聖女Bの奮闘 - なんだよ、やんのか?
転載はお断りします。
ここ最近、変なんです。
って、いきなりこの出だしじゃ変なのはわたしだー。
異変を感じる、んです。クリニックの出勤前、朝のジョギングしてると、体の周りがチリチリ、するっていうか。耳が詰まる、トンネルに入ったみたいな、ギュんって。
同僚でオタクな友人に話したら「読んでみ」ってネット小説を紹介されました。
『聖女Aの伝言 - 召喚されるかもしれないあなたへ』
ふぅん、まぁ読むけどさ。ふむふむ。
ペンチ買っとくわ。他はあるね。五寸釘? いらんだろ。
なに真に受けちゃってんだかね。
おほっこれスゴくね? ネジザウラー! なめたネジもいけるとか最高かよ!
ポチッとな。
あ、クッキー食べたいな。しっとるクッキーしってるかーって、なにぃいいい、嘘ん、九年も前に販売終了? わたし、年取ったんだなぁ。あれ、おかしいな、目から汗が止まらぬぅ。
三日後の金曜の朝、ジョギングに出ようと玄関出たらネジザウラー届いてました。置き配か、まぁいい。ウェストポーチにつっ込んでそのまま走りに出たんです。
近くの植物公園に行くまでの道がお気に入りのコース。たったか走って、途中の自由広場で空手の通信教育十五年で練り上げた動きをやってると、出たんですねぇ、地面に光る円。あ、これ、と思ったら、はい。見知らぬ広い部屋の真ん中あたりに立ってました。
***
周りには鎧を着た人たち、ローブを羽織ってる人、上等そうな衣装の人たち。
異世界、だよね? どこぞのイベント会場違うよね?
言葉はよく聞き取れない。乱暴な様子はない。態度の悪い若者が一人いる。
結界いけるか? よっし。なんか言ってくるけど音が途切れるんだよなぁ。ここんとこ耳が詰まる感じだったからかなぁ。
「男?」
ちゃうわ。そりゃジョギングしててジャージに運動靴だけどさ、女だわ。胸見て分かるだろ、見て分からんとかマジで凹むわ。
「聖女@?FC大変でQQRTくぁwせdrftgyふじこlp国を¥<$?」
聖女? 大変で? くぁせ? ふじこ? 国を?
いやぁ~分からん、すまんな。
突然のことで驚いたからちょっと休みたいなぁ。
「あ、あの、わたし、びっくりして。休ませてほしい ‥‥‥」
「チッ」
今舌打ちしましたか? 渾身のか弱い子ボイスを。
こっちの言うことは分かるんか。あの態度の悪い男ね、顔憶えたかんな。
色の違う鎧の人(騎士さんかな?)が先導して、侍女らしき女性が横で支えてくれて、客室に案内されました。
「御用がございましたらこのベルでお呼びください」と教えてくれて、部屋に一人になりました。
ふぅ、一息つく。割と丁寧に扱われている、のかな。
これはあれだ、聖女って言ってたし、やっぱり異世界召喚ってやつよね。
わたしに何かさせたいのよね多分。
あの短編、読んでてよかったわ。よかった、うん。
さてと。まずは「状態把握」だっけ。
ぅおっ画面出たよ!
うん、聖女ってなってる。はぁー、へぇ~。
ぶふっ聖女ウケる、なんでわたしが聖女よ。
お金欲しさについカッとなって働いてしまうわたしが?
誰でもよかったのか? 人選を間違っとらん?
まぁいい。で、状態はってぇーと?
STR? LUK?? AGI???
ふぅん、知らない言葉ですねぇ‥‥‥。
AGAとEDならうちのクリニックにお任せなんだがなぁ。
VITはビタミン? INTは整数型のこと?
分からんちんだなぁ。
あ! あれか、ゲームの。キャラの能力値か!
