プロローグ
我を燃やすこの炎は指輪の呪いを祓い清めてくれる。
だから貴方達は水の中で指輪を溶かして、至高の純金にして授けよう。
此処に神々の黄昏は始った。
故に、我は煌くヴァルハラに火をつけよう。
これは、たった一人の孤独な騎士の物語である。
騎士の周りには確かに、誰かが居た。それは間違いない。だが、結局その騎士は大きな光の中、たった一人であった。
ただの一度も寄り付かず、ただの一度も理解されない。彼女はいわば、触れたもの全てを切り裂く壊れた鋭い、矛盾した剣だった。
妖精界の機械集落。あるマッドサイエンティスト達が築いた機械の森。彼らは科学技術と魔術の融合を目指すと言う、その当時ではまさしくとち狂った思考の者達が集まった集落、その末裔達が作り上げた都市。
その郊外の荒野。そこには瓦礫があった。約十年前に起きた大事件、その濃厚な爪痕と言うべきか。ともかく、此処は十数年も未だに砂塵に飲まれ、荒野と化し、辺りには瓦礫だらけだ。
砂嵐に巻かれているとある瓦礫。よくは見えないが、それでも注意深く見ると鉄で出来た建物に見える。昔はこれでも立派な研究所であったのだが。
至極、どうでもいい。
その前に金髪ショートの女剣士が立っている。彼女は真っ白いマントで身を包み、建物を見上げてる。その瞳は強く固い決意が宿っている。その黄金の瞳には殺意さえ宿っている。
(さあ、行こう。これで最後だ)
何時から立っていたのか、彼女は砂嵐の中でその建物を見続けている――と、剣の柄を右手に沿えて抜剣、建物を無造作に切り刻んで納剣。
この間、一秒以下。彼女にとっては当たり前の行動なのか、まるで動じてない。
結果、建物に斬線が入ってバラバラに崩れ落ち、入り口ができる。彼女はそのまま入り口の中へ。
瓦礫の中身は、ボロボロではあるもののどこか手が入っておりしたへ通じる階段がある。ので、金髪は入っていく。
(全部、終わらせる。最大にして最高に派手な戦をしよう。全部、ぶった切る。誰の犠牲も出さない)
階段が終わった先の通路は、正直言って暗い。電灯も付ける金がないのか、業者による手抜き工事か演出か。
通路の床は金網の通路、周りには鉄の筒やらが壁中に生えては壁を貫いており、何処からか白い息が噴出している。そのまま進むと灰色の扉が見え、金髪が近寄ると自動で開き、止めた歩を再開する。
真っ暗な空間に光が灯されていく。見えて来る周囲は白い壁。金髪はゆっくりと歩み続ける。
(……何だ、此処。作りかけの次は完成した廊下って。いい加減だな)
そう思って歩き続ける。何処かからくぐもったな声が響く。
『ようこそ、我が要塞へ。一人で来るなんて、随分な自信だね』
「――五月蝿いな」
そう、誰かに返しながらと金髪は通路を進む。やがて通路の行き止まりに辿り着き、立ち止まる。目の前の壁には扉の様な物があるものの、ドアノブと言った物が一切無い。またもや手抜き工事か、はたまたそういう設計か。どちらにせよ不親切な設計であり、彼女も軽く舌を打つ。
(自力で開けろ、と。めんどくさい)
金髪はゆっくりと剣の柄をもう一度握り、瞬時に切り刻むと前の壁がばらばらに崩れ去り、その先に部屋がある。
部屋に入ると、中央には黒いマントにやたらと中二臭い仮面を付けた男が一人。
「四天王が一人、青龍弐型」
金髪は部屋に入ると真っ直ぐに青龍弐型を見る。対する青龍弐型は構えを取る。その構えは極自然で、何時取ったのかさえ分からない程に早い。相対するレディアンガーデは静かに左手で頭に触れた。
(光子加速、二倍速)
そう思って頭に仕込んだ使い捨ての術式を起動させる。自身の体を光に変え、光に近付ける事によって加速させる。何故なら。
「そうだ、結局あたしはお前の速さには敵わなかったんだ」
「当然、そしてこれからも、だ!」
僅かに青龍弐型が動いた。同時、金髪は目を見開く。理由はただ一つ、速過ぎるのだ。
視認しただけで彼女は冷や汗をかいている、背中に冷たい汗が流れ悪寒を感じる。まずい、まずいぞと、その先にある死が見える。非常にまずい、まず過ぎる。
二倍速では駄目だからではない。その程度、速度を上げれば問題ない。何せ最高速度は四倍速、後二段階の加速がある。だがしかしそれでは駄目だ。間に合わない。六倍? 八倍? いや、どう楽観視しても最低は十倍加速は要る。
だが四倍速を超えればその時点で体が悲鳴を上げる。四倍速は体が無事で澄む最高ライン、それを超えれば体が傷つくいや、続ければかかる重力と風圧にぶつかって塵となる。ではどうする?
