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数多ある中の始まりの一つ

「おらぁっ!」

 逆手に握るコンバットナイフは触れた先端から相手の肉を削ぎ落とし、傷口から膨大な血液を流出させる。男は裂かれた喉元を押さえるように崩れて行き、漆黒を纏う彼は呼吸を乱しながらも追っ手の有無を、そしてその数を確認してから、彼は再び走り出した。

「ったくよ……これじゃ隠密もクソもありゃしねぇ!」

 長く暗く湿度が高くも酷く寒い通路。走るたびに足元の水溜りが音を立てて爆ぜ、来るときにはコレほどまで人気の無い通路に感謝しなければな、と意気揚々と大股で歩いていた自分に後悔せざるを得なかった。

 無論、逃げ道がここだけというわけではなかったのだが、安全面を考えてこの地下通路を選択した。結果としては――逃げる彼独りに対して無尽蔵と思われる程の警備兵ないし雇用兵等が酷く常識的に刃物を用いて襲い掛かってきていた。

 彼としては銃火器を望んでいたのだが、狭い通路で挟み撃ちを目論む時点で武器の取捨選択が行われたのだろう。奪って使用すれば、大きな火力の増大となりえたのだが……と彼は過ぎたことに嘆息した。

 課せられた任務は失敗した。しかしそれを嘆いている暇は無い。失敗者は失敗者なりに情報漏洩を防ぐ為に迅速な撤退、あるいは自殺が優先される。彼が前者を選ぶ理由は、敵対している組織が持ち得ない技術を駆使して使用した”道具”を所持しているからである。

 これは容易に破壊出来ないものであるし、出来る限り持ち帰ることが推奨されている。その時になればやむを得ずに道具と共に死を選ぶが――出来る事をせぬ内に諦めることは、彼の性には合わなかった。

「あー、畜生。ぜってー報酬を見直させてやる……つっても失敗してるからなぁ」

 だからこそ敵に発見され、このような状況に到っている。最も優先任務である施設の破壊が完了している時点で失敗とは言いがたいのだが、彼としては課せられた全ての任務を遂行することに意味が有り、またその定評があった。

 今回ばかりは警備の手が厳しく、さらに余りにも情報伝達速度が高すぎて即座に逃げる行動しかとれなかったのだ。

 ――こんな事が分かっていれば飛び道具でも持ってきたのだが……。いや、実は手榴弾を一つ持ち歩いているが、しかしこれは自殺用だ。自分で首を掻っ捌くのは余りにも勇気が要る。こんな臆病な俺には、コレしかないのだ。

 腰から下げる一つの手榴弾に片手で触れると、間も無く暗闇の中で強くなる気配が直ぐ目の前までに迫っていることに気がついた。

 男は迷う事無く体勢を低くして飛び込むように敵へ肉薄する。その直後に前方から飛び出した破裂音が火花を散らして、耳を劈くように響き渡った。空気を貫く弾丸は高速で男の頭上を通り過ぎ、背後で誰かの悲鳴が聞こえる。

「バカ野郎! こんな所で銃なんて――」

 距離は既に数歩分。今の銃口から弾けた火花のお陰でそれが確認できた。男はそれから立ち上がるようにして大きく踏み込み、壁を背にするようにして立ち代り、即座にナイフを振るう。と、間も無く確かな肉の感触が刃を伝わって腕に響き、続け様に鋸のように細かな刃がつく面を引っ掛けて手繰り寄せ、さらに喉に突き刺した。

 開いた手は敵の垂れる腕に伸び、掴まれている拳銃を奪って男は死体となったソレを進行方向とは逆へと蹴り捨て――前方に発砲。直後に悲鳴が耳に届くが、距離は然程近くは無いようだった。

 彼はそこで立ち止まり、一つ息を吐く。

 これ以上先を急いても体力が直ぐに底を尽くだけだと言う事を十分に承知しているからだ。先はまだ長く、今ようやく半分到達したと考えて良い所だろう。手に入れた拳銃はリボルバーで、重量感が腕に伝わる。軽量化を施されているナイフでさえ振るいながらの独走は困難である為に、同時使用は半ば不可能と思われた。

