第26話 疑い深い妹は寂しがり
「……それで、綾姫さんとのお出かけは本屋に行って、ファミレスで漫画の話をしただけ?」
「そ、そうだけど。えっと」
宇都宮さんと放課後に遊びに行った後、俺は家に着くなりリビングで鈴鹿と向かい合って座っていた。
鈴鹿はむすっとした表情で俺をジトっと見ている。
俺はなんとなく気まずさを覚え、視線を彷徨わせていた。
家に着くまでの道中、鈴鹿はなぜかいつもよりも口数が少なかった。何かあったのだろうかと思ってはいたが、それがまるで分らない。
疑いの目を向けられているみたいだが、何かおかしなことでもあったのだろうか?
おかしなこと……宇都宮さんがやけに次のドリンクを持ってこようとしたこと? いや、あれはただの親切心だし違うか。
俺が頭を悩ませていると、鈴鹿が微かに頬を赤らめて体を前のめりにしてきた。
「ほ、本屋で何か変なことされたりしなかった? その、そういう本を見てるときにそっと手を握られたり、人気がいない売り場に連れていかれたりっ」
「へ、変なこと⁉ へ、変なことってなんだよ?」
俺は思いもしなかった言葉に声を裏返す。
しかし、鈴鹿も同じだったようでワタワタとして視線を彷徨わせていた。
「それはっ、そのっ」
それから、鈴鹿はもじもじとして顔を俯かせてしまった。
……一体、何をどうしたらただ本屋に行くだけでそんな考えになるんだ。
ていうか、鈴鹿は俺たちがどんな本を買おうとしていたって思ってたんだよ。
俺がそんなことを考えていると、鈴鹿は顔を赤くながら俺をちらっと見る。
「……お兄ちゃんのえっち」
「くっ」
なんだその破壊力のあるパワーワードはっ! 血の繋がりがあるはずなのに、普通にドキッとしてしまったぞ。
俺はそんな鈴鹿から視線を逸らして、咳ばらいを一つする。
「と、とにかくっ、宇都宮さんとはそういうのはなかったからっ。誤解がないように訂正だけしておく」
「そ、そっか、なかったんだ」
鈴鹿は胸をなでおろして安堵のため息を吐いた。それから、鈴鹿は腕を組んで小さく唸る。
「男の子と二人きりっていう状況で、本当にそれだけって……うーん。本当にただお兄ちゃんと仲良くしたかっただけ?」
「だから、そうだって。ていうか、鈴鹿どうしたんだよ。何かあったのか?」
「べつに、何かあったっていうわけじゃないんだけどさ」
鈴鹿は言いにくそうにそう言ってから、眉尻を下げて口を開く。
「昨日は高崎くんっていう男の子、今日は綾姫さん。まぁ、お友達と仲良くすることはいいことなんだけど……お兄ちゃんと過ごす時間がどんどん少なくなってる気がしてて」
「いやいや、少なくなってるって言っても数時間だけだって」
高崎も宇都宮も会ったのは放課後の数時間だけなので、両方合わせても半日にも満たない。
一日の大半を鈴鹿と過ごしているわけだし、ほぼ誤差のようなものだと思うのだが。
すると、鈴鹿はしゅんとした様子で小さくため息を漏らした。
「そうなんだけどさ。なんかこのまま私のもとを離れて行っちゃうのかなって」
「お、大げさじゃないか?」
俺は元気がなくなった鈴鹿を前に頬を掻く。
病院の看護師さんに聞いたが、鈴鹿は学校に通っている以外の時間はほぼ俺の病室にいたらしい。
友達と遊びたい年頃だというのに、意識がない俺の部屋にずっといてくれていたのだ。そんな兄が意識を取り戻して少ししたら、他の子たちと連日で遊びだしたら少しさびしさを覚えるのは当然なのかもしれない。
……それにしても、ずいぶんと慕われているんだな。
俺はそう考えてから、恥ずかしさを紛らわすように、わざとらしく明るい口調で続ける。
「じゃ、じゃあ、明日はどこかに出かけるか? その、穴埋めってわけじゃないけど、さ」
「え?」
すると、鈴鹿はパッと顔を上げた。俺は初めて女の子を誘うという状況に耐え切れず、すぐに鈴鹿から視線を逸らす。
いや、女の子といっても妹なんだけどな。
……待てよ。この発言は妹のことを過剰に意識しているって思われないか?
鈴鹿が嫉妬していると確信していないと、この発言は出てこないだろ。ただでさえモテそうな妹相手に、そんな勘違い発言をしてくる兄って気持ち悪がられないか?
俺はそう考えて、すぐに誤魔化すようにぎこちない笑みを浮かべる。
「な、なんてーな。さ、さすがに穴埋めっていう発言は勘違いが過ぎたんじゃないかと、自覚している部分もあるんだどーー」
「ううん、そんなことない! 出かけようよ、お兄ちゃん!」
「あ、あれ?」
「お出かけしよう、私と二人で」
鈴鹿は頬を微かに赤らめて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
……あまり兄に向けていい表情じゃないだろ。
俺はそんなことを考えてしまい、またすぐに鈴鹿から視線を逸らしてしまった。
こうして、俺は昨日おとといの穴埋めをするべく、明日鈴鹿とお出かけをすることになったのだった。
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