目が無いの)

「ちょっとティンさん!」

「え、あ、何?」

 浅美は不満度百%な感じに叫ぶとやっとティンが反応する。

「レジ打ち教えてるのに、ちゃんと聞かなきゃだめだよ!」

「ご、ごめん浅美。で、えーとどうやっ」

「あーあんた達? 新入りっての」

 ティンが心を入れ替えてレジ打ちを教わろうとしている中、先輩女ウェイトレスが割って入る。

「どっちかでも良いからさ注文お願い出来る? ちょうどフロアの担当が男ばっかでさ。女の子が入ればきっとお客さんも増えるだろうから、頼む!」

「あ、じゃあティンさん行って来て。レジ打ちならわたし慣れてるから」

「分かった」

 ティンは返事すると先輩女ウェイトレスからメモとペンを渡される。

「じゃあ早速だけど注文取って来て。あんたバイト初めて?」

「あ、はい」

「んーと、挨拶とか注文取りに行った時の言葉はわかるか?」

「えっと、いらっしゃいませーとか、ご注文はとか?」

「そーそーそれに笑顔つけりゃ問題はねーよ。あたしも問題ねーしな」

 何処からか「そんなんあんただけだよ」とか言う呟きが流れたが、まあ気にしない。

「じゃあこう」と切って、「ご注文は?」とティンはヒマワリの様なまぶしい笑顔を見せる。

「おっし完璧だ! んじゃ行って来い!」

 軽く返事をし、ウェイトレスを呼んでいるテーブルに向かう。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

「コーヒー二つにパンケーキ」

 と、ティンはささっとコ二パケとメモに書き込む。

 ティンが注文を取りに行ったのは女性客二人の席だ。片方はスパっと答えたが向かい側のもう片方は未だにうーんうーんと唸っている。

「イチゴもいいでも今日はバナナがああでもイチゴが……」

(……うーん、やっぱりあたしは可愛い、のかなぁ?)

 ティンはちょっと暇になり、先程と同じ議題に悩む。おーい、今仕事中。

「ようっしバナナパフェだ!」

 とティンは考えながらバパとメモに酷い走り書きで記入。

「んじゃ、以上で……あれ、どうかしたんですか?」

「ん、あ、いえなんでも」

 ティンは意識を戻すとカウンターの方へと向かっていく。

「……あれ、あたしホットだけど、あんたは?」

「ん、わたしもホット……あれ、言ったっけ?」

 そしてティンはメモを見て。

「二のテーブルにコーヒー二つホットでパンケーキ一つとバナナパフェ一つ……バナナパフェ?」

 と、ティンは言っててはて、と頭を傾げる。

(バナナパフェ? あれ、言ってたっけ? でもメモに書いてあるし……)

「おいどうした新入り」

「あ、何でもないです」

「んじゃ次いけ次。客すくねえし寂れてっけどこっちは一杯一杯なんだよ」

 ティンは軽く返事をすると次にテーブルへと向かう。

 ちなみに店長は「客、少なくて寂れてて悪いね」とかぼそりと呟いてたりするけど誰も気にしない。だから読者も気にしない。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

「おれリンゴジュース」

「僕アイスコーヒー」

「アイスティーを貰おう」

「オレンジジュースなー」

 旅人グッズを身に纏った四人組が次に次に注文を口にする。

 対してティンはメモにリアコアテオと書き込んだ。

「んじゃ以上で。んでさ、次どの街行くー?」

 ティンは言われてカウンターへと戻り、メモを見ながら。

「六のテーブルにリンゴジュースとアイスコーヒーとアイスティーとオレンジジュースを一つずつ」

「あいよ、ちょっと待ってくれ」

「ほほう、あんたやるねぇ。本当にウェイトレス初めて?」

 さっきの先輩女ウェイトレスが使い終わった食器をお盆に載せてやって来る。

「は、はい、バイト初めてです」

「にしちゃあメモの走り書きといい、随分手慣れてるみたいだけど」

「えーっと……自分でもよくわかりません」

 そう言ってティンは別のテーブルに向かって注文を取りに行く。

(……ああ、そう言えばうちの孤児院って色んな好みの奴とか多いからなぁ。いっつもあたしか華梨がお茶とか紅茶とか持ってったりしてて、メモとかもこんな風に使ってるからかな?