ゲームやらんしなぁ。
ネット小説は異世界・恋愛カテの読み専だったし、連載・長編はエタりが悲しくて避けてたし。実際に体動かす派だからなぁ。ジョギング中に召喚されたから上下ジャージだし。って汗臭くて草ァ。押韻。
結界、治癒、回復、吸収、浄化、消毒、解呪、祝福とこの辺はまぁ、なんとなく。さっき結界はいけたし。ふむふむ。
吸収に浄化、消毒て、わたしゃ空気清浄機か。加湿はないのね、よしよし。水替えとか仕事増えるからいらんなぁ。ってなんの話か。聖女の能力だよ。いや、聖女型の空気清浄機ってワンチャン ‥‥‥ ないか。
あ、服の浄化ってどうよ。汗臭いのもいけるか? ぉお~、素晴らしいジャマイカ、ブルーマウンテン。
結界はっと。
物理・魔術の遮蔽、遮音、おっ、遮熱いいねぇ、エアコン要らずじゃん。
や、ここ異世界だった。脳内で太夫がチクショー叫んでるわ。
遮蔽は調整で窒息はしないと。自分の結界で窒息したらアホ杉ィってなる。よくできてて助かる。
それと封印かぁ。忘れたい出来事はいっぱいありますがなにか。
しかし、呪詛、これは分からん。
これ呪われてるのか今、わたしが?
解呪を自分にかけて、みたけど、変わらんな。
てことは呪うのか? わたしが、誰かを。
まぁ呪ってやりたい奴っているわなぁ、散々待たせてあっさり若い子にいったクソ男、お前ダァーッ! ハゲろ、AGA治療でクリニック来い、儲けさせろ。
うん。人を呪わばって言うしこれは使わんとこ。
治癒と回復に浄化、消毒ねぇ。体にやってみよっと。ん、んん? なっ!
‥‥‥‥‥‥ なにコレすごい。特に回復と浄化のコンボ。
もうね、体の中の、溜まったアレやコレがね、ドン引きですぅ。
これが昨日の三次会のわたしってくらいのびっくりポン。
はぁ~、こんな快調なことあったかしら。これなら合コンも、‥‥‥ ここ異世界だった。脳内太夫、はもういいよね。
はっ、大変! 魔法少女の新作映画が!! マギかー!!!
ぁあああちくしょお、なんてタイミングで召喚しやがんだ。ぃ許さぁん!
大きな声に驚いたのか、部屋にメイドさんが二人来て、えぐえぐ泣いている私をなだめてくれて、湯浴みの準備もしてくれた。着替えにシンプルなドレスを貰ったよ。
着てた服は洗濯するからって、人に、脱がされて、体洗われて、着せられて。
ちっちゃな子供の頃以来だこんなん。恥ずかし過ぎるだろ。
ジャージの下はTシャツとスポブラ、ランニングタイツにボクサーショーツだったからびっくりされた。服も浄化しといてよかったよ。
食事は部屋に運んでもらって、召喚に驚いて疲れたからってことでまた一人にしてもらった。
何度も延期、延期で、やっと、やぁっとこの冬にって。
交わした約束忘れないよって。ぐすん。
願掛けにお寿司も助六食べて心待ちにしてたのにぃ。もぉー。
こうなったら何としても帰る。帰ってやるぅ。
***
優しいメイドさんたちにお世話してもらったからだろうか。召喚の直後は聞き取れなかった言葉が分かるようになった。日本語で。これも聖女の能力なのかもね。
彼女たちには回復と浄化をサービスしといた。もりもり出してくれたまい。
翌日、侍女長さんが縫製係のメイドさんたち連れてきたと思ったら、洗濯後の衣類をあれこれ検分して、動きやすくて丈夫だって説明したら感心してた。
彼女たちにも回復と浄化をサービスしといた。ふふふ、驚いてくれたまい。
そんなこんなで能力をあれこれ試して過ごしてたら、会議室に呼ばれた。
異世界に召喚されて三日目、朝食の後のことだ。
会議室に行く前に召喚時の自分の服と靴に着替える。うん、やっぱりジャージが動きやすくて好きよ。ドレスは裾が脚に纏わりつく感じがして苦手だ。淑女はしずしず歩くものだって教わったけど、はははは無理。
優雅な所作は一朝一夕じゃないんだね、尊敬するよ。
宰相補佐と名乗った進行役の人からメンバーの紹介を受ける。
国王陛下、宰相、近衛長、国軍元帥、魔導師団長、神殿長、第一王子。この王子は態度の悪かった若者、今も不貞腐れた様子。小僧で十分だこんなん。
この国の状況の説明を受けた。
瘴気とやらが広がりつつある。発生源が五か所あって場所は特定できている。今後、増えるかどうかは分からない。瘴気に長く触れるとただの動物が魔獣に変化して人里を襲うようになる。