 銃身は長く、彼はシリンダーを開けて残りの弾薬を、指でなぞるように確認すると後四発程度しかない。彼は銃の知識はあまり豊富と言うわけではないが、なんとなく有名どころの”ピースメーカー”っぽいなと思い、腰のベルトに差して携える。

 そうこうしていると前と後ろ、否、壁を背にしている現状では左右から敵の足音が迫ってくる。されど、彼は飽くまで前を向くことしか出来ない。この完全なる闇に包まれる通路で前も後ろも無く戦えばやがて進むべき方向を失い、迷ってしまうからだ。

 繰り返すようだが、現在の行うべき課題は迅速な撤退であるか、迅速な自殺であるかの二つに一つ。

 組織にとっても男にとっても、前者が限り無く好まれたのだが――。

「CQCは得意じゃないんだがな……」

 さらに銃も得意じゃない。手榴弾とてこの狭い空間で使えば被害を被る事は火を見るより明らかだった。されど男はただナイフを逆手に構え、その柄尻に手のひらを当てるように重ねる。

 息を吸い込むと濁った空気が肺を満たし、決意する。

「――この闘い、死ぬわけには行かないッ!」

 男は決意し、進むべき道へと駆け出した。

 敵の喧騒が静まり返るのは、それから約三時間後の事となる。



「残り五分! 気合を入れろ!」

 肌を焼く炎天下の中、汗で堅苦しい迷彩服を濡らす少年、時衛士トキエイジは輪郭が曖昧になる世界を睨みながらも足を止めず、走り続ける。固められた土の上に引かれる楕円形の白線は、何度も踏みつけられて半ば消えていた。

 それでも決してその線からずれることは無く、そのグラウンドに居る十人にも満たない少年少女は一心不乱に身体を動かし続けていた。

 ――空は蒼く澄み渡り広く、太陽は見れば目が焼け付くほど眩しい。しかし彼等が居るそこは地下であり、無論それらはホログラムによって映された偽物であった。

 広大な地下空間ジオフロント。日本の都市が二つ三つ収まっても余分となる方が圧倒的に広くなる土地が、地下五○○メートル前後の地点に作られている。その外観は衛士が今まで過ごした、いわゆる『外の世界』と大きな違いは無く、二車線の道路が延び、周りを見渡せばビルが立ち並ぶ。少し歩けばちょっとした商店を見つけることが出来、生活に不自由することは無い。

 時間ごとにホログラムは空の様子を、そして季節を外と同様に変化させ、感覚が狂うことは無かった。

 乱れた呼吸は次第に整ってくる。まるで巨石でも背負っているかのような肉体の倦怠感はいつしか忘却の彼方に葬り去られ、疲れは気がつくと失せていた。まだ走れる。これからもっと頑張れると思えるような、突如として気分が高揚するのは、一般的にランナーズハイと呼ばれる作用によってであった。

 が、間も無くマラソンの終わりを告げる様に、筋骨が隆々と逞しいタンクトップ姿の男が、楕円形になる線の上で立ちふさがっていた。次にそこへたどり着けばこれで終了だと言う意味である。

 やがて半周も残っていなかった衛士であるが、順位は三着。最も順番を争うものではない為に、特にこれといった競争心が湧くことは無かった。

「自由時間だ。呼吸を整えながら戻れよ!」 

 現在の時刻は既に午後五時。よって今日の訓練課程は全て修了したのだ。しかし呑気に時間の流れを味わう暇など無く、さっさとシャワー室か自室に向かって汗を流し、制服を洗わなければならない。この制服には替えが無いために、早い内に洗濯をしなければまた明日、汗の臭いがこびり付いたものを切る羽目となってしまう。

