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それは人類の背負いし宿業 〜闘争は終わりを知らず〜

お食事中の方はプラウザバックしてください。

 固く閉ざされた堅牢な門が聳え立っている。


 その門の内側には身の丈程もある大きな盾を構えた門番が整列し、物々しい雰囲気だ。

 そして特徴として……彼等は門の外ではなく、内側へ向けて構えている。


「来た……」


 その呟きは誰のものか。

 門へと続く街道、その奥から土煙が上がり、一直線に近付いて来るのが分かった。


「来るぞ! 構えろ! 絶対に奴等を通すな!!」


 指揮官らしい門番が声を張り上げ、騎士達は気合いを入れる。

 間もなく土煙――薄汚れた身形の暴徒の群れと激突した。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」


 金属鎧を着込み盾を構えた門番に対し、暴徒は身一つで体当たりする。

 当然、揺るぎもしない。だがそれは、一対一なら。

 暴徒の数は門番の数倍に及ぶ暴徒が続々とぶつかって来る。先に突撃した同胞を押し潰して、次々と、雪崩のように。

 自爆とも言える攻勢に、重装備で固めた門番も徐々に態勢を崩して行く。


 怒声と鈍い打撃音があちこちで響く。


「出せ! ここから出せえええぇぇぇぇ!!」


 暴徒が吠える。


「貴様らを出す訳にはいかん! 下がれ!」


 負けじと声を張る門番。


「なぜ止める!? 俺達を留める意味など無い筈だ!」

「分かっている! 本当は貴様らを送り出すべきだと! でも今は駄目なんだ!!」


 そう、本来なら暴徒を留めるべきではない。彼等を留めた所で街を汚し、住民に悪影響を与えるだけなのだから。

 門番とて分かっている。彼等を望むままに送り出す事こそ最善けれど。


()からの命令か」

「……」

「はっ、日和やがって。結局てめぇらは街の安全より、上の理不尽な命令のが大事なんだ」

「……黙れ」

「ご苦労なこったなぁ! 守るべき住民を危険に晒して命令に従わなきゃいけないなんてなあ!」

「黙れと言ってる!!」


 ガンッ!

 これまで、暴徒を押し留めはしても決して反撃はしなかった門番が盾を振り回した。

 暴徒はさらりと避けてダメージの一つも入らなかったが、門番は己の行いに愕然とし、棒立ちになる。自分は、何を……。


 そんな門番を嘲笑い、暴徒は歌うように言う。


「そんなてめぇらに朗報だ! 俺等が、てめぇらを楽にしてやるよぉ!!」


 何を、と訝る門番。そして気付く。前方――暴徒達が押し寄せたのと同じ方向から来る、新手。


「なっ……丸太、だと!?」


 ニヤリと嗤う暴徒。

 その新手は、数人で丸太を担いで走る暴徒。それが十数も。

 硬く重い丸太。しかもそれが人力とはいえ速度を持ってぶつかって来たら。


「総員構えーー!! デカいのが来るぞーー!!」

「ははははははっ! そぅら、退きなぁ! 怪我するぜえええぇぇぇっ!!」


 勢い付いて迫る丸太に、門番の数人は恐れをなして門の前から逃げ出した。

 そして残りは。


「怯むなあああぁぁぁ!! 気張れええぇぇぇっ!!!」


 多くの門番が、踏み止まった。


 ガアアアアンッ!!


 丸太と盾がぶつかり合う。衝撃に盾も丸太も吹き飛び、門番と暴徒、敵味方を問わず地面に転がった。

 吹っ飛んだ丸太は多くが明後日の方角に転がったが、幾つかは門へと飛ぶ。

 そのうちの一本が、まるで意志を持っているかのように真っ直ぐ門の中央へと突き刺すような軌道を描いた。


「おおおおおおぉぉぉぉ!!」


 その前に、一人の門番が立ちはだかった。

 丸太の重さと飛んで来た運動エネルギーが、門番を襲う。後ろに下がれば、ある程度はそのエネルギーを逃がせただろう。けれどすぐ後ろは門。

 僅かな衝撃さえも与えまいと、門番は踏ん張る。

 結果は。


 ドッ……

 ドサッ


 丸太と門番が、ほぼ同時に地面に転がった。

 その直前、門番と門の間には、僅かながら隙間があった。

 彼は、耐え切ったのだ。


 門番は倒れたままチラリと振り返り、何事も無く閉ざされた門を見上げ、満足気な笑みを浮かべた。

 そこに近付く、一つの影。


「なぜだ?」


 静かな声音だった。

 先のような、怒りも嘲りも無く。ただ、ただ、静かな疑問だけがあった。


「俺達は、出て行かなきゃならない。お前達の役目は、俺達を送り出し、速やかに門を閉める事。そうだろう? どうして止めるんだ。本来の役目無視した命令に、なぜそこまでするんだ?」


 どこか悲哀さえ感じる言葉に、門番は倒れ伏したまま、困ったように笑い、弱々しく言う。


「分かってる、よ……。間違ってるのはこっちだってさ。……お前達を…送り出す気、だって、あるんだ。でも、でもだ、今だけは、駄目なんだ。……頼む、少しだけ、待ってくれ……」

「またそれか」


 堂々巡り。どうして。自分達はいつまでこんな不毛な諍いを続けなきゃいけない?

 それはどちらの想いか。どちらも、本当はこんな諍いなどしたくないのに。


 そして、それは唐突に訪れた。




 ギギギギ……、と。

 重い音を立てて、門が外へ向けて開かれた。




「!?」

「ああ、間に合った……」


 雄叫びを上げて外へと殺到する暴徒の群れ。

 それを苦笑しつつ見送る門番達。


「……通すならさっさと通せっての」

「だからあと少しだと言ったじゃないか」


 繰り返したやり取りを、今度は違うニュアンスで交わす二人。

 暴徒は、はあ……、と疲れたような溜め息をこぼして外へと足を向けた。

 ふと、足を止めて門番を振り返る。

 何か言いたいような、でも掛ける言葉など見つからなくて。


 直ぐに前を向いて足を進める。……後ろ手に、ひらりと手を振って。

 そんな暴徒に、門番もなんとも言えない心地になる。

 でも、そう、自分達はこれで良いのだ。彼等とはもう二度と会う事は無い。自分達の仕事は、彼等が全員無事に出て行ったのを確かめて、また門を閉ざす事なのだから。


「閉門!」


 号令と共に、門は再び閉ざされた。

 さて、配置に戻ろう。






 ▲ ▶ ▼ ◀ ▲ ▶ ▼ ◀ ▲ ▶ ▼ ◀ ▲ ▶ ▼ ◀






 とあるビルの一室。今まさに会議が終わり、会議室から続々と人が出ていく。

 そのうちの一人、ある男が部屋を出るなり競歩かとツッコミたくなる挙動で足早に移動する。ビジネスライクな笑みを貼り付けたままなのに、なぜか鬼気迫ると言った様相で。


 その男が一直線に向かった先は――トイレ。

 空いた個室に体当たりでもするかのような勢いで飛び込み男の心情を表すように音を立てて扉が閉まり鍵を掛ける。そして。




 〜BGM:清流のせせらぎ〜









 ――かくして一つの戦いの幕は降りた――


 ――しかしそれは平和の訪れを意味しない――


 ――戦いの幕は再び上がるだろう――


 ――会議が無駄に長引く限り――


 ――男の胃腸が弱い限り――


 ――真の平和は、訪れる事は無いのだ――






 fin.

「どういう事?」(・ω・)? と言う読者の為に念の為。


門番=括約筋

暴徒=う◯こ

門=肛門


でした☆

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