第24話 girlsサイド:とある少女の作戦
「まさか、俺の知らないところでそんなことが起きていたとは……」
伊勢くんは私の話を聞き終えて、そんな言葉を漏らしていた。
お昼休み。私は旧校舎の非常階段で伊勢くんとお昼ご飯を食べていた。
私は以前偶然コーヒーショップに寄った際に鈴鹿ちゃんに会ったことと、ファミレスで伊勢くんに危険がないか見ていたこと、その際に鈴鹿ちゃんと連絡先を交換して、鈴鹿ちゃんが伊勢くんの妹だと知ったことなどを話した。
あくまで全て偶然であることを強調しながら。
「本当はもっと早く話したかったんだけど、教室とかで話して他の子に聞かれたら大変かなって思って。ちゃんと言うのが遅くなってごめんね」
もちろん、朝からお昼休みの間にちゃんと話す機会はあった。
それでも、それをこうしてお昼休みに二人きりで過ごせる機会に変えられるから、たっぷりとじらす必要があったのだ。
すると、何も知らない伊勢くんは申し訳なさそうに眉尻を下げる。その可愛らしい眉を愛おしく思っていると、伊勢くんは私から視線を逸らして口を開く。
「い、いや、こっちこそ、気を使わせてごめん。それに、またおかずまでもらっちゃって。めっちゃうまかったです」
「ううん、いいの。作りすぎちゃったし、伊勢くんにおいしいって言ってもらえると嬉しいよ」
今日の朝、私は伊勢くんとこうなることを見越して、朝早く起きて唐揚げを作ってきた。
伊勢くんの好物の一つであるので、ハンバーグ同様に研究に研究を重ねた一品だった。
伊勢くんの言葉にまた少し泣きそうになってから、伊勢くんが唐揚げを食べた爪楊枝をまだ持っていたことに気が付いた。
「あっ、楊枝はこっちでもらっちゃうね」
以前、伊勢くんの口もとを拭いたハンカチの回収に失敗してしまった。
だから、今回は『私が用意したものだし、捨ててしまう爪楊枝だから回収しても怪しまれない作戦』を実行することにしたのだった。
これなら、今度こそ伊勢くんの唇に触れたものを回収できるはず。
「さぁ、伊勢くん。爪楊枝をこっちに貸して」
「え? いいよいいよ。さすがに、ごみくらいはこっちで処分するって」
伊勢くんは何でもないようにそう言って、爪楊枝を軽くポイッと自分のお弁当箱の中に入れて蓋をしてしまった。
「あぁっ!」
「え⁉ ご、ごめん、えっと、え?」
私は思いもしなかった伊勢くんの行動に思わず声を上げてしまった。
伊勢くんは慌てて謝ってくれたが、何が悪かったのか分からない様子で首をかしげている。
その証拠にお弁当の蓋を全く開けてくれない。
……ここで爪楊枝を返してなんて言ったら、絶対に変な子だと思われてしまう。
私は伊勢くんのお弁当箱に伸ばしかけた手をぐっとこらえて、小さく首を横に振る。
「う、ううん。何でもない、き、気にしないで」
「いや、すごい気になるんだけど、大丈夫?」
私が落ち込んでいると、伊勢くんはそんな優しい言葉をかけてくれた。
やっぱり、伊勢くんは優しいなぁ。
もしかしたら、使用済みの爪楊枝をちょうだいって言えば、くれる気さえしてくる。
……いやいや、それだと私が変態だと思われちゃうからっ。
私は首を横にふるふると振って爪楊枝に対する思いを捨てる。
それから、私は思い出したように口を開いた。
「そ、それよりも、伊勢くん。鈴鹿ちゃんを説得出来れば、放課後一緒に遊んでくれるんだよね?」
すると、伊勢くんは何度も頷いてから、少しだけ気まずそうに頬を掻く。
「も、もちろん。でも……鈴鹿が折れる未来が見えないんだけどな」
どうやら、伊勢くんは鈴鹿ちゃんがOKしてくれると思っていないらしい。
確かに、何の策もなしに鈴鹿ちゃんからOKをもらうのは無理だろう。
でも、大丈夫。そのための布石はすでに売っているのだから。
「それは大丈夫。ちょっとした秘策があるからさっ」
私はそう言って、不安げな伊勢くんに得意げに笑みを浮かべるのだった。