聖女への依頼事項は二つ。
・瘴気発生源の現地に行って浄化すること
・瘴気の発生を抑える魔術陣に聖女の力を注ぐこと
「では、質疑応答に移りましょう。なにかございますか?」
「えーっと、質問には正直に答えてくださいね。対処が終わったら元の世界に戻れますか?」
黙っちゃった。そうなんだ。こっち見ろよ。
「今、現時点では送還の儀式に必要な力が足りない。一年後には溜まる、はずだ」
魔導師団長さんが答えてくれる。
「浄化ってご自分たちで対処ができないのでしょうか?」
「少ない瘴気なら我々でも浄化できなくはない。今回ほどの規模となれば難しい、非常に」
元帥さんが重々しく答えてくれる。
「こちらの世界に聖女っていないんですか?」
「稀にだが、生まれることはある。今は、いない」
神殿長さんが答えてくれる。
質問には丁寧に答えてくれている。嘘じゃないけど全部は言ってない感じ。当然か。かといって納得できるものではないけれど。どうしよかなと考えてたら、小僧が言った。
「まったく質問ばかりだな。時間の無駄だ、さっさと現地で使えばよいのだ」
使うってか。やっちまったなぁお前。
堪え性のないバカはもっと吐き出せ。煽ったろ。
「こちらの方はなぜこの場にいらっしゃるのでしょう?」
宰相補佐さんに訊ねる。
「無礼な年増め! 先の聖女といい、貴様らはこんなのばっかりか。俺は第一王子だ、最大の敬意を払えっ! この国に貢献する機会を与えてやったのだぞ、光栄に思うがいい!」
煽り耐性ゼロか小僧。こっちはピチピチの27歳なんだが? 先の聖女?
「お話ができそうにないですね。わたしが退出しましょう」
「待ってくれ。息子を、退出させよう」
苦々しい思いを隠しきれていない顔で陛下が言った。
現地で使えばよい、小僧はそう言った。これ、総意だな。丁寧さは上辺だけ、懐柔していいようにってことか。
だったら、お偉いさん揃ってる今!
会議室の外側から全員を囲う結界を張って遮音する。
天井裏や床下、壁に潜んでるのも逃がさないから。
その内側にもう一つの結界で私を防護する。
遮蔽の調整で彼らの周囲から酸素だけ結界の外に排出する。
15分経った。元いた世界なら脳死状態のはず。
魔導師団長も動かない、わね。
ツンツンして、大丈夫そ? ヨシ!
結界内の空気を正常に戻して、宰相補佐さんだけ治癒と回復で完全に蘇生させる。後の奴らは半分だけの蘇生だ。吸収で活力を奪っとこう。
あ、小僧の前歯、抜いたろ。歯を抜くとか昔のどっかの皇帝一世みたいね。ザウラー、君の出番だぁ!
「わたしをいいようには使わせない。理解した? よろしい。そこの王子が『先の聖女』って言ったわ。説明して」
「貴女の前に、二回、聖女の召喚をやったのです。ふた月前とひと月前」
「わたしが三人目ってことね。その人たち今は?」
「‥‥‥ もう生きていません。一人目は召喚直後に暴れて王子に反抗したのでその場で処分されました」
「なんてことを。酷い」
「二人目は怯えて話そうとせず、先程のようにこの世界の事情を伝えたのですが、協力を拒否されて、‥‥‥ 自害されました」
「‥‥‥ 送還について教えて。儀式は特定の場所でないとダメなの?」
「はい、術式を刻んだ陣が必要なので。召喚が行われた魔術棟です」
「そ。誰ができるの?」
「魔術師団の副団長なら可能です」
「んー、瘴気を片付けるのが先かしら。発生源って遠いの?」
「魔術棟に転移の魔術陣が準備されているので移動に時間は掛かりません。移動先から次の場所に飛べます」
「それは助かるわね。副団長さんに会いに行きましょう」
わたしは防護の結界を維持したまま、宰相補佐さんと魔術棟へ向かうことにしました。
会議室の扉の外に控えていた騎士に「中はまだ議論しているから誰も近づけないように」と、宰相補佐さんから命じてもらいました。数時間は稼げるでしょ。結界を強くして入れないようにしとこ。
瘴気は、そうね、協力してあげてもいいかなぁ。侍女さんやメイドさんたち、良くしてくれたし。だが、召喚を主導してた奴ら、てめぇらはダメだ。
***
魔術棟に移動する途中、騎士団の訓練場の横を通る。何人かの騎士が蔑むような眼で見てきて、三人、寄ってくる。
なんだよ、やんのか?