 また夕食が始まる時刻は午後六時であるためにゆっくりと疲れを癒す時間は許されていなかった。

 二ヶ月ほど前の入学したての時は、余りにも激しい運動や座学の数々に肉体が付いていかずに食事など胃が受け付けなかったものだが、今となっては十分に空腹を覚えることが出来る。しかし、まだ六月も上旬だと言うのに、気温調節でも間違えたかのような炎天下に、身体はすっかりと弱りきっていた。

 衛士はしっかりとした足取りであるものの、やはり食欲は出ず、今日は夕食を抜いて明日の朝にでも回そうかと考えていると、背後から迫り来る足音が衛士の歩行を停止せしめた。

「トキ! 待てよ、部屋、隣だろ? 一緒に戻ろうぜ」

 肩までの長髪を額の真ん中で分ける軽そうな男は呼吸を乱しながら隣に追いつき、歩調を緩める衛士と並ぶ。どうやら同年代らしい彼は毛先を黄色く染める今時の若者といった風貌であるが、ここまでで弱音を吐かぬ彼は見た目とは違って十分しっかり者であった。

「なんだ、フミか」

「なんだとはなんだ」

 頭一つ分身長が高いなな文太ぶんたは、にかっと明るい笑顔で衛士の頭をぐりぐりと弄くり倒す。ふらつく視界に伴って体が傾き、衛士は慌てて腕を振り払っておぼろげな足元をしっかりと直す。文太は他人事のようにカラカラと大笑した。

 眉は薄く、鼻は通ってすらりと高い。衛士から見れば美形な顔つきであったのだが、生来の三枚目気質故に、女性からの人気は然程高いと言える者ではなかった。また衛士も、目的が己の鍛錬が主であるために自身から誰かと関わろうとはせず、結果的に話せる友人、というものは文太だけとなっている。

 衛士のようにこの場に呼び寄せられ、半ば強制的にココでの生活を強いられている者は衛士を含めて総勢八名。内、女性は三名である。だからといってそんな彼女等が優遇されることも無く、ごく一般の共学の学校のように親しく、あるいはある種の敬意や遠慮を持って時を共にしていた。

 つまり、衛士が入学当時に危惧していた奇妙な連帯感や馴れ馴れしさが無く、それに彼は胸を撫で下ろす思いだった。

「今日は何食おうかなー」

 文太は後頭部で両手を組んで、空を見上げながら呑気に呟く。傍らで衛士は今夜の筋トレは少しばかり軽度にしておこうと考えた。

「おいトキ! すまん、お前はここで待機していろ!」

 呼ばれて、衛士は短く返事をする。先に行っているぞと文太は手を挙げ合図をし、衛士はそれを背に受け教官の下へと駆け足で戻っていく。やがて彼の元に付くころには、彼は何故だか上半身裸になって最後の一人を向かえ、背を叩いて送っていった。

 すれ違うのは小柄な少女。年齢としはまだ十五で、召集された八人の中では最年少とされる。また最年長は二三の男性。衛士は丁度その中間で、比較的年齢の近い人間が多かった。

 ふらふらとおぼつかない足取りであったが、彼女を待つ一人の少女がその肩を抱くようにして支えになって寮へと戻っていく。衛士はそれを見送ってから、実技教官へと向き直った。それから口を開こうとするのだが、彼は手を突き出し、ソレを遮った。

「あー、実は用事があるのは俺じゃ無いんだ。座学担当の『エミリア』が話がある、と」

 ――衛士が主な生活圏とする訓練学校は主に寮と屋外訓練場グラウンド、そして屋内訓練場と幾つかの教室で構成される建造物で構成されている。その中で直接彼等に関わってくるのは、現在衛士が対面している、主に実技――あらゆる戦闘技術を専門として教育する教官、『フナサカ』。座学、あらゆる状況を想定し、ソレに対する処理方を教え込み、また共通して必要になるあらゆる専門知識を与える教官『エミリア』。この二人が主に八人の教育を執り行っていた。

