第43話 貞操逆転世界というものは
偶然宇都宮さんとショッピングモールであった翌日。
俺はいつも通り学校へ向かっていたのだが、どうしてもいつもとは大きく違うことがあった。
「な、なぁ、鈴鹿。さすがに学校に登校時にこの距離感はどうなんだろうか」
俺はそう言って、いつもとは違う左隣をちらと見る。
俺の左隣ではいつもは手を繋いでいるだけの鈴鹿が、俺の左腕に強くぎゅうっと抱き着いていた。
……歩きにくいとか以前に、色々と意識してしまって内心がヤバいことになっている。
しかし、そんな俺の心情など知る由もない鈴鹿は、むすっとした顔で俺を見る。
「私を置いて危険なことをするだけじゃなくて、私を置いてどこかに走り去っちゃうような伴教くんに拒否権はありません」
鈴鹿はそう言うと、ぷいっと俺から視線を逸らしてしまった。
不満げな顔をしながら俺にべったりというのは、なんというか……。
宇都宮さんの一件の後、俺たちは急いで鈴鹿のことを探し出した。
しかし、宇都宮さんの予想が外れに外れてしまい、鈴鹿と合流したのはあれから二、三十分後になってしまった。
俺と合流した鈴鹿は二、三十分だけ離れていたとは思えないほど心配していたらしく、再開するなり力強く抱きしめられてしまった。
それから、あの時の事情を鈴鹿に説明したのだが、鈴鹿は納得はしても中々許してはくれなかったのだった。
まぁ、あれだけ心配してる鈴鹿を置いて逃げ出した俺にも責任張るんだよな。
それでも、女の子に朝から腕を組まれて何とも思わないほど、俺は女子慣れしていないのだ。
「鈴鹿、心配かけたのは謝るからさ。その、朝から刺激が強いのは精神的にどうなんだろうって思って」
「……へぇ、お兄ちゃんって妹に抱き着かれただけで変な気持ちになっちゃうんだ」
鈴鹿はからかうような笑みを浮かべて、皿に俺に強く抱き着いてきた。
そして、俺が体をビクンとさせると、くすっと妖艶な笑みを浮かべた。
「いや、な、ならないけど、その、なんというか、その」
「なんていうか、なんなの?」
鈴鹿は俺が誤魔化そうとすると、挑戦的な目で俺を見つめてきた。
いや、普通にこんな可愛い子に抱き着かれたら、変な気持ちになるだろ! こっちは彼女いない歴=年齢なんだぞ!
なんてことを妹相手に言えるはずがなく、俺は鈴鹿の体の柔らかさを教えられる場から意だった。
すると、後ろからぽんっと肩を叩かれた。俺が振り向くと、宇都宮さんが俺に小さく手を振っていた。
「おはよう、伊勢くん。あら、今日もお熱いのね」
「お熱いって、宇都宮さんはいろいろ知ってるでしょ」
俺が目を細めると、宇都宮さんは笑ってから思い出したように声を漏らす。
「そうだ伊勢くん。今日放課後に本屋に行かない? 今日ラノベの新人賞作品が本屋に並ぶ日だよね!」
「あー、気持ちは嬉しいんだけど、今日は高崎との先約があって」
俺はそう言って頬を掻く。
先日。毎日のように送られてくるえっちな写真に進展があった。
このままただ写真を見て興奮しているだけでいいのか、この写真をもとに何か行動をした方がいいのか。
そこら辺を含めて、高崎に相談したいと考えている。
まさか今日が新人賞のラノベ作品の発売日だったとは……これは完全に失念していたな。
俺がそう考えていると、宇都宮さんが残念がるように眉尻を下げる。
「えー、じゃあ、明日は? 私、いつでも伊勢くんの都合がいい日に合わせるよ」
「え、ほんと? じゃあ、明日とかならーーおっと」
俺が言葉を言いかけると、鈴鹿にぐんっと力強く腕を引かれた。
「す、鈴鹿?」
「綾姫さん。私がいる前で堂々と伴教くんにちょっかいかけないでください」
すると、鈴鹿は目を細めてそんなことを宇都宮さんに言っていた。
ちらっと宇都宮さんを見ると、宇都宮さんは笑みを浮かべたまま何も言おうとしない。
え、なにこのバチバチした感じ? まさか俺を取り合ってーなんてことは、ないんだよな。
鈴鹿は俺の血の繋がった妹で、宇都宮さんは目標とする立派な男の人がいる。そんな二人が俺を取り合うなんてこと、あるはずがない。
「はぁ、なんか貞操逆転世界に来たのにその恩恵を得られていない気がする」
俺は二人に聞こえないように呟いて、通学路を歩いていくのであった。
貞操逆転世界に来たら誰でもモテるって言った奴、さすがに無責任すぎるだろ。
俺はそんなことを考えて、大きくため息を漏らすのだった。
この話をもって、第一章完結とさせていただきます!一部完結です!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました(´▽`)
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