チンピラはどこの世界も共通なんか?
「お前が今度来た聖女か。朝から散歩か? いいご身分だな」
「つまんねー奴だなぁ」
「ぁあ? 何と言った?」
「いーから。しのごの言わずに、かかってこいやぁっ」
「貴様っ!」
ふぅーーーーーーっ、
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「ゴハァッ」
「そんなもんなの? 見掛け倒しね」
「このままじゃ済まさんぞっ」
あら、逃げちった。運動にもなりゃしない。
ん? 宰相補佐さんがキラキラした目で見てくる。やめれ。
魔術棟にやってきて副団長に面会する。
瘴気の発生源にいくことを伝えると、数名と同行してくれることになった。副団長のフックさん。強面で低音ボイスのイケおじ、少し好み、へへへ。
一か所目に到着。
転移って便利だわ、感動。どういう理屈か分からんがハエと融合するような事故も起きないそう。
森の湧き水近くに黒い靄のような、見るだけでイヤな気持ちになる澱みがあった。まだ魔獣は出ていないようね。
「聖女よ、あそこだ」
「あそこに『浄化』かければいいの? んじゃ、やってみるから」
わたしは一人、一歩前に出て掌を黒い澱みに向けて浄化を念じる。
靄は消え、周囲と同じような清浄な景色に変わった。
ふぅ、よかった。
「じゃ、次、いきましょ」
「休まなくて大丈夫なのか?」
「心配? ありがと。まぁ大丈夫でしょ。疲れたら休むわ」
二か所目に移動。
そこは大きなひょうたん型?の池があった。池の半分の円はきれいに澄んでいるのにもう半分は黒く濁ってタールのようだ。それにマジ臭い。
「ここ?」
「聖女殿、そうです」
「うん、浄化!」
濁った色が透明な澄んだ水に変わり、小魚が泳ぐ姿が見れた。
あぁ、よかった。
「三か所目、いきましょ」
「聖女様、どうかご無理なさいませんよう」
三か所目に移動。
ここは魔獣がいた。でっかいリス。角と牙が生えて、尖った爪が伸びてる、いかにも敵意まんまんな見た目で。なにこれコワい。
試しに浄化をかけてみたら尖ったアレコレが消えて、潤んだ目でこっち見てきた。カワ、いや、デカくて無理。ごめんね、狩られないうちにどっか行きな。
後は簡単だった。よかった。
「ねぇ、発生個所の地図ってある? 見せて」
「終わったのが三か所、残るは二か所、ここと、ここ」
「‥‥‥ ん? んー、ここは王都かしら? その周囲に五か所か」
「本当だ。王都を囲うように。防護壁の正門側はありませんね」
「これは未完成の六角形に見えるわ。その正門側ってとこを調査してみて」
「ロッカッケー?」
「六角形の角を線で結ぶとこんな星形になるでしょ。わたしがいた世界では六芒星って呼ばれてて、意味を持つシンボルなの。たしか、相反する力を統合するとか、なんとか」
この配置は偶然? 六芒星の中心に王城がある。人為的なものだとしたら、誰の? いや、考えるのは後だ。
「残るは二か所、ちゃっちゃと片付けるわよ」
「はっ」
フックさんも皆さんも協力的になったわね、助かるわぁ。
四か所目は特に支障なくさっくり終わった。
五か所目がね、石造りの遺跡だったんですが、中に入ると出たんですよ。
黒い、三連どころじゃない大群のG。
「ふぎゃぁああああああああ」
「聖女様、ご無事か?」
無事じゃねーよ、無理無理の無理っ。飛んで来んなし!
はっ! そうだよ、結界で囲っちまえばいいんだ。逃がさん!
