第18話 冤罪から始まる友人関係
貞操逆転世界で、多くの女性がいるという電車の中で男は俺一人きり。
これって、あまり良いとは言えない状況だよな?
俺はそう考えて辺りを見渡す。すると、多くの女性が俺のことを見ていたことに気がついた。
そして、俺と目が合うとすぐにパッと視線を逸らす。
うん……たくさん見られはするみたいだが、別に何か変なことをされるという訳ではなさそうだ。
そりゃあ、そうだ。別に男女比がバグって世界の貞操観念が逆転している状況で男一人で電車に乗ったからって痴漢をされるわけじゃない。
ん? 本当にそうなのか?
俺は胸を撫でおろそうとして、ピタッと止まった。
そして、次の瞬間、俺のお尻の形に添わすようにそっと手のひらが置かれた。
「っ」
俺は一瞬何が起きたのか分からなくなり、体を固くさせる。
すると、俺のお尻に触れてきた手は俺の知りを撫でまわしてきた。
これって、痴漢ってやつなのか?
俺は初めて遭遇する痴漢に驚きを隠せずにいた。何かの間違いかと思って少し泳がせると、その手は俺のお尻の感触を味わうようにお尻を揉みしだいてくる。
……いや、なんで俺の尻なんか触ってんだ?
俺は恐怖心よりもそんな疑問の方が勝ってしまっていた。
いや、この世界ではそこまで珍しいことではないのか? 鈴鹿が必死に俺を守ろうとしてたのは、こういう事案が結構な確率で起こるからなのかもしれない。
俺はそんなことを考えていると、徐々に俺のお尻を触っている手がお尻の下から徐々に前の方に伸びてこようとしていた。
いや、他人にそこを触れるのは色んな意味で怖いって!
俺はその手が伸びてくる前に、反射的に俺のお尻を触っている手を掴もうとした。
ガタンッ!
すると、いきなり電車が激しく揺れて、俺が掴もうとしていた手をつかみ損ねてしまった。
そして、掴み損ねてしまった勢いで、俺は近くにあった別の手を掴んでしまった。
「あっ、やばっ」
「え?」
俺が手を掴んでしまった女の子は、ジャージ姿の可愛らしい小柄なショートカットの女の子だった。黒色のクリっとした目はどこか小動物を彷彿とさせ、庇護欲が掻き立てられる。
み、見知らぬ女の子の手を掴んでしまった!
俺が慌てて手を離そうとすると、それ以上にショートカットの女の子が慌てて顔を横に激しくブンブンッと振った。
「ち、違います! 僕痴漢じゃありません! こっち、こっちの人です! 僕はこの人を捕まえようと思って手を伸ばしたんです!」
ショートカットの女の子はそう言って、すぐ隣にいるOL風なお姉さんを指さした。すると、OL風なお姉さんはショートカットの女の子を強く睨みつける。
「違います! 私、何もしてません! 絶対にこっちの人です!」
そして、OL風のお姉さんはそう言って、ショートカットの女の子を指さした。
いや、俺が掴み間違えただけだから、ショートカットの女の子は無実なんだけど。
俺がそう言おうとしたとき、ショートカットの女の子が強く目をつむって大きな声を出した。
「本当に僕じゃありません! だって……だって、僕男の子だから!」
「え、お、男?」
俺は思いもしなかった言葉に目を見開く。
こんなに可愛いいのに男? いやいや、胸は控えめではあるけど、体つきが男とは違くないか? こんなお人形さんみたいな男がいるはずないだろ。
いや、もしかしたら、女性が圧倒的に多いこの世界ではこういう男の子がいてもおかしくない、のか?
