第37話 girlsサイド:妹は兄の体操着を守る
「お兄ちゃんの体操着が二枚?」
私が脱衣所にある洗濯機を回そうとすると、洗濯機に二枚の体操着が入っていた。
私は違和感を覚えて、その二枚の体操着を洗濯機から取り出す。
「えっと、こっちは名前のない体操着で、こっちがお兄ちゃんの名字が入った体操着」
なんで二枚あるのだろうと思った私はお兄ちゃんの名字が入った体操着を掲げる。
私は脱衣所の入り口をちらっと見て、扉がちゃんと閉まっているのを確認する。それから、再び体操着のほうに視線戻した私は、自然と体操着を鼻に近づけていた。
別に意識的に毎日お兄ちゃんの服の匂いを嗅いでいるわけじゃない。気が付いた時に出来心で嗅ぐことがあるだけだ。
嗅がない日がないこともないかもしれない。
それでも、今日はいつもと違っていて、なんとなく嫌な予感がしたから嗅ごうと思ったのだった。
「すんすんっ、すんっ……お兄ちゃんの匂い、じゃない匂いがする!」
ていうか、女の子が使うボディソープとかの匂いがするんだけど!
私は慌てて脱衣所を出ると、お兄ちゃんの部屋に向かった。
お兄ちゃんに問いただすと、お兄ちゃんはあろうことか使用済みの体育着を保健室に干していたらしい。
まぁ、保険の先生がいるわけだし、教室で干すことを考えればいくぶんか安全だとは思う。
それでも、全く危険じゃないかと言われればそんなことはない。
そんなことがあって、私はお兄ちゃんの体操着を守るためにとある作戦を実行することにしたのだった。
そして、作戦を実行することになった就寝前。私はベッドの前に立って少しそわそわとしていた。
「別に変なことしようってわけじゃないし、問題ないよね」
それから、私は自分の体の匂いをチェックする。
さっきお風呂でいつもよりも多めにボディソープを使って、入念に体を洗ったこともあり、私の体からは甘い香りがしていた。
「うん。匂いも問題なしっ。それじゃあ、もういいよね」
私はそんなひとり言を漏らして、ちらっとベッドに上に並べて置いたお兄ちゃんの体操着を見る。
多分、今日のお兄ちゃんの体操着は誰かが匂いを嗅いで、自分の匂いを付けたのだと思う。そして、明日も体育があるのなら、同じようなことをしてくる可能性がある。
お兄ちゃんの体操着、お兄ちゃんの純潔を守るためにはその女の子の魔の手を払わないといけないのだ。
私はそんなことを考えて、寝間着のボタンをはずしていく。そして、寝間着のズボンも脱いで下着姿になってから、お兄ちゃんの体操着に手を伸ばした。
そして、私は寝間着の代わりにお兄ちゃんの体操着を着て、ひらりと一回転する。
「お兄ちゃんの体操着……おっきい」
私は心臓の音を少しだけうるさくして顔をほのかに熱くさせる。
今私が着ているのはあくまで洗濯済みの体操着だ。だから、お兄ちゃんの匂いが残っていたりはしない。
それでも、この体操着がお兄ちゃんが学校で着ているもので、これを着て運動をしているという事実は変わらない。
そして、なんだかすごくいけないことをしているような気がしてきた。
どうしよう、どきどきが止まらない。
私は一瞬いけない気持ちになりそうになり、慌てて頭を横にぶんぶんと振る。
「違う違う、これは変態的な行動じゃないからっ。お兄ちゃんを守るためにやってることだから!」
私は誰に言うわけでもなく、そんな言い訳をして自制心を保とうとする。それから、私は本来の目的を果たそうとベッドへと向かった。
「一時間くらい着てれば匂いも付くだろうし、ちょっとだけ横になろうかな」
私はそう言って、ゆっくりとベッドに横になる。
そして、もぞもぞとしながら布団をかけて少しだけベッドの上でゴロゴロとしていた。
なんだろう。どきどきしているはずなのに、すごく落ち着く気がする。
そして、私はだんだんと瞼が重くなってきて、気づけばそのまま寝てしまっていた。
なんだか、いつもよりもぐっすりと寝れたような気がした。
「す、鈴鹿。おーい、鈴鹿―、は、入るぞー」
「ふへっ、お兄ちゃん?」
お兄ちゃんの声が聞こえたと思って目を覚ますと、お兄ちゃんが部屋の入り口からひょこっと顔を覗かせた。
「い、いつもの時間に起きてこないから心配になってきたんだけ、ど……」
それから、お兄ちゃんはちらっと私を見た後、視線を別のところに向けてピタッと固まってしまった。
どうしたのだろうと思ってお兄ちゃんの視線を追うと、そこには私の寝間着が落ちていた。
なんで私の寝間着があんなところに?
