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降りかかる火の粉と指名料は、全力ではらうべきか


 勝手に私をレッドの中の人に任命したのはグリーンだ。彼はクリームソーダ後遺症に悩める人々を救う物語として一人の男が緑の衣を纏った⋯⋯はずだった。しかしあまりにも漂流の最中に浮つくために、神々から罰が与えられる事になる。


 一人勝手に漂流し彷徨っていれば良いものを、グリーンは寂しくなったのか、仲間たちを巻き込んだ。優しい皆さまは断りきれず、グリーンのどうでもいいこだわりを、耳を餃子にして聞いてあげる優しいクリームソーダ愛好家たち。


 私がチェリーレッドと呼ばれる理由は『情熱のルビーレッド』 にて、踊り娘のチェリー嬢に魅入られたせいだろう。確かに事実だ⋯⋯事実だが、真実ではない。


 挿絵(By みてみん)

澳 加純さま提供・チェリー嬢


 チェリー嬢の『も・え・も・え・キューーーン♡』 には、彼女の心の内に秘められた熱い思いがある。会って話す内に、その想いを知った。特別料金はしっかり取られたが、健気で情熱的なチェリー嬢を知れば知るほどの応援したくなるというもの。


 てっぺんチェリーに異常なくらい愛情を注ぐグリーンの中の人を、チェリー嬢は満更でもなく愛していたのかもしれない。


「レッドはわかってくれる? 漂流者と違って踊り娘の私が、公の場で本音を吐き出すわけないもの」


「チェリーさんにも、イメージというものがあるよね。悔しさとか悲しさとか口に出せるのなら種ごと吐き出してるよね」


「そうなのよ〜。ねぇ、何でアップル? パイナップルならともかく、赤いりんごって何よ! りんご飴なら許すのに」


 おぉ、チェリー嬢が激オコ。浮気の見つかったタレントの出来た嫁みたいだ。そりゃ誰だって怒るよね。


 自分に似てるものへの愛憎はとくにデリケートなもの。ルビーに輝くりんご飴は良くても、アップルパイは駄目。青りんごならセーフでも赤りんごはアウトなのか?


 チェリー嬢がてっぺんの座を争うライバル‥‥ストロベリーちゃんとはルビー嬢同士超仲良しなため、グリーンは勘違いしたのかもしれない。


 これでもチェリー嬢を宥め、時間をかけて怒りを解く努力をして来たのだよ。勝手に中の人にされたのに、給料支払われてないんだけど?


「ヒョウリュウブラックのポジションは、闇堕ちしてなくてもグリーンで良くね? どうせ灰になるし」


「そうね。新緑の若葉もやがて紅葉し、枯れ落ちて焼き芋になるものね」


 焼き芋はオッケーなんだ。スイートポテトは女子人気高いから? 石焼き芋を売りに行かないと、チェリー嬢に会うお金がない。


 あとで本部に掛け合わないと。何処にあるのだ、咫尺天涯戦隊ヒョウリュウジャー本部基地「NAROU(ナロウ)」 ってばさ。


 本部は『踊るメイド喫茶 愛しのチェリー』 を教えてくれた同僚から聞いた。何で知ってるんだ、この同僚。ほんの数時間前の、グリーンの頭の中にいた最新情報だよ? 


『てっぺんチェリーしか認めん』


 頭と言えば、また面倒臭いこだわりを得意げに語るグリーンがいる。みんな引いてるぞ。私は給料天引きにされて怒りが頂点に達しているぞ。


 グリーンの中の人の、そんな口説き文句に、全米のアメリカンチェリーさん達も一緒に泣く。チェリー嬢の心を鷲掴みにしたその手で、グリーンの中の人がアップルパイのパイを掴んでいたと思うと別の意味でも泣ける。それに、この話を聞き出すまでに財布が何度カラっぽになった事か。


「辻堂許すまじ」

「グリーン、許さないぞ」


 これが私、レッドとチェリー嬢が意気投合した最初の瞬間だ。認識のズレは努力と借金で埋めている。


 チェリー嬢はグリーンの酷い裏切りに対して、レロレロ様を愛してる⋯⋯そう強がってみせて、涙を飲のだ。


『チェリーはあなたを愛さない』 あれはチェリー嬢の精一杯の強がりだ。あんなに派手に蜜月ぶりをアピールされたのに、あっさりアップルに走られて⋯⋯チェリー嬢のプライドはボロボロだ。


 チェリー嬢は、本当は泣いていたのだ。辻堂の注文するチェリーが沈むのは、チェリー嬢の涙の共鳴。過去も未来もチェリー缶のある限り、彼のチェリーは沈む。


「これで‥‥てっぺんチェリーを、辻堂(本体)には、簡単に見られなくて済むね」


「ありがとうレッド。てっぺんチェリーの店に辿り着いても、臨時休業になるように幻邏神様がグリーンにプレートを付けてくれたんだよ」


 挿絵(By みてみん)

・設定図:幻邏さま提供


 いつの間にかヒョウリュウジャーの生みの親から、グリーンの詳細の描かれた解説書が届く。元彼に‥‥健気に頑張る自分の姿を見せたくなくて、チェリー嬢は喜んでいた。


「ねえ、この図のここを見てよレッド。グリーンの装着するチェリー()のゴーグル、赤と緑とクリーム色を察知するって」


「ほほぅ、つまり他の色ならグリーンの煩悩の反応は鈍るのか」


「私、普段はルビー嬢と比較されるチェリー色だけど、ダークチェリーにもなれるのよ」


「なるほど。それならチェリーの色を変えれば‥‥」


「⋯⋯グリーンにはわからないわね」


 グリーンが漂流するのは、チェリー嬢の姿が映っていないのかもしれない。グリーンよ、鼻にクリームをつけるのは良いが、チェリーを返せとお店にクレームをつけるのはやめた方がいいよ。


 ほんの少しだが、溜飲を下げる事が出来てチェリー嬢も嬉し泣きする。なんて可愛いらしい娘なのか。特別料金も今日は割り増しにしてくれた。


「‥‥えっ、増やすの?」


「女の涙は高いって教えたはずよ」


 それは作品が違う! 現実の厳しさと、お財布の厳しさをダブルで味合わされたよ。本日のチェリークリームソーダは、愛情マシマシで、ちょっぴりで、しょっぱ美味かったよ。


「ふっふっふっ、辻堂のお堂を燃え燃えギューンと、チェリー・ボム爆撃で燃やしてあげるわよ」


 ────おのれグリーンめ、覚えてろ。チェリー嬢に爆撃機なんて買うお金など、あるわけないではないか!!


 チェリー嬢のかわりにグリーンにわからせてやりたいと思っただけなのに爆撃機まで用意するなんて⋯⋯それが辻堂爆破計画の始まりだった。


 しかし、予算の都合で計画は見送られた。復讐の機会を失い、チェリー嬢はギューンと泣き。私は借金塗れで涙も出ない。 


「面白そうな事をしてるわね?」


 誰得な状況の中で、私とチェリー嬢に声がかけられた。

※ 掲載されているイラストの著作権は作者さまにあります。自作発言やSNS無断転載・無許可掲載は禁止です。


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