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第2話 貞操概念逆転世界へ

「知らない天井だ」


 時は俺が高校に入学する数か月前に遡る。


いつも通り深夜までアニメを観た俺は、睡眠不足で頭をボーとさせながら目を覚ました。


しかし、ベッドに寝ころびながら見える天井は、俺部屋の天井とは違うものだった。それから、辺りを見渡してここが自室ではないことが分かった。


 少しの消毒液臭さと埃っぽさをまるで感じない空気。そして、俺の左隣には点滴があってーー


「え? 病院?」


 俺は思いもしなかった状況と、かすかすになっている自分の声に驚きを隠せずにいた。


 なんで俺は病院にいるんだ?


 ていうか、なんでこんなに声がかすれてるんだ?


 体を起こして辺りを確認しようとするが、体が上手く動かない。


 なんだこれ、金縛り? いや、金縛りとはなんか違う気がするぞ。体に力は入るんだが、体を起こせるだけの力が自分にないかのような感覚だ。


 初めての感覚だぞ、こんなの。


「おにい、ちゃん?」


 俺がそんな状況に戸惑っていると、俺の右隣りから女の子の声が聞こえてきた。俺は少しだけ首を右に動かして、声のする方に視線を向けた。


 すると、そこには初めて見る可愛らしい女の子が立っていた。


 宝石のように綺麗な瞳と、新雪のような透明感のある肌。小さな桜色をした唇がアクセントになっている。


おさげのようなカントリースタイルのツインテールで長い髪を縛っており、幼さと真面目さを兼ね備えたような女の子。


 そんな子が俺を見て、頬に一筋の涙を流した。


 あれ? 今この子俺を見てなんて言った?


 俺が目をぱちぱちとさせていると、その女の子は持っていた荷物をその場に投げ捨てて、俺に抱きついてきた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」


「お、おおっ⁉ お兄ちゃん?」


 俺はかすかすな声でそう言うが、女の子は俺の声が全く聞こえていないで、俺に抱きつて離れない。


 いや、お兄ちゃんって……俺に妹なんかいないぞ。


 しかし、いくらそう考えても女の子は俺に強く抱きついて離れようとしなかった。


 それから、女の子は涙で顔をぐちゃぐちゃにさせてから、思い出したように顔を上げた。


「そ、そうだ! 先生呼んでこないと!」


 女の子は慌てたように俺から離れてそう言ってから、状況を呑み込めていない俺を見てにこっと笑みを浮かべた。


「すぐに戻ってくるからね、お兄ちゃんっ」


 女の子はそう言って、俺の前から走っていなくなったのだった。


 一体、何がどうなっているのか。


 その答えは案外すぐに分かることになる。




 それから、すぐに女性のお医者さんが俺の病室にやってきた、簡単な検診をし始めた。


 今はさっき俺のことを『お兄ちゃん』と言っていた女の子は病室の外にいる。


 特に問題はなさそうな雰囲気だったのだが、俺がいくつかの質問に答えてから急にお医者さんの顔が曇り始めた。


 お医者さんは看護師の方と顔を見合わせてから、再度俺を見つめる。


「もう一度質問します。あなたの名前は?」


「伊勢、伴教です」


「家族構成は?」


「父と母……がいるだけです」


「両親だけ? 妹さんがいたのは覚えてない?」


「いや、覚えていないも何も俺に妹はいませんって」


 俺がそう言うと、お医者さんはペンを走らせて何かを書き出した。


「一部記憶障害ありっと。あなたは昨日何をしていましたか?」


「き、記憶障害? えっと、深夜までアニメを観てました。その、ラブコメ物を」


「ラブコメ? それってどんな作品だったか覚えてる?」


「ええ、まぁ。定番の奴ですよ」


 それから、俺は昨日見たアニメの内容をさらさらっと話した。特に変わり種でもない普通のラブコメ。


 その後に一般常識のような質問を異常に多くされて、俺は眉根を寄せながら分かる範囲で色々と答えた。


 お医者さんは一通り聞き終えると、深く頷いてから興味深げに口を開く。


「なるほど、夢の中で普通に生活をしていたことになっていたと。伴教さんの夢の中では男女比がほぼ変わらず、男性の性交渉未経験率が高い。この世界とあべこべみたいな世界が伴教さんの頭の中で形成されていたと」


「あべこべ? え、何の話ですか? ていうか、声が上手く出なくて力が入りにくいんですけど、何かの病気なんですか?」


 俺はお医者さんの言っている言葉に意味が分からず、首を傾げる。


 すると、お医者さんは真剣な表情で俺を見つめてきた。


「伴教さん。落ち着いて聞いてください。伴教さんは交通事故に巻き込まれて六年間意識不明の重体でした」


「……はい?」


「ご両親は助かりませんでしたが、伴教さんの意識が戻ったのは奇跡のようなものです。今は久しぶりに声を出したり、体を動かしたりするのに体が慣れていないだけですよ」


「いやいや、え? 交通事故? 意識不明の重体? 俺、昨日まで普通にアニメ観てダラダラしていましたよ」


 俺はお医者さんの言っている言葉の意味が分からず眉根を寄せる。


 しかし、お医者さんも看護師さんも俺の言葉を悲し気な表情で聞くばかりだった。


 いやいや、なんで俺が可哀想な子扱いされてんだ?


「嘘じゃないですって。そうだ、同じクラスの小田とか南海って男に聞いてみてくださいって。先週、男のオタク連中でアキバに行ったばかりですから」


 俺がそう言うと、お医者さんは小さく首を横に振る。


「同じクラスに男の子が三人もいるなんてこと、ありえませんから」


「ありえない?」


「ええ。だって、この世界の男女比は1:50ですから。同じクラスに男の子がそんなにいませんよ」


「男女比が1:50? え、一体何の話をしてるんです? 小説か何かの話ですか?」


 俺が唐突過ぎる話についていけずにいると、お医者さんはこの世界の常識について色々と教えてくれた。


まず一つ目、この世界では男女比率が1:50らしい。そのため、男子は貴重な存在とされているらしい。


そして二つ目、この世界は俺の知っている貞操観念と真逆の貞操観念を持っているらしい。


 いやいや、俺の知ってる世界と違い過ぎないか? そんなのWEB小説でしか聞いたことのない設定だろ。


 ん? WEB小説でしかない設定?


 俺は思わずそんなふうに突っ込みそうになってから、現状を再度確認する。


 目を覚ますと知らない病室で寝ていて、WEB小説のような世界の常識を当たり前のように語られる。


 これって、WEB小説の冒頭部分みたいだよな。


 ……もしかして、俺って男女比のバグった貞操観念逆転世界に転移してる?


 こうして、俺は自分がパラレルワールドのような世界に転移してしまったことを知るのだった。



少しでも面白かった、続きが読みたいと感じてもらえたら、

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