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第34話 girlsサイド:とある少女の恋をした記憶


 家に帰宅した私は伊勢くんが髪を拭いたタオルを慎重に保存してから、『伊勢くん観察日記』をいつもの本棚に戻した。


「また今日も伊勢くんに近づいちゃった」


 私は今日の出来事を思い出して口元を緩める。


 今日は体育の後の伊勢くんにタオルを渡せたり、伊勢くんの濡れた体育着姿を見たり、体育で使った体操着の匂いを嗅げたりいろんなことが起きた。


 昔の私では考えられないようなことだけに、伊勢くんと同じ学校に再び通えるようになってから毎日が楽しい。


 それから、私はふと目に入ったナンバリングされている『伊勢くんの観察日記』が気になった。


私は何気ないしに『伊勢くんの観察日記①』と書かれた一冊のノートを手に取る。


 私はそのノートをパラパラッとめくり、幼い字で書かれたそのノートを見てくすっと笑う。


「……懐かしいなぁ」


 一番初めに書いた『伊勢くんの観察日記①』に書かれていたのは、伊勢くんが休み時間と放課後に誰とどんなことをしているかが書かれただけの簡単なものだった。しかし、最新版の『伊勢くんの観察日記』と比べて書かれている内容が全然薄いのに、熱量だけは今の私と負けないものがある気がした。


 私は『伊勢くんの観察日記①』の最初のページの日付を見て、懐かしむように息を吐く。


「もう七年前かぁ。まさか、こんなに書き続けることになるなんてね」


 私はそんな独り言を漏らして、またノートをめくっていく。『伊勢くんの観察日記②』『伊勢くんの観察日記③』と読んでいくと、ある日にちを境にその日記はぴたりと止まってしまっていた。


 ちらっと本棚を再び見ると、今度は『伊勢くんの妄想日記』と書かれた日記が並んでいた。


「本当に、私って昔から伊勢くんにぞっこんだったんだなぁ」


 私は特に恥ずかしがることなく、ただ事実をぽろっと漏らすようにそんなひとり言を口にする。


 しかし、口にしてから急に恥ずかしくなった私は、その恥ずかしさを誤魔化すようにベッドに倒れこんで軽く悶える。


 それから、ひとしきり悶え終えた私は、ベッドの上で『伊勢くんの観察日記』を書くようになったきっかけを思い出すのだった。


 あれは七年前。まだ私が九歳のころの出来事だ。




「隣のクラスに男の子が引っ越してきたって!」


「本当? 見にいかないと!」


 とある日の休み時間。


私は近くの席の女の子たちが、そんな会話をして教室を飛び出していったのを目撃した。


「男の、子?」


 私はそんなの女の子たちの会話を聞いて、好奇心を煽られた。


 当時の私は三つ編みおさげに眼鏡をしている典型的な地味子だった。運動もできなければ勉強もできないし、お友達だって少なくてどんくさい。


 それでも、隣のクラスに男子がいるって聞いて多少は興味があった。


 だから、私は隣のクラスに転校してきたという男子を一人で見にいったのだった。


「み、見えない」


 私が隣のクラスに向かうと、男の子が転校してきたというクラスにはすでに人だかりができていた。


 私は小さい体で何とか男の子を見ようとぐぐっと背伸びをする。しかし、いつまで経っても見れるのは男の子を見に来た女の子の後頭部ばかりだった。


 それでも、後ろから押してくる女子の力に耐えたりしているうちに、体の凹凸がない私はするりと女の子たちの間を抜けて行って、気づけば一番前に来ていた。いや、正確には弾き飛ばされていた。


 私は踏ん張ることができず、そのまま前のめりに転んでしまった。そして、転んだ勢いでメガネが飛んで行ってしまった。


「あぁっ、眼鏡っ」


 私が眼鏡を拾おうと手を伸ばすと、私が取るよりも早く誰かが私の眼鏡を拾い上げた。私が顔を上げると、その子は私に拾った眼鏡を手渡す。


「えっと、大丈夫?」


 黒色の髪をした優しい男の子。それが伊勢くんだった。


 普通、男子はわがままな子が多い。男の子が生まれたうちは、男の子を蝶よ花よと育てる。


 国からも特別な補助金が出たりするので、大きくなるにつれて自分が特別な存在だと男の子も自覚していくのだ。


『男の子だから仕方がない』。そんなふうに許されることが多く、困っている人に手を差し伸べることなんてするはずがない。


 だからだろう。私は常識とあまりにも違う伊勢くんの言動に惹かれてしまった。


 つまるところ、私はこの瞬間伊勢くんに恋をしたのだ。


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