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第4話 過保護気味な女子たち

「え? 伊勢くん、女の子が苦手なの?」


 それから、俺は体育館に移動している最中、宇都宮さんと他愛もない話をした。


俺が何度かどもることもあったりしたので、会話らしい会話ができているのか不安ではあったが、宇都宮さんは気にすることなく俺の話を聞いてくれていた。


「苦手というか、話し方が分からないって感じかな。嫌とかじゃないんだけどね。むしろ、話したいと思ってはいる」


 俺は宇都宮さんにそう言って頬を掻いた。


 この世界の男子は大きく分けて二種類に分かれる。


 一つは、自分がモテるという環境を使ってハーレムを楽しむという者。そして、もう一つは女子に迫られ過ぎて女性が苦手になるという物だ。


 大抵はモテるという環境に不満を持つことはないので、前者のような男が多い。


 ここで後者だと思われてしまうと、宇都宮さんすら俺に近づいてくれなくなってしまうかもしれない。


せめて、もう一人くらいクラスに男子がいれば、そうならないのかもしれないが、俺のクラスには男子は俺しかいない。


つまり、女子に近づかれなくなったら、自動的にクラスでボッチになってしまうのだ。


さすがに、そうなるのは悲しすぎる。


 俺はそう考えて、言葉を少しだけ訂正しておいた。


 すると、突然宇都宮さんがぐいっと俺の顔を覗き込んできた。


「そ、それって、いつから? 昔からじゃないよね?」


「う、宇都宮さんっ」


 俺は急に女子に近づかれたことで、心臓をバクバクとさせてしまう。


 近い近い近いっ! なんか少し近くなっただけで良い匂いがしてきた気がするんだが!


 俺はあわあわとしてから、思わず視線を逸らす。


すると、宇都宮さんは距離が近づきすぎていたことに気づいたのか、ぱっと元の距離間に戻った。


「あっ、ごめんっ」


「いや、全然大丈夫。えっと、いつからかは覚えてない、かな? 気がついたらって感じだと思うけど」


 さすがに、初対面の子に俺が別の世界にいたこととか、六年間ベッドの上から目覚めなかったことを言う訳にもいかないだろう。


 初対面で話すにしてはヤバい子だと思われたり、気を遣わせたりしてしまうような話だしな。


 俺がなんとなく誤魔化すようにそう言うと、宇都宮さんは驚いて大きくしていた目を伏せた。


「……苦手になったってこと? 私の知らない女の子が何かしたってこと? あの優しかった伊勢くんに何をしたって言うの?」


 宇都宮さんは小声で独り言を漏らしてから、ギリッと歯ぎしりをした。


 あれ? 宇都宮さん怒ってる?


 もしかして、話を広げようとしてくれたのに覚えてないで返してしまったからだろうか?


 確かに、これだと話していてつまらないと思われても仕方がないかもしれない。


 なんとかこっちから離しを広げないと……広げ、ないと。


「ええっと、宇都宮さんは休みの日とかは何してるの、かな?」


「伊勢くん!」


「は、はいっ!」


 俺は宇都宮さんに強く名前を呼ばれて、ぴしっと姿勢を正す。


 か、会話の選択を間違えたのか? 私の休みの過ごし方を知ってどうする気なの⁉って気持ち悪がられたのかもしれない!


 俺がそんなことを考えていると、宇都宮さんは俺のことを真剣な表情でじっと見つめてきた。


「私がもうそんな思いさせないように頑張るから。伊勢くん、無理しないでね」


 宇都宮さんはそう言って、心配するように眉尻を下げる。


 ……無理に会話を広げようとしないでいいってことか?


「えっと、ありがとう。でも、俺も頑張っていこうと思う」


「大丈夫。私がついているからね」


 宇都宮さんは俺を安心させるかのように優しい笑みを浮かべていた。


 なんでこんなに優しくされているんだろうか? 貞操観念が逆転しているからか?


 俺はそんなことを考えて、体育館に移動するのだった。




 それから入学式を終えて、帰りのホームルームが終わった。


 俺は簡単に帰り支度を済ませる中、ちらっと他の生徒たちを確認する。


 すると、さっきまで俺のことを見ていた他のクラスメイトたちが、わざとらしく俺から視線をばっと逸らした。


(「い、伊勢くんと目が合った! 見てたの気づかれたのかな?」)


(「一緒に帰りたいけど、いきなりは迷惑だよね。や、やっぱり初めはハンカチを落して拾ってもらうことから始めないとっ」)


(「不安げに女の子を見る目元……そそるのですぅ」)


 何か少しざわついた気がしたが、特に女の子から話しかけてくれるということはなさそうだ。


 せっかくの入学式。新しいクラスメイトたちとの出会いということもあって、帰りに女の子に誘われたりしないかなと少し期待をしていた。


 しかし、特に他のクラスメイト達が動く気配はない。それどころか、顔すら合わせようとしてくれない。


 ちくしょう。やはり、童貞感が丸出し過ぎるのが行けないのか?


 俺はうな垂れてから顔を横に振って気合を入れ直す。


 ……やっぱり、こういうときは自分から動かないとだめだよな。


 俺はそう考えて意を決して椅子から立ち上がる。すると、一人の女の子が慌てたように俺に駆け寄ってきた。


「い、伊勢くん!」


「え? は、はい」


 こっちから話しかけようとしタイミングで声を掛けられてしまい、考えていたセリフが弾け飛んでしまった。


 俺が何も言えずにいると、女の子は緊張気味に俺を見上げる。


「これからクラスの人で親睦会をやろうって話になってるんだけど、伊勢くんも来ない?」


「し、親睦会?」


「うん。これからこのクラスでやっていくわけだし、仲良くしていきたいなって」


 俺は思ってもいなかったお誘いを受けて、一瞬言葉が出てこなかった。


 俺の童貞臭い言動のせいでクラスメイトに変な風に見られてしまったと思っていたが、どうやらそこまでではなかったらしい。


 今ならまだ巻き返せるのかもしれない。


 ブブッ。


 そう考えて頷こうとしたとき、ポケットに入れていたスマホのバイブ音が鳴った。


 俺はそのバイブ音を聞いて、大事な約束を思い出してしまった。


 いや、でも、せっかくのチャンスなんだし、少しくらいは女の子の誘いに乗ってもいいんじゃないだろうか?