俺がそんなふうに困惑していると、電車が次の停車駅に到着した。
「ちっ! どいて!」
すると、扉があいた瞬間、OL風の女性が俺を押しのけて扉の外に出ていってしまった。
「あっ、ちょ、ちょっと!」
俺が慌てて追いかけて扉の外に出ると、OL風の女性はこちらを一瞬振り返ってから猛ダッシュでホームをかけていった。
そして、そのまま人ごみに消えて言ってしまった。
「はやっ、どんだけ速いんだよ」
「行っちゃいましたね。逃げるの早いなぁ」
すると、さっきのショートカットの女の子が俺と並んでOL風の女性がいなくなった跡を見つめていた。
いや、ショートカットの女の子じゃなくて、ショートカットの男の子なのか。
俺がそんなことを考えていると、電車の扉が閉まって俺たちを置いて加速していってしまった。
「「あっ」」
そして、走り去っていく電車を見て、俺たちはそんな間の抜けた声を上げていた。
すると、ショートカットの子は、ちらっと俺を見上げてから電光掲示板を指さす。
「えっと、次の電車待ちましょうか」
「次の電車か。またさっきみたいに混んでそうですね」
俺はさっきの人混みを思い出して苦笑する。
すると、ショートカットの子は何かに気づいたように声を漏らす。
「あっ、そうですよね。痴漢に遭った後にすぐに電車に乗るのは怖いですよね」
「いやいや、そういうわけじゃないです。そういうわけじゃなくてですね……」
俺は気を使わせてしまったと思い、首を横に振ってからショートカットの子をじっと見る。
だめだ。さっきからどうしてもこの子が女の子にしか見えない。この後の電車がいつ来るか以上に気になってしまう。
「なんですか?」
俺がそんなことを考えていると、ショートカットの子がこてんと可愛らしく首を傾げた。
ちょっとした所作とか、サラッとしている髪質がどう見ても女の子にしか見えない。
俺はそのことがどうしても気になってしまい、控えめに口を開く。
「本当に男の子、なんですか?」
「え゛! そ、そうですよ。僕男ですけど何か?」
俺が聞くと、ショートカットの子は分かりやすく慌てだした。
「いや、とても男の子には見えなくて」
「そ、そこまで言うなら証拠見せてもいいですけど!」
すると、ショートカットの子は目をぐるぐるとさせながら、ジャージのズボンに手をかけた。
それから、意を決したようにズボンを下ろそうとしたのを見て、俺は慌ててその子の手を掴む。
「い、いや、大丈夫です! そ、そこまでしてもらわなくても!」
こんな女の人が多くいる状況で男がパンイチになったら何が起こるか分からない。
ていうか、ここまで本人が言っているのなら、男で間違いないのだろう。仮に女の子だとしたら、あまりにも行動が変態的過ぎる。
男の子、か。
この世界では男が圧倒的に少ない。そうは言っても全くいないわけではないので、街中や学校で見たことがある。
しかし、俺が見たことのある男たちは女性を侍らせている横柄な態度の男たちばかりで、近寄りたいとは思えない人たちが多かった。
それに引き換え、この子はどうだろうか?
痴漢を捕まえようとする正義感があり、俺が怖がっていないかという気遣いもできる。今まで見てきたどんな男の子よりも優しさがあり、横柄の欠片もない。
この世界で男友達がいない俺が、初めて仲良くしたいと思った男の子なんじゃないだろうか?
俺はそう考えて、 控えめに口を開く。
「あの、よければ俺と友達とかになってくれないかな、なんて?」
「友達? ぼ、僕と? え、なんで?」
「その、男同士仲良くできればいいなって」
「男同士?」
すると、ショートカットの子は一瞬眉をひそめてから、思い出したような声を上げる。
「……あっ! 男同士ね! うん、うん、男同士だ!」
俺の言葉を聞いて、ショートカットの子はまた落ち着きがなくなる。そんな姿を見て、俺は自分と近いものを感じずにはいられなかった。
「俺は伊勢伴教。よろしく」
「ぼ、僕は高崎梅花。えっと、よろしく」
高崎梅花はそう言うと、眉根を下げて小さく笑った。
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