 ……人間、生きてると変な時に変な経験が生きるって言うけど本当だね)

 そんな事を思いながら無意識の内にティンは注文を聞き終えて、カウンターに向かっている。

 と言うか、急にそれに気付いたティンがびっくりだ。

「ん、どうかしたのかい?」

「あ、いえ。えっと……十のテーブルにナポリタンとカルボナーラとアイスコーヒー二つです」

「そうか……おーい、誰か厨房手伝ってくれー!」

「はーい。あ、レジ変わってくださーい」

 店長の呼びかけに浅美が応じた。

「何作るんですかー?」

「ああ、私がカルボナーラとナポリタンを作るから君はミートソースを頼むよ」

「はーい」

 と言って浅美は大き目の鍋に水を入れ、火をかけて蓋を閉める。

 次に冷蔵庫から玉ねぎとニンニクと挽肉とホールトマトの缶詰を取り出すと「あ、ミートソースは缶詰があるから」まずは玉葱とニンニクの皮を向き、その二つをまな板の上に放り投げ、包丁を華麗に操り、空中でみじん切りにし「あの、浅美くん?」次にフライパンを取り出して火を付け、油をひく。

「あ、オリーブオイルはありますか?」

「あ、いや無いと思うが」

 それだけ聞くと浅美はニンニクを鍋に放り込み、炒め始め「いやだから浅美くん」次に玉ねぎを放り込んで炒め続ける。

「……あー、私はカルボナーラを作るか」

 続いて浅美は挽肉をフライパンに放り込み、三つの具材を炒め、更にホールトマトをフライパンの中に放り、ベラでトマトを潰して具材を混ぜ合せていく。

「こんなもんかな?」

 浅美はフライパンの火を止め、そう言って隣の鍋の中の様子を見る。結構な時間が流れてたらしく、もうすぐ沸騰と言う感じだ。

 浅美は塩を鍋の中に入れ、冷蔵庫からパスタの束を取り出して鍋の中に入れて広げて煮込み、ミートソース作成の続きを始める。

「ほえー、浅美ってパスタも作れるんだ」

「君、今日入ったばかりの子?」

 と、そんな様子を見ていたティンは横から声をかけられる。

 そっちに視線を移すと茶髪でショートの青年が立っていた。

「そうだけど、何か用?」

「いや、君かな? バイト初めてって言うのは。僕で良ければ相談乗るから分からない事があったらなんでも聞いてくれ」

「あ、じゃあ一つ聞いていい?」

「何?」

「あたしって可愛い?」

「……は?」

 青年は返答に一瞬詰まった。が、顎に手をあて。

「んー、確かに可愛いかな? うん、可愛いとは思うけど、どうして?」

「そうか……あたしは可愛いのか……なるほど」

 ティンは納得した様子を見せると別のテーブルに注文を取りに行った。

「……なんだったんだ?」

 その後、青年の独り言に返す人は誰も居なかった……。



 夜、浅美はティンの手を引いて適当なホテルに入り、適当な部屋に入ると瑞穂がベッドの上でごろごろしていた。

 ティンは(多分読者も思っただろう)ふと思ったことを口にする。

「……ねえ浅美、何で此処だって? 携帯も見てないよね?」

「瑞穂さんの髪の匂いを探った!」

「それ人間としてどうなの!?」

 犬も吃驚なサーチ法。風属性の魔法を使える人間は広範囲で人の身体に付いた匂いで人を探すことが出来るのである。

 もっと腕を上げれば声で居場所を特定することだって出来るんだぜ。

「体臭とかじゃない分遥かにましだよ」

「それもどれでどうよ!?」

「瑞穂さん香水付けてないし、汗の匂いで判別なんて出来ないよー」

「リアルなコメント!?」

 ティンはあちこちに突っ込みを叩き込む。忙しいなぁ。

「あ、そうそうティンさん。今日は変な連中こなかったよね」

「え、あ、そう言えば最近来ないね」

 ティンは道中を思い出す。思い返せば、仮面の連中は最近全く来ない。

 ちょっと前までは相当にしつこかったと言うのに。

「多分、浅美さんの影響だと思う」

「え、なんで? この前は浅美が居てもあいつらやってきたけど」

「それについてはまず置いとくけど、浅美さんは混沌を制御する魔剣を持ってるの。その影響で浅美さんの近くに異世界から転移してくるのが難しい事があるんだ。

 んっとね、浅美さんの周囲が転移先として設定する際異常にブレるんだって。これは浅美さんが剣を別空間に置いてある事が原因らしい。おかげで浅美さんの周囲に異世界から転移し難いんだって」

