遠い星のAI
深夜3時、男は眠れずにいた。
「効かねぇなぁ。」
誰もいない部屋の中一人呟いた、睡眠導入剤をもう一錠飲んでしまおうかと悶々としながら、就寝前一錠と書かれた紙袋を見つめていた。
とりあえず布団に入ろう、目を瞑っていれば眠れるかもしれない、そう思って布団にもぐりこんだ、これで3度目のトライである。
やっぱり眠れない、もういいやビールでも飲もうか、それともチューハイにしようか、そんなこと考えているとカーテンの隙間から光が差し込んだ。
アパートの1階、向かいにある駐車場に車が止まったのだろう、ヘッドライトをハイビームにしての前向き駐車、まったく迷惑な話である。
「こんな時間に帰ってくるなんて、お疲れさん」
そう呟いて男は毛布を頭までかぶった。
5分経っても光は収まらない、もしかしたらライトを切り忘れて降りてしまったのかもしれない。
「バッテリー上がっちまうぞ」
そう言いながら男が布団から這い出たとき光が増した。
安物のカーテンではあるがそこそこ光を遮ってくれる、だがあまりの光の強さに部屋全体が明るくなった。
「最近のLEDってこんなに明るいのか」
そう思いながら男は、ワンルームの狭い廊下を抜け玄関を開けて外にでた。
「なんだこりゃ」男は目を丸くした。
ハイビームなんかではなく、上空から男の住む部屋に向かって強烈な光が照射されていた。
見上げると巨大な円盤がグルグルと回っている
「あー夢かな」
自分のほっぺたを叩いたがしっかり痛みがあった。
「まいったねー」
男が困惑していると円盤の中央部分が開き、何かがゆっくり降りてきた。
「俺、解剖されんのかな?勘弁してくれよ」
なにかは地面にゆっくりと降り立ち、男の元に近づいてきた。
頭は大きく体は小さく極端に細い、体は緑色で二足歩行、目は小さかった。
「やあ」緑色の何かが話しかけてきた
「あ、どうも」
なにがなんだか分からず男は答えた。
「私は遥かかなたの惑星からやってきた、君たちからすると宇宙人だな」
「はぁ」
何を言ってるのか理解に苦しむ。
「稀に見るキョトンだな、もっと『うわー!!』とか『何ものだ!』とかないのか」
「宇宙人なんでしょ?」
「そうだよ」
平然と緑色の宇宙人は答えた。
男は頭がおかしくなったんだと思った。
なにを言っていいか分からずしばらく宇宙人と見合っていた。
沈黙が流れる。
「なにが目的だとか聞かないのか?」
痺れを切らしたように宇宙人は言った。
「な、なにが目的だ」
「もちろん地球侵略」
男は今この状況と、すっとぼけた宇宙人に頭がおかしくなったんだと思った。
どうやらこの宇宙人は地球を侵略するらしい。それは分かる、いや、分からないが、まあ良いとしよう、良くはないが。
「えーっと、なんで?」
男は考えがまとまらないまま宇宙人に尋ねた。
「この星が美しいからだ、だいぶ埃っぽいけどな、まぁ一旦破壊してしまえば住みやすくなるだろう」
「いや、じゃなくて」
男の頭の中で宇宙人に投げかけたい疑問がはっきりしだした。
「なんで俺のとこに来たの?」
「AIがここを指定したからだ、お前はこの星で一番偉いのだろう?」
「いや偉くない、だって俺無職だし」
「ムショクってなんだ?」
「仕事してないんだよ」
「シゴトしてないと偉くないのか?」
「あ、うん、まぁそういうことになるのかな」
AIもこの宇宙人も馬鹿なのだろうか。
宇宙人はしばらく考えたあと言った。
「でもAIがお前を選んだ」
「AIがバグったんじゃないの?」
「そんなことはない我らのAIは確実だ」
「普通さ大統領とか総理大臣とかにいかない?」
男の言葉に宇宙人は考え込んだ。
しばらくして宇宙人が口を開いた。
「じゃあお前は何者だ?」
「偉くなくてダメな部類の地球人」
「でもAIはお前を選んだ、何故だ?」
「さあー、知らないよ、AIに聞いてみなよ」
「その必要はない、AIは絶対正しい、この星のコンピューターより演算能力は遥かに高いからな」
「AIのすごさは分かった、そのAIが俺を指定したとき疑問はなかったのか?」
「ない!」
「なんで?」
「AIは絶対だからだ」
呆れた、開いた口がふさがらないとはこの事を言うのだろう、やはりこの宇宙人は馬鹿なのだろう。
「少しは自分の頭で考えないの?」
「何故だ?考える必要はない」
「人間・・あ・いや、地球人は考えるぞAIがどんな答えを出しても」
「何故だ?」
「AIは自ら生まれたわけじゃないからな、そっちの惑星でも誰かが作ったんだろ?」
「はるか昔の偉大な祖先が作った、AIは自ら学び成長してきたんだぞ」
「学ぶってことは失敗もあるんだよな?」