(手段はある。今すぐ光子化して六倍速まで上げれば――いや、それでも駄目だ、勝負にもならない。十倍、十倍だ、そこまで速度を跳ね上げなきゃ自分が死ぬ。でも十倍速まで上げれば自分が死ぬ。どうする? 魔杭で暴走させる? いやそれで上がるのは攻撃力、今欲しいのは速度いや超加速に似合う肉体強度だ。どうすれば良い? 今すぐだ、一瞬でこの身体を十倍速に耐える身体が欲しい。魔法で強化――出来るほどあたしは魔法が使えない、くそっ、どうする? どうするっ……!?)
一秒以下、刹那以下の速度で金髪は思考を重ね続ける。得意の未来予測をどう行っても百通り行って百通り自分が死ぬ。まずい、まず過ぎる。
時間だ、時間が圧倒的に足りない。言い換えれば直球的な時間停止と言う究極の加速が欲しい。自分以外を極限まで加速させるあの世界。全てが凍結した世界か身体、今の体の十倍加速に耐えうる体か相手に究極の停止を相手に与える。そう言えば彼女の友人が使えてた術が、此処に来て欲しい。
(いや駄目だ、そもそもそれが嫌で、此処に一人出来たんじゃないか……!)
予測する、見通す。ありとあらゆる手段を用いて、ありとあらゆる可能性と策を練るもその全ての結果で自分が死ぬ。此処でまさかの詰みか、ならばいっそ、全速力で足が千切れるほどに駆け抜ければ――と思った所で。
見えた。その動きが、酷く欺瞞に満ちていると。
(こい、つ!?)
金髪は奥歯を噛み締める。この動きは酷く一直線、相手は油断と欺瞞、これで良いだろうと言う手加減に満ちている。
(くそったれ、ふざけんな)
こっちは死を覚悟したのに――そう心内で悪態づく。ああ良いよ、そう来るならこっちにも考えがあると金髪はその拳を目前にする。その軌道さえ腹が立つ。頭を狙ってるのだ、小さい頭を正確に。完全に遊んでる。
故に、こんな奴相手に下半身は動かさない、そんな事さえプライドにさわる。こいつには首を動かすだけ良い。
そしてあっさりと拳が通り過ぎる。だが、これで終わらせない、人を舐めた代償にと言わんばかりに金髪は抜剣して青龍弐型の腰を切り裂いて納剣。
結果、金髪のマントが派手に靡いて彼女を包んでいたマントが開いて服が大公開となる。服は全体的に真っ白。軍服の様な服で、勲章がある。
勲章は両胸の前に一つずつ、両肩に一つずつの計四つ。その内の一つ、右胸の前にある奴に名前が書いてある。名は『レディアン・ガーデ』。彼女の名前が判明したので金髪はもう使わない。
そして、この攻防の結果。
青龍弐型が動いた、レディアンガーデの後ろで真っ二つになって転がった。
以・上。
「な、ぜ、だ……何故我が」
「お前、油断したろ。ああ、確かにお前は速いよ。だからって真正面から来たら対処のしようもあるよ」
そう吐き捨てると侮蔑の色を微かに混ぜて次の扉へと振向いて歩き出し、青龍弐型は泣く様に目の光が消えて行く。
扉の前に立つが何も起きない。
(いい加減、開けろよ)
先ほど之でもかと言うほど舐められた彼女は相当にイライラしている。仕方ないから開かない扉を目にも映らぬ速度で切り刻んで崩す。その先に居たのも同じ仮面の男。
「四天王が一人、玄武弐型」
その台詞を聞いて、レディアンガーデは狂喜する。何故と問われれば。
「……ああ、お前はあたしの知ってる中でかなりの強敵の部類だね」
レディアンガーデは言いながら部屋に入ると玄武弐型も戦闘態勢へと入る。その動きは重々しくも確かな動きで。
(ああ……変わってない。劣化品とは違う、こいつのこの動き……最高だ)
「ほほう、それは嬉しいことを言ってくれる」
発言の直後、玄武弐型は無駄の無い動きでレディアンガーデに迫る。
(こいつ、更に切れが上がってる、本当にいいじゃないか!)