 食事や医療などは彼等の背後組織が人員を裂いて用意し、不自由は無い。

「エミリア……ですか」

「ここは軍じゃないし、そういった堅苦しい事は基本的に無しにしているが、せめて敬称を付けた方がいい。彼女は厳しいの、知ってるだろ?」

 確かに彼女は厳しい。衛士はそれを身をもって体感したのだ。

 砂時計を使用し思考すらも全開に挑みかかったのに、容易に負けた。圧倒的、と言うほどではなくまた一撃を入れる事も出来たのだが、どう努力しようとも彼女に頭の中で勝てる想像が出来なかった。

 だというのに、彼女が座学担当で教育を執り行うと聞いたときには、この世界にどれほどの化け物が居るのかと驚愕したものだった。最も、フナサカの姿を見た日には納得せざるを得なかったのだが。

「聞いた話じゃお前の担当だったらしいから、ま、話と言っても副産物か適正、そこいらの話だ。どっちにしろ二ヶ月前と比べて随分とお前は結果を出せている。悪い話じゃ無い筈だ」

「だといいんですがね」 

 ぶっきらぼうで武骨な風貌を持つ彼は、ひどく優しい笑顔で、だがそんな台詞に自分自身照れを隠せないのか角刈りの頭を撫でながらそう告げる。

 衛士は見た目と中身が反比例を起こしている彼に苦笑をして返した。

 すると間も無く、衛士の背後から近づく足音が耳に届いて、ゆっくりと振り向き――。

 不意に飛び込むその姿は、いつも以上に険しい表情を携える、褐色に白銀の短髪が印象に強い女性と、その背についてくる、肌の白い透き通るような金髪が腰まで伸びる、大きな胸が印象的な女性だった。

 そして衛士は二人を知っている。前者はエミリアであり、そして後者は――。

「ミシェル……さん……っ!?」

 認識は出来る。されど理解が追いつかない。妙な、心に穴でも空いてしまったかのような孤独感が露になったような気がした。今まで其処には肥沃な大地が広がっていると目を反らして吹いていた法螺を、不毛な荒野じゃないかと暴かれたような、否、自分でそう信じたくも無い現実を見せ付けられたような気分だった。

 思わず視界がブレ、体がぐら付く。倒れそうになる身体を支えたのはフナサカだった。

「トキ・エイジ。実技訓練こちらでも随分と頑張っていると話は聞いている。最も、以前と比べて何が変わっているかと聞かれても、今は特に無いとしか答えられないがな」

「エミリアさん、アンタも相変わらずだ。オレに、一体何の恨みがあるんです?」

「恨みなど塵も無いさ。寧ろその頑張りに応じて……ほら、ミシェル。自己紹介を」

 やがて会話の応酬の中で目の前にやってくる彼女等は立ち止まり、エミリアは背後にて両手を前で組んで厳かな雰囲気を醸しだすミシェルの背を押し出すように前へ送る。やがて彼女は、澄んだ表情ですっと流れるように衛士の目を見据えると、首を傾げるように微かに笑んだ。

 体が揺れると、そのウェットスーツのような衣服に押さえつけられる豊満な乳房が揺れる。だが、衛士の瞳はもう二度と其処に釘付けになる事は無かった。

 しなやかな指がへその手前で重ねるように組まれている。長い足がすらっと伸びて、しっかりと大地を踏みしめていた。

 ――以前と何も変わりが無い。

「初めまして、トキ・エイジさん。ミシェルと申します――」

 されど衛士は、複雑な心情を表すように眉間に皺をよせ、だが何も知らぬ彼女に不安や不信感を抱かせぬように口元の笑みだけを浮かべた顔で、硬直する。

 何も変わりが無いのは、その見た目だけだ。否、髪が伸びているという事だけが、時間の経過をしっかりと衛士に刻み込んでいた。以前はその金髪は肩より少し下までであった。だから少しだけ、今は彼女が大人っぽく、そして別人っぽく衛士の目には映っていた。

