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魔法を捨てた次期公爵は、図書館の令嬢に恋をする  作者: 莉璃翠


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第13話 王家の古い秘密

 翌日の放課後。


 オリビアは授業が終わると、急いで図書館へ向かった。


 昨日見つけた古い羊皮紙のことが、頭から離れなかったからだ。


 ――『王家の血を持つ者が、この術式を開くべからず』


 あの一文は、どういう意味なのだろう。


 王家の血を持つ者。


 なぜ「開いてはいけない」のか。


「オリビア」


 振り返ると、ルーカスが立っていた。


「先輩!」


「今日は僕のほうが早かった」


「珍しいですね」


「気になって、授業があまり頭に入らなかった」


 ルーカスは少し困ったように笑った。


 その手には、何冊もの本が抱えられている。


「それ、全部関係ある本ですか?」


「王家の歴史書と、古代魔法についての資料」


「そんなに!」


「調べるなら徹底的に」


「先輩らしいです」


 二人はいつもの席に向かった。


 机の上に本を並べる。


 そして、昨日の羊皮紙を広げた。


「まず、この文字です」


 オリビアが指をさす。


「古王国時代の表記ですね」


「読めるの?」


「少しだけ」


「さすが魔法学科」


 オリビアは本をめくりながら言った。


「古い魔法式を研究する人は、昔の文字も勉強するんです」


「なるほど」


 二人は資料を照らし合わせる。


 しばらくして。


「あ」


 オリビアが声を上げた。


「何か分かった?」


「この紋章」


 羊皮紙の端に、小さな印がある。


「王家の紋章ではありません」


「違う?」


「はい」


 オリビアは別の本を開く。


「こっちです」


 そこに描かれていたのは、少し形の違う紋章。


 中央に星。


 その周りを円が囲んでいる。


「これ……」


 ルーカスが目を細めた。


「建国以前の紋章だ」


「知ってるんですか?」


「政治学科で少し習った」


 ルーカスは本を見つめる。


「王国が建てられる前、この土地には複数の魔法氏族があったと言われている」


「氏族?」


「うん。その中で最も強い力を持っていた家系が、後に王家になった」


「じゃあ、この術式は……」


「王国成立以前のものかもしれない」


 オリビアの目が輝いた。


「すごい……!」


「そんなに?」


「だって、何百年も前の魔法ですよ!」


「君、本当に研究好きだね」


「先輩もでしょう?」


「否定できない」


 二人は笑った。


 そのときだった。


「ルーカス様」


 図書館の入り口から声がした。


 学園の教師だった。


「少しお時間を」


「はい」


 ルーカスが立ち上がる。


 教師は小さく声を落とした。


「王宮から連絡がありました」


「……王宮?」


「先日の資料についてです」


 ルーカスの表情が変わる。


「どういうことですか」


「詳しくは王宮で、と」


 教師はそれだけ言って去っていった。


 ルーカスが席へ戻る。


「先輩?」


「王宮が、この羊皮紙のことを知ったみたいだ」


「え?」


「おそらく、資料室の記録が残っていたんだろうね」


「まずいことなんですか?」


「分からない」


 ルーカスは羊皮紙を見る。


「でも、隠されていた術式だ」


「……」


「簡単な話じゃないかもしれない」


 オリビアは少し不安になった。


 ただの研究だと思っていた。


 古い魔法式を調べていただけ。


 それなのに、王宮まで関わってくるなんて。


「大丈夫」


 ルーカスが言った。


「調べるだけなら問題ないよ」


「でも」


「それに」


 ルーカスは少し笑った。


「君が見つけたことを、僕は後悔してない」


「先輩……」


「むしろ面白いと思ってる」


 その言葉に、オリビアも少し安心した。


「私もです」


「だろうね」


「はい」


 しばらく沈黙が続く。


 雨上がりの光が窓から差し込んでいた。


 そしてオリビアは、ふと思った。


 もし。


 ルーカスが普通の貴族だったら。


 もし。


 次期公爵じゃなかったら。


 こんなふうに王宮の話をすることもなかったのかもしれない。


 やはり自分とは違う世界の人だ。


 そう思う。


 けれど。


「先輩」


「ん?」


「王宮に呼ばれても、研究の続きはしてくださいね」


 ルーカスは少し驚いた顔をした。


「それを先に心配するんだ」


「大事なことです」


「……そうだね」


 ルーカスは笑った。


「約束する」


「本当ですか?」


「うん」


「よかった」


 オリビアも笑う。


 その笑顔を見ながら、ルーカスは思った。


 婚約の話も。


 公爵家の責任も。


 王宮からの呼び出しも。


 考えなければならないことはたくさんある。


 それなのに。


 こうしてオリビアと本を開いている時間だけは、不思議なくらい穏やかだった。


 そして彼はまだ知らない。


 王宮からの呼び出しが、二人の関係を少しずつ変えていくことになることを。

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