対する彼女は喜びのまま、この刹那に未来予測を行う。幾重にも行い、数百通りの未来を予測しつつ突き出された拳を抜剣と同時に切り裁いて受け流すと玄武弐型は続いて回し蹴りを繰り出すが
(じゃ、もういいや)
脳内で千回もの勝利を妄想し、心内でつぶやくと蹴りを放った脚の付け根を切り離し。
「な」
玄武弐型は驚嘆の声を漏らし、次は地に着いていた軸足を両断して宙に浮いた瞬間に両腕を肩から切り離して達磨と変える。
胴体だけとなった瞬間、レディアンガーデは更なら狂喜へ身を委ねる。何故ならこの機械人形は達磨となっても体中の全機能を使って自分の体を貫く気でいるらしい。
鋼鉄に殺意が自分に向く。この頭部による突進で自分の体に穴を開けて勝利を捥ぎ取ろういう、獣の本性が如き思考でこちらに向かって来る。
(ああ、素晴らしいな、楽しいよ、ずっと続けたかった)
その意思に合わせて胴抜きの構えを取ったレディアンガーデは瞬く間に居合いに似た剣を放ち鞘に収め、玄武弐型の首が宙に舞う。
この間、正に、早業。
「悪いね、お前相手に油断は出来ないんだ。だから全力で取らせてもらったよ。正直、どうしようもない青龍よりも冷や汗かいた」
言葉に嘘は無い。油断できないからこそ、楽しかったし手足を切った。徹底的に叩いてつぶして勝った。そう言うと振向くことさえなくレディアンガーデは歩き出す。
「ああ、本当にお前は強かったよ。一生、忘れない」
屈託の無い賞賛の言葉を背中越しに贈ると次の部屋への扉の前に立ち、扉には一瞬にして斬線が走ってレディアンガーデは素早く蹴り飛ばす。とうとう待つことさえやめたよこの女。
その先にはやはり仮面の男が立っている。次は誰だっけと興奮冷めあらぬ思いで待っていると。
「四天王が一人、白虎弐型」
「退けよ。お前じゃ相手にもならん」
名を聞くや否や、レディアンガーデは一気に落胆する。此処内で舌を内、身体全身でお前じゃないオーラを搾り出す。
(お前じじゃ役不足も良い所だ、雑魚と変われよ。その方がまだましだ)
そんなレディアンガーデとは対照的に白虎弐型は酷いレベルでハイテンションだ。
「はははっ! 最初俺らに手も足も出なかった小娘が言う様になったじゃねえか!? そこまでよくもまあ思い上がったもんだよ。手前、偶然勝てたからって調子こいてんじゃねえだろうな?」
「何処の三下の台詞だよ、それ。今時そんな分かり易い台詞雑魚でも言わないよ」
レディアンガーデは冷やかに、鋭い鋼鉄の刃の如き目線を白虎弐型に送りつけながら歩み寄る。相対する白虎弐型はその対応に舌を打つ。レディアンガーデはそのまま素通りしようとするが。
「わりぃな、こちとらそうもいかねえんだよっ! くらいなぁっ!?」
真横を過ぎようとするレディアンガーデに対して白虎弐型は両手を突き出し、黒い衝撃波を解き放つ。
(そう言えば、最初に襲ったのはこいつの部下だったな)
レディアンガーデはこの事件の始まりへ思いを馳せる。それほどに余裕だった。何せ、どこをどう思い出してもこいつの攻撃で苦戦した覚えは微塵も無いのだから。なのに相手は対等と思ってるのだ、これは一種のギャグとしか言いようが無い。
レディアンガーデは生み出されたその巨大な衝撃波を見る。それから放たれる圧力は正しく本物だ。それらが人間の体に直撃すれば粉微塵となるだろう。
真っ黒な衝撃は拡散し、四方からレディアンガードをへと迫り。
「四重圧力場ッッ!!」
一気に押し潰すように四つの衝撃波が彼女へと襲い来るが。
「だから」
対するレディアンガーデは溜息混じり踏み込み、残像を残しながら迫る衝撃波の合間を飛び出して切り抜け。
「そんなちんけの事してるから、お前は弱いって言ってんだよ」
あっさりと白虎弐型の真後ろにその姿を見せ、そのまま剣を横に薙いで白虎の首を刎ねた。
「ば、かな……お前は、俺達に勝てなかった筈……それに、以前よりバージョンアップしてる筈、なのに」
「勝てなかった? ああ、それはお前の夢だよ。確かに数人は足も手も出なかったけど……そりゃお前以外だ。あたしは、最初からお前なんて敵じゃ無かったよ。何か言って欲しいのか? じゃあせめて、もうちょっと工夫してから掛かって来いよ。パワーアップしていようが、それが出来てないんじゃ意味無いよ」
冷たい声で言いながら剣を握り直すとレディアンガーデは一瞥をする事さえなく次の扉へ向かい、さっきと同じ様に手早く扉を切裂いて次の部屋へと赴く。
その中にもやはりと言うか同じ仮面の男が立っていて。
「四天王が一人、朱雀弐型」
「ああ、お前か。そう言えば、お前にも勝った事は無いんだっけ」
言いながらレディアンガーデは部屋に入り、朱雀弐型の十メートル前まで迫ると立ち止まる。
「ほう、どうした。来ないのか?」
「お前を相手に正面突破出来ると思ってるほど御目出度い頭は持ってないさ」
そう言うとレディアンガーデは剣を遊ぶように一回転させて周囲へと目を配る。
(こいつは軍師……じゃあ罠があると見てよし、だな。来なけりゃ)
と、突然真後ろへと剣を振る。そこには誰も居ない、筈であったのに二人の仮面の男が徒手空拳で登場している。
直後、当然の結果として彼女の剣が二人を切断し、レディアンガーデはターンから右足を踏み込んで高く跳躍する。レディアンガーデが飛び去った後に四方から今更殴り掛る仮面の男達がいた。
「以前の我とは思わぬことだ」
(な、に?)