「つまり、あいつらは暫くこっちに襲って来ないって事? でもなんで前は襲って来れたの?」

「多分、元々この世界に居たからだと思うよ? 異世界からでないのなら簡単に来れると思う」

「なるほど……」

 ティンは納得する。しかし、瑞穂はこう言う知識を何処から持って来るのだろうか。

 だがティンは取り合えず瑞穂の言葉を信じてみることにした。



 翌日。二人は朝八時に店に入り、ウェイトレスの制服に着替えて掃除を始める。

 その時、ティンの耳に心地よい歌が流れ込む。人を陽気な気分にさせ、元気が沸いて来る様な歌。聞いてると「今日も元気に過ごすぞ!」と言う気分にさせてくれる。

「浅美くん、君は歌が上手いねぇ。歌手志望かい?」

「ん、そうかな? でもわたしは歌手志望じゃないよ?」

 浅美は歌を止めて店長に向きながら否定する。

「でも確かに踊り出したくなる様な歌だったなー。もっと歌ってみてよ」

「そういわれてもわたし歌なんて一つしか知らないよ」

 浅美は複雑な表情を見せる。歌に関しては色々思う所があるようだ。

「じゃあ今の歌は?」

「今の? 気分が良かったから適当に歌っただけだよ」

「へー、じゃあさ、その知ってる歌って言うのを歌ってみてよ」

「でも今は仕事中だよ?」

「良いさ良いさ、それくらい。君くらい上手いんなら是非に頼みたい所だよ」

 店長は笑いながらグラスを拭いて揃えて行く。

 浅美はそこまで言うならと、呼吸を整えて歌いだす。



 店の中に優しい歌声が響く。

 微風の様に優しく大地を撫でるような、祝福を運んで来る風のような。

 歌詞は恵みを運ぶ風に、そして風を司る精霊達、そして――風の化身たる風神様に感謝を捧げるもの。

 まるで風を祀り、風神を崇める、優しい風のような歌。



 浅美は僅か数分の、そして聞く者には数時間にも感じられる歌を歌い終えると一斉に拍手喝采の声があがる。冗談か本気か、アンコールの声まで出る始末。

「すっごいよ! もうちょっと激しい歌だったら思わず踊り出す所だったよ!」

「そ、そう?」

 浅美は控えめに言った。その表情はあまりの賞賛に照れて――るのではなく、寧ろ戸惑い。まるで「なんでこんなに喜ばれてるの?」と言う疑問を振りまく様な。

 そんな浅美を余所に周囲は開店時間二分前だと言うのに喫茶店内はライブ会場のように盛り上がっていた。

 時間になると騒ぎが嘘の様に静まり、普通に仕事をする人たち。メリハリ大事。

「そーいや結城、お前昨日人の匂い追ってただろ」

「え、何で先輩が知ってるんですか?」

 答えたのは浅美ではなくティン。浅美も反応しているがティンに先手を打たれていた。

「昨日そいつが軽く魔法使って走ってたの見てたんだよ。あれ、場合によっちゃ犯罪だからあんますんじゃねーぞ?」

「は、犯罪なの?」

「確かに人の家の匂いとか、部屋の匂いとかを魔法で持って来るのは犯罪だって知ってるけど、野外で匂いを拾うのは大丈夫な筈だよ」

 オロオロするティンを余所に浅美は常識を語る様な表情で対応。

「あれ、そうなのか? 匂いを風でかき集めるのは犯罪って聞いたんだが」

「それは人の家とかの場合だよ。確か、無断で人の家の中に魔力を使っちゃいけないって法律だと思うよ」

「と言うか、人の家の匂いとか持って来て何がしたいの? お腹減るだけじゃん」

「世の中そう言う変態がいるんだって。女の部屋の匂いとかこそこそ魔法使って嗅いだりする様な奴とか」

 ティンと浅美は理解出来んと表情に浮かべた。世の中、色んな人が居るもんだ。



 二人のアルバイトは特に問題もなく過ぎていく。そしてあれから十三日め、二週間の短期アルバイト終了の前日。

 時間は十七時頃、夕暮れ時。仕事を終えた二人は店長に呼び止められる。

「御苦労さま、二人とも。君達が来てくれて助かったよ。明日でバイトは終了だが、君達はまだ街に残るのかい?」

「うん、暫く滞在して旅に必要なものを買い揃えて行くつもりだよ」