「駄目です。綾姫さんと言えども、伴教くんを渡すことなんてできません」
放課後、校門の前で待つ鈴鹿ちゃんに伊勢くんと放課後に遊びたい旨を伝えると、きっぱりと断られてしまった。
鈴鹿ちゃんは伊勢くんを渡すまいと、伊勢くんの右腕に抱き着いて私にジトっとした目を向けていた。
やっぱり、普通にお願いをしてもダメみたいだ。
私はそう考えてから、鈴鹿ちゃんに手招きをする。
「鈴鹿ちゃん、ちょっといいかな?」
「なんですか?」
すると、鈴鹿ちゃんは伊勢くんのほうを見ながら、抱き着いた腕を離して私のもとにやってきた。
私は伊勢くんに聞こえてしまわないように、鈴鹿ちゃんに耳打ちをする。
「伊勢くんが少し見たいものがあるみたいで、それを一緒に見に行きたいんだけど」
「伴教くんが? それなら私が同行するので問題ありませんけど」
「えっとね、鈴鹿ちゃんに見られると恥ずかしいものなんだって」
「恥ずかしいもの?」
鈴鹿ちゃんは眉尻を下げて可愛らしく古典と首をかしげる。
私は少し言いにくそうにしてから、鈴鹿ちゃんに耳打ちをする。
「ちょっとエッチな漫画とかを見たいんだって」
「えっ、えっちなものって……お。お兄ちゃんがそう言ったんですか⁉」
鈴鹿ちゃんはよほど意外だったのか、体をビクンとさせてそう言った。
うん、鈴鹿ちゃんはそっち系の耐久がないみたいだ。
もちろん、伊勢くんと前もってそんな話はしていない。……それでも、この後にそういう話なる予定だから、何も問題はないはずだ。
私はそう考えて、伊勢くんに聞こえない声で続ける。
「ちょっと漫画とかアニメお話になったんだけど、そのときに鈴鹿ちゃんがいる手前、本屋とかでもそういう本を見れないって言ってたの。やっぱり家族に見られるのは恥ずかしいんじゃないかな?」
「それはっ、確かにそうかもしれませんけど」
「鈴鹿ちゃんもえっちな履歴とかお兄ちゃんに見せられないでしょ?」
「あ、当り前じゃないですか……って、私はそんなの見てませんっ」
鈴鹿ちゃんは少しもじりとしてから、ハッとした顔で私を見た。
おや、もしかして、鈴鹿ちゃんってむっつりなのかな? 耐久がないというのは、見当違いなのかもしれない。
私がそう考えていると、鈴鹿ちゃんは不服そうな表情で私の服の裾を引いた。
「なんで私はだめで、綾姫さんはいいんですか?」
「多分、オタク同士だからかな。私もそういうの好きだから、話してくれたんだと思う」
「オタク? 綾姫さんが?」
鈴鹿ちゃんは目をぱちくりとさせて私を見た。
……まぁ、今はそう見えないように色々頑張ってるし、そんな反応になるのもおかしくないのかもしれない。
私はいつも学校で見せるような明るい笑みを浮かべる。
「意外? 結構そう思ってくれる人が多くて、私もそういう話し相手がいなくて困ってたの」
それから、私は鈴鹿ちゃんにぱちんっと両手を合わせる。
「ちょっと本屋によって、そのあとにファミレスでお話しするだけだからさ。その間は、鈴鹿ちゃんも女の子ならではの買い物とかゆっくりできると思うんだけど」
私がそう言うと、鈴鹿ちゃんは一瞬ぴくんっとしてからしばらく考えこむ。それからしばらくして、鈴鹿ちゃんは小さく頷いた。
「……そこまで言うなら、分かりました。少しだけ綾姫さんのことを信じてみます」
「ほ、本当⁉」
すると、鈴鹿ちゃんは喜ぶ私をそのままに、伊勢くんの両肩にぽんっと手を置いて伊勢くんを真剣な顔で見つめる。
「伴教くん、私はどんな伴教くんでも受け入れるからねっ」
「えっと、なんの話?」
伊勢くんがちらっと視線を向けてきたが、私は華麗にスルーを決めた。
とにもかくにも、これで伊勢くんと放課後デートができる!
私は小躍りしそうなくらい嬉しそうな気持をぐっと抑えて、伊勢くんたちに見えないように小さくガッツポーズをするのだった。
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