第22話 girls×girls。とある妹は実況に食いつく。
「まさか、あんな形でお兄ちゃんのクラスメイトにバレるなんて」
私はさっきのやり取りを思い出して、小さくため息を吐く。
昨日、電車で押し出された後、お兄ちゃんは男の子と偶然駅のホームで会って仲良くなったらしい。
今日はその子とファミレスで話してくると言っていたから、私もファミレスの少し離れた席でお兄ちゃんのことを待っていようと思っていた。
でも、お兄ちゃんが仲良くなった男の子は、女子から視線を向けられることが苦痛らしく、私がファミレスに入ってくることも嫌らしい。
私以外の他の女の子がいるわけだし、問題なくない? と思ったが、彼にも彼なりの事情があると思い、私はこうしてファミレスの正面にあるコーヒーショップでお兄ちゃんを待つことにしたのだった。
その際中にお兄ちゃんのクラスメイトに遭遇して、私がお兄ちゃんと偽装カップルをしているということがバレてしまった。
「他の人には言わないって言ってたけど、信じていいのかな……あっ、メッセージきた」
すると、綾姫さんからメッセージが送られてきた。
宇都宮綾姫:『伊勢くん、可愛い女の子といるんだけど。男の子どこにいるの?』
「お、女の子⁉」
私は綾姫さんのメッセージを見て、思わず立ち上がってしまう。
まさか、あのお兄ちゃんが私に嘘を吐いて、女の子と密会していたってこと⁉
私は一瞬考えたくないことを考えてしまう。
「ん? あれ? もしかして……」
それから、私はお兄ちゃんが今日会う男の子の特徴をふと思い出した。
私は立ち上がったままスマホを高速で操作して、綾姫さんにメッセージを送る。
伊勢鈴鹿『もしかして、その人ショートカットですか?』
宇都宮綾姫さん:『うん。肩くらいの長さのショートカット』
私は綾姫さんのメッセージを見て、安堵のため息を吐く。
それから、私は椅子に座り直して軽やかにスマホを操作してメッセージを送る。
伊勢鈴鹿『多分、その人男の子なんだと思います。お兄ちゃん、女の子みたいな容姿の男の子って言ってましたから』
宇都宮綾姫さん:『男の子なの? お人形さんみたいに小さくて可愛い子だけど』
伊勢鈴鹿『お兄ちゃんも初めはびっくりしたみたいです。でも、確証を持っていたみたいなので、間違いはないかと』
宇都宮綾姫さん:『そうなの? まぁ、それならそうなのかな? 確かに、伊勢くんがいつもよりもリラックスしてるし、男の子なのかも』
私はメッセージを見ながら、ミルクとガムシロップを二個ずつ入れたアイスコーヒーをすする。
糖分を摂取したおかげで落ち着きを取り戻した私は、昨日お兄ちゃんが言っていた言葉を思い出す。
確か、お兄ちゃんが男か疑ったら、公共の場でズボンを下ろして証拠を見せようとしたって言ってたっけ?
さすがに、どれだけ顔が可愛くてもそんなことをする女の子はいない。女の子がそんなことをしたら、すぐに警察に連行されちゃうしね。
私はそんなことを考えて少し笑ってから、また綾姫さんにメッセージを送る。
伊勢鈴鹿『お兄ちゃん、ナンパとかされてないですかも?』
宇都宮綾姫さん:『今のところは大丈夫そう。多分、周りも伊勢くんと話してる子を女の子だと思ってるんじゃない? チラチラ見てはいるけど、話しかけたりする人はいないよ』
宇都宮綾姫さん:『あっ、店員が何か渡した』
伊勢鈴鹿『な、何かって何ですか?』
私は慌てて返信をすると、食い入るようにスマホを見る。
宇都宮綾姫さん:『なんだろ。紙? あっ、伊勢くんの友達が店員から渡された紙を隠した。すごいスムーズだったね。店員さんが肩を落として引っ込んでいったよ』
伊勢鈴鹿『阻止できたってことでいいんですよね?』
宇都宮綾姫さん:『うん。問題ないみたい。とりあえず、引き続き進展があったらメッセージ送るね!』
伊勢鈴鹿『分かりました。よろしくお願いします!』
それから、いくつかメッセージが跳んできたが、特にお兄ちゃんにちょっかいをかけてくるような女の人は現れなかった。
私は落ち着いてきたメッセージの画面を見て、小さく呟く。
「綾姫さん。結構良い人なのかも……いや、どうなんだろ」
それから、私は綾姫さんがコーヒーショップを出る前に話した会話を思い出すのだった。
「それじゃあ、いってくるね」
綾姫さんは私と連絡先を好感してから、笑顔で私に手を振って店を後にしようとした。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん? 何かな?」
「……なんでこんなに協力してくれるんですか?」
私とお兄ちゃんが兄妹で偽装カップルをしているとバレれば、お兄ちゃんの学校の女の子達は目の色を変えてお兄ちゃんを狙うと思っていた。
それなのに、綾姫さんは私が妹だと告白する前と後で特に態度が変わっていない。私はそこに違和感を抱いていた。
すると、綾姫さんは顎に人差し指を置いて少し考える素振りをした。
「ご飯を食べるついでだから、かな?」
「そういうのじゃなくて、本音が知りたいです」
私が真剣な顔で綾姫さんをじっと見ると、綾姫さんは脱力したような笑みを浮かべた。
「変わるきっかけをくれた人だから、変な女の人とくっついて欲しくないの」
「変わるきっかけ?」
「今言えるのはそれだけ。伊勢くんを守りたいっていう意味では、鈴鹿ちゃんと似てるのかもね」
綾姫さんはそう言い残すと、手を振ってコーヒーショップを後にした。
「……劣情任せにお兄ちゃんに近づいているって訳じゃなさそうだし、少しくらい信頼してもいいのかも」
私はそんな独り言を漏らして、綾姫さんからの新たなメッセージを待つのだった。
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