「そうか……もう一度この街に来る事があればまたバイトに来てくれ。君達なら歓迎するよ」

「ありがとうございます!」

 二人は揃って頭を下げ、踵を返して宿泊してるホテルに向かう。

 その途中、公園前である人物に出くわした。

「あ、瑞穂さん」

「そっちもバイト終わり?」

「うん、瑞穂は稼げた?」

 瑞穂はんっと親指を立てた。稼げたらしい。

「今日は仕入れ悪い」

「その親指の意味は」

「でも減金零」

 ティンと浅美はおおっと反応する。凄いのか、それ。

「今日喧嘩売る奴大した事なかった。どうやら今日の奴らは私が漆黒の氷姫だって知ってたみたい。挑発にも乗って来ないし」

「で、瑞穂はどれぐらい稼げた?」

 瑞穂は両手で指七本立て、一言。

「勝利総金額七十万」

「凄いね~!」

 ティンと浅美中々の収穫に喜びの意を示す。

「敗北総金額三十四万」

「って負け過ぎだよ!」

「いやぁ、流石に私でも全力で負ける時はある」

「素で負けたの!?」

 ティンは流石にびっくりだ。あの瑞穂が素で負ける事があるとは。

「幾らなんでも剣聖とか言われてる人が相手じゃ私はどうしようもないよ」

「剣帝じゃなくて剣聖?」

 浅美は更に瑞穂に問いただす。ティンは既にちんぷんかんぷんだ。

「さあ? でも剣聖ってよばれてるのは確か。前にもあった事ある人」

「剣王でも無くて?」

「アシェラさんがいたら速攻で逃げるか土下座して負けるよ……まあ、剣聖にはマッチで一勝一敗一分けだからお金減って無いんだけど」

「結局減って無いんかい」

 ティンはお金減って無い事実とそもそも剣聖と拮抗する実力を持ってる件についてとと言うか剣王って何と言う話を始めとして色々な突っ込みが浮かんだが、結局減って無い事を選んだ。世の中、分からんことだらけだ。

「じゃあこのまま三人で帰る?」

「んーじゃあわたしはお夕飯のおかずでも買ってくるよ」

「パスタでナポリタン」

 瑞穂は言うと浅美にお金を手渡す。ティンにも言わせない辺り、素晴らしい仕切り様である。

「分かったよ……瑞穂さん、これ足りな」

「足らして、三人分」

「駆け勝負で増や」

「駄目。それだけで三人分のナポリタンを用意して」

 浅美はとぼとぼと買い物に向かった。瑞穂、恐ろしい人。

「あたしに」

 瑞穂はティンの真横でゴキゴキと指を鳴らし始める。ティンは踵を返してホテルに向かった。

 話し込んでいたおかげか辺りは余計に暗くなっている。

 まだ太陽は見えるが、街によっては薄暗く、よく見えない。

「瑞穂って前からパーティのリーダーだったの?」

 ティンが切りだした。瑞穂は対して肯定の意を示す。

「他にやる人がいないからしょうがなく仕切ってた気がするけど。みんなリーダーなんて面倒がってやらないの」

「……どっちかと言えば、他が頼りない様に思える」

 ティンは浅美の様子を思い出してコメント。確かに、どう考えても彼女にリーダーは無理あろうと思う。

「浅美さんはね。あれで結構空気読んで空気ぶち壊すけど、もう少ししっかりすればリーダーになれると思うよ」

「……浅美がリーダーなんて想像付かない」

「もうちょっと一緒に居れば分かって来るよ」

 二人はそんな事を話し合いながら角を曲がり、沈みかけた日の光が届き難く、暗闇が生まれている場所に到達した、その時。

 闇から這い出る様に、ティンからしたら非常に懐かしく――もう二度と会いたくない連中が出て来る。

 真っ黒なボロマントに、仮面を付けた、灰色の髪の、男達。

 音を立て、瑞穂がティンを庇う様に瑞穂が前に出る。

「お前ら……また来たのか」

「本当、いい加減しつこいよ。事情はよく知らないけど」

「――ほう、氷姫一人とは都合が良い」

 瞬間、瑞穂が大きくぶれる。直後、瑞穂が弾ける様に吹っ飛んだ。

 ティンはぼんやりと、その行方を見詰めている。友人が、吹っ飛んでいく様を。その眼に、焼き付けるッ!