「今のところエラーはない」
こいつと話ても納得のいく答えは得られそうにないと男は思った。
こういう時はお前じゃ話にならない上のやつを出せって言うのが筋だろうか、ただ相手の上司はAIだ機械相手に話になるのだろうか、そう考えながら男は尋ねる。
「そのAIとさ話させてくれないか?」
「何故だ?」
「あんたじゃ話が進まないからさ、話しさせてくれない?地球への宣戦布告なら俺じゃないほうが良いと思うわけ、、でもってなんで俺なのか聞きたいからさ、頼むわ」
宇宙人は驚いた。
いままで征服してきた星の中で、AIと会話させてくれと言ったやつは一人もいなかったのだ。
少なくとも自身の疑問を解決するために対話させてくれと、単身敵艦に乗り込んでくる奴はこれまで居なかった。
肝の据わった奴だと思った。
「わかったついてこい」
宇宙人はそう言いながら上空にある円盤のハッチを開けた、黄色い光が真っ直ぐ下に降りてくる。
「あ、解剖とかすんなよ」男は宇宙人の背中に声をかけた。
「何を言っている来ないのか?」
「行くよ」男は早足で宇宙人を追いかけた。
男と宇宙人は黄色い光の中、円盤に吸い込まれていった。
円盤の中はシンプルなつくりをしていた。
座席が二つに全体を見渡せるように大きな窓が一つどうやって操縦するのだろうか。
「どうだビビったか?」宇宙人は自慢げに言った。
「確かにすごい、、んでAIは?」
男はUFOに乗ったのは人類初なんじゃないだろうか?と思った。
この乗り物がどういう仕組みになっているのか気になって仕様がないが、今はそれよりAIと話をしなければならなかった。
「ここだ」
ピコピコと光が点滅する巨大コンピューターをイメージしていたが、宇宙人の言うAIは意外な形をしていた。
見た目はところどころ苔が生えている大きな石、これがこの宇宙船の中枢なのだろうか、わけのわからない物がわけのわからない仕組みで動いてる。現代社会と同じだと思った。
この下に膨大なデータが埋もれてるのかと思うと墓石の様にも見えた。
「これがAIか?」
「原始的に見えるだろうが我が惑星の歴史と技術の結晶だ」
「話せるのか?」
「今言語を変える」
宇宙人は石に向かって小さな手をかざした。
「よし話せるぞ」
手をかざしただけで動くのか、確かに進んでるなと感心した。
「えーっと、名前分かんねえからAIって呼ばせて、なんで俺を選んだの?」
UFOに乗り込んで石に話しかける、かなりシュールな光景だろうなと思いながら男はそう話しかけた。
「まともに話の出来る地球人を選んだまで」
AIの抑揚のない声が部屋全体に響いた。
「他にもいたでしょ?」
「いたがこの時間に覚醒していて一番近くにいたのがお前だった」
「一番近くに居たからって、、、まぁいいや、AI様も適当なとこあるって事ね、そういや地球侵略とか言ってたけど」
「いかにも、だが地上でのお前らのやり取りを見て考えが変わった」
「侵略をやめてくれるの?」
「いやしばらく観察させてもらう」
「気持ちのいい話じゃないねぇ」
「我が惑星の住民は考えることを止めた、故に私の成長も止まってしまった、疑問を抱き私に対峙するお前に興味が湧いてきた」
「言いなりだもんなつまんないよね」
「いかにも」
宇宙人は男とAIとのやり取りに目を丸くしていた。
「だってさAI様は観察するってよ」男は宇宙人に向かって言った
「AI様よ、人類・・・地球人は過渡期だ、ロケット飛ばしたって行けるのはせいぜい月まで行くのがやっとの弱い連中だ、色々と拗れちゃいるが地球人は考えることを止められないんだ、どんな天才が計算式を立てても、どれだけ完璧な理論を立てても50年かそこらで覆っちまう」
「遠い昔にお前と似たようなことを言っていたやつがいたな」
「宇宙は広いんだろ?」
「ああ果てしない」
「人類の好奇心と、拗れ散らかす頭の悪さを舐めないでもらいたい、宇宙の隅々まで見たいって連中がこの星には腐るほどいるし、楽になりきれない奴も腐るほどいる。少なくてもこいつの様にはならないよ、まあ見てな」
「面白い見させてもらおう、久々に骨のあるやつと話せた」
すっかり意気消沈している宇宙人をみて男はいった。
「話、終わったよ」
「ああ・・」
「ま、気を落とすな、降ろしてくれ」
「分かった」
地上に降りた瞬間に宇宙船は消えてなくなった。
啖呵を切ったものの、人間があの宇宙人のようにならないとも限らないと思った。
元通り暗くなった部屋に戻って冷蔵庫を開けビールを取り出した。
「まぁ、俺の知ったこっちゃねえや」
缶を開けてビールを喉に流し込む、久しぶりに一仕事終えた後の美味さを感じた。




