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ep9 顔が良いのが悪い

 翌日、教会で手を取り合いながら思う――展開が早すぎる。


「互いに愛を誓いますか?」


「生涯誓います。」


 食い気味に言うラウェルに突っ込む気にもなれない。

 朝目覚めたらバタバタと支度が始まって、気づいたら産みの親までここにいる。

 親族が集められているのに、完全に蚊帳の外の気分だ。


「……ルシエル?」


 そんなに外堀を埋めまくっているのに、不安そうな顔が可愛いと思うのは、やっぱり俺も狂っている。


「……仕方がないから、俺も生涯誓ってやるよ。」


 馬鹿みたいに失礼な言葉だと思うのに、ラウェルの顔が輝いて可愛く感じる。


「一生、大切にしますね。」


 ぱちぱちと、ばらついた拍手が何となく微妙な心地にさせた。

 それでも、叔父と叔母が幸せそうに笑ったのと、どこか安心したような顔の両親が見えて何とも言えないながら温かく感じて――。

 

 堪えていた笑いが漏れる。


「なんで俺の親までいるわけ……お前本当に面白いな。」

「やっぱり呼ばない訳にもいかないと思いまして。」

 

「お前、俺に断られたらどうするつもりだったんだよ。」

「頼み込みます。」


 真剣な表情に声を出して笑った。

 教会にそぐわない笑い声に参列者が呆気に取られた表情をした。親類しかいないから問題ないだろうと思っていたら抱き込まれて、不満げな顔をされる。


「そんなに可愛い笑顔は、僕の前以外で見せないでください。」

 

「ふは、苦しいって。」


 あの、と神父に声をかけられた。


「――誓いのキスを。」


 嬉しそうに、ラウェルが唇を寄せてくる。


「これで、僕の伴侶ですね。」


 口付けを受け入れれば、自分の腹も決まった。



 決まったのだが。

 


「1週間、学院には顔を出さないでください。」

 

「は?」

「ちょっと今荒れているので、対処してきます。」


 なにを?と思いはしたが、自分の顔の影響力は分かっている。

 大人しく頷いたが、去っていく背中が戦場に赴くような様子で笑った。最近笑いの沸点が低い。


「よかったわね、ルシちゃん。おめでとう。」

 久しぶりに聞いた愛称に母親を見る。


「本当にそうだね、君の妹たちに感謝するよ。」

 そう言いながら、お互いを見やる両親はこちらに関心がなさそうだ。


「ああ、まあ、ありがと。」

 形ばかりの感謝を伝えると、それで満足したようだ。それよりも。


「良かったわねえぇぇぇ。綺麗だったわよ、ルシエルちゃん……!」

「ラウェル君に任せて本当に良かった……!」


 感情のフルコースかと言うくらい泣いている伯父伯母が面白い。


「ありがと……でも次からはラウェルが無茶を言ったら教えてくれる?」


「言うとも、言うとも……!今回は言うなと言われていたから。」


 ――素直か。

 多分重要な時に教えてくれない気がする。


「ラウェルが学園が大変って聞いたけど、大丈夫?」


「ああ、君の噂が凄いことになってるみたいでね……。ラウェル君が対処するまでまってほしいと。」


 叔父の言葉で確信を得る。

 やっぱりこの顔で支障が出ている。


「それでね、今日これを貼り出すみたいだよ。」


 そっと出されれた用紙を見て爆笑した。


 -----

 ルシエル・ソレイユとラウェル・ヴァルモンドは結婚の儀を終えました。

 邪な思いを持つ者はラウェル・ソレイユへどうぞ。叩き切ります。

 -----


 全ての成績で優秀とされる成績を叩き出しているラウェルに食ってかかれる者などそういない。

 ひー、と息が苦しくなるくらい笑っていれば、珍しそうな両親の顔がこちらを向いた。

 

「そんなに楽しそうにルシちゃんが笑ってるの、初めて見たわ。」


 ぼんやりと言われて、確かにそうもしれない、と思う。


「ん、こっちに来て楽しいよ。」


「そう。良かった。」

 穏やかに笑う両親に悪気はない。そう言う人達だっただけだ。――今なら、諦めがつく。

 

「本当によかったわあぁぁぁ。」

「ちょっとラウェル君が少し強引で心配していたけど、君がいいのなら、良かった。」


 ラウェルと、感情ままに喜んでくれる叔父と叔母のおかげだ。


「幸せですよ。」


 こんな心地でこんな言葉を言える日が来るとは、ここに来る前までは想像も出来なかった。


 

 それだけに、少しばかりラウェルが心配だ。


 

 すん、とした表情のラウェルを見上げる。


「なあ、お前無理してない?」


「してませんよ。寧ろ今が人生で一番楽しいです。」

 笑いかけてくる表情に嘘はないようでほっとする。


「中々、僕の伴侶は人気があるようで腕がなりますよ。」

「迷惑かけてる……?」


 前の国の事を思い出して肩が落ちる。


「俺の顔が良いのが悪くて。」

「いいえ。」


 がしりと肩を掴まれて、

 

「顔が良いだけでこんな面倒になると思わないでください。」


 鬼気迫る顔に放心した。


「あなたが、すべて魅力的だからこうなるんですよ。」

 分かれと言わんばかりの鼻息に笑った。


「ふふ、そうか。」

「そうです。自覚してください。」


「それは、自覚してなかったかもしれない。」

「じゃあ、今から自覚してください。」


 煌めいた 琥珀色の瞳がこちらを向く。


「ルシエル。あなたはとても魅力的な人ですよ。」


 何度も言われた言葉だった。

 けれども、今までは上辺のものだったのだ。そう初めて気づいた。


 ぶわ、と顔に血が昇る。


「――そんなに可愛い反応、してくれると思ってませんでした。」


 愛おしそうに言うラウェルに、睨む気力もない。

 ただ愛してほしいと思えば、自然と向けられた手に頬を擦り付けた。


「顔も大事かもしれませんが。」

 ラウェルが顔を近づけながら言う。


「顔なんてどうでも良いほど、愛してますよ。」


 呼吸が止まるかと思った。


「あの、あのさ。」


 何とか声を出す。


「うん?」


「俺だって、」


 言いたいけど、言えない。

 続きが分かっているように蕩ける瞳を向けるラウェルが憎らしい。


 そっと口付けて、呆けたような顔を見つめた。


 どんな表情でも、今となっては。

 この顔を見れば、勝手に心音が跳ねるのだから。



「お前の、顔が良いのが悪い。」

 


 苦し紛れのように言った。

 

 ハニーブロンドの髪色も。

 琥珀色の瞳も。

 王子様然とした仕草も含めて、全部。


「愛してるから。」

 

 ふは、と今までにない顔をしてラウェルが笑って、


「そんな顔をされたら愛さずにいられませんね。――とっくに、愛してますけど。」


 抱きしめられて俺も笑った。

 陰鬱としていた頃の俺に教えてやりたい。俺の顔が良いのが悪い?――違うね、意外と良かった。

 

 

 ラウェルと、会えたのだから。

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