声に反応して宙に跳んだレディアンガーデは素早く剣でガードの構えを取り、更に高い所に現われた朱雀弐型の放つけりを防ぐ。が、蹴りを受けたことによって地上へと逆に送り返される。
その先。レディアンガーデは自分の送り先へと目を向ける。そこに待ち構えるはさっき遅く現れた四人。
(そうか、その為の四人かくそったれっ! 光子加速・四倍速ッ!)
レディアンガードは即座に加速術式を限界まで引き上げて体勢を強引に戻して、地上へと向けてもう一本の剣を抜いて投げ付ける。
(で、この包囲網を抜けた先に朱雀が居たら……面白くないな)
剣は直ぐに仮面その一に突き刺さり彼女は突き刺さった剣の柄を握ると別の仮面を踏みつけて剣を抜いて跳び退いて着地。
そして真後ろを切裂く。そこに居たのは。
「が、な」
「アレおかしいな。あたし一応首を飛ばす気でいたんだけど?」
そんな事を呟きをもらしながらその体勢を維持する。レディアンガーデの背後では後ろへと振り回した剣が確かに朱雀弐型の胸を捉えていた。
(ってか、本当に来てたよ。頭切れるくせに、融通がきかねえの、こいつ)
食らった朱雀弐型はまだだと言わんばかりに剣を掴むが。
「まいっか。じゃ」
そう呟いたレディアンガーデの手により、あっさりと貫いた胸から股へそして頭から真っ二つに両断される。
「何、故だ。何故我の策が」
「お前の策は確かに凄いとは思うよ。優れた身体能力と物量に任せた作戦、兵の配置も凄いね。ただね、お前、分かり易いんだよ。人の裏をかこうって、後ろを狙おうって言うのがよく分かる。結局お前はそれを狙ったしね。あたしに読み合いを仕掛けるなら刹那の間に百は作戦を練れるくらいはしろよ」
レディアンガーデは言ってる間に朱雀弐型の機能が停止してる事を自覚しながら振り返ることさえせずに歩き出す。
残った者達が一気に殴りかかるもほぼ一太刀で、芸術的な剣線を描くとあっさりと鉄屑に成り代わって油を撒き散らす。
『見事』
何処からか、またくぐもった声が部屋中に響き渡る。レディアンガーデは一息吐くとその場に立ち止まる。
『まさか、バージョンアップした四天王達をあっと言う間に瞬殺とはね。まさか、あのたびでそこまで成長したと言うことかな? いやはや、これは見事だ』
「五月蝿いな、さっきから。四天王とか、正直雑魚の集まりだったよ。名前も負けもいい所だ」
レディアンガーデは淡々とした表情で返すと無感動に歩き出す。実際は結構楽しかったが、そんな過ぎた事に一々構ってられないその先にはまた扉。
『ああ、それと勘違いしてもらっちゃ困るから言っておくけど』
だから五月蝿い――と言わんばかりの表情でレディアンガーデはゆっくりと声の下へと振り返る。
『彼らはただの門番だ、此処からが本当の戦場だよ。今までの調査した結果、君にはもっと丁度いい潰し方があるみたいだからね』
レディアンガーデは鼻で笑うと目の前の動かない手抜き工事に証たる扉を相手に右手で持った剣で一息で切り刻んでバラバラにし、出来た入り口へレディアンガーデはその奥へと進む。
『では改めて――ようこそ、我が要塞へ。歓迎するよ――神剣の舞剣士殿』
では、これより始まる舞台をお楽しみ下さい。