番外編 俺の伴侶がおかしい(後編)
俺が泣く話じゃない。
それでも、泣いてしまう自分が恨めしい。
いつも通り、ベッドで愛されて、それでも、その先に進まないことが、少し悲しかった。
愛されない関係なんて、いつか捨てられる前提みたいなものじゃないか。
極端な思考なのは分かっていても、求められたいという気持ちが最近は暴走してしまっている。
目の前の男に感情が寄りすぎているせいで、余裕なんて最初からなかったのかもしれない。
「ごめん……」
もう何に謝ったらいいのか分からない。
そして、それを目の当たりにしているラウェルも、理由が分からず狼狽えている。
「ルシエル……?」
「俺、お前を蔑ろにしてたのかも。」
恥ずかしくても、進みたいなら言うしかない。
「あのさ。」
口を開いて、閉じて、声がなかなか出せない。
おまけに緊張して胸が引き攣るように痛い。
それでも、臆病になってしまった俺の伴侶にちゃんと伝えないといけない。
「俺を、ちゃんと抱いてほしい。」
途端、キン、と何かの音が部屋を包んだ。
「すみません、先輩――僕、すっかり忘れてました。」
少し呼吸を荒くして首元を寛げるラウェルは、いつもの品の良さをかなぐり捨てているようだった。
「え、なに……?」
何が起こったのか分からずに、目を丸くすることしかできなかった。
いつものように降り注いでくる唇の熱がいつもより熱い。
「なんか、ちょっとまって、いつもと、」
抗議の声は届いていない。
ただ貪るような感覚に全身が赤くなった。
ふと、ラウェルの顔がこちらを向く。
「この状況に驚いて嫌われたら嫌なので、一応説明しますと――」
要するに。
欲望のままに手を出して勢いのままに傷つけたりしそうな気がして、自分を信じられなくなった、嫌われたくなかった。
怖くなって――自己暗示の魔法をかけたのだと。
本当は卒業の時に解こうと思っていたのに、意図せず強力にかかったようで解除ができない状態になっていた。
それでも、強制解除のキーワードがあって――
「キーワードは――“抱いて”、です。」
熱のこもった、揺れる瞳がこちらを見つめてくる。
かっと顔に血が昇って睨みつけた。
「一生言わない可能性だってあっただろ。」
「先輩を抱く以外は通常通りなので。一生、解除されなくても、それはそれで幸せなので良いかなと思いまして。」
「ふざけんなよ。」
怒りが湧いて、胸を押し除けた。
そうさせるだけ、俺が世間知らずだったのかもしれない。
だけど。
「不安なら、俺に相談くらい、してくれよ……」
――悔しい。二人のことをただ一人で考えて決断されたことが。
「やっぱり、お前は一ヶ月お預けだ。」
「え、」
「俺も悪かったけど。それでも、今、ほんとーーーーに、腹が立ってる。」
起き上がって扉に向かうと、
「分かりました、いいです、いいですから、その格好でどこかにいかないで……!」
言われて、ほとんど脱がされた格好なのを思い出した。
気まずくなって、うずくまった。
部屋に沈黙が落ちて少し冷静になって、言うなら今しかないと思った。
「……お前が、俺に興味がなくなったかと思った。」
「一から百八まで、興味しかありません。」
「……なんだよ、その数字。」
「東の国で煩悩の数らしいです。」
ああ、そうかよ。
お前は、そんなことを言えるくらい余裕なんだな。
ならさ。
愛情が変わらないだけで、泣きそうになる俺の気持ちは、どこにやればいい。
「……ぜってー許さねえ。」
「ル、ルシエル……?」
恐々とした声に笑いそうになるのを堪えた。
お前も少しは不安になって、俺がどれだけ怖かったか思い知ればいい。
好き合っていても、今は少しバランスが悪い。
対等でいいのだと、俺はラウェルを愛しているのだと自覚してもらわないといけない。
「一ヶ月、みっちり教えてやる。」
覚悟しろよ。
俺だって、そこそこ愛は重いみたいだから。




