第29話 girlsサイド:妹はプリクラを兄と撮る
お兄ちゃんは何でもないふうに私を誘って、プリクラ機の中に入っていった。私も遅れてお兄ちゃんの後に続く。
「おお、こうなってるのか」
お兄ちゃんはプリクラ機に入るなり、うきうきした様子でプリクラ機の中を見渡していた。
まぁ、男の子がプリクラ機の中を知る機会なんて、女の子に連れ込まれでもしない限りないだろうし、当然の反応といえば当然なのかもしれないけど。
すると、お兄ちゃんは何も言わずにプリクラ機にお金を投入していった。
「え、お兄ちゃん。私が出すよ」
「いやいや、初のプリクラだし俺が出すって。まぁ、どっちが出しても我が家のお金には変わらないし」
「そうだけど。いちおう、お小遣い制でやってるんだし」
私は慌てて財布を出すが、お兄ちゃんはそう言って笑っていた。
お父さんとお母さんがなくなってから、私たちは二人の保険金と貯金で生活をしていた。
お小遣いもそこから出て入るので、元手は変わらない。
それでも、男の子とお出かけをして男の子にお金を出してもらうというのは、兄といえども少し抵抗があったりするのだ。
『写真の映り方を選んでね!』
すると、そんな音声と共にプリクラ機が設定画面を表示させた。お兄ちゃんと相談しながら設定を選んでいくと、すぐに撮影が始まり、また音声が流れてきた。
『それじゃあ、最初は二人でハートを作ってみようか!』
「い、いきなりハードル高くないか⁉」
お兄ちゃんは音声のアナウンスにそんなツッコミを入れていた。私も少し驚きながら、耳の先を熱くさせながら髪を耳にかける。
プリクラの最後の設定画面で『友達モード』と『カップルモード』があった。多分、そこで『カップルモード』を選んだせいだとは思う。
私は少しだけ胸をどきどきさせながら、右手で半分ハートを作ってお兄ちゃんの左側に立つ。
「『恋人モード』だからね。ほら、お兄ちゃん。早くしないと時間切れになっちゃうから」
「お、おおっ。こ、こうか?」
すると、お兄ちゃんが私の指先の近くに半分ハートを作ってピタッと止まった。その距離は5センチくらい開けられていた。
……お兄ちゃん、私の指先に触れるだけなのにすごい意識してる。
私はそれに気づいてしまい、私はちらっとお兄ちゃんの顔を見てから口元を緩める。
「お兄ちゃん、これだと縁起悪くない?」
私はそう言って、ちょんっと自分の指先をお兄ちゃんの指先と合わせた。
「っ!」
すると、お兄ちゃんはただ妹の私と指先が触れただけで、体がビクンッと跳ねた。
私はそんなお兄ちゃんを可愛らしく思い、笑みを深めてしまう。
それから、一枚目のプリクラが撮り終わると、お兄ちゃんは私と触れ合った指先を離して胸に手を置いていた。
「俺は、初めてハートなんか作ったぞ。は、初ハートが妹っていうのは……勝ち組でいいのんだよな? いや、でも」
『それじゃあ、今度は二人で熱いハグをしてみようか!』
「は、ハグ⁉」
すると、お兄ちゃんが次のプリクラのアナウンスを聞いて声を裏返した。
顔を真っ赤にしているお兄ちゃんを見て、お兄ちゃんが私とハグをする姿を想像したんだなと思って、私は心臓の音を微かにうるさくさせる。
「ほらね。こうやって、どんどん過度な要求を時間制限付きで言ってくるんだよ。だから、普段はやらないことでも、勢いに任せていろんなことをされちゃうの」
「な、なるほど。確かに押しに弱い俺には危険な場所みたいだな。これは危険だな」
私たちがそんな風に話をしていると、シャッター音がして二枚目が撮影された。
そして、プリクラのアナウンスはまた次の音声を流す。
『それじゃあ、今度はキスをしてみようか!』
「き、キスって」
私はアナウンスを聞いてから、アナウンスに困っているお兄ちゃんをじっと見つめる。お兄ちゃんは私の視線に気づいて、一瞬目を見開いた。
私は何か勘違いしていそうなお兄ちゃんの胸にそっと手を当てる。すると、お兄ちゃんの鼓動が尋常じゃないくらい速く大きいものになっていることが分かった。
お兄ちゃん、私にキスされると思って緊張してるんだ。
ぱっと顔を上げてお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんは耳の先まで真っ赤にしていた。
そんなお兄ちゃんを前にして、自然とお兄ちゃんに触れている手に力がこもる。
「……それだけじゃないんだよ」
「す、鈴鹿?」
私はちらっとプリクラのカメラに視線を向ける。お兄ちゃんも私に釣られるようにカメラに視線を向けたのを見てから、私は口を開く。
「ここで変なことされたら、それを写真で撮られちゃうんだよ? そんなところを人に見られたくないから、男の子は静かにするしかないの。騒いだら人が来て恥ずかしいところを見られちゃうからね」
「な、なるほどな。だから、外に聞かれるのがまずいってことか。プ、プリクラがいかに危険なのか、ちゃんと理解したぞ」
「お兄ちゃん、本当に分かってるのかな?」
お兄ちゃんは後ろに数歩下がって私から距離を取ろうとしたが、私はすぐにその距離を埋めてまた胸に手を置く。
すると、さっきよりもお兄ちゃんの心臓の音がうるさくなったのが分かった。
期待しているってことは……しちゃってもいいのかな?
私は無言でじっとお兄ちゃんを見つめてから、目を閉じて背伸びをした。
その瞬間――勢いよくプリクラ機のカーテンのようなものが開けられた。
「「え?」」
「と、当店のプリクラは男女での撮影禁止です! 床を汚す前に早くご退出ください!」
そして、私たちはゲームセンターの女性店員にゲームセンターから追い出されてしまったのだった。
それから、私は追い出されたゲームセンターの外でお兄ちゃんの顔もろくに見れなくなってしまっていた。
あっぶない! また、せっかく嘘を吐いて掴み取った安全な身内という立ち位置を失っちゃうところだった!
あまりにも無防備で純情すぎるから、めちゃくちゃにしたいって思っちゃった!
お、お兄ちゃんに引かれたりしてないよね?
私はそう考えながら、ちらっとお兄ちゃんを見る。
すると、お兄ちゃんは私以上に顔を真っ赤にさせて何も言えなくなっていた。
私はお兄ちゃんが普通でない状態なことをいいことに、大きく咳払いをしてから誤魔化すように笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、一瞬本気で流されそうになってたでしょ?」
「え、流されるって、あっ、キスするつもりはなかったてことか?」
それから、お兄ちゃんがテンパっているのを見て、私はからかうような笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、私妹だよ?」
「そ、そうだよな。そうだよなぁ」
お兄ちゃんはそう言って脱力するように肩を落とした。
も、もしかして、本気で期待してくれていたり? いや、ただ緊張から解放されただけかな?
私はそんなふうに考えて、髪を耳にかける。
「これじゃあ、私以外の女の子とのプリクラは禁止だね。危なっかしいもん、お兄ちゃん」
「ああ。そうしたほうがよさそうだ」
私以外のってことは、私とは撮ってもいいってことなのになぁ。
私とは危なっかしくてもいいってことなんだけど、お兄ちゃんは気づかないみたいだ。
いつか、お兄ちゃんが我慢できなくなったらその時は……。
私はそんなことを考えて、お兄ちゃんの腕を引いてゲームセンターから離れるのだった。
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