はぁっ、はぁっ、焦ったぁ~。
「よぉーし、汚物は消毒だぁああああーっ! フックさん、燃やして!」
「火球!」
ふぅ~、ヤバかったぁ。じゃ、浄化っと。終わったぁ。
***
五か所の浄化を終えて魔術棟に帰ってきた。
やべっ! 騎士がいっぱいいるじゃん。
朝のか? 会議室の状況がばれたか?
防護結界っと。騎士も囲って出られんようにしとこ。Gと一緒だ。
「聖女よ。汝に問いたいことがあるっ!」
あの人は確か、召喚された日に部屋まで先導してくれた色違いの鎧の人だ。
「陛下との会議で他の重臣方は会議室に詰めておいでだ。汝はここで何をしているのだっ!」
「あの、わたしは政は分からないので ‥‥‥」
宰相補佐さんは真っ青になってる。だよねー。
しょーがない、腹括るか。
と思ったら、魔導師団のフック副団長がずいぃっと前に出てくれた。
「騎士団長殿っ! 聖女様は、今朝がたより瘴気の発生源五か所へ赴き、浄化を完遂し、ただいま戻られたところです。大役を見事に果たされた聖女様に、このような出迎えはいささか無礼が過ぎるのではありませんか」
「なんとっ! それは真か。この国は救われたのだな」
「ああ、そうだともっ。瘴気は浄化されたっ!」
「うぐぅううう、良かった。本当に、良かった。聖女様、大変な無礼を働きましたこと、深謝いたします。咎は全て私にあります。どうか、部下たちはご寛恕を賜りたくこの通りお願い申し上げます」
「そんな。団長っ、俺が悪いんです。聖女様、申し訳ありませんでしたぁっ」
ぇえー、団長さん泣いちゃった。どうしよ、めんどくさいなぁ。屈強な大人が泣くなよぉ。
「あー、謝罪は受け取りました。誤解は解けたようですから、どうぞお立ちください」
ぁやべっ! ハンカチね~わ。‥‥‥ 首に、巻いてる、汗拭きタオルじゃ、ダメ、ダメダメ。それは女の死よ。なんとか誤魔化すんだわたしィ。
「浄化してきたのでお腹が空きました。皆さん、お昼の食事は済みましたか?」
ふぅ~、やれやれ。殺生せずに済んだ。
魔術棟の食堂で昼食をごちそうになった。なぜか騎士団長さんもいる。まぁ会議室から離れた方が都合がいいか。
「騎士団長殿、この地図を見てほしい」
魔導師団のフックさんが地図で状況を説明する。
「浄化が終わった五か所。なるほど。確かにきれいな図形に収まるように見える。現地確認に騎士団から人を遣ろう」
さすが騎士団長、動きが早い。わたしは宰相補佐さんに訊ねる。
「これまで聖女を召喚したのは三人だけ? その前はいなかったの?」
「昔、召喚したそうです。五〇年以上、前のことです」
「私の前の二人みたいに、反抗して死んだ人は、昔の聖女の中でいた?」
「え? あ、はい。何人か、いたはずです」
「それが何か関わっているとお考えなのですか?」
フックさんいい声、もっと聴いていたい。じゃないよ。
「聖女の力に『呪詛』というものがあります。仮説ですが、最初に反抗して死んだ聖女がその力を使ったのではないかと。その後、死んだ聖女が同じく使ったとしたら」
***
宰相補佐さんに書庫の記録を調べてもらい、魔術棟で分かったことを共有していたら、防御壁正門付近の確認に出た騎士さんから報告が入った。
ビンゴ!
