第23話 放課後デートのお誘い?
「……ふぅ」
俺は鈴鹿と別れてから、下駄箱前で小さく息を吐いた。
ちらっと視線をちらっと廊下に向けると、制服姿で歩く女子生徒たちがいた。俺はそんな女の子たちを見て、昨日の夜と今日の朝送られてきた写真を思い出してしまっていた。
な、なんなんだ、あのめちゃエロい写真は⁉
何が起きたのか、突然俺のもとに知らない連絡先から少しえっちな写真が届くようになった。
下着が見えないぎりぎりのラインまでたくし上げられた制服のスカートと、そこから伸びる細い脚。
昨日の夜は前から、そして今日の朝は後ろから撮影した写真が送られてきた。
めちゃくちゃダイナマイトボディというわけではなさそうだが、なんか逆にそれがエロかったりした。
そして、俺は写真を保存するかどうか迷いに迷い、写真の保存期間を恐れて、しっかりとスマホに写真を保存してしまったのだった。
……一体、誰が俺にあの写真を送ってきているのだろうか?
写真に写っていた制服から、この学校の生徒ではないことは明確だった。そうなると、他の学校の女の子が送ってきたと考えるのが妥当だが、他校の知り合いは高崎くらいしかいない。
高崎が俺の知らない女の子に連絡先を渡すことはないだろう。そうなると、この学校の女の子が他学校の子に制服を借りて俺に写真を送ってきたと考えるの妥当か?
いや、今って知らない人からメッセージが飛んでくるっていうのも珍しくはない時代だ。
「うん、普通は知り合いにあんな写真を送ることはしないよな。そうなると、一方的に俺のことを知っている女の子が送ってきたって感じか」
制服からその子を特定できればいいのだが、正直女子の制服はどれも同じに見えてしまう。女の子に聞いてみればわかるかもしれないが……さすがに、ちょっとエッチな写真を見せれるような関係の女子はいない。
くそっ、ここにきても童貞の弊害がっ。
俺がこつんと靴箱に頭を打ち付けていると、肩をトントンと叩かれた。振り向くと、そこには宇都宮さんの姿があった。
「伊勢くん、おはよう」
「お、おはよう。宇都宮さん」
俺は笑顔の宇都宮さんにぎこちない笑みを返して、頭を横に振って今朝見た写真の画像を忘れようとする。
いかんいかん。いつまでも見知らぬあの子のことを考えているわけにはいかない。
「伊勢くん? どうかしたの?」
「い、いや、なんでもない」
それから、俺は靴を履き替えて宇都宮さんとともに教室に向かうことになった。
すると、宇都宮さんが思い出しように口を開く。
「そういえば、昨日男の子と会ったんでしょ? どうだった?」
「ああ、うん。いい子だったよ。横柄じゃない男もいるんだなって、少し嬉しかったなぁ」
「へぇ、珍しいね。えっとさ、男の子なんだよね?」
「ん? そうだけど?」
俺は質問の意味が分からず首をかしげると、宇都宮さんは『そうなのかぁ。うーん』と言って難しそうな顔をしていた。
何を考えているのだろうかと思いながら、俺は女子と並んで歩いているだけで心臓をうるさくしてしまっていることを情けなく思った。
一体、いつになったら俺も女慣れするのだろうか。
俺は昨日の高崎と女子店員のやり取りを思い出して、ため息を漏らす。
「昨日会った高崎っていう子、男の子だけど俺と違って女子の店員にも普通に接してたよ。俺も店員さんとくらいまともに話せるようにならないとなぁ。いつまで経ってもきょどってはいれないし」
「うーん、そればっかりは慣れだろうねぇ」
宇都宮さんはそう言ってから、眉尻を下げて俺をじっと見る。
「でも、いいなぁ。高崎くんって人、伊勢くんと放課後に二人で遊べるなんて。私のほうが先に伊勢くんの友達になったのに、まだ遊んでもらってないんだけどなぁ」
宇都宮さんはむくれたように片頬を膨らませていた。
う、宇都宮さんが俺と遊びたがっている⁉
そんなことを意識してしまい、俺は胸の音を大きくさせてしまう。
これは流れ的に誘ってみても気持ち悪がられないやつだよな。いいのか? 【年齢=彼女いない歴】の俺がこんな可愛い子を遊びに誘ってしまっても?