「み、瑞穂ッ!?」

「ぐ……くっ」

 瑞穂は何とか立とうと腕を支えに起き上がろうとする。その側へ、ティンが駆け寄って瑞穂の様子を見る。

 それでも瑞穂は呻きながら気を確り保とうとする。

「瑞穂、瑞穂、大丈夫ッ!?」

「ぐ……ぅッ……んッ……」

 と、そこで体中の全ての力を抜き、「きゅゆゆうぅぅぅ~……」と、だけ言って気絶。眼をぐるぐる回して気絶。

 その時、ティンは師範代から「人間、当たり所悪いと意外とあっさりと終わる」と言う教えを思い出した。

「って、な、え、きゅ、きゅゆゆうぅぅぅ~ってそんなの無いよ!? 何をあっさりと気絶してるの!? そんな可愛く気絶すれば良いってものじゃないよ!?」

 読者の皆さんは良く分かってないかもですが、敵に囲まれています。周囲は謎の男だらけ。この状況ティン一人はきつい。

「そうだ、浅美を……」

 と言ってティンは止める。今、自分は本当に守られるだけで良いのか、と。出来るだけの抵抗も出来ないのか、と。

「どうした? 混沌の双剣士は呼ばないのか?」

 男の一人――瑞穂を気絶させた、幹部級と思わしき男が腕を組んで立っている。

 ティンは素早く、引き千切る様に――でも服を傷付けることなく強引にオーラウェアを脱ぎ捨て、瑞穂の荷物から自分の騎士服を半ば強引に着用し、マントを羽織る。

「……服を着るぐらいは大目に見るんだ?」

「そのくらいなら見逃してくれよう。どの道、貴殿ごときの腕前では我と対等に戦うことさえ難しいのだろうからな」

「随分余裕だな」

 ティンは剣の柄に手をかけ、臨戦態勢を取る。

「これまでの戦を見れば妥当と言うものだ。剣を変えた程度で変わったとも思えぬ」

「――お前、聖都の事は知らないのか?」

「聖都? ああ、貴様が神剣を召喚して我らの手勢を蹴散らしたことか?」

(こいつら……あの時の事を知らない? 何で? もしかして、あの杭を持ってる事も知らないのか?)

 ティンは敵組織が意外と杜撰である事を目の当たりにする。

 だが、この状況に異音が響く。

「む、誰だ? 我らの邪魔立てすると言うなら」

「ッ、おい逃げろ!」

 男とティンが同時にそちらへ意識を向ける。

 そこには、同じく夕闇から這い出る様に誰かが出て来る。

「え……おん、な?」

 それは、黒いコートを羽織ってチャックを閉め、フードも被った誰か。ティンはその姿を見て、そいつが女だと思う。

 理由は一つ。師範代的に思わずむしゃぶりつきたくなるとか言い出しそうな腰の括れでもなく、じーさま的に思わず撫で回したくなるとか言いだしそうなむっちりとした太ももでもなく――その、羽織ったコートではどう見ても隠せてない、胸の大きくて豊な隆起。そのコートは隠す為か、どっちにせよ全く隠せてねえよと突っ込みたくなる大きさの胸だ。

 ちなみに前二つの特徴は単純にティンが上半身を先に見たからだ。まあ下半身はコートを着ているから女性的なボディラインの男とも言えるが……それを言えば胸も詰め物とも言えるが。

 そんなこんなで行き成り現れた謎の女にティンを初め、周囲の男達はどよめく。

「――見られた以上は止むを得ん。そいつも始末しろ」

 幹部級の男が言った瞬間、女は左手を右の腰に置き抜くと――星の剣が。続いて右手を左の腰に置き抜くと――星の刀が女の手の中に。

「二刀、流……ッ!?」

 今回、アルバイトの話だけど筆者はバイト経験ほぼ0です。

 まあ、色々あるでしょうが大目に見てください。異世界ものって事で此処は一つ。

 え、無理? ですよねー。

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