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第32話 濡れた体操着

 とある日の体育の授業。


 今日は二クラス合同でサッカーを試合形式ですることになり、俺はクラスメイトから受けたボールをトラップして、ゴール前に切り込んでいた。


 そして、ゴールの隅の方をめがけて七割ほどの力でシュートをすると、ボールは簡単にネットに吸い込まれていった。


「よっし」


 俺が小さくガッツポーズをすると、相手チーム味方関係なく黄色い声援がわっと沸いた。


 俺はその声援を聞いて、体をびくんっとさせる。すると、クラスメイトたちが俺のもとにわらわらと集まってきて、ハイタッチを要求してきた。


「伊勢くん! ナイスシュート!」


「さすが伊勢くん! いえーい!」


「伊勢くん、ハイタッチ、ハイタッチ!」


 俺が不慣れな感じで手を上げると、次々に女の子たちがハイタッチをしてくる。


 次々に代わっていく女の子の手の感触を前に、俺は思わず顔を俯かせてしまう。


「(伊勢くん、ピュアすぎてハイタッチしただけで顔赤くしてるっ)」


「(触れちゃった、伊勢くんの手に触れちゃった)」


「(体操服姿の伊勢くん、とてもえっちなのですぅ)」


 何か女子たちがきゃっきゃと盛り上がっているが、俺はただぎこちない笑みを向けることしかできずにいた。


 これっ、やっぱり、いつまでたっても慣れないな。


 俺が体育などで活躍をすると、こうしてクラスメイトの女子たちが一緒になって喜んでくれる。


 その際にハイタッチをすることがあるのだが……俺はただハイタッチをするというだけで、胸をどきどきとさせてしまっていた。


 鈴鹿にもいろいろと手伝ってもらっているというのに、全く女慣れしないのは何なんだろうか。


 俺がそんなことを考えていると、体育の先生が笛を鳴らして試合の終わりを告げた。


「ちょ、ちょっと水飲んでくる」


 俺はそう言って校庭を離れて、一人水飲み場に向かう。


 体を動かした上に女子との接触があったおかげで、体が熱くなっていたので覚ます必要があると思った。


 俺は水飲み場に着くなり、蛇口をひねって水を飲む。それから、頭から水をかぶって頭を冷やしておくことにした。


 いろんな意味で熱くなっていた頭が冷えていくのが心地よく、俺はそのまま少しだけぼーっとしてしまっていた。


「伊勢くん、お疲れ様っ」


「う、宇都宮さん!」


 俺は突然話しかけられて、濡れままの状態で慌てて顔を上げる。


 すると、宇都宮さんが驚いた様子で俺にタオルを俺に差し出してきた。


「ごめんね、驚かせちゃったかな? っ!」

「いやっ、俺が過剰に反応しちゃっただけだから気にしないで……宇都宮さん?」


 俺が手を横にぶんぶんと振っていると、宇都宮さんが顔を赤くしながら俺の首や胸辺りをじっと見つめていた。


 どうしたのだろうかと思っていると、しばらくしてから宇都宮さんは顔をバッと手で隠して慌てた様子で顔を上げた。


「い、伊勢くん! 体操着透けちゃってるよ!」


 宇都宮さんに言われて体育着を見てみると、頭もろくに乾かさないで顔を上げたせいで、結構な量の水が体育着に浸みこんでしまっていた。


「あっ、本当だ。まぁ、今日熱いし体育が終わるころには乾いてるんじゃないかな?」


 俺がそういうと、宇都宮さんは指の隙間から俺を見ながら続ける。


「いやいや、こんな姿で戻ったら体育どころじゃなくなるって! みんな伊勢くんの透けた体育着見て興奮して……とりあえず、髪だけでも拭いて!」


 宇都宮さんはそう言うと、また俺にバッとタオルを差し出してきた。


「え、でも、宇都宮さんのタオルを借りるわけにもーー」


「い、いいからっ! そんなの気にしてる場合じゃないから!」


 宇都宮さんはそう言うと、俺にタオルを押し付けるようにして渡してきた。俺はこれ以上断るのも悪い気がしてタオルを受け取る。


 これ、宇都宮さんのタオルだよな?


 じょ、女子のタオルを使うってなんかまずい気がするんだけど、このまま呆然と立っているわけにもいくまい。


 ただ男の服が透けたくらいで大げさじゃないかと思うが、ここは貞操逆転。


 元の世界で男女逆のことが起こった思えば、宇都宮さんの子の反応にも納得がいくのか。


 俺はそう考えて、宇都宮さんから受け取ったタオルで髪と顔を軽く拭いていく。


 ん? なんかうちの洗剤か芳香剤と似ている?


「い、伊勢くん。髪とか拭き終わったら、保健室に行って着替えもらってこよう。多分、替えの体操着があるからさ」


 宇都宮さんは俺が髪を浮き終えると、ちらちらと俺の方を見ていた。


「え? いや、そこまでしなくても大丈夫だけど」


「大丈夫なわけないでしょ。伊勢くん、変なところで大胆過ぎるっていうか、ちょっと無防備すぎるよっ。ほら、タオルで透けたところちゃんと隠してっ」


 宇都宮さんは顔を真っ赤ながら俺の手を引いて、俺を保健室へと連れていくのだった。


 


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