 ブブッ、ブブッ。


 俺がそんなことを考えていると、その考えを否定するかのように続けて数度のバイブ音が聞こえてきた。


「えっと、スマホ確認しないで大丈夫?」


 俺がなんとも言えない表情をしていると、女の子が俺の制服のポケットに視線を落とした。


 さすらに、指摘されて無視をすると言うわけにはいくまい。


「ご、ごめん。それじゃあ、少しだけ」


 俺は断りを入れてから、ポケットからスマホを取り出して画面を開いた。


 すると、そこには新着メッセージありというアプリの通知が来ていた。メッセージの送り主は『伊勢鈴鹿いせすずか』。


……やっぱり、メッセージの送り主は鈴鹿か。


 俺は目を細めながら、スマホ画面をタップして鈴鹿からのメッセージを確認する。


『校門前に着きました。ちゃんと待ってるからね』


『あっ、そうだ。帰りにクラス会とかに誘われても、行ったらだめだからね』


『前に女の子は狼って教えたよね? 集団でカラオケなんか行ったら、大変な目に遭っちゃうよ』


 俺はそれらのメッセージを見てから、ちらっと顔を上げて親睦会に誘ってくれた女の子を見る。


 本当に、この子が狼になるのか?


 見るからに運動部で活発そうなショートカットの女の子。とても、性的なことなど考えていなさそうなのに、密室に男を連れ込むと態度が豹変するのだろうか?


 ……なんか普通にありな気がしてきたぞ。


 ブブッ。


 俺がそんなことを考えていると、また手元のスマホが小さく震えた。視線をスマホに戻すと、そこには鈴鹿から新たなメッセージが送られてきていた。


『既読ついたのに何で返信くれないの?』


「ひぇっ」


 既読一分未満の相手に送る内容じゃないだろ、ヤンデレか!


 俺は思わず脳内でそんなツッコミをしてしまった。


「伊勢君?」


 俺が顔を引きつらせると、女の子がこてんと首を傾げた。


 スマホを見て小さな悲鳴を上げていたら、そんな反応にもなるか。


 それから、俺は申し訳なさから眉尻を下げて頬を掻く。


「ご、ごめん。ちょっと、今日は用事があって無理みたいで」


「そうなんだ。じゃあさ、明日とかはどうかな! 私たち、全然伊勢くんの予定に合わせるし!」


「えっと、気持ちは嬉しいんだけど、そのっ」


 正直、このままお誘いに乗って一緒に放課後を過ごしたいという気持ちがないわけではない。


 それでも、校門前で待っている鈴鹿のことを考えると、簡単に頷くわけにもいかない。


 俺が断っても次回を提案してくれる優しさと嬉しさのせいで上手く断れずにいると、宇都宮さんが女の子の肩にポンっと片手を置いた。


「奥羽さん。伊勢くんはあんまり女の子が得意じゃないの。あまり無理強いはしないであげて」


「あっ、そうなんだ。そっか、伊勢くんだもんね(清楚でピュアだもんね)」


 宇都宮さんの言葉を聞いて、奥羽さんはハッとしてから納得したように頷いた。


 伊勢くんだもんねってどういう意味だろうか? ……もしかして、童貞臭い行動をとり過ぎて、女の子と仲良くはできないと思われてしまったのか?


 いや、間違ってはいないのだが、仲良くしたくないという訳ではない。


 俺は誤解を生まないように首を横に振ってから、奥羽さんをまっすぐ見る。


「で、でも、みんなと仲良くしたいと思ってはいるから。大人数で予定を合わせて遊ぶって言うのは難しいかもしれないけど、その、またいずれ」


 俺は極力どもらずに、緊張しながら奥羽さんの目を見ながらそう言った。


 せっかく誘ってもらったのを断るのだから、せめて誠意のある対応をしなければ。俺はそう考えて、ぎこちないだろうと思いながら笑みを浮かべた。


「は、はひっ」


 すると、奥羽さんは目を見開いて、から数歩後退ってしまった。


 ……思わず後退ってしまうほど、変な笑顔だったのか俺は。


 俺はそんなふうに考えてから、深々と頭を下げて逃げるように教室を後にした。


 やっぱり、年齢=彼女いない歴の俺に貞操観念逆転世界でモテモテになるのは難しすぎる!




 一方、伊勢がいなくなった教室では、女子たちがキャーキャーっと盛り上がっていた。


「最後の笑った顔見た⁉ あんなに初心な男の子の笑顔初めて見たんだけど!」


「女子からの誘いを断るだけなのに、断られた女の子が気にしないようにフォローしてくれるなんてっ! あんなに紳士的な男子いるんだ」


「普段はあんなに優しい子が夜はどんな顔をするのか……妄想が捗るのですぅ」


 こうして、伊勢の童貞臭い行動は、また一つ女子からの人気を集める要因になるのだった。


 そして、伊勢は自分が帰宅した後、教室がそんなふうに盛り上がっていたということを知るはずもなかった。


「……私が守らなくちゃ」


 そして、一人使命感に燃える女の子がいるということも。



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