第40話 馬鹿で陰キャな主人公
「……いつになったら慣れるんだろうなぁ」
とある日の休日。俺は鈴鹿とショッピングモールに来ていた。
俺は漫画の新刊を買いに行きたかっただけなのだが、ついで鈴鹿も服を見たいという話になり、結果として近くのショッピングモールに来ていた。
もちろん、いつも通り鈴鹿とは手を繋いだ状態でショッピングモールを回っていた。
こうして、鈴鹿と手を繋いで道を歩くのは数えきれないほどの数になる。それなのに、俺はいつまで経っても鈴鹿相手にどきどきしてしまっていた。
妹相手にそんな気持ちになるのがまずいことは分かってはいるのだが、妹とか以前に女子への耐性がなさすぎるんだよなぁ
「伴教くん? 慣れるって、何に?」
「いやぁ、女子に対しての免疫がいつまで経ってもできないなと思ってな」
俺はため息を吐いて鈴鹿と繋いでいる手をちらっと見る。
この世界の女の子たちは基本的に男子に優しい。女子に慣れていない俺がこの世界で生きていけているのも、そんな女子たちのおかげなのだと思う。
でも、もしもそうじゃない女子を前にしたとき、俺は自分の意見をちゃんと言えるのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、鈴鹿はにやっといたずらをする子供のような笑みを浮かべる。
「伴教くんはそのままでいいんだよ」
すると、鈴鹿は繋いでいる手の親指の腹の部分で俺の手の甲を優しく撫でてきた。
「っ」
「……もっと私といろんなことをして、女の子慣れしないとね」
鈴鹿はくすっと妖艶な笑みを浮かべて、俺を上目遣いで見てくる。
俺はそんな鈴鹿を直視できず、バッと視線を逸らす。それから、どくどくとうるさくなった心臓の音を必死に抑えようとする。
いやいや、今のは兄に向ける笑顔じゃないだろ!
「あれ?」
俺が気を紛らわそうと鈴鹿から視線を逸らした先で、見覚えのある女の子が顔を俯かせていた。
「宇都宮さんと、誰だろ?」
俺たちがいるフロアから一つへのフロアで、宇都宮さんと知らない女子二人たちが何かを話しているようだった。
知らない女子二人は宇都宮さんに嘲笑い、宇都宮さんは何も言わずに堪えているように見える。
とても友達同士の会話のようには見えない。
「綾姫さん? どこにいるの?」
「ほら、あそこ。あの雑貨屋の隣にいるだろ」
「あっ、本当だ……喧嘩中っていう感じでもなさそうだよね」
鈴鹿も俺と同意見らしく、宇都宮さんを見て眉尻を下げていた。
「いじめって感じではなさそうだけど、パワーバランスが偏ってるのは見て分るよな」
前にいた世界で何度も見たことがあるクラスカースト上位のやつが、クラスで地味な奴らをいじっていた時に見せる嘲笑。
それと宇都宮さんに向けられている笑みが似ているような気がした。
「……ちょと行ってくる」
「え、お兄ちゃん?」
俺が鈴鹿から手を放してエスカレーターに向かおうとすると、鈴鹿が慌てたように俺の手を引いた。
「お、お兄ちゃん、どこに行く気なの?」
「宇都宮さんのところだ。あの普段明るい宇都宮さんがあんな顔をしてんだから、放っておけないだろ」
多分、今宇都宮をあざ笑っている女の子たちは俺の苦手なタイプだと思う。前の世界でも俺のことを馬鹿にしてきた女子たちと似ている気がする。
俺は俯いている宇都宮さんを見ながら、言葉を続ける。
「宇都宮さんは俺の友達だ。友達が変なのに絡まれたら助け出す! ……なんてカッコイイことはできない。そんなのは自分に酔ってる奴とか、漫画とかラノベ主人公にしかできない」
俺は情けないことを言っていると思いながら頬を掻く。
多分、ここで正義感とか色々ぶん回せればいいんだろうけど、そんなのはキャラじゃない。何よりそんなことができれば、俺は陰キャなんかじゃない。
本来なら、ここで見て見ぬふりをするべきなんだろうけど、そんなことができるほど賢くもない。
「見て見ぬふりができないんだな、これが……悪いな、鈴鹿。兄ちゃん馬鹿だから宇都宮さんのところ行ってくるわ」
俺が自嘲気味の笑みを浮かべてそう言うと、鈴鹿は困惑した様子で口を開く。
「ちょっと、それどういう理屈なの⁉ どうしても行くなら、私も一緒に行くから」
「いや、それはだめだ。鈴鹿はここにいてくれ。俺と一緒に来てあんな奴らに鈴鹿が目を付けられるのは俺が嫌だ」
俺は鈴鹿の言葉に首を横に振る。
俺は鈴鹿と行動を共にすることが多いが、鈴鹿は俺よりも一人で行動をする時間が多い。
そうなると、鈴鹿が一人の時を狙ってあの女子たちが因縁をつけてくる可能性がある。
鈴鹿は俺を守ってくれているのに、俺が鈴鹿を危険なことに巻き込むなんてことはあってはならないだろう。
「で、でもっ」
しかし、鈴鹿は納得いっていないようで中々手を放そうとしなかった。俺は瞳の潤んだ鈴鹿を安心させようと宇都宮さんたちがいるほうを指さす。
「それに、ここからなら鈴鹿も俺たちの様子が目で見えるだろ。ちょっと話してくるだけだから、安心してくれ」
俺は最後にそう言ってから、鈴鹿の手をすると放して走り出した。
「お、お兄ちゃんっ!」
俺を呼ぶ鈴鹿の声をそのままに、俺はエスカレーターを登って宇都宮さんのもとへ急ぐのだった。
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