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第1話 童貞って清純派ヒロインらしい

 近年、WEB小説では様々なジャンルのラブコメがブームとなっている。


 寝取られざまぁモノや、ヒーロー主人公モノ、はたまたちょっとしたきっかけでハーレムを築くモノ。そして、王道の甘々モノ。


 そんな新しい切り口の物語の設定や、可愛らしいヒロインとのやり取りにドキドキしながら俺はスマホをスクロールしていた。


 そして、そんな中でも、俺は貞操観念逆転モノというものが好きだった。


 貞操観念逆転モノというのは、その文字の通り男女で貞操観念が逆転した世界に転生・転移してしまうという物だ。


 さらに、その世界では圧倒的に男子が少なく、普通に過ごしているだけでも女子が寄ってきてくれるらしい。


 そんな夢のようなアニメか漫画のような世界に憧れない男子はいないだろう。


 かくいう俺も、そんな世界に夢を見たひとりだった。


 たとえ、現実世界で彼女がいない歴=年齢の俺でも、そんな世界に転生・転移ができればモテモテになって、アニメのようなハーレムを築けるはず!


 ……そんなふうに考えていた時代が、私にもありました。




「やった! 男子いるじゃん!」


「はわああ! 同じ空間に男の子がいる!」


「かっこよくない? かっこいいよね⁉」


 入学式前にクラス分けされた教室に向かうと、クラスの女子たちが俺を見るなりそんな言葉を口にしていた。


 俺は当たり前のように俺以外の男子を探して見るが、教室には俺以外の男子がいなかった。


 俺は眉根をひそめてから、首を傾げる。


 彼女たちの視線が俺に向けられていたのを確認して、この世界の男女比がバグっていることと、貞操観念が逆転しているということを思い出した。


 それから、俺が教室を見渡すと、教室にいる女子たちが皆俺をじっと見つめていたことに気がついた。


 珍しいものを見るとかではなく、異性に向けるときの独特の視線。


 俺は慣れないその視線を受けながら、黒板に書かれている自分の席を確認して慌てるように席に着いた。


(「え、何今の初心な反応」)


「(可愛くなかった? ねぇ、可愛かったよね⁉)」


(「漫画の中のキャラクターみたいですぅ」)


 俺は貞操観念逆転の世界にいるという緊張感と期待感から、心臓の音をうるさくさせていた。


そのせいでざわつくクラスメイトの声は聞こえなかった。


 それにしても……俺がイケメン扱いされる日が来るなんてな。さすが、男女比がバグった貞操観念逆転世界というだけはある。


 俺、伊勢伴教いせとものりはイケメン扱いを受けるほど顔はよくはない。悪くはないとは願いたいが、クラスで注目を集めるようなイケメンなんかではない。


 その証拠に、前にいた世界では年齢=彼女がいない歴。そして何を隠そう、童貞だったのだから。


 しかし! 俺はなんの奇跡か貞操観念逆転世界に転移することになったのだ!


 きっと、今まで見てきた貞操観念逆転世界モノのラノベのように俺にもハーレムができるはず!


 ……まず初めは、隣の子に挨拶をしないとな。


 そして、前の世界の中学時代のように、男オタクどもとつるむだけの学生生活とはおさらばだ!


 俺はそう考え、気を引き締めて右隣に座る女の子を見て口を開く。


「あ、あのっ!」


 ハーフアップにしてあるブラウン色をした腰まであるさらっとした髪。硝子細工のように繊細で長いまつ毛に、白磁のような肌。


 そして、瞳の奥を覗いてくるかのように澄んだ大きな瞳。


 そんな絵にかいたような美少女が俺を見つめていた。


「え? な、なにかな?」


 突然話しかけられた女の子はぴくんっと体を小さく跳ねさせてから、目をぱちぱちっとした。


 俺はそんな女の子とろくに視線も合わせられず、斜め下の方を見る。


「お、俺っ、伊勢伴教っていいます。えっと、よ、よろしく」


「う、うん、よろしく! 私、宇都宮綾姫うつのみやあやめ


 俺がそう言うと、女の子は嬉しそうに笑ってくれた。


 俺はそんな女の子にぎこちない笑みを返してから、小さく開いた口を開けたり閉じたりして頭をぐるぐると悩ませていた。


「えっと、すーっ……本日はお日柄もよく……よい、ですな」


「うん?」


 すると、宇都宮綾姫は困ったようにこてんと首を傾げてしまった。俺はバッと勢いよく宇都宮綾姫から顔を逸らして、目をぎゅっとさせる。


 だ、ダメだッ!! 女子と普通に話すことなんかできるか!


 情けない話だが、俺は前いた世界でまともに女子と会話をした記憶がない。彼女がいない歴=年齢だぞ! それが当たり前だろ!


 俺は誰にもぶつけられない怒りを覚えながら、大好きな貞操観念逆転世界モノのことを思い出す。


 俺は貞操観念逆転世界モノで唯一許せないことがある。


それは……あいつらが女子相手に気軽に話しかけたり、さりげなく可愛いとか言っちゃったりするところだ!


 そんなことがさらっとできれば、貞操観念逆転世界でなくてもモテるだろ! いい加減にしろ! そして、お願いだから俺に女子との話し方を教えてください!


 俺はそんなことを考えて、深くため息を吐く。


 どうやら、年齢=彼女がいない歴の俺が貞操観念逆転世界に来ても、簡単にモテモテルートには入らないらしい。


 せっかく、貞操観念逆転世界にきたのに、勿体なさ過ぎるだろ。


 俺はさっきのやり取りを見ていたクラスメイトにひそひそ話をされ、さらに少しへこんでからもう一度ため息を吐くのだった。




(「ねぇ、今女子相手に自分から挨拶した?」)


(「それに、話を広げようとしてたよね? 男の子って女子が話を広げてあげないとつまらなそうにするのが普通じゃないの?」)


(「女子に慣れていない感じで、凄く照れてましたぁ。アニメのキャラクターみたいですぅ」)


 伊勢伴教の宇都宮綾姫への対応は、この世界では考えられないようなものだった。


 男子が少ないこの世界では、男子は貴重な存在としてもてはやされる。男子が何もしなくても女子は寄ってくるので、男は年と共に態度が大きくなっていくものなのだ。


 普通に考えれば童貞臭い行動の数々。しかし、それらはクラスメイトの女子たちの中では次のように変換されていった。


【急に女子に話しかけてきた陰キャ→女子に話しかけてくれる優しい男子】

【女子と目を合わせられない陰キャ→初心で純粋な人】

【女子との会話がまともにできない陰キャ→女慣れしていない誠実な殿方】


 そして、そんな伊勢伴教の言動を前に、クラスメイトの女子たちは伊勢伴教のことをこう思うのだった。


(((伊勢伴教くんって、清楚美男子系なんだ!)))


 貞操観念逆転世界に童貞臭い主人公が転移した結果、そんな大きな誤解を生むことになるのだった。


 こうして、ただの彼女がいない歴=年齢の伊勢伴教の高校生活が幕を開けた。


少しでも面白かった、続きが読みたいと感じてもらえたら、

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何卒宜しくお願い致しますm(__)m

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