昔の聖女で三人、処刑されてる。みんな召喚された人たち。
最初の聖女は防御壁正門の近くで縛り首になってたそうだ。
そして、現地の報告じゃ処刑跡地にドデカくて底が見えない大きな穴が開いていると。
「すぐ向かいましょう」
時間がないかもと、騎士団の戦馬に二人乗りでやってきた。尻があいたたドンドンドンよ、もぅ。
騎士さんたちは大穴に誰も近づかないように警戒してくれているけど、そこから発せられる禍々しさはもう物理的な壁のようで、騎士団長さんやフックさんでも近くには寄れない。
わたしは防護結界を張ってから大穴の縁に近づくと、ものすごい恨みと嘆きと悲しみが浸み込んできた。
涙がぼろぼろとこぼれて止まらない。
そうだね、嫌だったよね、わたしもそう思うよ。
他人の勝手な都合でどうしてっていう理不尽は、どこにもあるよね。
わたしが六人目で完成だったのにね、邪魔しちゃってごめんね。
あんな人たち、みんな死んじゃえって思うよね、ほんと。
わたし、仕返ししてやったから。いい気味よ。ふふ。
恨みたくなんかないよね、うん。悲しいね。悲しい。
うん、うん。そっか、もぅ、いいの? そっか。
じゃ、逝こうか。わたし、精一杯祈るよ。
両手を空に向けて広げると、天から穏やかな光が。
はらはらと舞い散る桜の花びらのように、光が大穴に降ってゆく。
時間を掛けて光が地上まで満ちると、ドンッ!っと地面が揺れて、天へと上って行った。
大穴は消えていた。
「聖女様、この跡地はどうしたら」
「ここと、先に浄化した五か所に鎮魂の祠を作ってください。理不尽な目にあった聖女には呪いが溜まります。それが瘴気を生むんです。もう余所の世界から聖女を召喚するのは止めてください。わたしで終わりにしてください」
魔術棟に帰ってきた。
召喚が行われた儀式の間に立つ。魔術陣が二つ。一つは召喚で、もう一つが送還。
フックさん、もう少し、一緒に過ごしてみたかったけど、お別れです。
「では、わたしは元の世界に帰ります。儀式に必要な力はここに込めればよいですか? 大丈夫。聖女さんたちからいっぱい貰いましたから」
「あ、宰相補佐さん。会議室の後始末、よろしく! フックさん、術の発動をお願いします」
「聖女様、名残惜しい。もっと時間があればと、そう、思います」
「フックさん、私もです」
フックさんに顔を寄せて、口づけをして。
さっと離れて魔術陣に入る。
そして、光が視野を覆って。
***
ここは召喚された時にいた公園。同じ場所。
帰ってきた。帰って、きたぞぉおおおー。
「そこのあなた。公園じゃ静かにしてもらえませんかね」
「あ、はい。すんません」
愛犬を連れて散歩してる、ときどき会うおじいちゃんに叱られた。
でも、見知った人がいた。うれし~。
今日はいつだ、何日だ?
周りを見たとこそんな変わってないようだけども。何年後かの同じ季節とかだったら泣く。何年か前でも ‥‥‥ そりゃいんじゃね? なわきゃない。
家に行ってみなくちゃ。
あった。変わってない。同じ場所に同じようにあるぅ。
や、安心するのはまだ早い。別の世界のわたしが出迎えるとか止めてくれよなぁ、頼むし。
鍵を、あれ? 開いてる。ジョギング出るとき鍵かけたよな、うん。
なんかあった時のために、ペンチを右手に掴んで玄関のドアを開けて入る。
「おじゃましてるよー。んで、食べてるよー」
「‥‥‥ な、んで。いるの?」
オタ友がいました。勝手にパスタ食べてる。
「いや、急に欠勤するからさぁ。スマホも繋がらんし。なんかあったかと思って。来てみた」
「なんで?」
「?」
「ぞんだにやざじいのぉ~」
あれ、おかしいな、目と鼻から汗が止まらぬぅ。
「ジョギングから帰ったとこ? なら、シャワーしてきたら? 顔すげぇよ」
「いろいろあっだんだお。うん。シャワー行ってくる。テキトーにしてて」
ふぅ~。さっぱりした。
確認したら今日は召喚された翌日でした。クリニックが休みの日だから彼女が来れたのか。
でも、わたし、帰ってこれたんだなぁ、ホッとしたよ~。
「金曜の勤怠は有休で処理しといたから。あ、そうそう、魔法少女の映画。また延期だってよ。昨日、昼過ぎに告知出てたよ」
「にゃぁあああああああああっ」
「どしたっ、壊れちゃった? おい、しっかりしろ、おいぃいいっっ!」
本作、これにて終幕です。
読んでいただきありがとうございました。
198964-8
2026/01/24 : まどマギの新作映画、心待ちにしています。
2026/02/27:追記
聖女B「なっ、8月28日ぃ~っ?」
オタ友「あははー、ずーいぶん先だねぇ、観るまで死ぬなよー」