……いや、貞操概念逆転世界なら、そこまで怯えないでもいいのかもしれない!
「う、宇都宮さんっ!」
俺は意を決して宇都宮さんをばっと見る。緊張のあまり声が裏返ってしまったが、とりあえずは声を出すことのできた自分を褒めてやりたい。
「なにかな? あっ、もしかして、私とも放課後に遊んでくれるの?」
宇都宮さんは嬉しそうにそうおどけてきた。
「も、もちろーーん?」
ブブッ。
俺が宇都宮さんの言葉に頷こうとしたタイミングで、ポケットに入れていたスマホが小さく震えた。
ブブッ、ブブッ。
俺は数度のバイブ音が気になり、ポケットからスマホを取り出して画面をつける。
すると、そこには鈴鹿からのメッセージが数件届いていた。
『帰りも校門の前で待ってます。学校終わったら、また連絡するね』
『そうそう、体育終わりの体操着は気を付けるんだよ。女の子たちが狙ってるからね』
『洗濯するときに違う匂いがついてたら分かるんだから。変な匂いをつけずに持ち帰ってくること、いいね?』
……匂いで分かるのか? 俺ってそんなに特徴的な臭いがするのだろうか? というか、結構臭うのか?
自分の制服の臭いをかいでみるが、まったく臭わない気がする。
自分の臭いって自分じゃ気づけないっていうし……体臭、気を付けたほうがいいのかな?
「伊勢くん?」
「え? あ、そうだった、えっとーー」
宇都宮さんの声を聞いて、放課後に宇都宮さんを誘おうとしていたのだということを思い出した。
そして、それとほぼ同時に放課後に鈴鹿を待たせていることも思い出した。
宇都宮さんとも放課後に遊びたいが、そうなったら鈴鹿に心配をかけることになるだろう。
というか、鈴鹿が許してくれる気がしない。
それに、今日だって俺のために恋人のふりをして登下校してくれると言っているわけだしな。
俺はそう考えて、宇都宮さんを誘いたい気持ちをぐっとこらえて口を開く。
「ご、ごめん、放課後は大切な人を待たせてるから、そのっ」
「あっ、鈴鹿ちゃんのこと?」
「え、うん。そうだけど」
宇都宮さんはさらっと鈴鹿の名前を出してから、じっと俺を見つめてくる。
ん? 鈴鹿の名前を出したことあったっけな?
「あれ? その感じだと、鈴鹿ちゃんから聞いてないんだ」
「聞いてないって、何を?」
「私、鈴鹿ちゃんが伊勢くんの妹だって知ってるよ」
「……え?」
俺は思いもしなかった言葉に足を止める。
それから、俺は言葉の意味を理解してから、目を見開いて声を裏返す。
「え……え⁉ い、いったいどこで?」
鈴鹿が恋人のふりをしてくれている以上、絶対にばれてはいけないと思って誰にも言わなかった秘密。
まさか、それがばれていたなんて。
「うーん、成り行きというか色々あったんだけど」
しかし、そんな動揺している俺に対して、宇都宮さんは何でもないことのように腕を組んで考え込む。
それから、『あっ』と思い付いたような声を漏らして、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「じゃあさ、鈴鹿ちゃんを説得できたら、放課後私とも遊んでくれる?」
「鈴鹿を説得?」
「うん。だめ、かな?」
宇都宮さんは両手を合わせて、可愛らしくそう言ってきた。
俺が鈴鹿と偽物の恋人のふりをしていることを知った上でのお誘い。そんな意味がありそうなお誘いを前にしてしまうと、当然断ることなどできるはずがなかった。
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