新作クリームソーダは、涙の味か
「そ、そうだ。メイド喫茶、愛しのチェリーで使うクリームソーダの新作を三人で考えようよ」
「あら、良いわね」
「新しいクリームソーダ? ナイスよ、レッド」
お楽しみの邪魔をされたサファイア様の怒りは、別の興味を持たせる事で逸らすことが出来たようだ。解決を考えるのに時間がかかり、止めるのが少し遅れた。グリーンの幸運値が、著しく低下している事だろう。
装備の漂流効果と相乗効果で、頼んだクリームソーダのてっぺんチェリーが品切れでミニトマトや梅干しに変わるのは、そのためかもしれない。
同僚が呪いで不幸になるのは偲びない。大好きなクリームソーダの開発を二人共楽しそうに話しだした。
ブルーをこよなく愛するサファイア様も、ソーダちゃんから成長して、立派なレディになった。今はクリームソーダならばどんな色も楽しむ大人のレディ。
まったく‥‥疲れたよ。癒されに来たのに、ハートは完成しないし、借金は増えるし大変だ。半分以上はグリーンのせいだ。あとで半分請求書をグリーン名義で回しておこう。グリーンはリモート参加したので、割り勘だ。
彼は⋯⋯漂流中、ずっとプカプカ浮かぶだけ。暇だからと、漂流を理由に浮つき、流されるようだ。グラスの底に沈めても、グラスのように逞しく浮かび、生えてくる。
「雑草は、燃やすか刈るのか枯らすか腐らせるのよ。塩もいいわね」
「ならさ、萎々に干からびるクリームソーダを作ろうよ!! 泳いだ後に、差し入れればグリーンだから、何も考えずに飲むよ」
よし、グリーンへの殺意は削がれた。もとはと言えばグリーンが悪いのだが、私は頑張って、君を守ったのだ。危険任務実行手当てと、クリームソーダの材料費用も請求しよう。
二人の手により出来上がったのは白いクリームソーダの 『ソルティバブルホワイトクリームソーダ』 だ。
アイスクリームはヒマラヤの天然岩塩のバスボム。ホワイトな炭酸はカルピス原液と塩分最大に溶かし込んだ洗濯糊がベースだ。イカす巫女様が余った透明ビーズをくれたので、泡に見立てて沈めた。
グリーンが真っ先に食いつくチェリーは二十年ものの塩漬け梅皮に追い塩を詰め形づくりをしたものだ。チェリーが転がらぬように、チェリー嬢が、塩入り歯磨き粉をチョンとした上に乗せてあげていた。
「綺麗に出来たわね」
「うん。さすがサファイア姉さまだわ」
「いや、これ飲めるのか?」
「飲めるわ」
「グリーンなら新色ゲットだぜっと言って飲むわよ」
サファイア様、無表情で答えるのやめてほしい。チェリー嬢はグリーンの事をよくわかっている。
これを飲めば、塩分に水分を奪われ干されて、請求書が届いてサラリーまで塩代へ変わるだろう。あっ、これは私の愛のせいか。
「やるわね、レッド。チェリーちゃん、ご褒美をあげなさい」
「はい、サファイアお姉さま」
チェリー嬢が私にかわり、ごめんねグリーン、テヘペロを見せてくれました。うぉぉぉーーっヤバい、私が先に悶え死ぬ。
ありがとうグリーン。せめてもの情けに⋯⋯クレイジーソルトもおまけに振っておこうか。
まさかグリーンを干す意味が、お清めに‥‥洗濯まで含まれているとは思わなかったよ。生命の洗濯中なグリーンに選択の時が迫る‥‥。
ソルティバスボムの中には黒いイカが。イカす巫女様はマッドなサイエンティストの噂は本当だった。水気を得るため、試作型幼生の黒いスクイーズが、救いを求めるグリーンの口へ飛び込む姿を想像する。
私の願いも虚しく、痛い風がグリーンに吹くかもしれない。
楽しそうなサファイア様とルビー嬢を前に、レッドな中の人ごときが意見など出来るわけないのだよ。私は所詮末端のヒョウリュウジャー。グリーンよ⋯⋯力が及ばず、すまない。
グリーンとて悪い者ではないのだ。司令官様に振り回されながらも、へこたれない精神力は素晴らしい。逞しさと行動力は見習うべき所もある。
⋯⋯だが圧倒的に間が悪い。漂流者の宿命とはいえお二人の舞の最中に邪魔をするから怒られるのだ。
私もキャッキャウフフな、サファイア様とチェリー嬢のお姿を楽しむのに忙しい。妨害電波を飛ばすのならば、チェリータイムの時間延長と資金を一緒に送れと言いたい。
私の楽しみを奪う同僚。尊敬は地に堕ちた。グラスの下敷きだ。グリーンの存在は、チェリー嬢との大切な恋路を邪魔する真夏のグラスになっていた。
お読みいただきありがとうございます。
燃料投下されていたので、拝借させていただきました。不都合がございましたら該当部分は削除いたします。