あっ! 私、お兄ちゃんの体操着を着たまま寝ちゃったんだ!
私はお兄ちゃんの体操着を着ていることがばれないように、慌てて布団で体を隠す。
すると、お兄ちゃんはないかに気づいたように、顔を真っ赤にしてワタワタとし始めた。
「ご、ごめんっ! え、えっと、す、すぐ出ていくので!」
「え、お、お兄ちゃん?」
「いやっ、本当にごめんっ、何も見てないから! それじゃあ!」
お兄ちゃんはそう言うと、慌てて私の部屋から飛び出して行ってしまった。
私はお兄ちゃんが出て行った部屋で、顔を引きつらせる。
「もしかして、体操着を着てたのバレちゃった? でも、それだけであんな反応になるかな?」
それから、私はさっきのお兄ちゃんの反応を思い返して少し考える。
お兄ちゃんは私の脱ぎっぱなしの寝間着を見てから、着ている体操着を隠そうとした私を見て、突然慌てだした。
「……私が寝間着を脱いで、下着姿で寝てると思ったとか? ふふっ。お兄ちゃん、妹が下着姿だと思って、あんなに取り乱すんだ」
私はあまりにもピュアすぎる反応と、私を女の子として意識しすぎているお兄ちゃんの反応を思い返して、くすっと笑ってしまっていた。
「とりあえず、着替えてご飯作らないとね。あと、これもお兄ちゃんに返さないと」
それから、私は一晩着ていたお兄ちゃんの体操着を脱いで、寝間着に着替えるのだった。
私が着替えてリビングに向かうと、お兄ちゃんが気まずそうに椅子に座っていた。
多分、さっきのことをまだ気にしているのだろう。本当はお兄ちゃんは何も気にする必要はないというのに。
私はそんなお兄ちゃんをほほえましく思いながら、脱いだばかりの体操着をお兄ちゃんに手渡す。
「はい、お兄ちゃん。体操着渡しておくね」
「あ、ああ、ありがとう。今日一時間目に体育あるから、制服の下に朝から着ていかないと……ん? なんか少し暖かい気がするな。それに少し甘い匂いがする?」
「お、お兄ちゃんっ」
お兄ちゃんは何を思ったのか、私が脱いだばかりの体操着に鼻をつけて匂いを嗅ぎだした。
私は慌てて手を伸ばすも、すぐにその手を下ろしてしまった。
お兄ちゃんが私の匂いを嗅いで、私のぬくもりを確かめている。そんな光景を前に私は体を熱くさせてしまい、もっとその光景を見ていたいという気持ちになってしまった。
「まぁ、いいか。とりあえず、着替えてくるよ。鈴鹿? どうかしたのか?」
「う、ううん……なんでもないよ」
私がそう答えると、お兄ちゃんは体操着に着替えるために自室に戻っていった。
私は何も知らずに着替えているであろうお兄ちゃんを想像して、息を荒くしてしまう。
お兄ちゃん、私が一晩着たものを着て学校に行くんだ。私の匂いが付いた服で体育の授業を受けるんだ。
私はお兄ちゃんを少しだけ私色に染めてしまったような罪悪感と背徳感に刺激されて、抱いてはいけない感情を煽られてしまっていた。
どうしよう。これじゃあ、私変態みたいじゃん。
そして、私は胸をどきどきさせながら、お兄ちゃんがリビングに戻ってくるのを静かに待つのだった。
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