 だからか、少しばかりの衝撃を受けただけで、衛士は自分で自分を納得させたように心を落ち着かせることが出来た。

 やがて満面の笑みで彼女と対面する。と、何かに安堵したのか、ミシェルも微笑み衛士へと手を差し伸ばした。

「以前の担当さんが失踪してしまった、という事でエミリアさんが一時的に代わりとなっていたみたいですが、これからは正式に私が担当となる事となりました」

「そうなんですか。お手柔らかにお願いしますよ」

 手を差し出し、握る。柔らかな肉は女性特有な優しさを孕むようであったが、それを感じる間も無く衛士の意識は徐々に現実から引き離されるようだった。まるで、夢でも見ているかのような、自分とそれ以外を隔てるように薄い膜を張ったかのような、突如としての現実感の希薄化が襲い掛かっていた。

「この”担当”と言うのはですね、与えられた副産物どうぐに対して適正を見出された人がここに呼ばれ、育成が終わるまでの間、主に副産物……トキさんで言うと砂時計ですね。それの使い方や、また特有の能力の使用方法、効果、その他諸々をお教えすることとなっています。この副産物を使いこなせるのはまだ数が少ないので、頑張って慣れましょう!」

 ――彼女の説明を、衛士は噛み砕いても飲み下しても、知識として理解しても、よく分からないというのが正直なところだった。

 そもそも自身がここを卒業した後で何処に行くことになるのか分からないし、そもそもどんな組織なのか名前すらも知らないのだ。特異能力を持つ特殊な道具を生み出すほどの技術を持つ組織だから、世界を裏で牛耳っていてもおかしくはないのだが、だからこそ、何故単なる学生だった自身が呼ばれたのかが分からなかった。

 どうせなら最初から適正を持たせる事を前提とする人間を生み出すことも出来るだろう。遺伝子を改造することとて不可能ではないはずだ。

 否、ある程度は認識できている。組織名も、そのある程度の目的も。だが衛士は今は考えたくなど無かったのだ。余りにも大きすぎるそれに対して、畏怖を覚えてしまいそうだから。

 そして何故――もう納得したはずなのに、胸がこれほど痛くなるのかが衛士には分からなかった。

 彼女については諦めたはずなのに、情は薄れて冷めたはずなのに、衛士は触れ合う手から伝わる体温が全身に広がるような幻覚を見て、思わず引き剥がすように手を引いてしまう。

「よろしくお願いします」

 衛士は搾り出すように口にする。

 そんな彼を見て、エミリアは顎に添えていた手を離して嘆息した。

「知りたかったんだろう? これで満足だろう? 人の気も知らずに自分勝手に突っ込んだんだ。それで勝手に私を怨まれても困るからな。だが一言添えるが――今回については、私は貴様に同意見だ」

 同意見――即ち、衛士同様に少しばかりやりすぎではないか? と組織に疑問を呈すると言う事だ。分かりやすく言えば反乱分子になりえたと、彼女は臆せず口にする。その行為がわざとそうすることで衛士の信頼を得ようとしているのか、本心から口にするのか分からないが、少なくともその発言が彼女の身に、そして自身らに危険が及ぶと理解したフナサカは慌てて二人の間に割って入った。

「おい! 無闇に口走るな……ミシェルだって言っただろ。副産物あれが扱えるのは少数なんだ。ただでさえ、憲兵要員の人材でさえ集まりにくい。下手な発言で処分なんて、冗談にすらなりゃしないぞ」

「分かっているさ。私とてそこまで無用心ではない。だがな、船坂ふなさか……奴等も私も”味方”だなんて考えては居ない。所詮は駒だ。いずれ任務を続ければ私も死ぬ。お前も知っているだろう、スミスのようにな」

 ――時衛士がこの地下空間ジオフロントに招かれたのは三月上旬の事である。しかし訪れて早速この訓練学校に来たわけではなく、いや、来たことには来たのだが、正式に入学したのは四月上旬。選ばれ、連れて来られた他七名と同時期だった。

 ならば彼が一ヶ月間何をしていたのか。衛士は決して忘れる事が出来ないソレを、彼女等の言葉を聴きながら思い出していた。

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